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マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

12 ショウロ皇国錬金術師篇

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12-52 ご一緒に

 予約投稿したはずなのに更新されていませんでした。
 取り急ぎアップします。
 10分ほどトスモ湖上空を飛び回った仁の飛行船は、広場中央にゆっくりと着陸した。
 仁は内心ほっとしている。ぶっつけ本番で思い通りにいったからだ。そのポケットの中には、出掛けに老君から渡された魔結晶(マギクリスタル)が入っていた。
(超軽量化の魔法が込められていると言っていたけどな、使わずにすんでよかった)
 解析途中の重力魔法だが、軽量化だけはなんとか再現できたのである。
 万が一飛行船が墜落しても、この魔法で重量をほとんど0にすれば怪我もしないで済むだろうという配慮であった。

 飛行船が着陸すると同時に、割れんばかりの拍手と歓声が沸き上がった。
「次は私を!」
「いや、自分を!」
「俺だああ!!」
 仁の飛行船に乗りたがる人々で、アリーナはカオス状態であった。
「す、すごいね、これは」
 降りてきたサキも少し引いている。
 やはり空を飛ぶ、というのは人々の夢であるようだ。
「お静かに!」
 会場アナウンスが叫んでいるが、喧噪は静まらない。そんな時。
「静まりなさい!」
 女皇帝の声が響き渡った。
 正に鶴の一声。会場は水を打ったように静まり返ったのである。
「気持ちはわかります。けれど、秩序は保ちなさい」
 時間的にあと一度、と言うことで、来場者からは不満も出たが、そこはいずれ改めて、と言うことで何とかその場は収まったのである。
 そして改めて試乗する者が選ばれた。女皇帝からの名指しである。他に不満が出ない選抜方法が無かったのだ。
 女皇帝が指名したのは初老の貴族であった。仁は面識がない。
 が、サキは知っているのか、一瞬驚いたような顔をしたものの、すぐに顔を背けるようにしてアリーナへ戻っていった。知り合いだとしてもあまりいい印象を持ってはいないようだ。
 逆に、貴族の方はサキに何か言いたそうであったが、小走りにサキが駆けて行ってしまったので声もかけられずにいた。
 その貴族の外見と言えば、頭髪はなく、やたらと背が高い。が、ひどく痩せていて、顔色もあまり良くなかった。なので体重は軽そうではある。
「よろしく頼む」
 礼儀正しく仁に会釈したその貴族は、ゆっくりと飛行船に乗り込んだ。
「で、では、行きます」
 仁は再び飛行船を上昇させる。高度を取るまで、貴族は無言で地上を眺めていた。
(気まずい……)
 何を話せばいいのか、仁は悩んだ。しかし、意外なことに貴族の方から仁に話しかけてきたのである。
「うむ、ジン殿、と言ったか。これは非常にすぐれた乗り物であるな」
「は、はい、ありがとうございます、飛行船と言います」
「なるほど、先程からそう呼んでいたな。正に空飛ぶ船である。『熱飛球』とかいう乗り物が、クライン王国やエゲレア王国を急襲したそうだが、これには劣るであろう」
「失礼ですが、軍関係の方でいらっしゃいますか?」
 仁への態度はそれなりに軟らかいのだが、纏っている雰囲気がなんとなく物々しいので、尋ねてみた仁である。
「うむ、自己紹介がまだであったな。我はゲーレン・テオデリック・フォン・アイゼン侯爵である。今は退役しているが、軍では中将であった」
「……!」
 サキの祖父であり、エルザを嫁に欲しいと言ったその人であった。が、聞いた話と雰囲気がかなり違う。真面目そうで、権力を振りかざしたりしない。
「すまぬが、速度はどのくらい出るのだ? 最高速度を出してみせてくれぬか」
「は、はい」
 仁は魔導推進器を最高出力まで持っていった。飛行船は風をかき分けて進み出す。弱い追い風も手伝い、かなりの速度が出た。
「おお、速いな! おおよそ時速100キロといったところか」
 この世界で時速100キロを出せる乗り物はほとんどない。馬で時速70キロくらいである。
 驚いているはずなのに、あくまでも冷静な判断をしている侯爵。女皇帝も、この点を考慮した上での人選なのかもしれない。
「どのくらいの距離を飛べるのだ?」
「そうですね、試したことはないですが、乗っている人間の方に問題がない限り、いつまでも」
 食料や水の問題があるので、12時間とすれば時速100キロで1200キロ。相当なものだ。
「ふむ、では、どのくらいの重さを運べる?」
「そうですね、人間なら6人、重さで言ったら500キロくらいまででしょうね」
「ふうむ、少し物足りないな」
 やはり軍用とした場合を考えているのだろうか。
 熱飛球ではせいぜい200キロくらいであったのだが、そこまでは侯爵も知らないようだ。
「1台あたりの費用は……いや、これは別の問題だな」
 そう言った侯爵は、聞きたい事は聞いたので、少し乗り心地を楽しみたい、と仁に告げた。仁も、トスモ湖上空を大きく旋回させることにする。
「……」
 そして暫く無言でいた侯爵は、再び口を開いた。
「……サキとは仲が良いのか?」
「は?」
「サキから聞いているのではないのか? 我はサキの祖父だ。可愛い孫を気にするのはあたりまえであろう?」
「は、はあ」
 侯爵は、髪の無い頭を撫でると、自虐的な笑いをうかべた。
「……どうやら、我も長くないようだからな、孫が幸せならいいのだ。……で、そなたはサキをどう思っておるのだ?」
「えーと、サキ……さんは、優秀な錬金術師だと思います」
 そう答えた仁を手でさえぎる侯爵。
「違う違う、そうではなくて、女としてどう思っているかを聞いておるのだ」
「女性として……ですか」
 正直、仁はこの世界に来てからというもの、率直な意味で女性に欲情するということが無かった。
「彼女は、いい友人ですが……」
 言いかけて口ごもった仁を見て、侯爵は溜め息をついた。
「そうか、やはりな……。あやつは、女として中途半端なのだな……色気はないし、かといって男勝りというわけでもない。我としてはこの目が黒いうちにひ孫の顔が見たかったのだが」
 先ほどから再三再四、侯爵が口にしていることが気になっていた仁は、直接聞いてみることにした。
「あの、閣下。お身体の具合が悪いのですか?」
「ん? ああ、そうだ。ここ1年で体重が80キロ近く減った。治癒師に見て貰ったが治らん。これは天命だな」
 薄笑いを浮かべる侯爵。仁は彼の目、その白目の部分が黄ばんでおり、掌は赤くなっているのに気が付いた。
「あの、もしかして、お腹とかに血管が浮き出ていませんか?」
 当てずっぽうで仁が言うと、侯爵は顔色を変えた。
「何! なぜそれを!? 誰にも話したことはないのに!」
 実は、仁はかつて、黒い医者が出てくるマンガでそういう病気の話を読んだことがあったのだ。その症状にはメデューサの頭、という俗称が付いていた。
「肝硬変かも……」
 ウイルスやアルコール、薬物などで起こりうる肝臓の病気である。仁が肝臓の病気だと当たりを付けられたのは、黄疸の症状が出ていたからだ。
「そなたはこの病気が何か知っているというのか!?」
 少し興奮気味の侯爵は、それでも表面上は冷静さを崩さずに仁に尋ねかけてきた。
「ええ、おそらくですが。失礼ですが、魔法で診察してもよろしいですか?」
「うん? そなたはそんな事も出来るのか? 出来るなら構わん、見るがいい」
「では失礼して。……礼子、頼む」
 仁は、搭乗籠後部で魔導推進器を操っていた礼子に指示を出した。
「はい。『診察(ディアグノーゼ)』……やはり肝臓に異常があります」
 あらためて礼子を見た侯爵は目を輝かせた。
「ううむ、その子は何だ? 人間ではないな? もしや自動人形(オートマタ)か」
「あ、はい」
「可愛らしいのう、子供というのはいいものよなあ」
 優しげな目で礼子を眺める侯爵。
(確かに、小さい子が好きなようだが、これは……)
 仁は、侯爵の性癖が歪んで伝わっているのではないかという気がした。
「サキも、小さい頃は我に懐いてくれたものだが……厳しく躾けすぎたのだな、今ではすっかり嫌われてしまったようだ」
 ぽつりと、そんなセリフを漏らした侯爵。その様子があまりに寂しそうに見えたので、仁は、聞きたくて堪らなかったことをここで聞く事にした。
「閣下、エルザ・ランドルをご存じですか?」
 エルザの名前を聞いた侯爵は一瞬ぴくりと頬を引き攣らせたようだったが、次の瞬間には平静に戻った。
「……エルザか。知っている。なかなか可愛い子じゃ。嫁に欲しかったのだが、もう我には時間が残されておらん」
(エルザを嫁にしたいというのは本当なのか……)
 ちょっと、いやかなり、仁の中で侯爵の評価が下がった。
「な、なぜ若い子を?」
 この流れなら、と、仁は思いきって尋ねる事にした。
「ん? ……まあ、いろいろあってな。それより、我の身体はどうなのだ?」
 大分脱線してしまったが、侯爵は、仁に見立ての結果を話してくれ、と言った。
「……閣下のお身体は、原因はわかりませんが、肝臓という臓器が傷んでおります」
 誰得の同乗ですね……。
 侯爵は多分、若い頃に、年増に対するトラウマを植え付けられる何かがあったのです。

 お読みいただきありがとうございます。

 20140328 21時38分 表記修正
(旧)やたらと背が高い。が、痩せていて、顔色もあまり良くなかった。
(新)やたらと背が高い。が、ひどく痩せていて、顔色もあまり良くなかった。

(旧)1年で体重が50キロ近く減った
(新)1年で体重が80キロ近く減った
 太っていたときの体重が120から130キロくらいなので、ガリガリになるには80キロくらい減らないと、と思いました。

(旧)掌も同様に黄ばんでいるのに気が付いた。
(新)掌は赤くなっているのに気が付いた。
 黄疸の症状が出ている場合、掌は赤くなるようです。
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