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マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

15 魔族との出会い篇

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15-10 仕合、そして

「仕合?」
「ルカス! 止めて! ……お止めなさい!」
「いいえ、お嬢様。お嬢様は奴隷になってもいいとさえ仰いました。そのお覚悟に対し、こいつが相応しいかどうか見極めさせてください!」
 仁に対して執拗に仕合を申し込むルカス。
「シオン、彼は自分の立場わかっているのか?」
 顔をしかめた仁が尋ねたところ、シオンは顔を青くして頭を下げた。
「ご……ごめんなさいっ! どうか、どうか、お見捨てにならないでくださいっ!」
 どうやらシオンの方は立場を理解しているようだ。すなわち、仁としては彼等を見捨てても別に困らないと言うことを。
 それでも仁は、カイナ村の安全を確保するためと、過去の世界についての情報を得たいがために、見捨てるという選択をするつもりはなかった。
 障壁結界(バリア)を張って、中から攻撃すれば負ける事は無いだろうが、それでルカスが納得するかというと微妙である。
「お父さま、わたくしが代わって受けましょう」
 考え込んでいた仁に、礼子が申し出た。礼子は老君と相談の上、魔族の身体能力を分析するため、この仕合を受けたのである。
「そう、だな。仕方ない、頼めるか? 手加減するんだぞ?」
 仁もそうするしかないだろうと、礼子に指示を出す。
「シオンさんの護衛である貴方ですから、お父さまの娘であるわたくしがお相手致します」
「ふん、まあいいだろう。護衛同士の戦いというわけだな!」
 ルカスには礼子が自動人形(オートマタ)だとわかってはいるようだ。
 まだ十分に外は明るいので、二堂城前の広場で仕合を行う事になった。
「ルカス、身体はもういいのか?」
「ふん、お嬢様の護衛たるこの身、いついかなる時でも戦えるのさ!」
 その大口に、礼子が突っ込みを入れた。
「そのわりには気を失って診療所に担ぎ込まれたようですけど」
「うっ……」
 シオンも歩くことは出来るくらいに回復してきていたのだが、大事を取って、城専属のトパズ101に抱き上げさせて外へ連れ出した。
「えーと、武器は?」
 仁がルカスに尋ねた。
「いらん! 俺はこの身体が武器だ!」
「わかったよ。もう始めていいのか?」
「来い!」
 ルカスがそう声を上げた瞬間、礼子は地を蹴った。
 瞬時にルカスに肉薄すると、その顎へぴたりと小さな拳を当てて止めた、いわゆる寸止めである。
「わたくしの勝ち、ですね」
「う、う、い、今のは不意打ちだ! 実力を試すんだから正面から来い!」
 冷や汗をかきながら負け惜しみとも取れる言葉を吐くルカス。礼子は飛び下がって距離を取った。
「そうですか。では、貴方から来て下さい」
 礼子はその場に立ち、今度は待ちに徹する構えだ。
「小癪な!」
 今度はルカスが礼子の元へ飛び込んだ。そのまま、目にも止まらないような速度で拳を繰り出す。礼子は易々とそれをはね除ける。
「何っ!」
 更に連打を放つルカス。だが、そのことごとくを礼子は片手で捌いていった。
「くそっ! これでもか!」
 ルカスは今度は足技も繰り出した。前蹴り、回し蹴り、膝蹴り、踵落とし。
 それを礼子は最小限の動きで躱していく。
「すごい……」
 立会人の仁とシオン、それに見物にやってきたバロウとベーレにはその攻防は目にも止まらないような速さで行われていた。
「くそっ! 何で当たらないんだ!」
 おそらく魔力で強化をしているのだろうが、ここは自由魔力素(エーテル)濃度の薄い土地。
 次第に息切れしてくるルカス。このまま続ければおそらく自滅すると思われる。
 だが礼子はそれを良しとしなかった。ルカスの性格を考慮して、実力差を見せつけなければ納得しないだろうと思ったのである。
「今度はこちらから行きます!」
 今まで防御に徹していた礼子は、既にルカスの攻撃パターンを読んでいた。そしてそれを上回る速度でパンチとキックを繰り出したのである。
「う、うわわ!」
 今度は防戦一方になるルカスである。だが礼子は攻撃の手を休めない。それどころか更に速度を上げていく。これでもまだ、礼子の出力は15パーセントである。
「くっ!」
 礼子の拳をルカスの右手が捌いたと思われた、その刹那。礼子はルカスの右手を巻き込むようにして腋に抱え込み、身体ごと捻った。ショウロ皇国騎士団の秘技の一つ、『腋返し』である。
「ぎゃっ!」
 逆関節を極められた肘を庇えば当然上体のバランスが崩れる。そこへ更に体重を掛け、体勢を崩す。そのまま倒れ込むことで相手も倒れざるを得ない。
 その際に肘や肩の関節を折ることも出来るのだが、そこまでやるつもりはないので、礼子は途中で抱え込んでいた腕を放してやった。
 礼子はルカスの身体を突き放す反動で距離を取る。一方のルカスは驚異的なバランス感覚で、地面に伏すことなくこれも飛び下がって距離を取った。
 礼子はルカスとの距離、そして仁たちとの距離を瞬時に検討し、一つの技を試してみることにした。
 一瞬だけ50パーセントの出力を出し、マッハに近い速度でルカスに肉薄する礼子。が、1メートルほど手前で突進を止めた。
 だが。
 音速を僅かに下回る速度での突進は、礼子の前方に圧縮された空気の塊を生み出す。そして突進を止めることで圧縮された空気の塊は礼子の前から離れ、膨張しつつそのままの速度で動き続けることになる。
 巨大なスピーカーが一回だけ振動して超低音を出したと想像すればいい。
 魔法でないため減衰が大きく、近距離でしか使えないが、この空気の塊がルカスを襲った。風魔法『風の一撃(ウインドブロウ)』と同じ、いやそれ以上の効果がある。
「うわあ!」
 至近距離でそれを受けたルカスは20メートルほど吹き飛ばされ、目を回して気絶した。
「……やり過ぎましたか」
「ルカス!」
 心配げなシオンの声が響く。礼子はすぐにルカスのところへ駆け寄り、様子を見た。
「……お父さま!」
 何か気掛かりなことがあったのか、礼子は仁を呼んだ。すぐに仁は駆けつける。
「どうした?」
「……彼に『分析(アナライズ)』をして見てください」
「ん? わかった。『分析(アナライズ)』」
 すると仁の顔色が変わった。
「な、なんだ、これは?」
 体内の魔力の流れが異常だったのである。
「『診察(ディアグノーゼ)』ではわからなかったな……」
 ルカスの身体を医療魔法で診ると人間と変わらないのであるが、分析を行うと明らかに異なる点が見える。それは魔力の流れ。
 普通、魔力は血液と同様に体内を巡っているのだが、ルカスの場合は巡っていなかったのである。というより体内の一点から流れ出て、また集まってくる感じといえばいいか。
「シオン」
「は、はい」
 考えあぐねた仁はシオンを呼んだ。
「ルカスの無礼な言動を許す代わりに、君の身体に『分析(アナライズ)』の魔法を使う事を許可してもらえるかな?」
「え……」
 シオンの顔色が変わる。が、すぐに決心したかのように彼女は頷いた。
「わかりました。……どうぞ」
「感謝する。……『分析(アナライズ)』……うむ、これは……」
 その結果はといえば、シオンは人間と変わらなかったのである。
 これでは、ルカスが人間や魔族に非常に良く似ているが、別種の生き物ということになる。
「あの、ジン様?」
 仁はいろいろ考えるよりも、シオンに尋ねてしまうことにした。
「シオン、ルカスは……何者だい? 君たちとは少し違う種族……だよね?」
 その言を聞いたシオンはもう何度目になるかわからない、青ざめた顔色になった。
「……そんな事までわかってしまうのですか……さすがは魔法工学師マギクラフト・マイスターですね……」
 がっくりと項垂れるシオン。
「はい、ルカスは正確には魔族ではありません。『従者』の一族です」

 シオンの説明によれば、魔族の国(正確には国とは言えないが、わかりやすくするため国という表現をしておく)には『魔族』と『従者』がいるのだという。
 従者は皆、ルカスのように浅黒い肌をしており、髪も一様に焦げ茶色。目は茶色から黒、だそうだ。
「ルカスはまだ5歳なんです」
「なんだって!?」
「従者種族は成長が早いんです。彼が私の専属になったのは1年前。ですのでまだ自制が効きません。どうかそこのところを酌み取ってやって下さい」
「わかったよ。礼子、ルカスの具合は?」
「……気絶しているだけです。すぐに気が付くでしょう」
 そう言った矢先に、ルカスは呻き声を上げて目を見開いた。
「大丈夫ですか?」
 一応確認する礼子。ルカスはゆっくりと起き上がると、礼子の前に両手をついた。
「完敗だ! 俺なんかよりずっと強かった!」
 そして仁に向き直り、謝罪する。
「申し訳ない! 魔法工学師マギクラフト・マイスターの実力を痛感した!」
 更にシオンには、
「お嬢様の仰られた通りでした。魔法工学師マギクラフト・マイスターはきっとお嬢様たちを救ってくれるでしょう」

 二堂城へ戻り、仁はルカスにペルシカジュースを飲ませてやった。
 仕合で消費した魔力が回復し、ルカスは元気を取り戻す。怪我らしい怪我はなく、擦り傷だけだったので、仁が『治療(キュア)』で治してやった。
「さて、疲れたろうから今日はもうこれまでにしよう。ルビー101を付けておくから何かあったら言ってくれ」
 一応ルビー101はゴーレムメイドの中でも攻撃魔法、特に炎系に優れている。同時に麻痺(パラライズ)も使えるので護衛兼監視には適任であった。
 他にも、不可視化(インビジブル)とばりに隠れ、蓬莱島から呼んだランド16と17が傍に待機している。

 実際に仁が動くのは明日以降になるだろう。
 仁は5階自室から転移門(ワープゲート)を使って蓬莱島へと移動した。
 ルカスの正体は?

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