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マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

15 魔族との出会い篇

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15-34 閑話29 カイナ村の夏祭り

 8月15日。
 仁(の身代わり人形(ダブル))が魔族の地を目指している頃。
 カイナ村では祭りで賑やかだった。いや、正確には祭りの仕度中であるが。
「祭りかあ、面白そうだな」
「ああ、王都ではたまに行われるようなんだがな」
「楽しみよね! 何ていってもジンが主宰するんだもん!」
 カイナ村領主である仁は、村人の慰安のため、農閑期である8月の半ばに祭りをしよう、と言いだしたのである。
 魔族救援物資を運んで魔族領を目指している礼子にも断って、仁はカイナ村に来ていた。
「そういうことでしたら仕方ないですね。隠密機動部隊(SP)にしっかりガードしてもらって下さいね」
 過保護というか心配性というか。仁の隣にいられない礼子は渋々ながら仁に許可を出してくれた。
 どっちが親だかわからない。

 この世界にお盆という習慣はないが、収穫祭のような祭りはあるし、山鹿などが大量に獲れたときなども村総出でお祭り騒ぎになることもある。
 だが今回は、仁が主導で、いろいろな催しをするというので村人は楽しみにしていたのであった。
「夏祭り、ですか。余裕がある証拠ですね……」
 隣村であるトカ村領主のリシア・ファールハイトも、トカ村村長ブラークと共に招待されていた。
「収穫時にお祝いはしますがこれはまた……」
「やあ、リシアさん、ようこそ」
「あっ、ジンさん、こんにちは。賑やかですね」
 場所は二堂城前広場。
 蓬莱島から呼び寄せたゴーレムメイドたちが屋台の準備をしており、壮観である。
 盆踊りも、と思ったのだが、一度に欲張っても受け入れられないとまずいので、今回は夜店だけで留めていた。
「はあ、ジンさんはこれだけのゴーレムを使役できるんですね……」
 ゴーレムは、その初期費用、そして維持管理にかかる費用を考えると、人間よりもコストパフォーマンスがいいとは言えない。
 これは質の悪いゴーレムほど顕著で、魔力素(マナ)の補給や各部のメンテナンスに費用と手間が掛かるからである。
 だが仁が作り上げたゴーレム達はメンテナンスフリー。通常の使用では、1年はおろか10年、いや100年、稼働し続けるだろう。
 そうなってしまうともはや人間が何十人掛かっても太刀打ちできない。
 仁のゴーレム達とはそういう存在であった。
「ん。……ジン兄は、魔法工学師マギクラフト・マイスターだから」
 並んで歩いていたエルザが自慢げに言った。心なしか優越感を持っているようにも見える。
「それじゃ、リシアさん、見回りがあるのでまた、後で」
 そう言い残して仁はエルザと共に歩いて行った。

 8月中旬ともなると、少しずつ日が短くなってきたのを実感出来るようになってくる。風もどこか涼しさを感じさせるようになってきた。
 薄暗くなり始めた午後6時、二堂城前広場で仁は、夏祭りの開催を告げた。
「皆さん、今夜は『夏祭り』。俺から皆さんへ感謝の印にいろいろ準備しました。日頃の仕事から離れて、楽しんで下さい」
 その言葉が終わると、広場に魔導ランプが一斉に灯された。集まった村人から歓声が上がる。
「わあ、きれいですね」
 夕闇迫る広場に灯された魔導ランプは、わざと色を変えてあり、赤、黄、青、緑。リシアはうっとりとその景色を眺めた。
 着ているのは仁が用意した浴衣である。木綿がないので、麻で作られている。生地調達の関係上、女性にだけ配られたもの。
 リシアが着ていたのは紺地に朝顔柄のもの。リシアは朝顔の花を知らなかったが、仁の故郷にある花だろうと、あまり深く考えていなかった。
 そこへ仁がやってくる。ハンナとエルザが一緒だ。
 ハンナはヒマワリ柄、エルザはなでしこ柄の浴衣である。
「リシアさんたちも楽しんでいって下さい」
「おねーちゃんもいっしょにまわる?」
 仁と手を繋いだハンナがリシアを誘った。リシアはありがたくその申し出を受けることにした。
「じゃあ我々は別行動しますよ」
 気を効かせたのか、トカ村村長ブラークはそう言って離れていった。
「リシアさん、じゃあ、これ」
 仁はリシアに四角い券のようなものを差し出した。
「何ですか?」
「夜店でだけ使えるお金みたいなものだよ」
 薄くなめした皮紙を切って作った金券である。村人全員に10枚ずつ配ってあり、どの夜店も1枚で楽しめるようになっている。
「ありがとうございます。へえ、いいですね、こういうの」
 嬉しそうにリシアはそれを受け取った。

「おにーちゃん、あれなあに?」
 ハンナが指差したそれは、スーパーボールすくい。
 天然ゴムで作った色とりどりのスーパーボールを最中もなかの皮で作ったしゃもじですくい取る遊び。
 最中の皮は小麦粉、米粉、コーンスターチ、重曹を配合し、ペリドが苦心の末作り上げたものだ。本来はあんこを包む予定だったのだが、夜店に応用したのである。
 男の子たちに人気があるようだ。クルトとジムが競うようにして掬っていた。
「あら? ジンさん、あれって何でしょう? 雲みたいな……」
 リシアが指差したのはわたあめ。わたがしともいう、砂糖を熱して溶かし、遠心力で小さな穴から噴き出させることで細い糸状にして作るお菓子である。
「わたあめだよ。食べてみる? ハンナも、エルザも」
 仁はオーナーなので……というわけにもいかず、金券を3枚出し、わたあめを3つ買った。
「うわあ、あまーい!」
「……おいしい」
「ジンさん、これってすっごくおいしいです!」
 3人とも気に入ったようだ。仁自身はわたあめ製造器を作る過程で食べ過ぎ、食傷気味である。
 そんなこととは知らないハンナ。
「おにーちゃんにもひとくちあげる」
 と言って仁にわたあめを差し出した。
「そうかい? じゃあ」
 仁も、その気持ちを無碍にも出来ず、軽く一口食べたのである。
「おにーちゃん、おいしい?」
「ああ、美味しいな」
「えへへ−」
 ハンナはご満悦であった。

 次に来たのは射的だ。銃がないから、小さな弓矢で標的を狙うもの。券1枚で矢が5本もらえる。
 景品は、仁や職人(スミス)が作ったアクセサリーや玩具が主である。1つも落とせなかったときは団扇が貰える、と仁は説明した。
「あ、これ、私やってみます!」
「……私も」
 リシアが飛び付き、なぜかエルザもやると言い出した。仁とハンナは見物である。
「えい」
 リシア1回目、外れ。2回目、当たったが景品落ちず。3回目、当たったが景品落ちず。
「……」
 無言で矢を放つエルザ。1回目、外れ。2回目、外れ。3回目、外れ。
「やあ」
 リシア4回目、外れ。5回目……。
「やった! 落ちました!」
 仁が作った水晶玉のネックレスを取ることが出来たリシアは飛び上がって喜んだ。
「……」
 一方、エルザ。4回目、外れ。5回目も……外れた。
「……」
「残念だったな。でもその団扇、浴衣に似合ってるぞ」
 残念賞として金魚の絵が描かれた団扇を貰ったエルザを仁は慰めた。
「……そう?」
 俯いた顔が少しだけ上がったようだ。

「あー、あれも美味しそうですね!」
 定番のかき氷にはエリックとバーバラがちょうど来たところである。仲良く1つのかき氷を2人で食べている。
「……あれは?」
 エルザが指差したのは焼きそば。小麦粉、卵、重曹で作った麺を使ったソース焼きそばである。
「いい匂い」
 金券1枚差し出してエルザは焼きそばを買った。リシアはといえばペルシカ味のかき氷を食べている。
「ハンナにはあれがいいかな?」
 仁がハンナの手を引いてやって来たのは焼きトウモロコシ。前歯もすっかり生え揃ったので食べられるだろう。
「うん、たべる」
 ハンナに1本はちょっと多そうなので、半分は仁が貰った。
「えへへ、おにーちゃんといっしょ」
 1本のトウモロコシを仁と半分こしたのでハンナはご機嫌である。
 そんな2人をリシアとエルザはちょっと羨ましそうな顔で眺めていた。

「やあジン君、なかなかいいね、この夏祭り、そして夜店というのは」
 カイナ村村長と一緒にやって来たのはサリィ・ミレスハン。業平格子と呼ばれる格子縞の浴衣を上手く着こなしていた。
「先生、楽しんでくれてますか?」
「ああ。さっき食べたわたあめは美味かったな。ちょっと口の周りがべたべたするが」
 そう言って笑うサリィ。村長はただニコニコしながら隣に立っていた。

「ああ、あれならみんなで出来るな」
 仁が指差したのは輪投げ。金券1枚で5つ輪っかを貰い、景品に投げて引っ掛ける遊びだ。
 ここでは景品でなく1等2等3等……と書かれた棒に輪が引っ掛かればその等級に応じた景品が選べる事になっている。
「よーし、みんなでやってみよう」
 4人で順番に投げていく。
 1度目。仁、外れ。エルザ、外れ。リシア、外れ。ハンナ、3等。
「やったー!」
 2度目。仁、外れ。エルザ、外れ。リシア、外れ。ハンナ、3等。
 3度目。仁、外れ。エルザ、4等。リシア、3等。ハンナ、2等。
「やりました!」
「……やった」
「わーい!」
 4回目。仁、外れ。エルザ、外れ。リシア、4等。ハンナ、3等。
 5回目。仁、4等。エルザ、外れ。リシア、外れ。ハンナ、3等。
 仁とエルザは仲良く4等が1本。リシアは3等と4等。ハンナは3等4つと2等1つ。ハンナの才能が際立つ結果となった。
 景品はといえば、4等は団扇。3等は水風船(ゴムの風船の中に水が入っていてヨーヨーみたいに遊ぶあれ)、2等は風鈴であった。
「ハンナちゃん、これあげる」
 エルザは既に団扇を持っていたので、ハンナにそれを上げる事にしたのだ。
「ありがとう、エルザおねーちゃん! じゃあ、これあげる! おにーちゃんも、リシアおねーちゃんも」
 4つ貰った水風船を仁、エルザ、リシアに渡すハンナ。
「えへ、みんな一緒」
 浴衣の帯に団扇を差し、右手に水風船。そしてハンナの左手には風鈴。
 ちりーんと澄んだ音で鳴るそれを見て、リシアは目を細めた。
「いい音色ですね。ふうりん、っていうんですか。涼しげでいいですね……」
 空を見上げれば満天の星。
 カイナ村の夏祭りは盛況であった。

*   *   *

サキ「こっそり参加させて貰ったけど楽しいね!」
ステアリーナ「焼きそばが好みね」
ヴィヴィアン「私はかき氷がいいわあ」
トア「射的も輪投げも全滅だったよ……」
ミーネ「エルザももう少し積極性を持った方が……」
ラインハルト「我が領内でもこういう催しをしたいものだな!」
ベルチェ「わたあめ美味しいです」
 次回から新章突入!

 いつもお読みいただきありがとうございます。

 20140725 13時21分 誤記修正
(誤)作る過程で食べ過ぎ、食傷気味でなる
(正)作る過程で食べ過ぎ、食傷気味である

(誤)5回目。仁、4等。エルザ、外れ。ルシア、外れ
(正)5回目。仁、4等。エルザ、外れ。リシア、外れ

 20140726 07時48分 誤記修正
(誤)浴衣の帯に団扇を刺し
(正)浴衣の帯に団扇を差し
+注意+
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