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マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

18 更なる進歩篇

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18-07 エルザと仁

「さて、まだまだ話を続けたいが、そろそろ夜も更けてきたことだし、終わりにしないといけないな」
 名残惜しそうに言うクズマ伯爵。時刻は午後10時過ぎ。
「悪いが、明日は式の準備などがあるのでお二方のお相手がほとんどできないと思う。申し訳ない」
「いや、明後日が結婚式だよな? 気にしないでくれ」
「ありがとう。……しかし、これほどタイミング良く訪問してくれてびっくりだよ」
「まあ、運が良かったよ」
 などと答えているが、第5列(クインタ)のレグルス5が結婚式の情報を聞きつけ、仁に知らせていたのだからタイミングが良いのも道理である。
「明日の朝食まではご一緒できると思うから」
 との伯爵の言葉に、楽しみにしています、と答えた仁とエルザは部屋に戻るべく大食堂をあとにした。
 侍女がご案内します、と申し出たのだが、順路はもうわかっているのでそれは遠慮した。
 礼子が先に、そしてエドガーが最後尾で歩いていく。
 途中、仁の足取りがおぼつかないことにエルザが気がついた。
「ジン兄、どうかした?」
「……飲みすぎたらしい」
 少し青ざめた顔の仁が答えた。
「お父さま、大丈夫ですか?」
 足を止めて振り返った礼子は心配そうだ。
「あ、ああ。……どうやら、補完された身体が活性化したため、酔いやすくなったみたいだ」
 思わぬデメリットが明らかになった。この分では、毒耐性も無くなっていそうである。
「『癒せ(フェルハイレ)』」
 エルザの治癒魔法。いつか、仁が車酔いした時に掛けた魔法である。
「……楽になった。ありがとう、エルザ」
「どういたしまして」
 微笑み合う2人。それを見つめる礼子は、嬉しそうな、それでいて悲しそうな、複雑な表情をしていた。

 部屋に戻ると、バロウとベーレが出迎えてくれた。
「お帰りなさいませ、ジン様、エルザ様」
 寝ずに仁たちを待っていたようだ。
「ああ、待っててくれたのか。ありがとう。もういいから、休んでくれ」
 仁がそう言うと2人は一礼をして下がっていった。
「はい、お休みなさいませ」
「お休み」

 リビングのソファにもたれた仁は深呼吸する。
「ふう」
 その仁の前に、水が入ったコップが差し出された。
「はい、ジン兄」
「ああ、ありがとう、エルザ」
 喉が渇いていた仁はその水を飲み干す。ほどよく冷えていて美味しかった。
「あー、美味い。ごちそうさま」
「ん」
 コップを片付けたエルザは、仁の向かい側の椅子に腰を下ろす。
「ビーナ、きれいになってた。それに仕草も」
 感慨深げに、少し遠くを見つめるようにして言葉を紡ぐエルザ。
「ああ、本当にな。伯爵のおかげだな。作法とかきっと厳しく仕込まれたんだろうな」
 仁は俺なら御免だ、と言わんばかりの顔つき。
「ジン兄は、堅苦しいの、嫌い?」
「ああ、俺のいた国では貴族とか平民とか無かったからな。礼儀はそれなりに守るべきだったが、身分の上下はなかったし」
「……ちょっと、興味ある」
「まあ、向こうじゃ俺は死んでいるんだろうし、訪れるすべもないしな」
「……うん」
 エルザは立ち上がると、テーブルを回り込み、仁が座っているソファに、並んで腰を下ろしてきた。
「エルザ?」
「……私は、ずっと、ジン兄のそばに、いる。……いさせて?」
 それだけ言うと、今座ったばかりのエルザだが、飛び上がるように立ち上がると、自分の部屋へと駆け込んでいった。エドガーもそれに続く。
 エルザの顔が赤かったのに仁は気づかなかった。
「エルザ?」
 まだ酔いが醒めきらない仁は、窓の外に広がる暗闇をぼーっと見つめたまま、今の言葉の意味を推し量ろうと考えていたが、礼子の声に我に返る。
「……お父さま」
「どうした、礼子?」
 今度は礼子が仁の隣に腰掛ける。
「……」
 そのまま礼子は何も言わずに仁にもたれかかった。仁はそんな礼子の温もりを感じ、無言のまま夜の闇を見つめていた。
 秋の夜は人恋しくなるもの。そんな言葉が仁の頭を掠める。
「そろそろ寝るか」
 仁も寝室へと向かうことにした。
 漸く晴れてきた空には、幾つかの星が瞬き始めていた。

 翌朝、クズマ伯爵、ビーナと一緒に朝食を摂った仁たちは、今日は明日の準備があるのでお相手できずに申し訳ない、と詫びる伯爵に気にしないで欲しい旨を伝え、エルザと共に部屋に戻った。
「バロウ、ベーレ、昨日言ったように今日は自由にしていていいぞ。何かやりたいことはあるか?」
 今回の旅行も、半分は2人の休暇のようなものである。
「はい、実はビーナ様の弟さん・妹さんと仲良くなりまして、今日はブルーランドを案内して貰えるそうなんです」
 庭掃除などを手伝っていた2人であったが、すっかり健康になったので、ナナは侍女見習い、ラルドは執事見習いとして修行中らしい。
 昨日の夕食時に出会って、話をするうちに仲良くなったそうだ。
「そうか、気を付けて行ってこいよ」
「はい、ありがとうございます」
 そこへ響くノックの音。ベーレがドアを開けると、ナナとラルドが立っていた。
「ジンおにーちゃん! こんにちは!」
「やあ、久しぶり。元気そうだな!」
「はい! その節は、お世話になりました!」
 背も伸びて、健康そのものと言った顔色になった2人と再会を喜び合う仁。
「うちの2人と仲良くなったんだって?」
「はい!」
 ナナが元気よく答える。バロウは15歳、ベーレは14歳。そしてナナとラルドは12歳。大人ばかりの伯爵邸で、比較的歳が近い彼等と仲良くなるのはある意味必然であった。
「それで、うちの2人を案内してくれるんだって?」
「はい!」
 仁はにっこりと笑って、ポケットから金貨を4枚取り出した。
「1枚ずつあげよう。ナナとラルドには、うちの2人を案内してくれるお駄賃として。バロウとベーレにはお小遣いだ」
「こんなに……」
「いいんですか?」
 遠慮するナナとラルドの手に半ば押しつけるようにして金貨を手渡す。
「ジン様、ありがとうございます!」
 仁の規格外さを身に染みて知っているバロウとベーレは素直に金貨を受け取ったのである。

「さて、俺たちはどうしよう」
 バロウたちが出掛けていったあと、仁はソファに座って考えていた。
「ジン兄、お祝いの品はどうするの?」
 明日のために仁が作った結婚祝いの品が蓬莱島にまだ置いてあるのだ。荷物になるので、飛行船には積んでいない。
「うん、それは夕方でいいしな」
 そう答えた仁に、エルザが提案する。
「……なら、一緒にブルーランドを見て回らない?」
 金貨1枚10000トール=10万円。子供のお小遣いには多すぎますね……。

 いつもお読みいただきありがとうございます。

 20140929 13時00分 誤記・表記修正
(誤)そしてエドガーが殿しんがり出歩いていく
(正)そしてエドガーが殿しんがりで歩いていく

(誤)あとを止めて振り返った礼子は心配そうだ
(正)足を止めて振り返った礼子は心配そうだ

(旧)クズマ伯爵、ビーナと一緒の朝食を摂った仁たちは
(新)クズマ伯爵、ビーナと一緒に朝食を摂った仁たちは
「の」だと「一緒」が「朝食」にかかりますが、「に」ですと「一緒」は「摂る」にかかります。本来は後者ですね。

 20140929 13時38分 誤記・表記修正
(誤)礼子の声に我に帰る
(正)礼子の声に我に返る

(旧)エドガーが殿しんがりで歩いていく
(新)エドガーが最後尾で歩いていく
 殿は軍事用語なので、いろいろ考えた末。

 20140929 21時04分 表記修正
(旧)ああ、俺のいた世界は
(新)ああ、俺のいた国では
+注意+
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