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マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

02 ブルーランド篇

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02-17 伯爵、二人

 城門に備え付けられた重厚な門扉。その前に、1台の馬車が停まった。
「クズマ伯爵である。開門願いたい」
 城門を守る衛兵は、その馬車に刻まれた紋章が確かに伯爵家の物と確認し、更には御者が提示した通行証と照らし合わせ、
「開門!」
 良く通る声で、城壁の上にいる係官へ通達した。すると重い音を立てながら扉が開き、
「お通り下さい」
 衛兵に見送られ、馬車は通過していった。

*   *   *

「ふう、いい気持ち」
 ビーナはガラナ伯爵邸で風呂に入っていた。さすがは伯爵邸、大理石で組まれた豪華な浴槽に湯が溢れている。
「やっぱり貴族っていい暮らししているなあ」
 水浴びか、せいぜいがお湯で体を拭くだけ、の庶民とは根本的に違っている。
「がんばらなきゃ」
 そう呟き、ビーナは浴槽をあとにした。
 脱衣所へ戻ると、脱いだ服はなく、代わりに新しい下着とバスローブが置かれていた。
「何か、贅沢憶えちゃいそう」
 そう言いながら下着を身に着けていく。絹の肌触りが心地よい。
 バスローブを着終わると、脱衣所の外へ。そこにいたのは、小太りの中年男であった。
「きゃ」
「ほほう、なかなかの物ではないか」
 顎に手を当て、そう呟く男は、豪華な服を着ていて、身分あるように見える。それでビーナは、
「あ、あの、あなたは?」
「ん? 儂はガラナ伯爵だ」
「は、伯爵様!」
 慌ててお辞儀をするビーナに、伯爵は手を振って、
「ああ、よいよい。それより、付いてまいれ」
「は?」
「付いてまいれと言ったのだ!」
「きゃっ!」
 伯爵が強引にビーナの手を掴んできた。ビーナはそれを振り払う、が。
「儂に逆らうと弟や妹に何かあっても知らんぞ?」
「……!」
 明らかな脅迫。ビーナの顔が凍り付いた。
「おとなしくなったな、さあ、来い」
 再び手を握られ、引きずられるように連れて行かれるビーナ。その顔は真っ青である。
 廊下を歩き、階段を登って、辿り着いたのは1つの部屋。
「入れ」
 ドアの前に立っていた侍女は、一瞬ビーナに憐れみの視線を送ったが、伯爵の命令に従ってドアを開け、2人は中へ入る。
「……」
 部屋の真ん中には大きなベッドが1つ。さすがにビーナにも、ここで何がなされるか見当は付く。だが、一縷の望みを持って、尋ねてみた。
「あの、ここで、何を?」
 するとガラナ伯爵は、脂ぎったその顔にいやらしい笑みを湛え、
「ぐふ、何を、と尋ねるか。それはな、……こうだ!」
「きゃあっ!」
 いきなりバスローブを引っぱられ、ビーナはバランスを崩す。倒れこんだ先にはベッド。
「夜は長い、楽しもうではないか」
「い、いや……」
 上着を脱ぎながら迫ってくる伯爵に、形ばかりの抵抗を試みるビーナ、だが、
「弟や妹が可愛くないのか?」
 再度そう言われ、抵抗を止めるビーナであった。
「そう恐がるな、可愛がってやるぞ」
 そう言いながら伯爵はビーナにのしかかった。
「や、いやあ!」
 だがその声も、伯爵を楽しませるだけであった。
「ぐふふふ、そう言う声をあげる娘がまた良いのだ」
 そしてその手が、ビーナの付けている下着に掛けられようとした時である。
 ドアがノックされた。最初、無視していた伯爵であるが、再度ノックの音が響くと、
「うるさい。取り込み中だ!」
 そう怒鳴ったのだが、
「申し訳ございません。ですが、クズマ伯爵様がお見えでございます」
「何!?」
 同じ伯爵の地位にあるとは言え、クズマ伯爵家は旧家、かたやガラナ伯爵家は成り上がり。王国での発言権からして違う。無視するわけにはいかなかった。舌打ちしてビーナから離れるガラナ伯爵。
 そのまま足音高く部屋を出ていく。ドアが閉められた時、ビーナはほっと安堵の息をついた。

*   *   *

「ようこそ、クズマ伯爵」
 玄関ロビーまで出迎えに出たガラナ伯爵。
「いえ、こんな夜に申し訳無いとは思ったのですがね」
 なら来るなよ!と心の中でだけ怒鳴るガラナ伯爵であるが、表面上はにこやかに、
「いえ、急用でしたら致し方ありませんな。それで、御用の向きは?」
 出迎えたロビーで話を切り出すあたり、さっさと済ませて帰って欲しいという心中が見え見えである。
「ええ、それでは早速。……魔法工作士(マギクラフトマン)、ビーナをお引き渡し願います」
「何ですと?」
「彼女の助手から、ガラナ伯爵が招いたことを聞いております。また、門の衛兵には、彼女がまだ城壁内から出ていないことも確認済です」
「……」
 ガラナ伯爵は、急ぎ脳内で損得勘定をする。相手は若僧とはいえ、国政に参加している旧家。こちらは子爵から金で成り上がった伯爵家。ここは素直に従った方が良さそうである。
「お、おお、ビーナですな。先ほどまで風呂を使わせておりましたが、もう上がった頃でしょう。今、呼びにやらせます。おい」
 クロードが急ぎ足でその場から離れていく。
「……………」
 沈黙が痛い。背中にびっしょり汗をかいたガラナであった。
 ほどなく、クロードに連れられてビーナがやってきた。服は元の物に戻っている。ちゃんと礼金の袋も抱えていた。
「そなたがビーナ殿?」
「は、はい」
 いきなり、別の貴族の前に連れてこられたビーナは不安そうであるが、それと察したクズマ伯爵は、
「私はクズマ伯爵という。ジン殿に頼まれてそなたを迎えに来た」
「え? ジンに!?」
 ジンという名前を聞いて、ビーナの顔に血の色が戻った。
「そうだ。さあ、行こう」
 そう言ってクズマ伯爵はビーナを手招きする。おずおずとそちらへと歩むビーナ。クズマ伯爵はビーナの手をそっと取ると、
「それでは、ガラナ伯爵、おじゃまいたしました」
 そう言ってその場を立ち去ったのである。
 ビーナは無事でした。
 一般人では、夜中、閉じた城門は通れません。貴族ならば通れるのです。
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