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マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

12 ショウロ皇国錬金術師篇

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12-08 化粧

 サキ、ドレスバージョン。

挿絵(By みてみん)
 侯爵家の裏事情を聞いた後、仁はラインハルトの工房を見せて貰った。
 さすがに蓬莱島ほどのレア素材はないが、軽銀、ミスリル、アダマンタイトなどの素材まで揃っており、なかなかの充実ぶりである。
「じゃあ、まずは自動人形(オートマタ)の基本構想だけでも固めておくか」
 仁の提案で、2人は再びテーブルに付いた。
「男性型か女性型か、外見年齢は、大きさは、と言う外観から決めていこう」
 目的はサキのサポートであるから、サキが気に入るような外観にする必要があった。それにはラインハルトが頼りだ。
「うーん、サキの好みか……実際よくわからないんだ。あいつ、浮いた話って一つも無いからなあ……」
 そして思い出したように付け加える。
「……あいつ、エルザの事気に入っていたっけ」
「……え?」
「………………」
 まさかそう言う趣味が、と聞く事も躊躇われて、2人の間に痛い沈黙が訪れた。そんな時。
「ああ、やっぱりお2人ともここにいらっしゃいましたのね! そろそろ夕食の仕度がととのいますわよ!」
 姿の見えない2人を捜しにベルチェが顔を出したのである。
 その明るい声に救われたように、2人は席を立った。

*   *   *

「……」
「…………」
「……サキ?」
 食堂にやって来た2人の前に立っていたのはサキだった。だが、その姿は。
 ぼさぼさだった赤茶色の髪は艶が出るほどにくしけずられており、滅茶苦茶に切られていた毛先もきれいに切り揃えられ、前髪に見え隠れしていた紫グレイの瞳が美しい。丸い眼鏡がチャーミングである。
 頬にはうっすらとほお紅が塗られて、不健康そうだった顔色が明るくなっている。
 そして、汚れてだらしない服装も一変、白のワンピースドレスになっていた。
「……へえ」
 とは仁のセリフ。
「似合ってるなあ、サキ」
 これはラインハルト。
「……化けて粧うと書いて化粧とはよく言ったものだよね」
 そう呟いたサキはちょっと恥ずかしげに俯いて頬を染めた。

 夕食は、仁、ラインハルト、ベルチェ、サキの4人でテーブルを囲んだ。
 ラインハルトが言ったとおり、堅苦しいのが苦手な仁への心遣いである。
 サキはちゃんとテーブルマナーは知っており、仁よりもきれいに食事をしていた。
 食事中はサキも幾分緊張していたのか、当たり障りのない会話が交わされたが、食後のティータイム、いや、お茶の時間になると寛いで、いつもの調子に戻る。
「くふふ、こんな格好したのは何年ぶりだろうね。まったく似合わないことこの上ないよ」
「いえ、サキさん、とってもよくお似合いですわ。ねえ、ラインハルト様?」
「ああ、お世辞抜きによく似合ってるよ」
「……そうかい? ラインハルトがそう言うなら、少しはボクも見られる容姿と言うことなのかな?」
「少しどころじゃない。十分きれいだよ」
「くふふ、それは喜んでいいのか嘆くべきなのか、微妙だな。学問に容姿は必要無いからね」
 などとうそぶくサキである。
「それに、そのお顔の『眼鏡』ですか? とってもチャーミングですわ」
「ありがとう。ジンが作ってくれたものでね。おかげで世界が違って見えるよ」
「そうだ、サキ、その眼鏡、ちょっと貸してくれ」
 何か思いついたらしい仁が言うと、サキはすぐに眼鏡を外し、手渡した。
「ありがとう。『硬化(ハードニング)』。『強靱化(タフン)』」
 仁は眼鏡フレームには硬化(ハードニング)、水晶製のレンズには強靱化(タフン)をかけた。
「これでいい。レンズは割れやすいからな、割れにくくする工学魔法をかけておいた」
「はは、それはいい。意外とサキはそそっかしいところがあるからな」
 ラインハルトにそう言われたサキは、眼鏡を掛け直しながら、何も言い返さずただふくれっ面をしただけであった。そして唐突に話題を変える。
「そう言えば……、従妹殿はどうしているんだい? 普通ならここに同席していてもおかしくないと思うのだが」
 ラインハルトの従妹殿、というのはエルザの事である。
 エルザが失踪後、仁に救われて、今はクライン王国のカイナ村にいることは仁とラインハルトだけの秘密である。
「そ、それ、は……」
 言い淀むラインハルト。
「うん? どうしたんだい、ラインハルト。君がそんな顔をするなんて。従妹殿に何かあったのかい?」
「……私がお話しして差し上げますわ。……エルザさんは、縁談が嫌で、失踪したんですのよ」
 ベルチェにも知らせていないから、仁とラインハルト以外はこういう認識でいる。
「失踪だって? エルザが? ……縁談、って言ったね? それは、もしかしてあの(・・)侯爵絡みなのかい?」
 自分の祖父を『あの』呼ばわりするあたり、サキは相当実家を嫌っているようだ。
 そして、祖父であるゲーレン・テオデリック・フォン・アイゼン侯爵の趣味についても知っているらしい。
「……」
 無言のラインハルトを見て、自分の言った事が的を射ていることを知ったサキは憤る。
「……あの少女趣味侯爵め、エルザは孫といってもいい歳だぞ? まったく、どこまで身勝手なんだ」
 そしてラインハルトをじっと見つめ、
「だがねラインハルト、ボクが知っている君なら、エルザを匿っている、とまでは言わないが、彼女が今どこでどうしているかくらいは把握しているんじゃないかと思えるんだがね」
 と言い切ったのである。黙ってそのやり取りを聞いていた仁は、サキの勘に感心していた。
 それにも無言を貫くラインハルトに、サキは相好を崩し、笑いかける。
「……すまないね、ラインハルト。もしそれがその通りだとしても口に出せるわけないのにね、ボクが悪かった。……あの従妹殿は錬金術にも少し興味があるようで、戻ったらいろいろ教える約束していたもので、ちょっと、ね」
 そう言ったサキの顔は寂しげで、思わず真相を話したくなるラインハルトだったが、そこは外交官として培ったスキルでポーカーフェイスを貫き通したのである。
「そ、そうですわ、ジン様、レーコちゃんにまた、歌を歌っていただけないでしょうか?」
 重くなった雰囲気を変えようと、ベルチェがそんな提案をしてきた。仁もその意図は十分に理解したので、
「礼子、何か歌ってくれ」
 と命じたのである。
「はい、お父さま」
 礼子は歌い出した。
 実は、先日来、仁は礼子に女の子らしい芸事として、時間がある時に、歌をいろいろと教えていたのである。
「春咲く花の名前はなあに?  誰も教えてくれないけれど  優しく咲いてる野の花が好き……」
 ベルチェも、サキも、ラインハルトも礼子の歌に聴き惚れている。
「両手にいっぱい摘んだなら  愛しい彼氏にあげましょう  もしも彼氏が来なければ  小川にそっと流しましょう……」
 昭和っぽい歌謡曲は院長先生がBGM代わりに良くかけていたので仁もかなり憶えている。それらのうち、アイドル系歌手が歌っていたものを礼子に教えたのである。
「秋の落ち葉は私の肩を  そっと叩いて地面へ落ちる  彼も今ごろ私のことを  思ってくれていることでしょう……」
 歌い終えた礼子はカーテシーで一礼。
 ラインハルトが真っ先に拍手をした。続いてベルチェ、そして我に返ったようなサキ。
 給仕に付いていた侍女、ベスとドリーも心からの拍手を礼子に贈った。
「れーこさん、すてきです! あこがれちゃいます!」
 ネオンも惜しみない称賛を捧げる。
「……ありがとう、ネオンさん」
 嬉しいような困った様な顔で、礼子はネオンに礼を言ったのである。
「いやあ、ジン、レーコちゃんはやっぱり素晴らしいな! 完璧、と言う言葉は彼女のためにあるようなものだ!」
 ラインハルトも手放しの賛辞を贈った。
 すっかり雰囲気が和んだところで、仁は気になっていた事をラインハルトに尋ねた。
「ラインハルト、ベルチェさん。結婚式はいつ行う予定なんだ?」
 するとラインハルトの隣に座っていたベルチェの顔が真っ赤に染まる。ラインハルトは困った様な顔。
「うーん、難しい問題だ。予定では6月早々なんだが、何せ僕はジンの接待饗応役だからね……」
「そんな事気にしていたのか。俺なら数日ほっといて貰ったって大丈夫なこと知ってる癖に」
 もしなんならカイナ村や蓬莱島に帰っていればいいだけのことである。
 それを知っているラインハルトは更に困った顔。だが、やがてその顔に笑みを浮かべ、
「ありがとう、ジン。前向きに検討するよ」
 と答えたのである。
 それからはラインハルトが中心になって旅の話をしたり、昔の話をしてみたり。
 統一党(ユニファイラー)に拉致されたときの話になると、ベルチェは顔を曇らせ、泣きそうな顔で聞いていた。
 救出劇についてはデウス・エクス・マキナに救出されたことにして話した。
 サキは夢中で聞き入っている。
 だが、サキが一番興味を持ったのはギガースと礼子の戦いの話だった。
「ふうん、レーコちゃんはそこまで強いのかい。すごいね、まったく。ラインハルトが世界一というのもわかるよ」
「本当ですわ。……でもラインハルト様、あまり危ないことしないでくださいましね? ラインハルト様に万一のことがあったら私、生きていられませんわ」
 そう言ってラインハルトの腕に縋り付くベルチェ。
「くふふ、ベルチェ嬢は相変わらずラインハルトにべったりだね。仲が良さそうで何よりだ」
 サキはそう言って、仁が気になっているあの寂しげな笑みをまた一瞬だけ浮かべたのである。
 話が進みませんでした……
 あ、歌詞は適当です。そんな歌無いです。
 仁も、今や旅行と言うより友人宅に遊びに行っているような気分ですね……

 お読みいただきありがとうございます。

 20151217 修正
(誤)化けて装うと書いて化粧
(正)化けて粧うと書いて化粧
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