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マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

14 家族旅行篇

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14-37 エゲレア王国と熱気球

 裏技で加速したので、260キロの距離も楽々踏破し、午後になる前にエゲレア王国首都、アスントが見えてきた。
 因みに、セルロア王国の上空を横切ったわけであるが、航空機というものが今まで無かった関係上、領空侵犯という考え方もない。
 依って今のところ、100メートル以上の高度で通過する限りにおいては何の問題も無いというわけだ。
 もっとも、高度10メートルくらいの低空だと問題になるとは思われる。
「ああ、早かったねえ。馬車だったらどれくらい掛かるだろう? 障害物のない空というのがこれほど快適だとはね!」
 アーネスト王子はずっとハイテンションのままだった。
 一方、礼子と同乗していたライラ・ソリュースは。
「……」
「…………」
 最初から最後まで無言だったという。

「おお! 来ましたぞ、陛下!」
「予想よりずっと早いではないか!」
「風の具合が良かったのでは?」
 アスント王城では、ハロルド・ルアン・オートクレース=エゲレア国王、キャサリン・リイナ・スファレ王妃。そして宰相ボイド・ノルス・ガルエリ侯爵以下、文武百官が勢揃いして熱気球を出迎えていた。
「あー……なんかすごいなあ。父上、ジンが来るって張り切ったなあ」
 上空からその様子を見たアーネスト王子は半ば呆れ、半ば嬉しそうに呟いた。
 仁としては大袈裟な式典は正直勘弁してもらいたいと思うのだが、ここまで来て引き返す事も出来ない。
 用意していた名誉魔法工作士オノラリ・マギクラフトマンの半コートを羽織ることにした。

 そしてちょうど正午、仁、礼子、アーネスト王子、ロッテ、ライラを乗せた熱気球はアスント王城外宮に着陸したのである。
「ようこそ魔法工学師マギクラフト・マイスター、ジン・ニドー卿」
 宰相が進み出、仁と握手を交わす。
「アーネスト、無事の帰還、誠に喜ばしい」
「はい父上、ただ今帰りました」
 王子も父王と言葉を交わした。
「ジン・ニドー卿、早速ではあるが、文武百官が揃っているので、この場にてエゲレア王国魔法工学師マギクラフト・マイスターとしての正式任命式を執り行いたい」
 宰相からの提案。ぐずぐずしていたら仁の事だからとんぼ返りでこの場を立ち去るのではないかという判断も入っている。
「は、はあ」
「よろしい。では」
 宰相の合図で、既に用意されていたらしいロングコートを持った女性騎士が近づいて来た。良く良く見ればライラの姉、アイリ・ソリュースである。
 先日、近衛魔導騎士隊隊員から近衛魔導騎士隊第三隊隊長に昇格したのである。
「我が国初の魔法工学師マギクラフト・マイスターなのでこのロングコートも唯一無二である。同時に名誉士爵の証でもある」
 ショウロ皇国、クライン王国が仁を名誉士爵としたことを踏まえ、エゲレア王国でも同じ位を与えることにしたようだ。
 アイリによって着せかけられたロングコートは仁にぴったりの裾丈である。色は白地にアンティークゴールドの飾り線が入っている。
「ジン・ニドー卿、汝が我が国にもたらした恩恵を讃えると共にその知恵と技術を賞し、あらためてここに魔法工学師マギクラフト・マイスターの称号、そして名誉士爵の位を与えるものである」
 エゲレア国王が短く述べた。
 はっきり言って異例の超速式典である。
 これは先日、魔素通話機(マナフォン)でアーネスト王子が仁の性格を考慮し、短時間に終わらさないと不興を買う、と忠告した事による。
 一気呵成に畳み込むように式典を行うことで断る隙を与えない、ということにもなった。
 派手なことが苦手な仁は少し困惑気味だが、礼子は仁が認められて嬉しいので終始にこやかに見つめていたのである。

*   *   *

 式典が終わると、居並ぶ文武百官は潮が引くように姿を消し、残ったのはエゲレア王、アーネスト王子、ボイド宰相、ケリヒドーレ魔法相、ジュードル防衛相、アイリ、ライラ、そして数名の近衛騎士。
「ジン殿、いやジン・ニドー卿、昼食はいかがかな?」
「はい、空の上で携帯食を食べて済ませました」
「父上、下界を見下ろしながらの食事は格別でしたよ」
「そ、そうか。では早速、用件に入って貰えるかな?」
 宰相の言葉を受け、仁はまず熱気球の譲渡にかかる。
 構造の説明、各部の解説、操作法のレクチャー。今回の気嚢きのうは、クライン王国産の竜頭ウナギ(ドラゴニックイール)の革。これは両国の友好・通商を考えての設定であった。
 そしてボイド宰相、ケリヒドーレ魔法相、ジュードル防衛相、アイリらを乗せて2つの気球は空へ。
 エゲレア国王も乗ってみたそうな顔をしていたが、最後まで口にすることはなかった。

「いやいや、これは快適なものですな!」
「まったくもって。統一党(ユニファイラー)が空から攻撃してきた時、まったく手も足も出ませんでしたが、今ならその優位性が良くわかりますな」
統一党(ユニファイラー)が使っていたものよりも性能が向上しているとのこと。これは感謝してもしきれませんぞ」
 宰相、防衛相、魔法相はそれぞれの感想を述べる。そしてライラの姉、アイリはといえば。
「……」
 真っ青な顔で蹲っている。どうやら妹と違い、高所恐怖症だったようだ。

*   *   *

「ジン・ニドー卿、改めて感謝する!」
 執務室に場を移し、宰相は仁に頭を下げた。そして頭を上げたときは雰囲気を一変させていた。
「さて、もう一つの話に移ってもらいたい」
 言わずと知れた魔族の件である。
 仁は昨日クライン王国でしたものと同じ事を説明した。
「……ふむ、真の意図は不明だが、少なくとも友好的ではないな」
「幸いと言いますか、我が国は魔族の領土とは距離が空いております。危険度は少ないですな」
 宰相と魔法相がそれぞれの意見を述べた。が、防衛相は浮かぬ顔で言った。
「いやケリヒドーレ殿、ジン殿の話だとセルロア王国に魔族が入り込んでいる公算が高い。とすれば、国境を接している我が国も危険ですぞ」
「ふむなるほど、魔族に唆されたセルロアが攻めてくる可能性があるというか」
「宰相の仰る通りです。統一党(ユニファイラー)が魔族に変わっただけ、と考えておくのがよろしいかと」
「やれやれ、息つく間もないですね。財政が厳しいですよ」
 ブラオロート財務相が苦しげな声を漏らした。
「アーネスト殿下の婚約が整ったわけですから、クライン王国が危機に陥ったなら救援の兵を出す必要もあるでしょうな」
 等々、さまざまな意見が出されていった。
 仁は技術的な観点からの助言をしていく。
「しかし重力魔法は厄介ですな」
「ええ、ただ広範囲には展開出来ないようなので、全方向からの攻撃をしていくことで対抗できるのではと思われます」
「なるほど。それでは……」
 夕方まで続いた対魔族会議はこれ1度で終わりではなく、今後も引き続き行っていくことを決め、その日はお開きとなった。

「そう言えば、クズマ伯爵とビーナはどうしてるかな……」
 仁はアスントで1泊していくことになった。
 貴賓室を、という話も出たのだが、そういう息の詰まるような部屋は辞退し、以前ゴーレム園遊会(パーティー)で泊まった宿舎にしてもらったのである。
「えーと、なんでももうすぐご結婚されるというお話ですよ?」
 そして付けてくれた侍女はライラ。
 ゴーレム園遊会(パーティー)当時のままで、という粋? なはからいである。
「へえ、そうなのか」
「ええ。伯爵様は6月まではこちらでお仕事なさってまして、それまでビーナさんは花嫁修業なさってらしたようです」
 王城内のおしゃべり雀たちは噂好き、クズマ伯爵の婚姻も格好のネタになっていたらしい。
(ラインハルトあたりに連絡行きそうだな……)
 クズマ伯爵とビーナはブルーランドの郊外に転移門(ワープゲート)があるのを知っているから、そこを使って訪問しても驚くことはないだろう。
「あの、ジン様?」
「あ、ああ、悪い。ちょっと考え事してた。何だい?」
「えっとですね、私みたいな者をあの熱気球に乗せていただいてありがとうございました!」
 ライラは深々と頭を下げた。
「え? ああ、気にしなくていいよ。ライラは王子殿下の護衛兼侍女なんだろう? 当然の権利さ。まあ殿下と別々のゴンドラに乗せたのは済まなかったな」
「い、いえ、そんなことは。初めての経験でしたし、眺めが素敵でした!」
「はは、それは何より」
 こうしたどうということもない会話を仁が楽しんでいた矢先のこと。
「お父さま、申し訳ないのですが」
 礼子が口を挟んできた。
「どうした?」
 礼子の雰囲気を察し、仁はライラに聞かれたくない話だと悟り、寝室へ移動する。
「サテライト001の準備が整った、と連絡が入りました」
「何だって!」
 聞こえないよう小さな声で話をしているし、内容を聞いても何のことだかわからないだろう。
「そうか、いよいよ新時代が始まるな。よし、明日朝一番で帰るぞ!」
「はい、手配しておきます」
「楽しみだ」
 既に仁の想いは蓬莱島へ飛んでいる。
 それこそが未来を切り開く魔法工学師マギクラフト・マイスター、仁の真骨頂である。

 短かった穏やかな日々は終わりを告げ、また忙しい毎日が訪れる予感を仁は覚えていた。
 お読みいただきありがとうございます。
 20151013 修正
(誤)名誉魔法工作士オーナリー・マギクラフトマン
(正)名誉魔法工作士オノラリ・マギクラフトマン
+注意+
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