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マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

12 ショウロ皇国錬金術師篇

360/1564

12-10 アアル

 バレンタインと言うことで、バレンタインモードのベルチェ。
 作中ではこんな事しませんので……。
挿絵(By みてみん)
 昼食後、仁、ラインハルト、サキの3人は工房へ戻ったが、ベルチェは残ることになった。
 ラインハルトが、ベルチェを付き合わせるのは可哀想だと言ったからである。
 ベルチェは退屈でも一緒にいたいと言ったのだが、
「3時のティータイム、久しぶりにベルの作ったアレを御馳走してくれよ」
 とのラインハルトの一言で、彼女は『アレ』なるものを作って待つ事になったのである。

「さて、あとは皮膚、顔、髪なんかだな」
 素材を棚から運びながらラインハルトが言った。
「サキ、なにかリクエストはあるかい?」
 サキは考え込んだ。
「うーん、特にはないんだが……強いて言えば、目の色は水色がいいな。髪は淡い金髪で、短く」
 それを聞いた仁が真っ先に思い浮かべたのはエルザの顔。さっそく取りかかる。
 そこで、特に何も考えずに、エルザをモデルに、もっと中性的にした顔にしていく。
 ラインハルトは助手。仁の手腕を間近に見ながら、その技術を憶えようと必死だ。
 丁寧に作業したため、1時間ほどかかったが、見事に自動人形(オートマタ)の外装は出来上がった。
「ふんふん、いいねいいね。なかなか好ましいよ。ジン、見事だね!」
 残るは細かい作業である。
 発声装置の調整(声質)、視覚の調整、聴覚の調整など。
「ジン、制御核(コントロールコア)はどうするんだい? また、『ロッテ』みたいに、誰かの行動パターンとかをコピーするのかな?」
 ロッテとは、かつて仁が、エゲレア王国に行ったときに、友人のクズマ伯爵に依頼されて作った、王子殿下専属のメイドゴーレムである。
 その時は、クズマ伯爵家の侍女長の知識や動作をコピーさせてもらった。
「ああ、今回はもう用意してあるんだ」
 仁はポケットから、基準マスターとなる情報記録用の魔結晶(マギクリスタル)を取り出した。
 これは、蓬莱島で働いている5色ゴーレムメイドたちと同じ物である。
「『知識転写(トランスインフォ)』レベル6」
 これにより、蓬莱島と同様、最高水準の家事が出来るようになる。つまり、仁の好物も作れるのだ。実はこっちの方が理由としては重要だったりする。
 そして動力源は、かつてのエレナと同じ、魔素貯蔵庫(エーテルタンク)自由魔力炉(エーテルドライバー)である。
「ジン、これは?」
 ラインハルトも初めて見る魔導装置(マギデバイス)であった。仁は説明をする。
「ふうん、これがあのエレナとかいう自動人形(オートマタ)の……。すると、これを備え付ければ、半永久的に動くというわけか?」
「ああ、自由魔力素(エーテル)さえあればな」
 これは魔導大戦時にあった技術であるし、アンやティアなどは、魔素変換器(エーテルコンバーター)魔力炉(マナドライバー)を持っていた。
 蓬莱島ゴーレム・自動人形(オートマタ)の下位互換装置であるが、十分に実用的だ。
「ふうむ、魔素貯蔵庫(エーテルタンク)自由魔力素(エーテル)を蓄え、自由魔力炉(エーテルドライバー)で魔力に変えているのか。興味深い」
 サキはぶつぶつ呟きながら、2人の作業ぶりを眺めていた。

 完成したのはお茶の時間になる少し前だ。
「よし、起動するか。礼子、自由魔力素(エーテル)を少し分けてくれるか?」
「はい、お父さま」
 礼子の体内にある魔素変換器(エーテルコンバーター)には、エーテルを集めるための機能が付加されている。つまり、礼子の体内には自由魔力素(エーテル)がかなりの量存在しているのだ。
 工学魔法『魔素譲渡(トランスミット)』。滅多に使われないが、魔力炉(マナドライバー)でなく魔素変換器(エーテルコンバーター)を起動させるときなどに使う。
 今回作った自動人形(オートマタ)は戦闘用ではないので魔素貯蔵庫(エーテルタンク)は小さめ。なのですぐに満タンとなり、自由魔力炉(エーテルドライバー)を起動させることが出来るようになった。
「『起動』」
 仁が口にした魔鍵語(キーワード)により、自動人形(オートマタ)は目を開けた。
「初めまして、製作主(クリエイター)様」
 今回の制御核(コントロールコア)製作は仁が主であるから、製作主(クリエイター)とは仁の事である。
「よし、お前の主人はこのサキ・エッシェンバッハだ」
「はい。サキ・エッシェンバッハ様、よろしくお願いいたします」
 声も中性的になるよう調整したので、仁は『宝塚の男役みたいだ』と密かに思っていた。
 その自動人形(オートマタ)はサキに向かってお辞儀をした。
「サキ、名前を付けてやってくれないか」
 仁が声をかけると、初めて自動人形(オートマタ)から主人としてかしづかれてどぎまぎしていたサキは我に返って、考え初めた。
「名前か……そうだな……」
 やがて思いついたらしく顔を上げたサキは、一つの名前を口にする。
「よし、この子は『アアル』と呼ぼう」
「はい、ご主人様。私の名前は『アアル』です」
「アアル?」
 聞き慣れない名前だった。
「ああ、昔読んだ本に、1、2、3、4……のことを、イイ、アアル、ザン、スウ……と書いてあった事を思い出してね。世界第二、ということで2を意味するアアル、としたのさ」
「なるほど」
 ラインハルトは素直に感心したが、仁はそれでは済まなかった。
「さ、サキ、その本って? ……俺も、イー、アール、サン、スー、ウー、リュー、チー、パー、チュー、シーという数え方を知っているんだが」
「へえ、似ているね。でも済まない、ジン。古文書というか、昔のことを書いた本にあっただけで、4までしか書いてなかったし、そもそも数とかを解説した本じゃないんだ」
 サキの説明に仁の力が抜けた。
「……そうか、済まないのはこっちだ。変なこと聞いたな。今はアアルのことに集中しよう」
「よし、アアル、立ってみるんだ」
 サキはアアルに指示を出した。
「はい」
 アアルは立ち上がった……と思ったら、ガッシャン、と大きな音を立ててテーブルが倒れた。よろけたアアルがしがみつき、一緒にひっくり返ったのだ。
「だ、大丈夫かい?」
「はい、ご主人様。私は大丈夫です」
 そう言って立ち上がろうとして、再びアアルは転倒する。仁の目には、制御系が上手く働いていないように見えた。
「よし、アアル、とりあえず座れ」
 椅子に座らせた仁は、制御系の調子をみるため、1つの課題をアアルに与える。
 そのために仁は、サキに頼んで粘土を用意してもらった。
「よし、アアル、この粘土で団子を作ってみるんだ」
 はい、と言ってアアルは粘土に手を伸ばし……握りつぶしてしまった。
 その様子をみたラインハルトは失望したように言った。
「ジン、失敗だ。力をまったく制御出来ていない……」
 だが仁の意見は違った。
「アアル、時間がかかってもいい。何度でもやってみろ」
「はい、製作主(クリエイター)様」
 指示に従ってアアルは何度も粘土に手を伸ばす。そしてその度に握りつぶしてしまう。
「……ジン、やっぱり駄目だよ。何が悪かったんだろう?」
 落胆するラインハルトとは裏腹に、仁は目を凝らしてアアルの動作を見つめていた。
「ジン、ボクの気のせいかね? だんだんアアルは器用になってきている気がするんだが……」
 その言葉通り、少しずつではあるが、アアルが粘土を握る力加減を憶えていくようだった。
 そして10分後。アアルは見事に粘土を丸く丸めることに成功したのである。
「やっぱりそうか……」
「ジン、一人で納得していないで、説明してくれたまえよ」
 ラインハルトはまだ理解に苦しんでいた。それはサキも同様。仁はそんな2人に、自説を開陳する。
「おそらくだが、『触覚センサー』からの信号と、俺の用意した制御式の整合が取れていなかったんだと思う」

 仁が用意したのは、先代から伝わる情報も含む、蓄積された制御式。当然、触覚というものは考慮されていない。
 触覚という未知の情報をどう扱っていいかわからず、制御系が混乱していたのが当初のアアルだ。
 それが、時間をかけて『慣れ』てきたので、粘土を丸める事が出来るようになったわけである。

「なあるほど、筋は通っているな」
「ボクはそっちの方はよくわからないけど、ということは、アアルはまだ身体を使うことに慣れていない、ということでいいのかい?」
 仁はサキの言った事を肯定した。
「そんな感じかな。だから、アアルには、赤ん坊のようにして少しずつ動作を憶えさせるのがいいと思う」
「ラインハルト様ー! お茶の時間ですわよー! 遅いのでお迎えに来ましたわ」
 折からベルチェが呼びに来たので、アアルにはそのまま粘土細工を続けさせ、仁たちはお茶をしに母屋へ向かった。
(礼子、念のためアアルを見ていてやってくれ)
 仁は小声で礼子に指示を出すのを忘れなかった。
 中国語の数詞の発音は、異論もあるかと思いますが。

 お読みいただきありがとうございます。

 20150515 修正
(旧)初めて自動人形(オートマタ)から『ご主人様』などと言われてどぎまぎしていたサキは我に帰って、考え初めた
(新)初めて自動人形(オートマタ)から主人としてかしづかれてどぎまぎしていたサキは我に帰って、考え初めた

 20160304 修正
(誤)サキは我に帰って
(正)サキは我に返って
+注意+
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