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マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

15 魔族との出会い篇

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15-04 仁、カイナ村へ

 サテライト001失敗の翌日、つまり8月4日。仁はステアリーナ邸にお邪魔していた。
「昨日は大変だったみたいね」
「うん、まあ。まだまだ力不足だって実感したよ」
「ふふ、ジン君が力不足だったら、この世界の誰も大きな顔できないわね」
 そんな他愛もない話をしばらくしたあと。
「ごちそうさま」
 お茶を飲み終えた仁はステアリーナ邸を辞することにした。
 この日、仁は新しい魔導機(マギマシン)を始動させる予定だったのである。
御主人様(マイロード)、『モグラ』発進準備整っております』
 研究所に戻るとさっそく老君からの報告が行われる。
 そう、8月1日に、イナド鉱山が正式に仁の租借地に組み込まれたのである。もう何をしようと仁を止める者はいない。
『引き渡し日時前に守備兵を引き上げるのはどうかと思いますね』とはクライン王国に対する老君の感想であった。
「よし、探査開始だ。くれぐれも慎重にな」
『はい。プラズマソード装備のランド隊20体も常駐させておきます』
 イナド鉱山地下で見かけた謎の装置。そして巨大百足(ギガントピーダー)の棲息地など、どうしても調べておきたいことが多いのである。
 現場に先行させたランド隊をポジションマーカーに、『モグラ』が転送されていった。
 完成したモグラは直径2メートル、長さ3メートルの円筒状。現代地球でトンネル掘りなどに使われるシールドマシンに似ている。
 掘削方法は『掘削(ディグ)』の魔導具と、ハイパーアダマンタイト製のチップを使った掘削の2通り。
 掘った土砂は転送機で地上へと排出されることになる。
 音響探査(ソナー)魔力探知装置(マギディテクター)を持ち、地中の異物を探査しながら掘り進む。
 掘った穴には『強靱化(タフン)』の魔法を掛け、落盤を防ぐ。
 こういった機能を持つのが『モグラ』である。
 午前11時、仁が見守る中、モグラが転送されていった。

「お父さま、エルザさんが呼んでいます。中へ」
「ん、そうか」
 礼子が仁を促し、研究所へと2人は入った。向かうは工房。
「あ、ジン兄、外装も全部、終了した」
 妹分であり、一番弟子であるエルザが仁を出迎えた。
 工房内の大きな作業台の上にあったのは10体の猫型ゴーレム。実家から帰ってきたエルザに、植毛処理を任せてみたのである。
 うち9体には艶のある色とりどりの毛並みが付けられていた。赤、橙、黄、緑、青、藍、紫、の虹の七色と白、黒。
「おお、きれいだな」
 最後の1体は軽銀の持つ銀灰色のまま。試作機である。
「セキ、トウ、オウ、リョク、セイ、アイ、ユカリ、ハク、コクと名付けた」
 エルザが言う。何と言うか、名前付けのセンスまで仁に倣っているようだ。
「で、こいつは?」
 植毛処理されていない試作機を指差して仁が尋ねた。
「その子はまだ。ジン兄が付けてやって」
「うーん、それじゃあ……タマ」
「ん、タマ、ね」
 植毛された9体はタマに準拠した作りである。違いは植毛のあるなしのみ。
 タマは蓬莱島に留め置くが、9体はカイナ村に送って放し飼いとする。
 そもそも、元はといえばハンナに打診された結果作り始めたゴーレム猫である。当初はハンナ用に1台作ればいいかと思ったのだが、別件で思い直したのだ。
「ジン兄、この子たちをたくさん作った訳って、何?」
 エルザはその理由が気になっているようである。
「ああ、この前ラインハルトに、領主の心得として、依怙贔屓えこひいきはいけない、って言われたんだ」
 要はハンナばかり優遇していると他の子供たちが嫉妬する、ということである。
「マーサさんの家に世話になっていた時ならともかく、今は仮とはいえ領主だからなあ」
「……そうだったの。ライ兄らしい」
「で、村中にゴーレム猫を放そうかと」
 動きは猫であるが、知能はずっと高く設定してある。本体は軽銀であるし、爪にはアダマンタイトを使っている。
 岩狼ロックウルフ森熊ウッドベアーが出ても問題なく防衛してくれるだろう。もちろん緊急時には老君へ知らせるよう設定してある。
 普段はただの人懐こい猫であるが。
「こういうところから初めて、生き物を飼ったりして、生命の大切さを覚えてくれるといいんだけどな」
 小動物を飼い、可愛がるだけではなく、生命の尊さを覚えさせるというのは仁も孤児院時代、院長先生に教わったものだ。
 孤児院の庭の片隅には、今でも多分、仁が作った金魚のお墓があるはずだ。

「よし、『起動』」
 10匹のゴーレム猫が一斉に動き出し、にゃあんと鳴いた。さっそく仁はそれぞれを命名する。
 そして、
「タマはここに残れ。他は付いて来い」
 と命じた。その言葉に従い、タマはエルザの前へ歩いて行った。エルザがタマの頭を撫でると、タマは作業台から音もなく飛び降り、エルザの脚に身体を擦りつけた。
 残りの9匹は1列になって仁に付いていった。最後尾は礼子である。
 転移門(ワープゲート)でしんかいを経由し、カイナ村に移動する仁。今回の出口は二堂城前のシェルターだ。
「あ、ジン様、お帰りなさいませ」
 仁を見つけ、バロウが駆け寄ってきた。その様子がちょっといつもと違うのを見て取った仁。
「ただいま。何だ、何かあったのか?」
「は、はい。あの、また、迷子みたいなんです」
「迷子?」
「はい。サリィ先生の診療所にいます。僕も又聞きなので、詳しくは村長さんから聞いてみてください」
「わかった」
 また何か面倒事の予感がした仁は、慌てて出て来たベーレにも、ゴーレム猫たちを紹介した。
「わあ、かわいいですね!」
「猫、っていうんですか!」
「ああ。村の中で放し飼いにするから、時々可愛がってやってくれ」
 ゴーレムなので食事も水もいらないから、と付け加えると、2人は目を丸くしていた。小動物のゴーレムを見たのは初めてなのだ。
 まあ、世間にも小動物のゴーレムなどというものは今まで無かったので無理は無い。
「とても作り物とは思えません……」
 そう呟くベーレの足元に、黄色い猫がやってきてうずくまった。こわごわと手を伸ばし、その身体を撫でる。絹よりもしなやかで鋼よりも強い地底蜘蛛(グランドスパイダー)の糸からできた体毛だ。
「すごくいい手触りです……」
『オウ』はそのままにして、仁は歩き出した。
「じゃあ、ちょっと見てくる」
 その後をぞろぞろと8匹のゴーレム猫が付いていった。
「あっ、ジンにーちゃんだ!」
「ねえねえ、それ、なに?」
 目ざとく仁を見つけた子供たちが寄ってきた。
「これは猫のゴーレムだ。村に放すから、可愛がってやってくれ」
「ねこー?」
 子供たちの1人、パティがさっと抱き上げたのは青い『セイ』。パティの腕の中で丸まった。
「パティ、だくのうまいなー」
「うん、ときどきヘンリーをだいてるもん」
 6月27日に生まれたパティの弟がヘンリーである。1ヵ月ではまだ首もすわらないだろうに、お姉ちゃんであるパティはなんとかかんとか子守りもしているらしい。
 そんなパティの頭を撫でると、仁は歩みを再開した。礼子と、7匹のゴーレム猫がそれに続く。
 途中、『セキ』と『トウ』が、ネズミらしき小動物を見つけたらしく追いかけていった。5匹に減ったゴーレム猫を引き連れ、仁はマーサ邸に到着した。
「あっ、おにーちゃん、お帰りなさい!」
 仁を見つけたハンナが駆け寄ってきて、後ろに続くゴーレム猫を見てびっくりしていた。
「あ、これ、ねこ? おにーちゃん、つくってくれたんだ!」
 レナード王国で猫の置物を見て、こういうのつくれるか、とハンナに尋ねられたのが始まりだった。
「ああ、村に放すから可愛がってやってくれよ」
 仁がそう言うと、白いゴーレム猫『ハク』がハンナに駆け寄り、その肩に乗った。
「わあ」
 ゴーレム猫の重さは実際の猫とほとんど同じにしてある。
 ハンナの肩に乗ったハクはハンナに顔を擦りつけていた。
「わあ、ふわふわ」
 はしゃぐハンナ。そんなハンナに仁は尋ねてみた。
「ハンナ、サリィ先生のところに迷子がいるんだって?」
「え? うん、そうなの。行ってみてくれる?」
「そのつもりだよ」
 仁はハンナにそう言うと、村長宅へ向かった。4匹のゴーレム猫と礼子が続く。
 途中、『リョク』と『ユカリ』が出会った子供のところへ駆けて行ったので、村長宅に着いたときは『アイ』と『コク』の2匹だけになっていた。
「こんにちは」
 ドアをノックするとすぐにサリィが出てくる。
「おお、君か。その顔は迷子の話を聞いてきたな? ちょうどいい。中に入ってくれ」
 その言葉に従い、仁はミレスハン診療所へと足を踏み入れた。ゴーレム猫はそのままどこかへと駆けて行ったのである。
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