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マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

16 魔族黒幕篇

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16-26 農業改革

 マリッカが今はまだあまり使えそうもないのを見て取った仁は、ゴーレムに初歩の工学魔法知識も付与することにした。
 これは、互いに整備し合って調子を維持させるためである。
 まず出来上がった1台目を起動する。
 命令系統を決める『隷属(マスタースレーブ)』は、カイナ村で使っているものと同じく、『森羅』氏族不特定多数が対象である。
 これは、そばにいたマリッカを代表とし、その知識にある氏族全員を対象とするやり方。新たに加わった者がいれば、氏族からの紹介で追加できるようになっているというものだ。
「じ、ジン様?」
「……じっとして。今からゴーレムの命令系統を定めるから」
「ふぁい」
 相変わらず噛んでいるマリッカだが、仁は気にせず『知識転写(トランスインフォ)』と『隷属(マスタースレーブ)』を使う。
「これでよし、『起動』」
「ハイ」
 ゴーレムが起き上がった。身長2メートル、それなりにごつく、迫力がある。
「きゃあ」
「わっ」
 横たわっていたゴーレムが起き上がる場面というのは、初めて見るとやはりそれなりに衝撃的なものらしい。
「わかってはいてもすごい、な……」
 ラデオゥスもその威容に気圧されたようだ。
『福音』の氏族はゴーレムを持っていたが、『森羅』の氏族は持っていない。ネトロスやルカスのような従者がその代わりを務めているのだ。
「農業をメインにやってもらうゴーレムです。……『アグリー』と呼びましょうか」
 もちろん農業=アグリカルチャーからの命名である。
「こいつは『アグリー1』」
「ハイ、私ハ『アグリー1』デス」
「喋れるのか……」
「ええ、あと同型機を19体作ってしまいます。アグリー1、手伝え」
「ハイ」
 初歩の工学魔法知識を与えたのは伊達ではなく、次の4体を作るのはこれも1時間で済んだ。
 そして礼子と5体に手伝わせ、15体を1時間で完成させる。その手際に、見ていた者はもう言葉が出ない。
「……」
「…………」
 興味本意に見ていたイスタリスとシオンだったが、自分が今までどんな人物の世話になっていたのかあらためて実感したようだ。
「しゅ、しゅご……すごいでしゅ、ジンしゃま」
 緊張して噛みっぱなしのマリッカ。そんな彼女を仁は温かい眼差しで見つめていた。
「マリッカ、君はまだまだ工学魔法には不慣れなようだ。この『アグリー』たちには、初歩的な工学魔法知識を付与してあるから、もし気が向いたらいろいろ教わるといい」
「ひゃ、ひゃい。ありがとうございまひゅ」
 最後まで締まらないマリッカである。後で聞いたところではシオンよりも年下なのだそうだ。無理もない。

『アグリー』1〜20を完成させた仁(の身代わり人形(ダブル))は、少し遅い昼食を取ると、すぐに作業を再開した。
 何せ、仁本人と老君とが交代で操っているので、事実上休憩無しで活動出来るのだ。
 いよいよ温室の作製である。
「……ガラスの代わりをどうするか、だが」
 カイナ村なら、白雲母モスコバイトの産地が近いのだが、ここでは採れないらしい。
 代わりに、透明なジルコニア(二酸化ジルコニウム)が大量に採れており、窓ガラスやコップなどに加工されていた。
「これ、輸出品になるな……」
 人類の住むローレン大陸ではほとんど採れないため、貿易対象になりそうだ、と思ったのである。
「なるほど、でしたら嬉しいですね」
 わざわざガラスを作らなくとも、安価な透明材料が手に入ればいいわけだ。ジルコニアの融点は摂氏2700度以上あるし、硬度もモース硬度で8〜8.5。靱性もあるので、カットグラスの材料にもなる。
 だが今は、まず温室作りである。
 仁は、適当な場所をロロナに選んでもらい、アグリーたちと共に軽銀ライトシルバーで骨組みを作った。
 そこへジルコニアの板を嵌め込むわけである。
「おお、これが温室ですか」
 3メートル×6メートルという大きさの温室を3棟作り上げた仁。
 中に入ってみたラデオゥスとロロナはその暖かさに感心した。
「確かに暖かいですわね。でも、夜は冷えるのではないでしょうか?」
 ロロナはさすがに察しがいい。『森羅』氏族の家にも、温室とはいえないものの、太陽光を取り入れて暖を取る構造のものがあるらしい。そのあたりはやはり経験の蓄積なのだろう。
「ええ、ですから『ヒーター』を備え付けるんですよ」
「ヒーター、ですか」
 幸いにしてこの地方は自由魔力素(エーテル)に富んでいる。簡単な構造で高効率なヒーターを作ることができた。
 が、問題はサーモスタット(温度制御機構)である。
「イスタリスに聞きましたが、温度を感知する魔導具がありますよね?」
「ええ、寒暑表示器のことですね」
 ロロナが答え、工房の壁を指差した。
「あれもそうです」
 そこには、一見すると手鏡かと思うような、丸い木枠に嵌った半透明な板があった。暑い時は赤く、寒い時は白くなるという。
「どんな仕組みなんだろう?」
 仁(の身代わり人形(ダブル))に代わって礼子が確認する。分析・解析能力は礼子の方が上なのだ。
「魔物の革でしょうか?」
「近いですね。『氷原トカゲ』というトカゲの皮です」
 夏は赤茶色、冬は保護色で白くなるのだそうだ。
「うーん、使いづらそうだ」
 これを魔導具に組み込むのはかなり難しそうなので、仁は候補から除外した。
「……と、すると、やっぱり温度センサーか……」

 温度計以外にも、温度の目安になるものは多い。水は摂氏0度で凍り、100度で沸騰するし(1気圧の場合)、金属は融点が決まっている(気圧にあまり左右されない)。
 礼子の場合、温度を検知するために、純度の高い『火属性』の魔結晶(マギクリスタル)をセンサーにしている。
『火属性』の魔結晶(マギクリスタル)は常に微弱な魔力を放射しているのだが温度によって放射する量が変わるという性質を持っており、これを使って温度変化を検知しているというわけだ。
 但し、摂氏0度ならこの位、と決まっているわけではないので、基準温度でいわゆる『校正』をする必要があるのだ。
 また、純度がどういう影響を与えるかといえば、純度が低いと再現性が悪いのである。
 礼子の場合、水が凍る温度=摂氏0度、水が沸騰する温度=摂氏100度の他に、仁の好みの風呂の温度=摂氏43度(熱めが好き)と、仁の好みのお茶の温度=摂氏62度(猫舌)の4種類を記憶している。
 純度の高い魔結晶(マギクリスタル)は稀少なので、一般的な温度計には使いづらい、というわけである。

「まあ、そう沢山作るわけじゃないし、魔族領には鉱物資源も豊富そうだしな」
 用意された中からできるだけ純度の高い『火属性』の魔結晶(マギクリスタル)を3個取り出す仁。
「ここをこう、して……。『書き込み(ライトイン)』」
「ジン、それ何?」
 シオンがジンの手元を覗き込んで尋ねてきた。
「温度センサーだよ。……こっちをこうして。『書き込み(ライトイン)』」
 別の魔結晶(マギクリスタル)と組み合わせ、ヒーターを組み上げていく。
 軽銀ライトシルバーの筐体に組み込めば完成だ。
「ロロナさん、このヒーターは、寒くなると発熱して、暖かくなると止まる性質を持っています」
 噛み砕いた言葉で説明する仁。
 最早ロロナを初め、ラデオゥス、マリッカ、イスタリスもシオンも、仁がとんでもないことをやっていることに気が付いており、半ば感心、半ば呆れていた。
「あっ、は、はい! これを温室の中に備え付ければいいのですね!」
「なるほど、ジン殿は、こうして冬でも作物の栽培ができるようにしてくれたわけか」
 それでも、ロロナとラデオゥスは仁の意図を汲み、理解していた。
「これは手始めです。もっと温室を増やせば……」
「ええ、新鮮な野菜が冬でも食べられるわけですね」
「楽しみね!」
 シオンも顔を輝かせている。
「あとは、耕地面積を増やすことですね」
 農作業用ゴーレムという労働力が増えたのであるから当然である。
「明日は開墾を検討しましょう」
 いつもお読みいただきありがとうございます。

 20140820 13時37分 表記・誤記修正
(旧)45度
(新)43度
 仁好みの風呂温度。一般人には高すぎるらしいので。

(誤)ガラスの変わりをどうするか
(正)ガラスの代わりをどうするか

 20140820 20時16分 表記修正
(旧)仁の好みの風呂の温度=摂氏43度と、仁の好みのお茶の温度=摂氏62度を持っている
(新)仁の好みの風呂の温度=摂氏43度(熱めが好き)と、仁の好みのお茶の温度=摂氏62度(猫舌)の4種類を記憶している
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