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マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

12 ショウロ皇国錬金術師篇

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12-27 エルザの眼鏡作り

 温泉から出たサキとエルザは二堂城へ戻った。もう仁も起きていたので、
「ジン兄、また展望台へ行ってみたい」
 とのエルザの要望により、6階まで行くことになった。
 それで。
「……」
「はあ、ふう」
「……2人とも、遅い」
 エルザが一番体力があった。

「おお、これはいい眺めだ」
「うん、いい景色」
 東に連なる山々は初夏の新緑に覆われ、南は眼下にエルメ川、そして遠くにトーゴ峠。
 西は広い原生林が続き、北にはカイナ村、そして彼方には氷河がかかる高山が。
「静かだし、いい環境だね」
 そう言いながらサキは眼鏡の位置を直す。
「……サキ姉、その『眼鏡』、ちょっと見せて?」
「ん? ああ、いいよ。……ほれ」
「ありがと」
 礼を言って眼鏡を受け取ったエルザは、その構造を眺めて、
「よくわかった。実物を見るのは初めて。凹レンズで近視の矯正をする道具」
 と言う。
「でも」
「ん?」
「サキ姉にはあまり似合ってない」
「……うっ」
 その言葉に一番打ちのめされたのは仁であった。自分自身、デザインセンスが皆無なのは自覚している。
「ジン兄、もう少しデザイン変えてあげて」
 エルザに言われた仁は、じゃあエルザがやってごらん、と言い返した。ちょうどいい練習材料だ。
「うん、やってみる」
 いずれにせよ、とりあえずは朝食を済ませてから、である。

 朝食は大麦のお粥に玉子焼き。そして川魚の塩焼きであった。デザートにはシトラン。料理担当はベーレであった。
「ふうん、甘いプレーンオムレツか」
 サキがそう評した玉子焼き、仁は懐かしそうに味わっていた。それに気付いたエルザ。
「ジン兄、これってジン兄の国の味?」
「え? ああ、そうだ。一般的な卵料理の一つだな」
 隠し味に入れる醤油が無いのが残念ではある。
「ふむ、シトランか。これは美味しいね」
 蓬莱島から運び込まれたシトランである。その味は折り紙付きだ。
 シトランを除き、ベーレの腕前が上達したのがよくわかる食事であった。
 仁はベーレを呼んで、上達したな、と褒めるのを忘れなかった。エルザとサキも美味しかった、と褒める。
「ありがとうございます、練習した甲斐がありました」
 3人から褒められたベーレは嬉しそうに微笑み、お辞儀をして下がっていった。

「さて、それじゃあ眼鏡を作ってみようか」
 カイナ村マーサ宅、仁の工房にて。
 エルザはまず素材を吟味する。ここには、蓬莱島から持ち込んだレア素材も少し置かれている。
 それらの中からエルザが選んだのは軽銀であった。
「ふむ、それに目を付けたか」
 仁も感心する。軽銀は現代地球で言うチタン、金属アレルギーを起こしにくい金属である。しかも軽い。眼鏡用フレームにはもってこいである。
 次いでエルザはレンズ用の素材として、仁と同じく水晶を選んだ。
「『分離(セパレーション)』。『変形(フォーミング)』」
 必要量の軽銀を確保し、加工していく。基本構造は仁が作った眼鏡を元にしている。
「……ふうん」
 そのデザインを見た仁は感心した。丸みを帯びた横長の楕円形。オーバルと呼ばれるデザインに近い。
 仁が作った試作は925銀だったが、こちらは軽銀なのでより強度があり、その分細身に仕上がっていた。
 今更ながら、エルザのデザインセンスは仁より上である。工学とは少しベクトルが違うので仁が負けるのも致し方ないだろう。
「『分離(セパレーション)』。『変形(フォーミング)』」
 次はレンズである。水晶を変形させて凹レンズを作った、までは良かったのだが。
「……?……」
 レンズの度をどうすればいいかがわからず、無言で仁の顔を見るエルザ。仁はその意図を見抜き、
「まずは大体のところを作って置いて、実際にかけて貰って調整するんだよ」
 とアドバイスをした。
「……わかった。『変形(フォーミング)』」
 あらためて加工し直すエルザ。そこに仁が口を挟んだ。
「待った、エルザ。『メニスカス』で作ってごらん」
「『メニスカス』?」
 その疑問の声はサキからだった。
「ああ、メニスカスというのは、三日月、って言う意味だ」
「三日月?」
 この世界の月は満ち欠けしない。なおさら混乱するサキ。
「あー……礼子、説明してやってくれ」
「はい、お父さま」
 出番が無くて寂しそうだった礼子に説明を任せ、仁はエルザへの指導を優先した。サキを蔑ろにしているわけではない。サキのための眼鏡なのだから。
「いいか、こういう形をメニスカスっていうんだ。『変形(フォーミング)』」
「……わかった」
 先日の知識転写(トランスインフォ)では、単に眼鏡のレンズは湾曲している、という認識止まりだったようだ。
 それでも仁が言わんとする事はわかったようで、さっそく同じようにレンズを作製するエルザであった。
 その様子を見ていた仁に、突然思い付いたことがある。
「そう、か。保護眼鏡」
 旋盤やフライス盤などの工作機械を扱う時など、飛んできた切粉きりこ等から目を保護するための眼鏡。
 錬金術を修めたサキには必須であろう。もちろん仁やエルザにも有効だ。
 サキ用の眼鏡製作はエルザに任せ、仁は保護眼鏡を作る事にした。
 材質はいつもの白雲母。『純化(ピュアリ)』を用いて不純物を取り去り、極限まで透明度を上げた。
「よし、こんなもんか」
 度は付けないから簡単なものだ。最後に、白雲母は軟らかいので硬化(ハードニング)強靱化(タフン)を重ね掛けしておく。
 保護眼鏡が割れて破片が目に入るというのは笑えない。
 同じものを10個ばかり製作する仁。
 ちょうど礼子からの説明を聞き終え、何気なく仁の方を見たサキの目がこぼれんばかりに丸くなった。
「……はあ。ジンが規格外なのは知っていたつもりだったが、ボクもまだまだ甘かったようだ」
 溜息を漏らすサキ。
「……できた」
 ほぼ同時にエルザも眼鏡を作り終えたようだ。
「サキ姉、掛けてみて」
「うんうん、エルザがボクに作ってくれた眼鏡か。嬉しいね」
 そう言ってサキは眼鏡を掛ける。
「どう?」
「……うーん、悪いが、今までの方が見やすかったかな」
 それを聞いてエルザは肩を落とした。仁はそんなエルザを励ますように、
「エルザ、眼鏡ってやつは、目に合わないと反って見づらくなるんだよ。だから微調整が必要なんだ」
「どうやるの?」
 それもまだ知識にはないようで、仁は実践してみせることにした。
 その際、礼子を助手に使う事にする。
「サキ、それじゃあそこに座っていてくれ。礼子はその前に立ってくれ」
「はい、お父さま」
 座らせたサキの正面に礼子。
「それじゃあ礼子、レンズの中心とサキの瞳の中心のずれを調べてくれ」
「わかりました」
 最初に眼鏡を作ってから、仁はどうしたら、視力に合わせて眼鏡を調整できるか考えていたのである。
 仁自身が行ってもいいのだが、真正面から妙齢の女性の顔をまじまじと見つめるのが気恥ずかしいので礼子に任せたのである。
 今回は以前より本格的だ。礼子の目には数々の機能が付与されており、その一つが精密測定である。その性能は、魔法工学師マギクラフト・マイスターたる仁と比べても遜色ない。
「……左のレンズが、下へ5ミリ。右のレンズはいいようです」
 レンズの中心と瞳の中心のずれを極小にするのは基本である。
「エルザ、サキに掛けさせたまま調整してごらん」
「うん」
 エルザは仁の指導の下、レンズ調整、そしてフレームの角度調整、鼻パッドの調整などを行っていった。
「どう?」
「うん、こんどはいいな。良く見えるようになった」
 左右の度は今までと同じにしたので、違和感はないはずである。
「ありがとう、エルザ」
「うん」
「じゃあ、古い眼鏡はもういらないかな?」
 仁がそう言うと、サキは大慌てで否定した。
「とんでもない。これはジン、君がボクのために作ってくれた物だ。ずっと大事に持っているよ」
「そ、そうか」
 作った物を大事にしてもらえるというのは、モノ作りをする人間にとって嬉しいことである。
 仁も、口には出さないが、内心はそう言ってくれたサキに好感を持っていた。
 お読みいただきありがとうございます。

 20140303 15時03分 誤記修正
(誤)ペルシカを除き
(正)シトランを除き
+注意+
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