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マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

12 ショウロ皇国錬金術師篇

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12-35 海は広いな

「お父さま、お食事の仕度ができました」
 海を見つめてのんびりしていた一同の後ろから、礼子の声がした。
 時刻は午後1時少し前。カイナ村と蓬莱島の時差を考慮した時間である。
 砂浜には座るためのシートが敷かれ、バスケットが置かれていた。
 なんとビーチパラソルならぬ、タープも張られている。
 タープとは日除けに張られる布のことである。簡単な支柱と、ロープのテンションで支えるのが一般的だ。
 もう6月、北回帰線そばにある蓬莱島では、太陽がほぼ真上から照りつけてくる。
「おお、これは快適だね」
 遮光率の高いタープの下は涼しい。海辺で湿度が高いから、日陰は貴重である。
「みなさん、いろいろありますから、お好きなものを召し上がって下さい」
 礼子はバスケットの蓋を開けた。
「おお……」
 1つにはサンドイッチ。1つには燻製肉。別の一つにはゆで卵。また別の1つにはペルシカやシトランなどのフルーツ。
 そして最後の1つには。
「おにぎり?」
 塩で味を付け、海苔を巻いたおにぎりであった。
「ジン、これは?」
 黒い塊を見て不思議そうな顔のラインハルト。
「ああ、『おにぎり』って言って、炊いた米で作って、『海苔』という海草で巻いてあるんだ」
 そう答え、仁は真っ先におにぎりにかぶりついた。それを見た礼子は、魔法瓶からお茶を注いで差し出す。
 まず一口。蓬莱島の藻塩で味を付けられたおにぎりはそれだけで十分に美味しい。
「うん、美味い!」
 本当に嬉しそうな顔でおにぎりを頬張る仁を見て、まずサキがおにぎりに手を伸ばした。そして一口。
「お、これは本当に美味しい。シンプルだが、奥深い味だ」
 それを聞いたエルザ、ラインハルト、ベルチェの順でおにぎりを食べてみる。
 外は海苔が巻いてあるので黒いが、中は白米だ。
「ジン兄、これ、美味しい。香りがいい」
「おお、本当に美味い! これは……のぎ……いや、『米』か!」
「ジン様、見かけとは違って、歯触りや味わい、なかなかのものですわね」
 3人とも、お世辞で言っているのでは無さそうだ。海苔の味がわかるというので仁は嬉しかった。
「ありがとう。俺の故郷の味なんだ。……礼子、仕組んだのは『老君』だな?」
 ニヤリと笑って言う仁。老君のサプライズが嬉しいような、引っかかって悔しいような。
「はい、お父さま」
「そうか、やっぱりな。でも美味い」
 仁はぱくぱくと、おにぎり4つを瞬く間に平らげた。
「こっちのサンドイッチも美味しいですわ」
 ベルチェはサンドイッチを食べ、舌鼓を打っている。
「ゆで卵に塩をかけただけだが美味い。この塩が違うんだな」
 そしてラインハルトはゆで卵を口にして、美味さに驚き。
「どれどれ? ……うーん、ジン、これはただの塩じゃないね?」
 最後のセリフはサキ。なかなか鋭い。
「ああ。それは藻塩と言って、実はここで採れるんだ」
 仁はタツミ湾を指差した。
「ここの海草を集めて燃やし、灰を水に溶かして、その上澄みを乾かして作るんだ」
「ふうむ、そうすると、海草に含まれる何かも混じっているというわけかい?」
「その通り。海草に含まれている、いわゆる『旨味』が混じった塩になると言うわけさ」
 使いどころを間違えると味が濁るが、ゆで卵に藻塩はよく合うようだ。
「ちなみに、燻製に使った塩もここの海で採れた塩だ」
「きれいな海だからね」
 サキが見つめたその海から、いきなりアクアが現れた。ナンバーは33だ。
「うわあ!」
 驚いてシートの上にひっくり返るサキ。サキ以外の面々も、それなりに驚いたが、サキほどではない。
「あれはゴーレムメイドのアクアだよ。海洋開発が担当なんだ。ちょうど今、海苔を採ってきたところらしい」
 折から、自分たちが口にしていた食材を採ってきたということで、皆一様にアクア33の手元を見た。
 そこにはアサクサノリもどきが大量に。
「あれが海苔?」
「本当に海草なんだな」
「あれをどう加工したら食べられるようになるんだい?」
 製法を尋ねてきたのはやはりサキ。仁はその質問に答えた。
「きれいな海水で洗って干し、乾いたら切り刻んで水で戻し、木枠と簀の子で濾し取って乾燥させるんだ」
 かなり端折った説明ではあるが、それなりにサキは理解したようだ。
「なるほど、要は一旦細かくしてから平たく延ばして干すということだね? 興味深いね」
 この時仁は、先日来考えていた紙作りを、後ほどサキと相談してみようかと思ったのである。

 食後のフルーツを食べていると、外からハイドロ2と3が戻ってきた。
 ラインハルトは以前、統一党(ユニファイラー)との騒動の時に乗ったことがあるが、サキとベルチェは初めてである。
「ジ、ジン様、あの船は!? オールもパドルも無しに動いてますわ!」
 さすがに船についてはそれなりに詳しいベルチェ、ハイドロの推進機構に驚いたようだ。
魔法型水流推進機関マギウォータージェットと言って、海水を噴き出して進むんだ」
 これまた簡単に説明するが、ベルチェには理解できなかったようだ。
「マリン2、3、今日の哨戒は終わりか?」
 仁の質問に、2体は肯定を返す。
「はい、ご主人様」
 本当は、マリンたちにも知らせず、うまくスケジュールを調整し、それとなく老君が派遣しているのだ。
 そもそも、もう少し離れた場所に桟橋があるのに、砂浜であるここに戻ってくると言うことがおかしい。
 さすがに仁も気づいたが、口には出さなかった。
「そうしたら、俺たちを乗せて少し走ってもらえるか?」
「はい、ご主人様の仰せでしたらいつなんどきでも」
 ハイドロは4人乗り。操船はマリンに任せると言うことで、ハイドロ2は仁、エルザ、サキ、礼子(礼子は小さいので乗船可能)。ハイドロ3にはラインハルトとベルチェ、ネオンの組み合わせとした。
 残念だがアアル、エドガー、ノワールは今回留守番だ。
「よし、行ってくれ」
「はい、行きます」
 そして走り出すハイドロ2と3。
「お、お、お、これは!」
 加速に驚くサキ。
「きゃあ! なんですの! この速さは!」
 ベルチェもびっくりしている。
「ううむ、やっぱりこれは凄いな!」
 一度乗っているラインハルトも驚きを隠せない。
「僕も作ってみたいが、まずは外輪船だな……」
 ラインハルトはそれなりに自分の実力を自覚していた。
 彼等を乗せたハイドロ2・3は、時速50キロを超える速度でタツミ湾を飛び出していった。
「ジン兄、やっぱり速い。すごい」
 エルザも潮風を受けて気持ちよさそうに目を細めている。
 この世界の海は、月が小さい事から干満の差が少ない。また、台風などの発生も少ないため、比較的海は穏やかな日が多い。
 今日も、海面はゆったりとしたうねりがあるくらいで、三胴船(トリマラン)型のハイドロ2隻は、安定感ある疾走を見せていた。
「ジン、気持ちいいね! この船はすごい! 月並みだが、それしか言うことが出来ない!」
 興奮気味のサキが半分叫ぶように言う。遮るもののない青い大海原を、白い航跡を残して疾駆するハイドロ2とハイドロ3。
 1時間あまり、外海を疾駆したのち、タツミ湾に戻って来た2隻。
「お帰りなさいませ」
 荷物番をしていたエドガーが波打ち際まで出迎える。アアルはと見れば、アクア33と一緒に藻塩を作っていた。そしてノワールは荷物を守るように不動の姿勢を保っている。
 それぞれの役割に性格が出ていて面白い、と仁は感じていた。

 荷物から冷やしたペルシカジュースを出して飲むと、渇いていた喉が潤い、日射しに火照った身体も涼しくなるかのよう。
 フルーツの残りを食べた一行は、また自動車に乗って仁の研究所へと引き返していくのであった。
 お読みいただきありがとうございます。

 20140311 15時44分 表記修正
(旧)魔法型水流推進機関マギウォータージェット推進と言って
(新)魔法型水流推進機関マギウォータージェットと言って
 漢字だけ見ていると推進機関推進っておかしいので……。

 20140311 20時40分 表記修正
(旧)2本の白い航跡を残して疾駆する
(新)白い航跡を残して疾駆する
 トリマラン(3胴船)なので1隻あたり3本の航跡が残るはずなのですが、自信がないので敢えて本数を記すのを止めました。

 20140312 11時35分 誤記修正
(誤)アクア2、3、今日の哨戒は終わりか?
(正)マリン2、3、今日の哨戒は終わりか?
 その他3箇所、マリンがアクアになっていました。

 20160222 修正
(誤)後ほどサキと相談して見ようかと思ったのである。
(正)後ほどサキと相談してみようかと思ったのである。
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