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マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

12 ショウロ皇国錬金術師篇

370/1622

12-20 結婚式

 2月24日で連載1周年です。
 皆様のおかげ、ありがとうございます。

挿絵(By みてみん)

 記念イラストなんとか描きました・・・

 モノクロラフですが。
「ジン、待たせたね」
 もうすぐ9時になろうという時、ようやくサキが仕度を終えて現れた。
 アアルと礼子も付いている。
「レーコちゃんを寄越してくれてありがとう。助かったよ」
 今のサキは、ぼさぼさだった髪をちゃんとくしけずり、ラベンダー色、いや、青紫色のドレスを身に纏っていた。
 スリムというか若干痩せすぎとも言えるそのボディラインだが、シンプルなAラインのドレスが良く似合っていた。
 髪には一輪の花を模した髪飾り。そしてもちろん眼鏡着用。
「へえ、見違えたな」
「ふ、照れくさいもんだね、面と向かってそう言われるのは」
 珍しく頬を染めるサキであった。
 ちょうどそこへ、ラインハルトの執事、クロードがやってくる。
「ジン様、サキ様、お迎えに上がりました」
 黒い執事服に身を包んだクロードは2人に一礼した。
「俺は自分の馬車で行くけど構わないかな?」
「はい、結構ですとも。ではサキ様、どうぞこちらへ」
 仁は自分の馬車、そしてサキはクロードが御する馬車でランドル家へと向かったのである。
 仁の馬車がもう1台荷車を牽いていることにクロードは何も言わなかった。一緒に旅をして何かを悟っているのであろう。

「これが、ジン様からのお祝いでございますか」
 ランドル家に到着したあと、仁はベッドと布団をクロードに託した。クロードは下男に命じてそれを家の中に運び込ませる。
 ランドル家の扉は広いので悠々運び込むことが出来たが、仁は今度は(あればだが)組み立て式にしよう、と反省するのであった。
「ボクからはこれを」
 サキは手にした小箱を差し出した。
「ありがとうございます、サキ様」
 クロードはそれも受け取る。お祝いの品は、こうして1室に集められ、式のあと新郎新婦がゆっくりと見ていくらしい。
「……そしてこれを、ある人から託された」
 仁はエルザから預かったマスコット人形の包みを差し出す。
「ある人、で、ございますか」
 それを受け取ったクロードに、仁は、
「うん。ラインハルトも知っている人で、ここに顔を出せない人からだ」
「そうでございますか」
 クロードもそれで何かを察したらしく、そのまま包みを抱え、部屋に運び込んでいった。
 この後、お祝いの品はクロードをはじめ、使用人たちが開梱して中身を確認するとのことである。万が一危険物が紛れていた時の用心であろう。

「ジン様、サキ様、こちらでお待ち下さい」
 2人は控え室に通された。大勢の参列者が来ており、中には、見知った顔も幾人かいた。
 こうしてみると、この結婚式の日程は前々から決められ。準備が進められていたらしい。
「おお、ジン殿、ご無沙汰しております」
 そう挨拶してきたのはラインハルトの友人で新婦ベルチェの兄、マテウス・ガイスト・フォン・リアルガー。
 そして彼の隣にいたのは。
「サキ、か、お前? 見違えたなあ!」
 何とフリッツ・ランドル・フォン・グロッシュ。エルザの兄でラインハルトの従兄である。
「やあ、フリッツ殿か。久しぶりだね。国外へ出ていたそうだが、戻ってきていたのかい」
「ああ、今日は分家代表として出席している」
 フリッツの微笑みには、かつての険はない。
「ジン殿、だったな? いつぞやは失礼した」
 フリッツは仁に向かい、そんな言葉まで発した。文字通り人が変わったようだ。暗示(セデュース)が解かれてからの彼には会っていないので、仁はその変わりように内心驚いていた。
「……エルザもここにいてくれれば良かったのだが」
「フリッツ殿……いや、この話題はここでするような話ではないね」
 一度は質問しかけたサキであったが、場所柄を弁えたのか、途中で打ち切る。代わってマテウスに声をかけた。
「マテウスも久しぶり。奥方は元気かい?」
「ああ、おかげさまでな。しかしサキ、見違えたよ。昔俺たちと一緒に遊んでいたころとはえらい違いだな」
 ラインハルトと幼馴染みであるサキは、同時にマテウスとも幼馴染みであるわけだ。
「くふふ、女は化粧でどうとでも変わるらしいよ。そもそも妹君がボクに化粧を教えてくれたんだしね」
「ベルチェが? そうか。それで、その顔に付けているものは何だい?」
「そうそう、俺も気になっていたんだ」
 フリッツも話に加わる。
「これかい? これは『眼鏡』って言ってね、ジンがボクのために作ってくれた、目を良くする道具さ。おかげで色々なものがはっきりと見えるようになったよ」
 それを聞いたマテウスは仁に向き直る。
「ジン殿、これも『顕微鏡』と同じ種類の道具なのですね?」
 仁は頷き、何かを言おうとした、その時。
「皆様、新郎新婦の仕度が調いましてございます。どうぞおいでくださいませ」
 ランドル家執事長がやって来て、結婚式の開始を告げたのである。

*   *   *

 ショウロ皇国式の結婚式は、神前ではない。
 魔導大戦により宗教が衰退したため、教会が没落し、信奉する神がいないのである。そうなった時に人々が取る道は幾つかあるだろうが、ここショウロ皇国では、『先祖崇拝』と言う形に落ち着いた。
 すなわち、先祖に対して結婚の報告をする、という形を取る。
 この『先祖』の象徴として、貴族は肖像画や胸像、または家紋を刻んだ石板などを、庶民は遺品や木彫りの人形などを用いている。
 ランドル家の場合は家紋を刻んだ石板だ。館の一番奥、奥座敷とも言うべき静かな部屋にそれは鎮座していた。
 高さ3メートル、幅2メートルほどの真っ白な大理石様の石に刻まれた紋章は、向き合った2頭のライオン(仁にはそう見えた)である。
 その裏側には先祖の名前が全て刻まれているそうだ。

「ここに、ランドル家4男、ラインハルト・ランドル・フォン・アダマスと、ガイスト家長女、ベルチェ・ガイスト・フォン・スカーレットの婚儀を報告致します」
 その前で、ラインハルトとベルチェは、それぞれの両親と共に結婚の報告を行っている。2人とも、白で統一された服装である。
「ベルチェ・ガイスト・フォン・スカーレットは本日ただ今から、ベルチェ・ランドル・フォン・スカーレットとなることを誓います」
「立会人、クリストフ・バルデ・フォン・タルナート、確かに見届けました」
 仁には神父役に見えたが、それは立会人というらしく、貴族の結婚式には必ず立ち会うことになっているようだ。
 大抵はより上の貴族が派遣した代理人であるが、クリストフは皇帝陛下が名指しで派遣したらしい。これはかなり名誉なことだそうだ。
 そういったことを、仁は一番後ろの方で、サキに聞いていたのである。
「なかなか荘厳だね」
 周りに聞こえないような小さな声でサキは呟いた。
「ベルチェ嬢を選んだラインハルトは見る目があると思うよ。彼女なら、きっとこの先、ラインハルトを支えていけるだろうね」
 その声にはほんの僅か、寂しさが混じっていた。仁はそんな彼女に掛ける言葉が見つからない。それでも何か言おうと口を開きかける。
「サキ、君は……」
「しっ、新郎新婦が通るよ」
 石板の前で結婚の誓いを交わした2人は、今、それぞれの両親に伴われて、列席者の間を通り抜けていくところだ。
 それを拍手や祝福の言葉で送り出す列席者たち。
「ラインハルト、おめでとう。末永くお幸せに」
「ベルチェ嬢、おめでとう。2人の門出が幸せに包まれますように」
 仁とサキも拍手しながら祝福の言葉を投げかけた。
 そうして部屋を出て行った新郎新婦は暫く2人きりになる。その間に列席者はパーティ会場へ移動し、地球で言う披露宴になるわけだ。

 大広間がパーティ会場になっており、新郎新婦に先駆けて、ラインハルトの父親、ヴォルフガングがやって来て、列席者に挨拶する。
「皆様、本日はランドル伯爵家4男、ラインハルトと、ガイスト伯爵家長女、ベルチェの結婚式にご参列下さり、感謝致します」
 更にそれを引き取って母親であるイゾルデが続ける。
「息子ラインハルトもこれで1人前と相成りました。これからもより一層のお引き立てを賜りたく存じます」
 そして一礼する両親。
 同じような言葉を、ベルチェの両親も述べ、それが終わると新郎新婦が装いも新たに入室してきた。
 今度は白ずくめでなく、儀礼や式典に着るような、装飾のある服装になっていた。
「お互いに手伝って着替えを行う事が夫婦として初めての営みなのだそうだよ」
 仁の隣にいたサキが小声で教えてくれた。
 新郎新婦が所定の席に着くと、ランドル伯爵家から2人に声がかけられる。
「ラインハルト、ベルチェ、おめでとう。私から2人に贈り物がある。ここバンネの西、カルツの村を贈ろう」
 カルツは、エルザの父、ゲオルグ・ランドルが治めるエキシと、ここバンネの間にある小さな村である。
 拍手が起きた。これでラインハルトも、ごく小さいながらも領主となったわけである。
「謹んでお受けします」
「精一杯尽くさせていただきますわ」
 深く頭を下げるラインハルトとベルチェ。
 そして再び会場は拍手に包まれたのだった。
 ラインハルトも、仁と同じくらい(?)の村の領主に。

 お読みいただきありがとうございます。

 20140224 12時17分 表記修正
(旧)仁は今度があれば
(新)仁は今度は(あればだが)
()がルビ指定になってしまうので。

 20151209 修正
(旧)お祝いの品はクロードはじめ、使用人たちが
(新)お祝いの品はクロードをはじめ、使用人たちが
+注意+
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