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マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

16 魔族黒幕篇

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16-16 白

 開いた扉から覗き込んだその部屋の印象は、一言で言って『白』。それに尽きた。
 白いのである。天井、壁、床。全て白。
 といっても雪のような真っ白ではなく、ごく明るいグレーというか、艶消しの白と言えばいいか。
 眩しくなく、目にくどくない白さであったのだ。
 そしてその部屋の中心にはベッドがあり、そこには何者かが横たわっていた。

「……いったい、ここは?」
「……病室、もしくは寝室、でしょうか」
 アレクタスとアンは疑問と推測を口にし、礼子は横たわった何者かを凝視していたのである。
 その何者かは、白い掛け布団に覆われていて良く見えなかった。
 その時。
「だあれ?」
 突然声が聞こえた。
 よく見ると、ベッドの向こう側に、白いーー本当に白い少女が立っていたのだ。
 身長は1メートルちょっとくらい。礼子よりも小さい。髪の毛は真っ白。肌も限りなく白い肌色。着ている服も白。ただその瞳だけは黒かった。
「父さまをいじめに来たの?」
 その女の子ーーと思われる者はベッドを回り込んで、礼子たち3人の前に立ち塞がった。
「父さまは私が守る」
 そう言って通せんぼをするように両手を広げたのである。
 困惑していた3人であったが、アンがまず口を開いた。
「安心して。何もしないわ。そこに寝ているのはあなたのお父さんなのね?」
 少女を刺激しないよう、優しい口調である。
「ええ、そうよ」
「あなたのお名前は?」
「……ネージュ」
「そう、ネージュね。私はアン。……あなたのお父さんは寝ているの? 病気なの?」
「……わかんない。もうずっと寝たまま、起きて下さらないの」
 俯くネージュ。
 それを聞いたアンは、屈んでネージュと同じ目線となり、更に優しくネージュに話しかける。
「ねえネージュ、あなたのお父さんの様子を診させてくれないかしら? もしかして具合が悪いのなら治してあげられるかもしれないわ」
 するとネージュの顔が上がった。
「ほんと? 治ったら父さま起きて下さる?」
「ええ、きっと」
 アンがそう言うと、ネージュはしばらくじっと考え込んでいたが、やがて決心したように横に移動した。
「……お願い。父さまを起こしてちょうだい」
「わかったわ」
 アンはゆっくりとネージュの『父さま』に近付いていった。
 礼子はネージュに話しかける。
「そこに寝ているのがあなた……ネージュちゃんのお父さまなのね?」
「うん。あなたは?」
「わたくしは礼子。わたくしにもお父さまがいらっしゃいます」
「あなたにも?」
「ええ。わたくしを作って下さった、世界一のお父さまが」
 そう言うとネージュの顔が歪んだ。
「世界一は私の父さまだもん」
 それを聞いた礼子はふふ、と優しく笑った。ネージュの気持ちがよくわかったからだ。
「そう、ですね。ネージュにとっては、ネージュのお父さまが世界一なんですよね」
「うん!」
「でもね、わたくしのお父さまも、わたくしにとっては世界一なんですよ」
「2人とも、世界一?」
「はい、そうですね」
 なんとなく、2人の間に共感に似たものが生まれたようである。

 礼子とネージュが仲良くなっていた、その時、アンはネージュの『父さま』を診ていた。
「これは……」
 身長は礼子くらいか。そしてその外見は、先程出会った負の人形(ネガドール)に酷似していた。
 だが、いくらか違うところもある。
 まず、肌の色。土気色ではなく、温かみのある褐色である。そして白いが頭髪もあった。
「脈は……」
 まず診断の第一歩として脈を診るアン。だが。
「脈がない?」
 手首にも、腋にも、頸動脈と思しき場所にも、脈拍は感じられなかった。
「でも……」
 目の前に横たわるこの存在はまだ死んではいない、と言うことが感じ取れた。
 温かみがあり、肉体に生気が感じられたのだ。だが、どうやったら目を覚まさせられるのかがわからない。

*   *   *

 蓬莱島でも、仁と老君が首を捻っていた(老君に捻る首は無いが)。
「とにかく『診察(チェックアップ)』と……『追跡(トレース)』かな」
 魔力の流れを確認することでわかることもあるかもしれない。
「エルザの意見も欲しいな……老君、エルザは今どこにいる?」
『はい、館の厨房で、ミーネさんに料理を教わってらっしゃいます』
「悪いが、呼んでくれないか」
『わかりました』

*   *   *

「老君から連絡が来ました。……なるほど、やってみましょう。『診察(チェックアップ)』……」
 まず、人間にするのと同じ手順で確認する。
「生体反応はありますが、臓器や新陳代謝はよくわかりませんね。人間ではないのでしょう。ではもう一つ『追跡(トレース)』」
 すると、体内の魔力がどう巡っているのか、がわかった。
「やはり魔法技術で動いているのですか……しかし、この先どうすれば」
 その時、再び老君から連絡が入った。正確には老君を通じ、エルザによる指示が行われたのである。
「『回復(ヒーリング)』『追跡(トレース)』……なるほど……」
 アンは、中級の回復魔法を掛けたあとの魔力の流れを診、老君へ報告した。
 それによれば、若干ではあるが、魔力の巡りがよくなっていたのである。
「『回復(ヒーリング)』『回復(ヒーリング)』『回復(ヒーリング)』」
 魔素変換器(エーテルコンバーター)を持つアンは、何度魔法を行使しても心配はいらない。
 ましてや自由魔力素(エーテル)濃度の濃いこの地では、その効果も増幅されている。
「『追跡(トレース)』……少しずつですが良くなっているようですね。さすがエルザさま」
 更にアンは、5連続で『回復(ヒーリング)』を掛け、一旦休止。
「ここで『回復薬』ですか」
 非常用に携帯している回復薬を1本取り出し、白雲母(モスコバイト)製のアンプルを割り、中身をネージュの『父さま』に飲ませてみた。
 最初の容態では飲むことも出来なかっただろうが、多少回復したネージュの『父さま』は、ゆっくりとだが回復薬を飲み込んだのである。
「そうしたら……『快癒(リカバー)』『快癒(リカバー)』『快癒(リカバー)』」
 外科系の治癒魔法も掛けてみるようにと老君経由でエルザから指示が入った。
 身体のつくりが違っていても、多少なりとも効果を上げられるのではないかとの考えからだ。
 そしてその予想は正しかったと見え、ネージュの『父さま』の目がうっすらと開いたのである。
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