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マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

12 ショウロ皇国錬金術師篇

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12-26 があるずとおく

 今回、サキとエルザが泊まったのは2階の客室である。エルザたっての希望で和室をチョイス。
「ほう、面白い部屋だね」
 中央に座卓が置かれ、座布団と座椅子が用意されている。
 畳敷きの部屋に素足で上がり、サキはその感触が好きになった。
「たたみ、って言うの。ここに寝転がるのが好き」
 ごろりと横になるエルザ。サキも真似して横になる。
「ひんやりしてるようでもあるし、湿っぽさがないのもまたいいね。絨毯ではこうはいかない」
 サキも寝転がるのが好きになったようだ。
「うん。そしてこのお布団」
 襖を開けると、隣の部屋には布団が敷いてあった。
「すごく寝心地がいい」
 ゴーレムメイドたちがローテーションで干している布団はふっくら膨らんでいる。
 因みに、マーサ邸で使われている布団は全て同じものに交換されていた。
 そして村人にも、カイナ村特別価格として、普通の布団と同じ価格で販売する予定になっている。製作者はエルザ。
「ジン兄がライ兄に贈ったのもこういうお布団」
 サキもやって来てエルザの隣に横になり、その質感にまたまた驚いた。
「これは素晴らしいね! ボクの家にも欲しくなるよ」
 それは、この布団で寝たものなら誰でも抱く感想であろう。
「じゃ、今度作ってあげる」
「エルザ、ありがとう!」
 サキは喜びに布団の上でエルザを抱きしめた。見ようによっては危ない光景である。

 まだ時間は早い上、サキは時差のあるショウロ皇国から来ているため、寝るには早い。
 2人は元の部屋に移動して、座卓の前に座った。
 お客様用のパジャマを着ているので、身体も楽だ。他に見ている者もいないので、サキはかなりラフな姿勢になっている。
 つまり、横になって肘を立て、頭を支えているのである。少々親父臭い。
「サキ姉、相変わらず」
「くふ、そうさ、ボクはボクさ。エルザも相変わらずお行儀いいじゃないか」
 サキは少女時代に厳しく躾けられた反動からか、時々こういう行儀悪をする。一方エルザは小さいころ活発だったことが嘘のようにお行儀がいい。
「うん、母さまからも言われているから」
「ああ、そうか、やっぱりミーネ……いや、ミーネさんが母上だったと言ってたね」
 サキも、ラインハルトと同様、ミーネがエルザの実母ではないか、と推測していたようだ。
「だけど、あの頃のミーネさんはなんというか、その、激しかったけれど、今日会ってみると、穏やかで優しそうだね」
「ん。母さまは優しい」
 エルザはサキに、いかにも幸せそうな笑顔を見せた。
「エルザ、いい顔になったね。旅に出る前の君は、どこか表情に乏しいところがあった。それが、久しぶりに会ってみるとどうだ。やっぱり、ジンのおかげかな?」
「うん。ジン兄は大恩人」
「……そういう意味で言ったんじゃないんだがね。まあいい。エルザ、もし良かったら、さっきお風呂で聞いた続きをゆっくり聞かせてくれないかい? ボクは国外に出たのなんて今回が初めてだからね。非常に興味があるんだ」
「うん」
 サキの要望に応え、エルザは訥々と話し始めた。サキも起き上がって話を聞く姿勢になった。
 ラインハルトと一緒に出発した日のこと、セルロア王国で、ラインハルトの黒騎士(シュバルツリッター)金剛戦士(アダマスウォーリア)を破ったことまでは風呂場で話していた。
「えっと、ね。そのあと、エリアス王国へ行って……」
 エリアス王国で、ゴーレム艇競技に出場したこと。その時に仁と出会ったこと。
 仁と旅を始めたこと。フラットヘッド村。モフト村。ハンバルフ峠。
 山賊やゴーレムに襲われたこと。
 エゲレア王国でビーナと友達になったこと。
 ゴーレム園遊会(パーティー)と騒動。
 侯爵との婚約が嫌で逃げ出したこと……。
 話が弾み、知らず知らずのうちに時間は過ぎて夜中になっていたが、自動発光するエーテル発光体(AL)のおかげで2人は話を続ける。
「そうか、気持ちはわかる。あの侯爵とエルザじゃ釣り合わないよ。まったく、あの色ボケめ」
 逃げ出した話になると、サキは祖父の欲望に憤っていた。そのせいでエルザが危険な目にあったとも言えるわけだから、と言うのがサキの言い分である。
「うん、……でも、父が望んだのかも知れない」
「ああ、そのふしもあるけどね。だが、ジジイがエルザを見初めなければそんな話は出なかったに違いないんだ」
 そしてサキは話の先を促した。エルザはまた話し出す。
 仁に助けられたこと。仁の妹分として迎えられたこと。
 カイナ村に移り住んだこと。一応、仁が異世界から来たという話や蓬莱島、崑崙島については話してはいない。
 クライン王国首都アルバンへ行ったこと。
 リースヒェン王女と知り合いになったこと。
 そして、魔法工作(マギクラフト)を教えてもらっている現在となる。
「そうかい、エルザは良い経験を積んできたんだね。ボクとしては羨ましい限りだよ」
 にこりと笑ったサキ。
「人間的にも成長するわけだ」
 サキに言われたエルザは恥ずかしそうに頬を赤くした。
「まだまだ、未熟。魔法工作(マギクラフト)でもジン兄の足元にも及ばない」
「いや、目標がジンというだけでも大したものさ。ボクはまだ彼と出会って1月も経たないが、その規格外っぷりは知っているつもりだ。彼は間違いなく世界一だよ」
「うん、それは知ってる」
「ふふ、『知ってる』か。知っていてなお目標にするんだね。エルザ、君はジンの妹に相応しいよ」
「ありがとう?」
 真夜中を過ぎても、まだまだ2人の会話は終わらなかった。

*   *   *

「……眠い」
「ふああ、ちょっと夜更かししすぎたね」
 朝6時。前日、この時間に起こしてくれるようアアルとエドガーに頼んでいたので眠い目を擦りながらもなんとかかんとか起きた2人。
 それというのも朝風呂……温泉に入りに行くためである。
 バスタオルと着替えを持って外へ。
 初夏の朝はもうとっくに開け放たれ、朝の光が二堂城を照らしていた。
「しかし変わったお城だね」
「屋上……じゃない、最上階からの眺めは格別」
「ほう、それはいいね。あとでジンに頼んでみよう」
 そんな会話をしながらカイナ村中心部へ。
「ここが、温泉」
 さっそく女湯に入る2人。アアルとエドガーは外で待機である。
 脱衣所で服を脱ぎ、中へ。
 この日は先客がおらず、貸し切り状態だ。遠慮なく手足を伸ばしてお湯に浸かれる。
「いい気持ち」
「うーん、これが温泉かい。確かに、お湯の感じが違うね。水に何かが混じっているみたいだ」
 錬金術師らしく、サキは温泉のお湯を分析する。
 エルザはそんなことに囚われず、のんびりしている。すっかり目も覚めたようだ。
 サキは隣で身体を伸ばすエルザを眺めた。
 髪も少し伸びてきている。ミーネが切っているのだが、以前よりは長くなっているようだ。
 そんな時、別の入浴客が現れる。
「あ、エルザさん、おはよう」
「バーバラさん、おはよう」
 そこへ、サキが更に自信を無くすような胸が登場した。言わずと知れた村長の姪、バーバラである。
「お客様?」
 サキを見て尋ねるバーバラにエルザが答える。
「うん、ジン兄のお客様でサキさん。……サキ姉、こちらは村長さんの姪御さんでバーバラさん。私と同い年」
「どうも、初めまして。バーバラです。よろしく」
「ボクはサキ。よろしく」
 浴槽に入りながらお辞儀をしたバーバラの胸に揺れる弾力溢れる双丘を見たサキは、エルザと同い年でこれか、と、世の不公平さを実感していたとか。
「……眼鏡をしてないで良かったよ」
 よりはっきり見えていたら、尚のことがっくり来ただろうとお湯の中で考えるサキであった。
 あんまり色気のないガールズトークでした。

 お読みいただきありがとうございます。
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