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マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

15 魔族との出会い篇

489/1503

15-02 仁のために

御主人様(マイロード)、至急司令室へお越しください』
 ステアリーナ邸で寛いでいた仁の耳に老君の声が響いてきた。
 ステアリーナへのごちそうさまの言葉もそこそこに、仁は研究所地下の司令室へと急いだ。礼子も無言でそれに続く。
「どうした、何かあったか?」
『予断を許さない状況になりました』
「何!?」
『サテライト001、落下中です』
 重力魔法を切り慣性を回復させ、静止軌道に乗せたはずであったが、数十分も経つと軌道の維持が難しくなり、ついに落下を始めたという。
「何が拙かったんだろう?」
『落下するということは速度ですね。僅か15分程度ですが、サテライト001から得られたデータによりますと、静止しておりませんね』
「何?」
『この星の自転の方が速かったのです。サテライト001は取り残される形でした』
「うーん……」
 仁は考え込んだ。静止衛星は地表に対して相対的に静止する衛星だ。慣性を回復すると、元々持っていた固有速度も回復するのは予備実験で確認した。
 打ち上げてから軌道に乗せるまでの時間を2時間としたら速度の方向は30度程度ずれるが、それくらいなら補正できる魔導重力エンジンを積んだはずだ。
 だが。
「あーっ、そうか!」
 仁は勘違いしていたことに気が付く。地表にあったときの速度では到底衛星にはなれないのだ。
 秒速8キロメートルくらいないと衛星軌道を維持できないのである。
 急いで仁は老君に指示する。
「老君、魔導重力エンジンを使って加速だ! 1Gで15分も加速すれば、秒速8キロくらいになるだろう」
『いえ、それが』
「どうした?」
『サテライト001、回転していまして』
「何?」
 姿勢制御しきれないほどの速度で回転をし始めたというのである。
「あー……ジャイロとか必要だったのかな……」
 仁としても人工衛星の仕組みに詳しいわけではない。失敗するのも無理はないのだが。
「……悔しいな」
 先程までとは一転、顔を顰めて悔しげに呻く仁。それを見た礼子は老君に進言する。
「老君、ファルコンとかで捕捉できないのですか?」
 それに答えたのは老君ではなくて仁。
「ああ礼子、それは無理だ。宇宙には空気がないから、魔法型噴流推進機関(マギジェットエンジン)が働かないんだ」
「そうですか……」
 落胆した仁の顔を見て、礼子も意気消沈してしまう。
 そんな2人に救いの手を差し伸べたのは老君だった。
御主人様(マイロード)、一つだけ、やってみる価値のある方法を思いつきました』
「何?」
 時間が無いので老君は手短に説明していく。
『大気圏突入可能な航空機を転送し、サテライト001を回収させるんです』
「だが、落下速度は相当なものだぞ? うまく捕まえられるか?」
『そこは賭けになるかと』
 仁は悩んだ。ゴーレム操縦の航空機なら、宇宙空間に出ても問題ない。だが大気圏突入したらどうなるか、仁としても予想はつかなかった。
 サテライト001を上手く捕捉出来ればいいが、出来なかったら、最悪その航空機も失うことになる。操縦するゴーレムごと。
「お父さま、わたくしがペガサス1で出ます」
「何!?」
「自分でいうのもおこがましいですが、反応速度が一番速いのはわたくしです。成功させる可能性が一番高い方法を取るならわたくしが出るべきだと思います」
「しかし……」
御主人様(マイロード)、迷っている時間はありません。1秒ごとに秒速9.8メートルずつ加速しているのです』
「わかった」
 仁は心を決めた。
「礼子、行く必要はない。お前をそんな危険に遭わせるつもりはないからな」
「え……」
「今回の失敗は俺のミスだ。一気に欲張りすぎた。まず魔導重力エンジンを備えた乗り物を作っていろいろデータを蓄えたあと、普通の人工衛星を打ち上げ、更にデータを集めてから静止衛星に取りかかるべきだったんだ。慢心していた俺が悪いんだよ」
「お父さま……」
 仁は寂しげな笑みを浮かべ、天井を見つめた。研究所の壁を通して、落下しつつあるサテライト001を見つめるかのように。

*   *   *

 意気消沈した仁は研究所を出て行った。ステアリーナ邸に行ったようだ。
 沈んだ仁の様子を見た老君は、サテライト001の回収方法が他にないか検討する。
『他に方法は無いものでしょうか……』
 仁と比べて同等以下の発想力しかないとはいえ、思考速度と、同時に行える処理能力は仁よりも遙かに勝る老君である。
 およそ3分ほどの時間を費やし、結論を出した。他の方法はない。先程の案にわずかに修正を加えられただけである。

 現在のサテライト001の高度は20000キロメートルを切り、速度は秒速18キロ近く、時々刻々と速度を増している。まともに捕捉することは既に不可能だ。
 落下コースに巨大な転移門(ワープゲート)でも仕掛けておけば回収できるかも知れないが、急に用意できるものでもない。
 まずは速度を落とさない限り、どうすることも出来ないだろう。
『僅かに残ったエーテノールを使い、慣性0に出来るのは約3秒。その間に転送機を備えたファルコンを転送し、サテライト001を地上へ転送する必要がありますね』
 慣性0にすれば瞬時にサテライト001は停止する。そこで座標特定し、ファルコンを近距離まで送り込む。そして転送機を使いサテライト001を転送。ファルコンは障壁結界(バリア)を展開しつつ大気圏突入する。
 これが老君の出した結論である。サテライト001は元々転送用のマーカー役をさせる予定だったのでポジション特定は容易だ。
 そして転送機や転移門(ワープゲート)は、原理はわからないものの、送り出し時の固有速度がどうであれ、受け入れ時には0(相対速度で)になっている。これを利用しようというのだ。
 幸い、ステアリーナ邸を転送した時に使った、転送機付きファルコン1が待機状態である。
 老君は魔素通信機(マナカム)で礼子に相談した。やはり礼子の反応速度は必要である。
「老君、やりましょう。お父さまのために」
 すぐさま礼子は承知し、仁に気取られないようそっとステアリーナ邸から外に出る。そして礼子は研究所外に駐機してあるファルコン1に乗り込んだ。
 仁はステアリーナ邸で失敗の報告をしていたため気が付いていない。

『急ぎましょう、成層圏に突入する前に』
 礼子はファルコン1の転送機をスタンバイ状態にし、老君は研究所外部に設けた転送機の準備を進めていく。
『ファルコン1準備完了』
 そして老君はサテライト001の慣性をほぼ0へと移行させた。
 僅かな抵抗で瞬時に停止するサテライト001。老君は即座にファルコン1を転送する。
 1.4秒のロスタイムでファルコン1は宇宙空間に転送された。礼子はすぐさま転送機をサテライト001に向ける。所用時間僅か0.7秒。そして礼子が転送機のスイッチを入れ、転送が開始されるまで0.8秒。
 計2.9秒でサテライト001は転送された。
 その一瞬後、研究所前にサテライト001が出現する。転送と同時に慣性は回復しており、危険は無い。
『サテライト001はこれでいいでしょう。あとは礼子さんです』

 高度約1万3000キロメートルからファルコン1は落下し始めた。
 搭載された魔法型噴流推進機関(マギジェットエンジン)はまだ働かない。
 礼子はファルコン1の障壁結界(バリア)を展開した。
 おおよそ100キロメートルで大気圏突入となる。それまであと27分。
『自分自身を転移させることができれば一気に解決する問題なんですがね……』
 以前、『傀儡くぐつ』のアルシェルがくれた転移魔法のヒントはまだ解析しきれていなかった。
『礼子さん、ご無事で』
 その時、仁が司令室に駆け込んできた。
「老君! 礼子はどこだ!」
御主人様(マイロード)、礼子さんは……』
「『お父さま、わたくしは今、ファルコン1の中です』」
 魔素通信機(マナカム)から礼子の声が響いた。
「礼子! 俺は止めろと言ったのに!」
「『ごめんなさい、お父さま。でもわたくしは沈んだお父さまのお顔を見ていたくなかったのです。老君も同じです。それで2人で相談の上、この作戦を遂行しました』」
「礼子……」
 心配そうな仁に老君も追加で説明をする。
御主人様(マイロード)、ファルコン1には脱出用の転移門(ワープゲート)も備えてありますから、万が一の時には礼子さんはそれで戻って来られますよ』
「……だからといって心配しないで済むわけじゃない。礼子、無事戻って来いよ。戻って来たら叱ってやるからな」
「『はい、お父さま』」
 そして25分、26分、27分……ついにファルコン1は大気圏に突入した。
 慣性が回復すると、元々の固有速度も回復します。つまり地上に置いてあった速度=0ですね。
 惑星が公転する軌道は、短時間では直線に近似できますので等速直線運動と見なせます。
 惑星自転の影響は時間で決まります。2時間なら30度ずれますね。
 で、その速度では静止衛星になる速度とは言えません。なので慣性が回復すると重力に引かれて落下してきます。

 お読みいただきありがとうございます。

 20160104 修正
(誤)以前、『傀儡くぐつ』のアルシェルがくれた転位魔法のヒントは
(正)以前、『傀儡くぐつ』のアルシェルがくれた転移魔法のヒントは
+注意+
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