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マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

14 家族旅行篇

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14-20 撤収

『あと一つ、報告が残っています』
「わかった、先に聞こう」
 さっそく『掘削(ディグ)』を使える魔導具を作る作業にかかりそうな仕草を見せた仁に、老君が報告を続けた。
『はい。魔結晶(マギクリスタル)の合成ですが……』
「済まない、老君。それは全員が揃った時に聞かせてくれ」
『わかりました』
 ステアリーナ、サキ、そしてラインハルト。新しい知識は、やはり全員で一度に共有したい、と仁は思ったのである。

 まずは、『掘削(ディグ)』の魔導具作り。
 別段難しい技術ではない。土属性の魔結晶(マギクリスタル)魔導式(マギフォーミュラ)を書き込んでいくだけ。
 作業自体は5分も掛からずに終わった。
御主人様(マイロード)、ありがとうございます』
「これで、老君もこれと同じ魔導具を作る事ができるようになったわけだな。よろしく頼むぞ」
『はい、お任せください』
 老君は、老子を派遣して仁の手から掘削の魔導具を受け取ると、
『……御主人様(マイロード)、たった今、トカ村担当の第5列(クインタ)、デネブ4から報告が入りました』
 と、新たな報告を行ったではないか。
「ん? 何があった?」
『はい。トカ村駐屯の兵士9名が王都へ呼び戻されることになったそうです』
 元々、トカ村のような辺境に兵士が駐屯していた理由はイナド鉱山にある。犯罪者を労働力として使っていたため、万が一の事を考えて、10名の兵士が常時駐屯していた。
 だが、イナド鉱山が廃坑同然となり、8月1日を以て仁に委譲されることになったので、駐屯の兵数を引き上げさせることになったようなのである。
『1名のみ、領主警護に残すようです。リシアさんは、フレッドという名の若い兵士を指名したとのこと』
 その名前には仁も覚えがあった。仁がトカ村へ出張したとき、先輩兵士にいびられていた新米兵士である。
「ふうん、何か見所があったのかな」
 兵士としての適性は低くとも、事務などの適性があったのかもしれない、と仁は想像していた。
『折から日程が一致したので、グロリアさんが9名の兵士を率い、王都へ帰るとのことです。以上』
 女性騎士隊副隊長であるから、一般兵士を率いることを任されたのであろう。
 だが、男の兵士9名にグロリア1人と言うことがちょっとだけ気になった仁。
「……デネブ4を護衛に付けてやれるか?」
『そうなりますと、トカ村担当がいなくなりますが』
「遊撃の誰かを送り込んでくれ。今後トカ村は重要地点になるだろうから、隠密機動部隊(SP)を駐屯させてもいい」
『わかりました。手配します』

*   *   *

「もたもたするな! もう少し早足で歩け!」
 一方、グロリアはラクノー村へ向けて歩を進めていた。
 トカ村を出発した時刻が遅めなので、どのみちドッパまでは行けないと判断、その日の泊まりはラクノーと決めていたのである。
(ちぇ、女の癖に)
(いばりやがって。何が騎士だ。糞貴族が)
(自分だけ馬に乗りやがってよ。こちとら歩きだっての)
 9名の兵士たちはぶつぶつ不平を漏らしながらだらだらと歩いていた。
「あー、あちいな」
 真夏の太陽が頭上から照りつけ、肌を焼いていく。思わずそんな声が漏れるのも無理はない。が。
「愚痴をいうな! 戦場でそんな泣き言が言えるか!」
 グロリアは無駄口を叩いたとして兵士を叱りつける。
(くそっ、いい気になりやがって)
 そして更に兵士たちの不満は溜まっていく。

(練度が低い……低すぎるな……)
 グロリアはグロリアで、兵士たちを観察していた。
(女性騎士隊よりはましとはいえ、精鋭と比べたら劣るぞ……)
 女性騎士隊隊員の大半は腰掛け気分の貴族子女であるが、10人に1人か2人は、適性の高いもの、やる気のある者がいる。そういう彼女等と比べたら、従っている兵士たちは正に雑兵であった。
 更にグロリアは、先日仁から、新人いびりの様子を聞いていたこともあり、この機会に兵士たちを少し扱いてやろうと思っていたのである。
「あと1時間でラクノーだ! 早足!」

「ぜえ、ぜえ」
「ふう、ふう」
「……くそっ、あの糞貴族め、今に見てろ!」
 ラクノーに着き、宿泊でなく野営と聞いた兵士たちは憤懣やるかたなく、陰で不平を漏らしていた。ラクノーの村外れが野営地である。
 ちょうどそのタイミングで、デネブ4がグロリア一行に追いついた。
(「兵士たちの不満が募っているようです」)
 周囲に聞こえないよう、内蔵魔素通信機(マナカム)で老君とのやり取りを行うデネブ4。
(『注意しておいてください。グロリアさんは御主人様(マイロード)にとって知り合い以上友人未満といった方です。この先どう変わってくるかもわかりませんし』)
 それに、と老君は付け加えた。
(『彼女の父、ボールトンさんの顕微の魔眼、ゆっくり解析してみたいですしね』)
 先日の巨大百足(ギガントピーダー)事件時に確保していたのだから、その時こっそり解析してしまうのだった、と残念に思っている老君であった。

 だが、仁と老君の心配をよそに、その夜は何事も起こらずに過ぎていった。

「全員起床!」
 明けて7月24日、グロリアは午前4時に全員を叩き起こした。もちろんまだ真っ暗である。
「身支度を整えよ! 各自、食事の準備!」
 駐屯時に携帯食料が沢山支給されていたのでこの機会に食べさせてしまおうという意図もあった。
 王都に戻れば廃棄される可能性もあるからだ。美味しい食材がたくさんある環境で、古くなった携帯食料が見向きもされないのは当然である。
「ふああ、眠いぜ」
「ちっ、糞貴族め。てめえは美味いもの食ってんだろうな」
 それは誤解である。グロリアも同じ物を食べているのだが、兵達はそんなことを知る由もない。
「よし、出発準備!」
 ようやく東の山向こうが明るくなってきた午前4時半。グロリアは出発の号令を掛けた。
「出発!」
 なんとか仕度を終えた兵達はラクノーを出発した。その最後尾では不穏な会話がなされている。
(確か、5時間くらい行った所が岩だらけの荒れ地だったよな)
(そこで全員で襲いかかれば……)
(馬から下りたところを狙おうぜ)
(ふひひ、楽しみだな)
 そんな相談がなされているとは知らず、グロリアは先頭を馬で行く。
 ラクノーを出て4時間、山道に入る。ここから約2時間が最後の山道で、あとはほぼ平坦な道となる。
 以前、ワルター伯爵が崖崩れを起こさせた場所はちょうどその中間点に当たる。
 緩やかとは言え上り坂をゆっくり進んでいく一行。兵達の息は荒い。
「頑張れ! あと少しで峠だ!」
 だがそんなグロリアの励ましも、
(ちっ、自分は馬に乗っているくせに好き放題言ってくれるぜ)
(今に見ていろよ……)
 兵達の心には届かなかったのである。

 そしてようやく登り着いた峠。あとは下るだけである。
「よし、全体、止まれ! ここで小休止とする。各自、水を飲め」
 グロリアも、馬を休ませるために馬から下りた。
 峠のその場所は、旅人が休憩できるよう、小広い広場となっている。
 うなじの汗を拭うグロリア。
 それを見た兵達の目に剣呑な光が宿った。
 グロリアの危機!?

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