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マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

14 家族旅行篇

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14-30 救出劇

 事故現場で仁は礼子達に指示を出した。
「礼子とノワールで崩れた足場をどかすんだ。エドガーとアアルは怪我人を運び出してくれ。ネオンとセレネはエルザの助手を。エルザ、怪我人を頼む」
「うん、わかった」
「ラインハルト、ステアリーナ。我々は工学魔法『接合(ジョイント)』で足場が崩れないよう、一時的にでも固定化するんだ」
「了解だ!」
「わかったわ」
「サキは足場、ヴィヴィアンは船の全体を注意していて欲しい。崩れそうな箇所に気付いたらすぐに教えてくれ」
「ジン、まかせておいてくれ」
「うん、やってみるわ」
 仁は遠い方から。ラインハルトは近い方から。そしてステアリーナは2人の見落としがないか確認しつつ、やりやすい箇所を『接合(ジョイント)』で仮固定していく。
接合(ジョイント)』は、元々、木材のように不均一な素材を一体化する魔法であるから、こういう使い方が出来るのだ。
「でも、まさか工学魔法をこう使うとはね。ジンの発想には頭が下がるよ!」
 崩れそうな足場を固定しながら、ラインハルトが感心した様に呟いた。
「ほんとね。さすが魔法工学師マギクラフト・マイスターだわ!」
 うっかり口走ってしまったステアリーナをラインハルトが咎めた。
「ステアリーナ、それは内緒だ……」
「あ」
 幸いにもそのセリフはエカルトには聞こえなかったようだった。

 一方、礼子とノワールは、そのパワーを遺憾なく発揮して、崩れた足場を、まるで重さを感じさせずに取りのけていった。
「エルザ様! 治療お願いします!」
「ん。……『浄化(クリーンアップ)』『殺菌(ステリリゼイション)』『快復(ハイルング)』」
 取り除かれた足場の下から怪我人を運び出すエドガーとアアル。エルザは傷口をきれいにし、消毒してから治癒魔法を掛ける。
 傷が癒えた患者は、ネオンとセレネが安全な場所に運んで寝かせる。
 そうやって、埋もれた10人のうち8人までは助け出すことが出来た。

「あとはこの下か」
 船の構造材と足場用の木材が一際高く積み重なっている場所。
「礼子、たのむぞ」
「ノワール、やれ」
 足場に使っている木材はせいぜいが一本20キロ、だが船の構造材は100キロを超える。物によっては200キロ近い物もある。
 普通のゴーレムでは力不足な場面もあるだろう。
 だが、蓬莱島素材で強化された黒騎士(シュバルツリッター)、ノワールは十二分な力を備えている。
 加えて、『歩く理不尽』礼子がいる。100キロの構造材を片手で持ち上げ、それこそ木切れを扱うように片付けていった。
「あ、あなた方はいったい……」
 目の当たりにしたエカルトは呆然としている。
 たちまちにして積み重なった船の構造材と足場の木材が片付けられていく。
「エルザ様! 息がありません!」
 エドガーが助け出してきた一人は既に息をしていなかった。
「……『診察(ディアグノーゼ)』……大丈夫。まだ心臓は動いている。危ないけど。……『全快(フェリーゲネーゼン)』」
 最強の治癒魔法を使うエルザ。その身体が傾ぐ。魔力切れだ。
「エルザ!」
 現場の補強を一通り終えた仁が駆けつけてきた。
「……礼子、老君に連絡だ。ペルシカジュースと治療薬を転送させろ。受け取るのは見つからないようにドックの外で、だ」
「わかりました」
 礼子は内蔵魔素通信機(マナカム)で老君と連絡を取りつつ一旦ドック外に出る。そこで仁が指示した薬品を受け取ると、すぐに戻って来た。
「エルザさん、飲んで下さい」
「……レーコちゃん、あり、がとう」
 蓬莱島特製ペルシカジュース。体内の魔力素(マナ)を回復させるジュースである。同時に渡された回復用の治療薬。
 最後に残った一人もノワールが構造材の瓦礫をどかし、アアルが運んできた。こちらは治療薬で治療する。
「……これで全員、ですか?」
 治療を施した怪我人たちは全員ドックの端、危険のない場所に寝かせてある。気が付き始めた者もいた。とはいえ、体力までは戻らないので、立ち上がるには到らない。

 重傷者の手当が済んだので、それ以外の怪我人を見ていくことにした。軽い怪我なら僅かな治療薬で効き目がある。
「礼子とネオンは現場の確認をしてくれ。崩れそうなところがあったら直すから」
「わかりました。……行きましょう、ネオン」
「はい、レーコ様!」
 最近ネオンは礼子の事を様付けで呼ぶようになっていた。そのネオンは喜々として礼子に従っている。
「あそこが危ないようですね。……あれくらいならわたくしでも直せます。『接合(ジョイント)』」
 足場が崩れかけている場所を1箇所見つけ、礼子は補強を加えた。それを見たネオンは大はしゃぎ。
「まあ、レーコ様は工学魔法もお使いになれるんですね!」
「ええ、まあ」
「すごいです! さすがです! 尊敬します!」

 先日、再度のグレードアップをした時に、制御核(コントロールコア)も一新したのであるが、それからネオンは感情豊かになった。
 元々、低品質の制御核(コントロールコア)に合わせて感情プログラムなどが作られていたらしい。それが、品質を上げたものだから、すぐに興奮状態、いわゆる『ハイ』になりやすくなった、とは主人であるベルチェの談である。
「可愛いからいいんですけれど」
 ともベルチェは付け足したものである。
 逆に礼子は助手として冷静さを優先するような設定となっていることもあって、この2体のやりとりは対照的で見ていて微笑ましいものがあった。

 閑話休題。
 一通り見て回っている礼子とネオン。
 建造中の船の周りを一回りすることとした。
 船は全長40メートルほど、現代日本にある遊覧船の大きめのものくらいか。この世界の船としては破格に大きい。
「動力はどうするのでしょう」
 そんなことを考えながら礼子とネオンは舳先を回り込み、反対側へと向かった。
 こちら側は瓦礫も少なく、船の外板も張られていた。

*   *   *

 軽傷者の手当も済み、落ち着きを取り戻したドック内。
「ジンさん、ありがとうございました!」
 エカルトは仁たちに深々と頭を下げていた。
「皆さんがいらして下さらなければ、大勢の死者が出たことでしょう。本当に、助かりました」
 怪我人も癒え、死者も無し。
 救出作業を終えた仁は建造中の船を見上げた。
「……大きいでしょう? 秘密に建造していたのですが、皆さんにはもう秘密でもなんでもないですな」
 エカルトは仁たちに船のことを話し始めた。
「ここクゥプからエゲレア王国、エリアス王国、それにショウロ皇国と商売するために建造しているのですよ。これが完成すれば、船の中で寝泊まりできますし、荷物も詰める。大儲け間違い無しです」
 商人らしい見解を語るエカルト。
「海上には今のところ関所もないですし、取り締まる法もないのです。それに」
 一度言葉を切ったエカルトは、夢を見るような顔になって続けた。
「大海原を旅してみたいのですよ……」
 その言葉にラインハルトが何かを言おうとした時、ドックが揺れた。
 いや、揺れたのは建造中の船。
 支えている台座が歪み、船が傾く。仁たちに向かって。
 誰かの悲鳴が上がる。
 200トンはあると思われる建造中の船体が頭上に倒れ込んでくる様子が、仁たちにはスローモーションのように見えた。
 お読みいただきありがとうございます。
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