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マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

16 魔族黒幕篇

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16-07 歴史

 8月17日の朝が来た。
「ジン殿、起きておられるか?」
 高緯度地方の夏は夜が短い。現地時間7時、アレクタスが仁たちに朝食の用意ができた旨を告げに来た。
 この時間帯、仁(の身代わり人形(ダブル))を操作しているのは老君だった。
「ああ、おはようございます」
 仁と礼子、アンが通路に出ると、イスタリスたちもミロニアに声を掛けられて、ちょうど出てきたところであった。
 案内されたのは昨夜と同じ部屋。既に朝食が並べられている。献立は、肉の代わりに焼き魚らしきものがあるくらいであまり変わり映えしていない。
「お恥ずかしながら、私どもも食糧難でして、ご了承下さい」
 ミロニアが少し残念そうに言った。
 仁も、もちろんイスタリスとシオンたちもその辺は承知しているので何とも思わない。
「……いただきましたこのジュース、すばらしいですね。昨日飲ませていただきましたが、さすが魔法工学師マギクラフト・マイスターだとみんな言っております」
 蓬莱島特製ペルシカジュースの評判は良いようだ。
「本当に、魔法工学師マギクラフト・マイスターとは仲良くしたいですわ」
 そんな会話をぽつぽつとしながら朝食を済ませると、いよいよ本題が始まることになる。
「申し訳ないですが、食後のお茶は会議室でお出ししますので移動していただけますか?」
 アレクタスからの要望に応じ、仁たちは会議室へ移動した。いよいよ謎が解けるのか、と、老君は、何やら工房で製作している仁を呼び出すのであった。

 仁が工房からやって来て操縦席に着いたちょうどその時、会議室では。

「朝食後、慌ただしくて申し訳ないですがやはりこういう話は早めに済ませたいですのでな」
 氏族長、ファビウスが切りだした。出席しているのは『福音』氏族ではファビウス、アレクタス、ミロニアの3人である。
「まずは、我々が他の氏族を人類にけしかけているのではないかとの話でしたな」

 仁は蓬莱島の魔導投影窓(マジックスクリーン)を固唾を呑んで見つめていた。

「最初に、我等の背景とも言うべきものを説明いたしましょう。そうすれば我々の立場をよりご理解いただけるでしょうからな」
 仁(の身代わり人形(ダブル))を見据えて、ゆっくりとファビウスは話し始めた。 
「我等『福音』の氏族に伝わる伝承によれば、元々はパズデクスト大地峡の南に住んでいたと言われております」
「えっ?」
「そもそも、対人類戦争、あなたがたは魔導大戦と呼んでいるのですな、……魔導大戦の前まで、魔族と人類の間には今ほどの断絶は無かったのです」
 確かに、ヴィヴィアンが語ってくれた伝承でも、そんな話があった、と仁は思った。

「これは……貴重なお話ね」
「!?」
 自分以外の者の呟きが聞こえ、仁は驚いて振り返った。と、そこにはヴィヴィアンとステアリーナ、そしてエルザがいて、魔導投影窓(マジックスクリーン)を覗き込んでいた。サキ、トアも少し遅れてやって来る。
「驚かせちゃった? ごめんなさいね。工房を覗いたら、いるはずのジン君がいないので老君に聞いたらここだって言われて」
「ああ、そうだ、みんなにも聞いていてもらった方がいいかもな」
 改めて仁は、ファミリーのメンバーと一緒に魔導投影窓(マジックスクリーン)を凝視したのである。

「そもそも、我等と人類がなぜ仲違いしたのか。居住域も異なり、領土問題は起きようがないはずなのに」
 ファビウスは一旦言葉を切り、仁の目を見つめた。
「それは、産物にあったのです」
「産物、ですか?」
「そう。我々が欲するものが人類の土地にあり、人類の欲するものが我々の土地にある、という、ね」
「……食糧と魔結晶(マギクリスタル)、ということでしょうか」
 これはイスタリスの発言。仁も同じ事を思っていた。
「そうです。更に言えば我々には、人類より数段進歩した魔法技術があったのです」
 ファビウスは誇らしそうに、だが若干寂しそうな顔で言った。
「……まさしく、『あった』、というのが正しい」
 過去形に拘ったのはもしや、と聞いている者たちが皆思った、と同時に、ファビウスが若干辛そうに言葉を続けた。
「今の我々には、使う事は出来ても創り出すことはおろか、修理さえできないのですよ」
「それは……魔導大戦のためですか?」
「いや、違います。魔法技術そのものは、1000年よりもっと古い時代から存在しましてな。推定では2000年以上前」
「2000年!?」
「そう、2000年以上前から、我々には卓越した魔法技術がありました。だが、長い年月の後、使うことはできても、直すことすらできなくなってしまっていたのです。それが1000年前のこと」
 1000年前と言えば、先代魔法工学師マギクラフト・マイスター、アドリアナ・バルボラ・ツェツィの時代である。
「薄々勘付かれたかと思いますが、そう、その頃、アドリアナ・バルボラ・ツェツィと名乗る女性がこの地を訪れたのです」
 それは仁でさえ初耳であった。
「美しい女性だったといいます。アンティークゴールドの髪を背中まで垂らし、艶やかな鳶色の瞳は澄んだ輝きを放っていたと。そして漆黒の髪を持った従者を連れていたそうです」
 仁に見られ、礼子は僅かに首を振った。そのような記憶は礼子には無かったから。
「そして彼女は、半年ほど滞在し、その間に、壊れていた魔導具、傷んでいた魔導具を全て修理してくれたといいます。見返りはと聞くと、『こんな面白い仕事ができたこと自体が見返りです』と答えたそうですよ」
 何となくその気持ちがわかるような気がした仁だった。
「だから我々は、魔法工学師マギクラフト・マイスターには敬意を持って接するのですよ」
 おそらく先代魔法工学師マギクラフト・マイスター、アドリアナ・バルボラ・ツェツィは、魔族の魔導具を修理しながら、その技術を我がものにしていったのだろう、と仁は想像した。
 当の所有者、魔族でさえわからなくなっていた魔法技術を解析し我がものにしてしまった先代はどんな人だったのだろう、と仁は思う。そして礼子は、やはり自分の知らない『母親』の話を聞いて、しばし感激に浸っていた。
「その時、彼女を歓待したのが我が氏族でしてな。他の氏族は時折やってきたりはしましたがね。だが一番彼女の事を知っているのは我々でしょうな」
 これで、何故仁が、いや、魔法工学師マギクラフト・マイスターが魔族に受け入れられるのかはっきりした。
 魔族にとって魔法工学師マギクラフト・マイスターという存在は、いわば恩人であったのだ。

「さて、その魔法技術とはどこから来たものだったのか? これは我々全員の持つ疑問でした。そして、それを解明してくれたのもアドリアナ・バルボラ・ツェツィだったのです」
 仁は、いや、蓬莱島で聞いている全員が聞き耳を立てた。
「彼女が修理してくれた魔導具の1つが、そういう記憶を持っていたのです。これは彼女がこの地を去ってからわかったことなのですがな」
 記憶装置のようなもので、公式記録を蓄えておくものなのか。仁はそんなことを想像した。
「驚いたことに、我々の祖先は、空から来たというのですよ」
「えっ!」
 驚いた声を出したのはシオンだ。イスタリスはぽかんと口を開けたまま、固まっている。
「……ジン殿はあまり驚かれないようですな? もしかしてご存知でしたか?」
「いえ、我々の言い伝えにも似たようなものがあって、それを聞いたことがあっただけですよ。まさかそれが本当だったとは」
「そうなのですか。……それでですな、空から来た我々の祖先と、人間達の祖先は、何と、同じだというのです」
「えっ」
 衝撃的な内容だった。確かに、魔族と人類の身体的構成などが同じなのはわかっていたが、まさか祖先を同じくしていたとは、仁も想像していなかった。
 せいぜいが、どこかで混血したのではないか、と考えていたのである。
「我々と人間の差は何か、という問いに、私は答えることができません。分かれて暮らしている長い年月の間に生じた、ということが言えるだけです」
「……」
 仁もシオンもイスタリスも、言葉を無くしていた。ファビウスの語りはまだまだ続く。
「祖先が同じなら、友好関係が結べるはず。そう考えても不思議はありますまい。それからというもの、しばらくの間、我々と人間達はそれなりに交流をし、仲良くやっていたのですよ。……300年前までは」
 その時、ファビウスの顔つきが急変した。
 目は見開かれ、顔色は青ざめる。額には脂汗が浮かび、身体が小刻みに痙攣を始めた。左右にいたアレクタスとミロニアも似たような状態である。
「……う、くっ!」
「ど、どうしたんですか?」
「勘付かれた……始まり……の…………地……」
 絞り出すようにそれだけ言うと、ファビウスは口を閉ざした。
 そしていきなり会議室の扉がけたたましい音を立てて開いた。
「何だ?」
 そこに立っていたのは、黒灰色に鈍く光るゴーレム。それが6体。
 仁たちを認めるや、部屋に雪崩れ込んできたのである。
 いつもお読みいただきありがとうございます。

 20140801 12時11分 誤記修正
(誤)凝脂
(正)凝視
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