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マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

17 魔族解決篇

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17-27 疑問解明

 大分肌寒い風が吹き始めた9月17日。
 魔族たちも大方落ち着いた。ただし、行方不明のラルドゥスとアルシェルについては未だ不明のままだ。
 ラルドゥスに関しては、魔力パターンを知っている老君ならば、魔力探知機(マギレーダー)で探知出来るはずなのであるが、
『ラルドゥスの反応が見つかりません』
 という異常事態であった。
『魔力を通さないような場所にいるか、あるいは……』
 もうこの世の者ではないか、のどちらかであろうと老君は言う。

 いずれにせよ魔族領でやるべきことはやってしまった仁は、『森羅』の氏族領にやってきていた。
 それも、『ダブル』ではなく仁本人が、である。
 協定を結び、ほとんど危険が無くなったということで、ようやく礼子や老君からのOKが出たのであった。
 もちろん、カプリコーン1の転移門(ワープゲート)を使い、『ダブル』と入れ替わって、である。
 自分の目と手で遺された古代遺物(アーティファクト)を見てみたかったというのが一番の動機だろう。

「あー、こうなっているのか……」
『実写器』と言う名の古代遺物(アーティファクト)を調べさせて貰っている仁。
 構造は簡単である。カメラそのもの。レンズを通った光がフィルムにあたる『何か』に像を結ぶ。もちろんシャッターも付いている。
 ガラス乾板を使う大型旧式カメラ、と言えばわかるだろうか。
 仁としてはカメラの構造よりも『フィルム』、つまり『感光剤』の情報が欲しかったのである。
 古くなって変質していたが、感光剤に相当するのは魔結晶(マギクリスタル)の粉末に近い性質のものらしかった。
 水晶を平らに伸ばした感光板に感光剤を塗った『乾板』。
 感光剤については若干の心当たりがあったので、あとでサキやトアと話をしてみようと仁は心に決めたのである。

 次は『時刻表示器』である。置き時計型であった。時針だけで分針・秒針はない。それでも十分実用的ではある。
「ん? ……針を動かしている動力は……なんだ? これ」
「お父さま、何かわからないことでも?」
「ああ礼子、ちょっとこの魔導装置(マギデバイス)自由魔力素(エーテル)の関係性を『見て』くれ」
 仁は時刻表示器の心臓部と思われる魔導装置(マギデバイス)を指し示した。
「わかりました。『追跡(トレース)』。……これは、自由魔力素(エーテル)の流れを追っているように見えます」
「やはりな。……ちょっと疑問ができたな……が、まあいい。この『時計』だが、太陽の動きを追いかける魔導装置(マギデバイス)があって、その角度を時刻として表示しているわけだ」
 太陽から発せられる自由魔力素(エーテル)を検知してその向きを向く素子が時計の心臓部になっており、それを利用して時針を動かしているのだ。
 時刻の定義から言って、間違いのない方式ではある。ただ、時計が横倒しになったら表示は狂ってしまうわけだが。

 このようにして、仁は『森羅』氏族の古代遺物(アーティファクト)を一通り調べさせて貰い、その構造を解析し終えたのである。
「ジン、終わったの?」
 シオンがやって来て、お茶が入ったと言う。
「ああ、ありがとう。今行く」
 呼ばれた先では、シオン、イスタリス、ロロナが待っていた。
「ジンから貰ったお茶を淹れたんだけどどうかしら?」
 仁が持って来たお茶とは、カイナ村で言う『お茶の木』つまり『ペルヒャ』の葉である。
 苗も持って来たのでいずれ自給できるようになるだろう。シオンとイスタリスが気に入ったようなのでこちらでも栽培することを勧めたのである。
「うん、うまい」
 一口飲んで仁は感想を述べた。
「そう、よかった」
 くつろぐ仁にシオンは声を掛ける。
「……ねえ、ジンはもうすぐ帰っちゃうのよね?」
「ああ。あと2、3日もしたらな」
「そう……」
 少し寂しそうな顔をするシオン。
 恋愛感情に関してはうとい(疎すぎる)仁ではあるが、年下の子供の感情には敏感である。
「でもな、時々遊びに来るよ」
「……どうやって?」
 単なるご機嫌取りのように捉えたのか、疑い深そうな目つきで睨むように仁を見るシオン。
「ほら、空を飛べば」
「……ああ、飛行船ね。危険がなければ使えるものね」
 とりあえず、虚言ではないと言うことがわかったのか、シオンの機嫌が直った。
「あ、お茶、冷めちゃったかな?」
「いや、俺は猫舌だからこれくらいがいい」
 そう言いながら仁はお茶を半分くらい一気飲みした。
 その時仁は、この機会に聞いておこうと思っていた質問を思い出した。
「ところでシオン、イスタリス、それにロロナさん、ちょっと質問があるんですが」
「はい、何でしょう?」
 シオンとイスタリスの母、ロロナが代表で仁に答えた。
「えーとですね、ルカスやネトロスは従者種族だって、シオンから聞いたんです。でも、他の氏族にはそういう従者っていないようなんですが……」
「ああ、そのことね」
 仁が全部を言い終わる前に、大きく頷いたシオンが話し始めた。
「ジンが言った通り、従者を持っているのはあたしたち『森羅』だけ。昔はほとんどの氏族が持っていたらしいけど……」
「私たち魔族に比べて、従者は寿命が短いこともあって、今では『森羅』の氏族が持っているだけなのよね」
 シオンの言葉を引き継いでイスタリスが説明してくれた。
「そうすると、今、従者種族というのは……」
「10人が残っているわ」
「10人、ですか……」
 随分と少なかった。少なくとも10人では種としての存続は無理である。
「あ、ごくまれに、ですけど、従者種族と子供を成すこともあるんですのよ。ほとんどの場合、子供は魔族の特徴を持ちますけど」
 混血した場合、魔族側の遺伝子が優性であるということらしい。
 仁は、どうしてそういう質問をしたのか、その訳を話すことにした。
「……そうですか。実は、従者種族がどこから来たのか、が気になっていたもので」
 魔族のルーツはヘールからやって来たいわゆる『始祖(オリジン)』。
 この世界、惑星アルスの原住種族と交わり、『堕ちた者たち(フォールナー)』となった。
 おそらく、『始祖(オリジン)』の血が濃い者が『魔族』、薄い者が『人類』となった可能性が高い。
 では、『原住種族』は? 既知の世界にはそんな種族はいない。故に仁は、従者種族がその『原住種族』ではないかと思っていたのである。
「……もちろん、純粋に知的好奇心からですが」
 一通り説明した後、最後に仁はそう付け加えた。
「……その仮説は正しいと思いますわ」
 しばらくの沈黙の後、ロロナが口を開いた。
「伝承では、『従者種族は南から連れてきた』というのがありますの」
 仁は無言で頷いた。浅黒い肌はこの北の地にそぐわない。むしろ南方系を思わせて、違和感の元となっていたからだ。
「いずれ南の地を訪れたら、ネトロスやルカスの同族と出会うかもしれないな」
 また一つ、仁の目標ができてしまった。

*   *   *

「これは……」
 仁は、『ジルコニア』の鉱床見学にやって来ていた。
地下探索(グランドサーチ)』で鉱床を探ったところ、かなりきれいな幾何学状の分布であるとわかる。
(ドーム状の何かが埋もれたというのが一番近いんじゃ無かろうか)
 SFで出てくるようなドーム都市、そのドームを構成していたのが埋もれているキュービックジルコニアの鉱床になったのではないか。
 そう思ったが、口には出さない。証明することもできない。が、自然には産出しないであろうと思われるキュービックジルコニアがここにあるという理由としてはありそうなことであった。
 それに付随する推測として、
「鉱床の更に奥、というか地下にも何かあるかもしれない」
 とだけアドバイスしておく。ドームだとすれば、それが守っていた何かがあるはずだからだ。
 とはいえ、仁には今の『地下探索(グランドサーチ)』により、石灰質の岩があることがわかっている。
 おそらくコンクリートに似た建物のなれの果てであろうと仁は推測していた。
「この埋蔵量で今の採掘ペースだったら50年は保ちそうだな」
 少しずつ取引すればいいと仁は思っている。そのうち合成できるようになるだろうし、とも。
「あー、これで幾つかの疑問が解けて少しすっきりしたな」
 背筋を伸ばした仁は暮れかかる空を見上げた。
 風が少し肌に冷たい。
「……ジン」
 呼ぶ声に振り向くと、シオンがいた。夕風に髪をなびかせた彼女は、光の加減か沈んで見えた。
「いよいよ……明日、帰っちゃうの?」
「ああ。そのつもりだ」
「そっか。……い、いろいろ、ありがとね」
 少し俯きながら、寂しげに言うシオンの頭を仁はぽんぽん、と叩く。
「シオンって、すごい勉強家なんだな。びっくりしたよ」
「え?」
 唐突な褒め言葉にきょとんとした表情をするシオン。
「ほら、会議の時、いろいろと説明しただろう?」
「あ、ああ。ジンのお城で読んだ本に書いてあったから」
「それにしても1度読んだだけであれはすごいぞ」
 これは素直な仁の感想である。それを聞いたシオンの顔が少し明るくなった。
「そ、そう?」
「ひょっとして、『森羅』の氏族ってみんなすごいのか?」
「何がすごいって聞かれているのか良くわからないけど、『森羅』って名前は、いろいろな物事を知っているから付けられた、って聞いたことがあるわ」
 この機会に、仁は聞きたかったことを尋ねてみることにした。
「そうすると、魔族の氏族名ってみんなそういう意味を持っているのかな?」
「うー……ん。そうとも言えるし、そうじゃないとも言えるわ」
 どういう意味だい、と仁が尋ね返すより早く、シオンが説明を始めた。
「昔……そう、氏族に分かれたばかりの頃は確かにそういうことが言えたらしいの。『傀儡くぐつ』の氏族は隷属魔法が得意とか、『狂乱』の氏族は……ちょっと考えられないようなものの考え方をするとか」
「なるほど」
「でも今は、別々氏族同士の間での結婚とかもあったりで、ほとんど意味を成していないわ」
 やはり、血が薄まるにつれて特色は無くなっていったようだ、と仁は納得したのである。
「でもシオンは『森羅』の名に相応しいかもな」
「へ?」
 仁に言われた意味がわからなくて間の抜けた声を出してしまうシオン。
「シオンはきっと、その知識で魔族の人たちを導くような大人になるんだろうな、と思ってさ」
 言われたシオンの顔が見る見る赤くなる。
「なななななな何よ! 褒めても何も出ないわよ!」
 その反応は見た目相応、少女のもの。
「いいさ。シオン、俺にじゃなく、魔族のために頑張ってくれよ」
 そう言って仁はもう一度シオンの頭を撫でる。
 明るさを残す西の空にも星が瞬きだし、短くなった秋の日は暮れようとしていた。
 ラストっぽく締めましたけどこの章はまだ終わりません。

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