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マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

15 魔族との出会い篇

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15-06 石橋を叩いて

「何事も無かったようだな」
『はい、御主人様(マイロード)。診療所に配備したランド隊も異常なしと言っております』
「で、『知識転写(トランスインフォ)』した魔結晶(マギクリスタル)の解析結果は?」
『それが……』
 珍しく老君が言い淀んだ。
「どうした?」
『読めないのです、というよりも転写されていないと言ってもいいかも知れません』
 老君の説明によると、通常であれば知識などの情報が出てくるはずなのに、それがまったく意味のないデータだったというのである。
『何らかのプロテクトが掛かっているか、もし魔族だとすれば魔族には『知識転写(トランスインフォ)』が効かない可能性もあります』
 仁は考え込んだ。情報を事前に得られなかったのは残念であるが、今日話をすればかなりのことがわかるのではないか、と期待できる。
「朝御飯が済んだら様子を見に行ってこよう」
 移動させられるようなら二堂城へ移したいと仁は考えていた。
 折から様子をうかがいに来たバトラーAにその旨を伝えておく。
「今日でないとしても、いずれそっちへ連れて行くからな」
「わかりました。地下牢ですか?」
「い、いや、それはわからない。昨日の様子だと敵対的には見えなかった。その場合は客間だな」
 もし彼等が魔族だったとしても、即、敵だと決めつけるのは良くない、と仁は思っていた。
 理屈ではなく直感である。何となく、短時間ではあるが昨日の様子からそう思ったのである。
 だが用心に越したことはない。仁は装備を確認した。
「バリア、軽量化、レーザー、パラライザー……」
 仁専用の腕輪に付加した機能をチェックしていく。全て問題なしであった。
「お父さま、エルザさんが見えましたが」
 マーサ邸横に建てた仁の自宅は2階建てである。礼子の声に、仁は窓から外を見た。
 そこにはエルザがいつもの格好で立っていた。すなわち若草色の半袖ワンピースと白い麦藁帽子を被って。
 仁は2階から下り、エルザを出迎えた。
「おはよう」
「おはよう、ジン兄」
「どうした? 何かあったのか?」
「ううん、逆。カイナ村で何かあったみたいだから様子を見に、来たの」
「そうか」
 仁は1階工房にエルザを招き入れて椅子を勧め、自分も腰掛けると、昨日の事を簡単に説明していく。
「……その2人、どうも魔族か、少なくとも関係者だと思うんだ。だから用心に用心を重ねているんだよ」
「ジン兄が慎重になるのはわかる。で、どうする気?」
 その質問に、仁は考えていることを話した。つまり、二堂城に連れてきてそれとなく監視したいということを。
「……うん、それがいいの、かも」
 魔族についてはエルザも出会ったことがあり、その恐ろしさも話に聞いているので、仁の処置に異を唱える事はなかった。
「……でも、本当にその2人が魔族なのか確認した方がいいと、思う」
「ああ。でもそれも二堂城でやりたい。診療所は村の真ん中だ。万が一を考えたら、な」
 エルザは頷いた。
「ん。それなら、私も行く。私が一緒なら、サリィ先生もその2人を連れ出す許可をくれる、と思う」
「ああ、そうか。でも十分注意しろよ?」
「うん、ちゃんと持ってる」
 心配そうな仁に、エルザはバリアや軽量化魔法を発生させる指輪を見せた。
「エドガー、お前も注意するんだぞ?」
「はい、ジン様」
 こうして仁は、エルザを伴ってミレスハン診療所へと向かったのである。
 そんな彼等の足元を猫が横切っていった。貯蔵した小麦を狙うネズミを追いかけていったらしい。さっそく役立っているようだ。
「あ、おにーちゃん、エルザおねーちゃん」
 遊びに出ていたハンナが2人を見つけて手を振りながら駆け寄ってきた。
 おはよう、とお互いに挨拶を交わす、仁はハンナの足元にゴーレム猫のハクが纏わり付いているのを見た。
 仁の思惑通り、ハンナは気に入ってくれているようだ。同時に、ゴーレム猫による警護も出来ていることになる。
「どこへ行くの?」
「ああ、村長さんの所さ。ごめん、ちょっと難しい話があるから、ハンナ、あとでな」
 万が一を考えてさりげなくハンナに付いて来ちゃいけない、と匂わせれば、ハンナは素直に頷いた。
「うん、わかった、じゃ、あとでね! いこ、ハク!」
 足元にうずくまったハクに声を掛け、家へと駆け出すハンナ。ハクはにゃあ、と一声鳴いてそのあとを付いて駆けて行った。
 それを見送った仁とエルザはミレスハン診療所に着いた。
「今、誰がいる?」
 仁の呼びかけに応じ、『不可視化(インビジブル)』を解除して姿を現したのはランド1。
「ご主人様、私です」
「ランド1か。様子はどうだ?」
「はい、平穏無事ですね。あの2人はおとなしくしています」
 それを聞いて安心した仁は、診療所のドアをノックした。ナース・ガンマがすぐに出た。
「ご主人様、おはようございます。変わりはありませんでした」
 その『変わりはない』という短い言葉には2つの意味が込められている。すなわち、謎の2人の容態が変わらなかったことと、何ごとも起こらなかったということと。
「わかった。入っていいか?」
「はい、ご主人様、どうぞお入り下さい」
「……」
 自分そっくりの自動人形(オートマタ)が仁を『ご主人様』と呼んでいるのを見て、なんだか恥ずかしくなったエルザであった。

「おお、ジン君、来たのか」
「ええ、先生。2人の容態はどうですか? 今日はエルザも連れてきました」
「おはようございます」
「おお、おはよう、エルザさん。君が来てくれたなら心強いな。診てやってくれるか?」
 今や、エルザは治癒魔法・診察魔法を最上級まで使いこなせるまでになっていたので、サリィからの信頼も篤い。
 まずはルカスとシオンのところへ。今まで見かけなかったエルザを見て少しびくっとする2人だが、サリィがそんな彼等を宥めた。
「大丈夫。治癒に掛けては私以上のお嬢さんだから」
「……エルザ。よろしく」
「シオン、です」
「ルカスだ」
 お互いに名乗りあったあと、エルザは診察するから、と断りを入れて『診察(ディアグノーゼ)』を使用した。
 その結果を知ったエルザの顔が一瞬強ばったように見えたが、すぐに元に戻る。
「……少し体力が無くなっている他は健康、です」
「そうか。私の診察結果も同じだ。これで安心だね」
 ほっとした顔のサリィ。
「先生、それでですね、彼女たちを二堂城で引き取りたいんですが。ここに入院させているのも大変でしょうし」
 別室で、ここぞと仁が提案する。それを聞いたサリィはさすがに渋い顔をした。
「うーん、昨日の今日だからなあ……エルザさんが一緒なら、とは思うが。本人の意向も聞いてみないと何ともいえんよ」
 そう言われたので仁は、礼子を通じて老君に検討をさせた。そしてすぐに返事が返ってくる。
「先生、あのお二人は、何か目的があってやって来たのだと思われます。それとなく聞いてみることをお薦めします」
 礼子はサリィにそんな提案を持ちかけた。
「うむ、そうだな」
 そこでもう一度病室へ。
「君たちもかなり回復したようだ。おそらく空腹からきたと思われる体力低下以外はほぼ健康と言っていい」
 そう告げるサリィ。それを聞いたシオンとルカスはほっとしたような顔をした。
「それでだね、君たちは何か目的があってやって来たのだろうか? もしそうなら、ここにいるジン君は、この村の領主だ。国のお偉いさんにも顔が利く。相談して見るといい」
 更にそんな話を聞かせるサリィ。仁とエルザは、その話を聞いた2人の表情が微妙に緊張したのを見た。
「あ、あう」
 何か言いたいことがあるようで、言おうとしては口籠もるシオン。
「何か話しづらいことかな? もし君たちが良かったら、俺の城へ来ないか? 余人を交えず話を聞いて上げられると思うけど」
 その言葉を聞いたシオンは無言になり、俯いてじっと何かを考えていたようだが、顔を上げて仁を見つめると、ゆっくりと頷いた。
「あ、あの……そ、それでは、お、おねがい、し、します……」
「お嬢様が行くと仰るなら、俺も付いていきます!」
 シオンは途切れ途切れに、ルカスははっきりと。
「よし、わかった。……先生、いいですね?」
 この2人には何か深い事情がありそうだ、と感じたサリィは渋々ながらも頷いた。
「いいだろう。だが、城までは私も同行しよう」
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