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マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

18 更なる進歩篇

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18-25 古の巨人

 地表に出したことで巨大ゴーレムの解析と修理は順調に進んだ。
 周囲には足場が組まれ、技術者達が作業を進めていく。

 筋肉に相当する素材は、仁の提案により『砂虫(サンドワーム)』の革を使用することになった。同等以上の力を出せるはずである、と仁は言った。
 若手の魔法技術者(マギエンジニア)も駆り出してこの交換には1日がかり。
 一方、骨格の腐食は少なく、半日で整備が終わった。
 外装は作業量は多いものの難度は低い。これも若手を多数起用し、半日がかりで終わらせたのである。

 問題は内部の魔導装置(マギデバイス)であった。仁に取っても最も興味のある作業である。
「ふむ、これが古代遺物(アーティファクト)魔導装置(マギデバイス)か……」
 胸部から取り出されたそれを前に、仁たちは考え込んでいた。
「これはいったい何だ?」
「こんな魔法制御の流れ(マギシークエンス)は見たことがない」
「……」
 それは『魔素変換器(エーテルコンバーター)』。仁やエルザにとってはお馴染みの魔導装置(マギデバイス)である。
(とはいってもかなり効率が悪いな……先代の系統じゃ無さそうだ)
「おそらく、ここの魔導式(マギフォーミュラ)自由魔力素(エーテル)に働きかけているのでしょう」
「うむ、そうなるとここは……そうか! 周囲の自由魔力素(エーテル)を集めるとしたら……魔力素(マナ)に変えるためか!!」
 仁はさりげなく思考を誘導し、正しい道に導いていく。あくまでも『従』もしくは『陰』に徹して。
 エルザはエルザで、魔法技術匠マギエンジニア・マエストロであるゲバルトを観察しつつ、自分の力量を測っていた。
(……ジン兄には遙かに及ばない。知識も、理解力も、魔力の使い方も)
 仁に教えられたエルザは元々の才能とも相まって、経験はともかく、知識と技術力では現魔法技術匠マギエンジニア・マエストロを既に凌いでいた。

 一方、マルカス・グリンバルトは寡黙で、あまり口を開かない。
 彼は、先代魔法技術匠マギエンジニア・マエストロ、ジークムント・グリンバルトの孫として幼いときから英才教育を受けて来はしたものの、魔法技術匠マギエンジニア・マエストロには一歩届かない実力しか持てなかったことに少々劣等感を抱いていたのである。
 それが、魔族である『マルコシアス』に操られていたとはいうものの、超大型ゴーレムである『ゴリアス』の製法をマスターし、その功績を以て古代遺物(アーティファクト)再生のプロジェクトに参加を許された。
 これで魔法技術匠マギエンジニア・マエストロへの道が拓けたと歓喜したのも束の間、その『ゴリアス』を一方的に蹂躙したレーコという自動人形(オートマタ)を引き連れたジン・ニドーも同じプロジェクトに来てしまったではないか。
 マルカスが鬱屈するのも無理はない。『ゴリアス』で巨大ゴーレムを吊り上げる際にも、ジンの助言がなければより難航したであろうことを思うと、気は晴れなかった。

 個人の思惑など知らぬ気にゆっくりと解析は進んでいく。
 仁が一人でやればとっくに終わっているだろうが、それを口にするほど仁もエルザも考え無しでは無い。むしろ、一般的な魔法技術者(マギエンジニア)のレベルを知る事に熱心だった。
「……制御核(コントロールコア)だが、これはいったい?」
「何でしょうね?」
 それは仁も見たことがなかった。いや、似たようなものは知っている。
(ひょっとして、『遠隔操縦装置(リモコン)』……?)
『タイタン』や『ダブル』に使っているものと僅かな共通点がある。それは魔力を使った通信機能。
「これがこの巨大ゴーレムを動かす制御核(コントロールコア)に間違いはないはずだが」
「このままでは動くはずがないではないか!」
 自律型、半自律型、命令型、いずれでもない形式。頭を悩ます面々に、またしても仁がヒントを出す。
「命令型に似たところがありますよね? ここの部分とか」
「……ふむ、確かに」
「ただ、基本動作式を持っているくせに、『動作指示(コマンド)』が空白になっている。その代わりに、こっちの魔導装置(マギデバイス)に接続されていて、これは……」
「なるほど、こちらの魔導装置(マギデバイス)が命令を出す? いや、そのような機能は無いはずだが」
「声で命令をするのではなく、別のもので命令するのだと考えたらどうでしょう?」
「……さすが魔法工学師マギクラフト・マイスターだな。その可能性は非常に高い! となると、こっちの魔導装置(マギデバイス)だが……」
 こうして丸1日掛け、この方式は『遠隔操作型』と名付けられ、ゴーレムの動作型が1つ増えることとなった。

「……」
「ジン兄、何考えているの?」
 宮城(きゅうじょう)内に与えられた部屋で仁が寛いでいると、エルザがワインを持ってやって来た。
「ん? 今研究している巨大ゴーレムについて、かな」
「ふうん」
 仁の対面に座ったエルザはワインの瓶を見せた。
「これ、ライ兄のお気に入りの銘柄の1つ。『ナシリーネの3450年』、貴腐ワイン」
「貴腐ワイン……って甘い奴だっけ?」
 貴腐菌が付いて水分が飛び、糖度が上がった『貴腐ぶどう』から作ったワインが貴腐ワインで、極甘口となる。食前酒やデザートワインとして好まれる。
 ラインハルトやエルザはデザートワインとして好んでいる。
「うん。口当たりがよくて、ジュースみたい」
 エルザはエドガーに頼んで仁と自分に注がせた。仁は早速口を付けてみる。
「うん、確かに甘いな」
 仁は飲兵衛ではないので、ワインは辛口より甘口を好んでおり、このワインを気に入った。
「……で、巨大ゴーレムの、何が気になるの?」
「ああ。1つ目は解決した。……『魔素暴走エーテル・スタンピード』を起こすような装置が組み込まれているんじゃないかと心配していたんだ」
 魔導大戦末期に起きた魔素暴走エーテル・スタンピードは、『負の人形(ネガドール)』と呼ばれる人造人間(ホムンクルス)が仕組んだものだった。
 人造人間(ホムンクルス)は人類・魔族を憎み、滅ぼすために魔素暴走エーテル・スタンピードを起こしたのだ。
 そのため、既知世界の人口は4割以下に減少してしまったのである。
「……納得」
 だが、ここに遺された古代遺物(アーティファクト)は『負の人形(ネガドール)』とは無関係だったようだ。
「2つ目は?」
 エルザもワインを味わいながら質問を続けた。
「操縦装置だ。……『身代わり人形(ダブル)』や『タイタン3』のようにどこかに操縦装置もしくは操縦席がある筈なんだが、それが見あたらないのが気になる」
 それがなければ、このまま修理・整備を終えても巨大ゴーレムは動かせないだろう。作業が無意味になってしまう。
「それだけ?」
「いや、あと一つ。装甲胸部の裏側に刻まれていた魔導式(マギフォーミュラ)だ」
「それ、私は見ていない」
 不思議そうな顔をするエルザに、仁は宥めるように説明していく。
「そうだろう。あれは俺が見つけて、すぐに礼子に命じて宰相のところへ持って行かせたから、エルザも知らないのは無理もない」
「……危険なもの?」
 エルザの声に頷いた仁はワインを一口飲み、口中を潤してから続けた。
「危険といえば危険かな。魔法を増幅する魔導式(マギフォーミュラ)だったから」
 今は失われた魔導技術の一つである。
「でもジン兄は知っているんでしょ?」
 確信を込めたエルザの問いに仁は頷いた。
「ああ。だけど欠点だらけなんだよな……」
 どういうこと、という疑問を浮かべたエルザの顔を見た仁は、苦笑を浮かべた顔で説明を始める。
「……今の世界じゃ自由魔力素(エーテル)濃度が薄すぎるんだ」
「……ああ、そういうこと」
 エルザはすぐに納得した。魔導大戦以前の世界は、少なくとも今の3倍から5倍は自由魔力素(エーテル)濃度が高かったことを聞いて知っている。
 つまり自由魔力素(エーテル)が大量になければ意味がないのだ。
「増幅してもすぐに魔力素(マナ)不足になる、であってる?」
「正解。……エルラドライトと似た働きをするけどな。あっちは20倍だが、こちらは精々10倍だ」
「それでも、脅威」
 一口に10倍と言うが、戦力比で言うと1対10、1人対10人と考えると圧倒的な差になる。
「おそらく、あの巨体を動かすだけでかなりの魔力素(マナ)を消費するんだろう。それを一時的に補うために増幅機能が必要だったんじゃないかな」
「……これを普通の人が使ったら、どうなるの?」
 少し心配そうな顔のエルザに、仁も少し顔を顰める。
「……すぐ魔力切れになるな」
 ここでいう『魔力切れ』というのは体内魔力素(マナ)の枯渇を指す。増幅すると言っても、無から有を生み出すのではなく、10回分の魔力を1回にまとめるだけだ。
「だから、ありあまる自由魔力素(エーテル)の中で、潤沢な魔力素(マナ)を生成できなければ意味のない技術だな」
 仁はそう断定してエルザを安心させていたが、使い方によっては脅威になり得ることを知っていた。
(魔導士を使い捨てにして攻撃させるようなことをすれば……)
 だがそれは現在のように魔導士が少ない現状ではまず実行する意味のない戦術ではある。
 加えて、ショウロ皇国魔法技術省で管理し、門外不出にしてもらえれば一安心だ、と仁は思っていたのだった。
「あと一つ……」
「……あと一つ、なに?」
 小首を傾げてエルザがオウム返しに聞き返す。
「……制御核(コントロールコア)なんだけど、一部俺も知らない式が書き込まれていた」
 仁の知識には、先代の時代から今に至る間についての情報が無い。その間に作られた魔導具や、開発された魔導技術については知らないのである。
 もっとも、そのようなものはほとんど無いのだが、ゼロというわけでもない。
 とりわけ、魔導大戦前まで、魔導技術は少しずつ進歩していたのだから。
「周りに誰もいなければな……」
 仁の実力を100パーセント見せることの危うさと、書き込まれている内容によってはあまり広めない方がいいという判断、そして。
「プロテクトが掛けられている可能性が大だったからやめておいたんだが」
 解析しようとする試みに対して反応する可能性を考慮したのである。
「それって……」
「ああ。自壊ならまだいいが、爆発とかされたらな……」
 仁の作ったゴーレム達も、秘密保持のため、他者からの強引な解析を受けた場合、自壊するように仕組まれているのである。仁の心配は杞憂とは言いきれなかった。
「あの『ブラックボックス』を放置したことで今後何か起きなければいいが」
「地下に戻して、また自由魔力素(エーテル)濃度を下げて保管した方がいい、と言えばいい」
 そうすれば今までと同じ。何かが起きる可能性は低いだろう。
「ああ、明日提案してみるよ」
 酔いが回った頭で仁は不安を感じつつそう答えるのであった。
 いつもお読みいただきありがとうございます。

 20141017 21時35分 表記修正
(旧)これも若手を多用し、半日がかりで
(新)これも若手を多数起用し、半日がかりで

 20141008 08時46分 誤記修正
(誤)疑問を浮かべたエルザの顔を見た仁は、苦笑を浮かべた顔で説明を始める、
(正)疑問を浮かべたエルザの顔を見た仁は、苦笑を浮かべた顔で説明を始める。

 20150714 修正
(旧)尤も
(新)もっとも
 書籍に合わせました。
+注意+
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