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マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

16 魔族黒幕篇

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16-02 ベリアルス

 桃花を携えて立ち上がった礼子は、通常の出入り口ではなく、天窓から外へ飛び出した。
『礼子さん、敵は右斜め前方です』
 カプリコーン1搭載の魔力探知装置(マギディテクター)よりも数段性能の良い魔力探知機(マギレーダー)を使える老君は、標的をより正確に捉えていた。
「……いました」
隠身(ハイド)』の魔法を使っているようだが、今の礼子には通用しない。
 可視光線だけでなく紫外線、赤外線を見る事のできる目、そして超音波を捉える耳。更には簡易版の魔力探知装置(マギディテクター)も持っている。
「そこです!」
 地面から突き出した石灰岩の尖塔を桃花で斬り飛ばすと、その陰から人影が転がり出て来た。
「くう! どうしてここがわかった!」
 20代に見える男である。痩身で、ワシ鼻。灰色の髪、浅黒い肌に金色の目だけがぎらぎらと光っている。
「『傀儡くぐつ』の氏族ですか?」
「な……そんな事も知っているのか? あの裏切り者が喋ったな?」
 叫びながらその男は礼子に向けて石を投げ付けてきた。
「うるさいですね」
 桃花の刃を使わず、その石を払いのける礼子。
「……化け物め……恥知らずの裏切り者にくみするというのか」
「『エーテルジャマー』作動。麻痺銃(パラライザー)放射」
「ぐあ……」
 一瞬でその魔族の意識は刈り取られた。周囲の自由魔力素(エーテル)が自由にならないため、何の対抗策も取れず、麻痺銃(パラライザー)の放射をもろに浴びたのである。

 礼子はカプリコーン1まで魔族を担いできて、魔族を地底蜘蛛(グランドスパイダー)の糸で編み上げたロープで縛り上げる。直径9ミリのこのロープは、礼子でさえ40パーセント以上に出力を上げないと切れないという優れ物である。
「……ベリアルス?」
 礼子が捕らえてきた魔族を見たイスタリスが名前を口にした。
「知っているのか、イスタリス?」
「ええ。『傀儡くぐつ』の氏族でベリアルスという者に間違いないでしょう」
「やはり隷属魔法が得意なんだな?」
「はい。魔物を使役して働かせることを役目としている者が多い氏族です」
「他の能力は?」
 捕虜として捕らえておくなら知っておかねばならないことである。
「『傀儡くぐつ』の氏族は……ああ、転移魔法が使えるはずです」
 それを聞いた仁は、対策を考えた。以前エルザが首に嵌められた、魔法を封じる首輪だ。
 蓬莱島にいる仁本体は急いで材料を手配し、製作する。
「ええと、確かこうだったな……。体力を奪う機能はいらないから簡単だな」
 魔力源は本人の魔力素(マナ)を使う。なんともエコである。
 それを転移門(ワープゲート)を使い、カプリコーン1へ転送する。それを礼子が受け取って、ベリアルスの首に装着、と言う流れだ。
 材質は64軽銀なので、魔法で外さない限りは取れないだろう。
「なんとか気が付く前に処置できたな」
 カプリコーン1内の身代わり人形(ダブル)の口を借り、仁はほっとしたように呟いた。
「ジン様、ベリアルスをどうするおつもりですか?」
 怪訝そうな顔でイスタリスが尋ねた。
「一番気になるのは、なぜ我々を襲おうとしたのか聞きたいと思ってさ。それからこの先にどんな罠があるのかも聞けたらいいと思ってる」

 ベリアルスが気が付くまで、カプリコーン1は停止。どんな罠があるか、知ってからの方がいいとの判断からだ。
 そしてそれは長い時間ではなかった。10分もすると、ベリアルスは呻き声を上げ、気が付いたのである。
「気が付いた? ベリアルス」
「う……おまえはイスタリス! ……ここは?」
「どこでもいいでしょう。……なぜ私たちを襲うのですか?」
「……」
 ベリアルスは口を噤む。話したくないようだ。
「今、私たちは、当座の食糧を積んで国を目指しているというのに」
 その言葉にベリアルスは反応した。
「国、だと? 雑多な氏族が寄り集まっただけの集団が、国? 笑わせてくれる」
「ベリアルス! あんた、いったい何が言いたいのよ? わけわかんないわよ?」
 シオンも黙っていられなくなったようだ。
「国がどうとかよりも、今は食糧でしょう? みんな食べなきゃ生きていけないのよ?」
「ふん、食い物か。それならあるさ。……南の地に」
「人間の国ってこと!?」
 しかしそれきりベリアルスは口を閉ざしてしまった。
「……」
「こうしていても仕方ない。先へ進もう」
「……そうですね」
 仁が言うと、イスタリスとシオンは頷き、ベリアルスの前を離れた。
「ランド1、行け」
「カプリコーン1、発進します」
 1時間弱のタイムロスの後、一行は再び北を目指し始めた。30分弱でパズデクスト大地峡の最も幅が狭い地点に辿り着く。
 あたりは岩場で、ゴツゴツした岩がそそり立つ一方で巨大な穴が口を開けていて、非常に進みづらい箇所である。
「また色が変わっているな」
 ある箇所を境に、岩の色が明らかに違うのである。
 石灰岩の灰色から、赤い色へ。
「……ラジオラリア?」
 日本の南アルプス南部にある赤石岳。ひいては南アルプスの正式名称赤石山脈の由来にもなった赤い石、ラジオラリア板岩。
 石灰岩と同じく堆積岩ではあるが、石灰質ではなく、放散虫の死骸が積もって出来た珪質岩である。
「もしかするとローレン大陸とゴンドア大陸は地殻変動でくっついたのかも知れないなあ」
 などと独り言を言いながら、仁は景色を眺めていた。

 その時、カプリコーン1が急停止した。
「どうした?」
「はい、この先に魔法による罠が仕掛けられているようです」
「何?」
 魔力探知装置(マギディテクター)を覗き込むと、横一線に魔力反応があった。
「何だ? これ」
「詳細は不明です。が、魔力の網のようなものかと思われます。そうなると用途は……」
「罠、か」
 内容まではわからないが、このあたりで何か仕掛けてくるだろうと言うことは予想されていたから意外でもない。
「ベリアルス、何か知らない? このままだとあなたも巻き込まれるわよ」
 シオンが振り返って尋ねているがベリアルスは無言を貫いている。
「……そう、話す気はないってことね」
「お父さま、先行して調べてきましょうか?」
 礼子が提案してくるが、仁はそれを却下した。
「いや、駄目だ。何が起きるか、何が待ち構えているかわからない」
「なら、俺が見てこよう」
 ネトロスが言った。
「魔族の使う罠などは一通り承知している」
「そう、ね。ネトロス、お願いできる?」
「はい、お任せください。……ルカス、お前も来い。少し鍛えてやる」
「わかったよ」
「私も行きましょう。何かサポートできると思います」
 アンも立候補した。
 こうして、ネトロスとルカス、そしてアンが外に出、罠を確認、解除する運びとなったのである。
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