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マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

19 クライン王国国王治療篇

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19-17 魔法技術者

 日付は11月8日。
 イスマルの町の商人、オリヴァーが約束した5日後。
 老子はアンを伴い、小さな包みを携えてオリヴァーの店を訪れた。
「これはお客さん、再度のお越しありがとうございます」
 店にはオリヴァーがいて、老子を迎えた。
「そちらは?」
 アンを見たオリヴァーが尋ねる。
「私と同様、主人に仕える自動人形(オートマタ)ですよ」
 2通りに解釈できる言い方で答える老子。
 同様に『主人に仕える』のか、それとも同様に『自動人形(オートマタ)』なのか。実際は両方であるが。
 だがオリヴァーの反応は、普通の人間であれば当然のもの。つまり老子は人間だと思い込んだのである。

「えええ! その方が自動人形(オートマタ)ですって!?」
 傍目にも大袈裟と思えるほどに驚くオリヴァー。
 だが、この辺境の町ではこれが普通なのかもしれない。
「……初めて見ました……自動人形(オートマタ)とはこれほど人間そっくり、いえ、人間そのものなのですか……」
 一般に見られる自動人形(オートマタ)はこれほどではないのだが、老子は余計な事は言わなかった。
「私の主人は一流の魔法技術者(マギエンジニア)ですから」
 と言うに留めておく。『魔法工学師マギクラフト・マイスター』であると言ってしまっては特定されてしまうからである。
「ほうほう、あなたの……そういえばお名前を伺ってませんでしたね、よろしければお教えいただけますか? 私はご存知かもしれませんがオリヴァーと申します」
「これは失礼。私は『ローシ』とお呼び下さい。この子は『アン』といいます」
「ローシ様、そしてアン様ですね、以後よろしくお願い致します」
 オリヴァーが頭を下げ、いよいよ商談という運びになる。
「さて、先日お約束いただいた鰹節は入荷されたのでしょうか?」
「ええ、もちろんです。今回は5本、手に入れることができました」
「ほう、それはそれは。そういうことでしたら、持って来たこれが役に立ちますね」
 老子はアンに持たせていた小さな包みを指さした。
「何ですか、それは?」
「鰹節を料理に使う上で必要になる道具です」
 その言葉にオリヴァーは食い付いた。
「何ですって? それは朗報ですね! 見せていただけるのですか?」
「もちろんですとも。そのために持って来たのですからね」
「そ、それでは奥へどうぞ!」
 先日と同じく、オリヴァーは台所へと老子を通した。アンは包みを持って付いて行く。
 台所のテーブルの上に、老子は包みから出した物を置いた。
「これはいったい何ですか?」
 直方体の箱である。老子は黙って蓋を取った。そこには小さな口が開いており、そこから刃物が覗いていた。
「鰹節削り器ですよ」
「えっ? これが!」
「はい。私の主人が、鰹節とはこういう道具で削る物だ、ということで、急遽作ってみた物です。先日使った鰹節の残りはまだありますか?」
 仁の知識を元に、老君が蓬莱島で職人(スミス)に作らせた物である。
「え、ええ。ありますよ」
 試しに使ってみせるための鰹節を用意してもらう老子。
「刃の出具合はこうして調整します」
 刃が付いた鉋部分を持ち上げた老子は、目の前にかざして刃の出具合を確認すると、台を叩く仕草をして見せた。
「刃を出したいときは刃の頭を叩きます。木槌がいいですね」
「なるほど、刃が傷みませんからね」
「で、刃を引っ込めたいときはここの部分、台頭だいがしらを叩きます」
「そうなんですか!」
 日本式の鉋と同じであるが、オリヴァーは初めて見るようで、感心することしきり。
「今回、刃の出具合は調整済みですのでさっそく削ってみましょう。……こうして、押すときに削るのが普通ですが、引いても構いません」
 そして、きれいな布に水を含ませ、鰹節の表面を軽く拭う。
「わずかに湿らせておくと粉状にならずによく削れます。濡らしすぎは厳禁です」
 それだけ説明した老子は、鰹節を削って見せた。
 しゃかしゃかという小気味よい音と共に削れていく鰹節。
「鰹節が小さくなってきた際に手を削らないよう注意が必要です」
 そう言って手を止め、箱の側面に付いている引き出しを開けた。
「ほう……! きれいに削れるものですね!」
 そこには透けて見えるほど薄く削れた削り節が溜まっていた。
「これを削り節といいます。これを小分けにして売れば、単価を安くできますよ」
 その言葉にオリヴァーの顔色が変わる。老子が、買った鰹節を削り節にして売るつもりかとでも思ったのだろうか。
 が、続く言葉を聞き、オリヴァーの顔は歓喜に染まることになる。
「この鰹節削り器、おいくらで買っていただけますか?」
「……え?」
 オリヴァーは、その言葉の意味は理解できた。が、意図するところがわからず、面食らわざるを得ない。
「私どもは商人ではありません。このような物を作ることはできても、販売する伝手がないのです。それなら、どなたか有望な方を通じて……と考えるのはおかしなことではないと思いますが?」
「た……確かに」
 その意味する所を直観的に悟ったオリヴァーは、老子の手を取った。
「本当に、この道具を売っていただけるのですか?」
「ええ、嘘は申しません」
 オリヴァーの頭の中ではめまぐるしく計算がなされているのか、数秒間表情が固まり、無言となった。が、やはり商人、すぐに笑みを浮かべる。
「5万トール、ということでいかがでしょうか」
 卵・野菜系の料理に、鰹出汁が役立つことは先日わかっていた。その効果は己の舌で確認済み。
 それを、よりお客が気軽に購入しやすい形で販売できるようになるのだ。オリヴァーとしては願ってもない申し出だった。
 とはいえ、払える金額にも上限はある。5万トールというのは、今のオリヴァーが出せるぎりぎりに近かった。
 近かった、というのは、老子が不満を持った場合、あと少しなら上乗せできる余裕を持たせた金額と言うこと。だが、そんな彼の目算は意味をなさなかった。
「ええ、それで結構ですよ」
 あっさりと老子はオリヴァーが提示した金額を呑んだのである。
「そ、それはありがたいですね。い、今お金を用意しますから」
 少々慌てているオリヴァーを宥めるように老子は声を掛けた。
「いえ、でしたらその中から鰹節をあと2本、購入していきたいのですが」
 前回は1本400トールということであった。ゆえに2本購入して差額の4万9200トールを受け取りたいと老子は言ったのである。
「あ、わ、わかりました」
 まだ少し狼狽えているオリヴァーは奥へ引っ込むと、すぐに金貨の入った袋を抱えて出てきた。横には護衛らしき男が付いている。
「お待たせしました。彼は私が雇っている警備員です。金額が張りますので、万一のことを考えて付いて来てもらいました。どうかお気を悪くなさらないで下さい」
 老子は鷹揚に頷く。
「ええ、もちろんですとも。外からどんな者が入ってこないとも限りませんからね」
「恐縮です」
 そしてオリヴァーは金貨4枚、銀貨92枚を数え、老子に差し出したのである。老子はそれを一旦受け取ると、巾着のような袋に入れ、アンに手渡した。
 次いで鰹節2本も受け取り、それもアンに持たせたのである。

「さて」
 取り引きが済んだところで、仕切り直すようにオリヴァーが口を開いた。
「ローシ様、厚かましいとは思いますが、私の話を聞いていただけますか?」
 老子としては、今回の鰹節削り器もコネを作るためであるから、オリヴァーからの申し出は大歓迎であった。
「ええ、なんでしょうか?」
魔法技術者(マギエンジニア)のお知り合いがいらっしゃいませんか? 確かあなたのご主人様も魔法技術者(マギエンジニア)でいらっしゃると仰ってましたし」
「そうですが」
 そこでオリヴァーは立ち上がり、深々とお辞儀をしながら、
「お願いします! どなたか、フリーな魔法技術者(マギエンジニア)の方をご紹介下さい!」
 いつもお読みいただきありがとうございます。
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