挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

12 ショウロ皇国錬金術師篇

356/1510

12-06 フィードバック

 サキ・眼鏡バージョン。

挿絵(By みてみん)
 仁は、残っている樹液を全部メープルシロップになるまで煮詰めておくように礼子に指示を出した。
 そして、サキもひとごこちがついたようなので、改めて仕切り直しである。
「うーん、僕としてもサキが今のままというのはいただけないな……」
 ラインハルトは渋い顔だ、幼馴染みとしても気になるのだろう。
「ところで、使用人って、なんで出ていったんだ?」
 仁がそう尋ねると、サキは頭を掻いて、苦笑しながら理由を話した。
「いやあ、給金を3ヵ月出していなかったから」
「それはだめだろう……」
 思わず仁も突っ込みを入れてしまった。
「とりあえず、食事は僕の家から運ばせるか……」
 ラインハルトも思案顔だ。
「給金を3ヵ月未払いって、いったいどうしたんだ? ここには結構高価な素材がたくさんあるというのに……まさか?」
「くふふ、多分そのまさかだよ。父は、珍しい素材があるとなんでもかんでも買ってきてしまうからね。いや、ボクもだが」
 要は経済観念皆無の研究馬鹿らしい。
「家令とか置いて、ちゃんと管理してもらえよ」
 ラインハルトも呆れてそう言うが、サキは涼しい顔。
「うちは貴族じゃないからね。家令も執事もいらないさ」
「しかし……」
 どこか他人事の様に受け答えするサキと心配顔なラインハルト。仁は一計を案じる。
「そうだ、ラインハルト、自動人形(オートマタ)を作ってやればいいんだよ」
 その提案に大乗り気になるラインハルト。工作馬鹿の面目躍如である。
「おお! その手があったか! もちろん、ジンも手伝ってくれるんだろう?」
「もちろん」
 仁の返事にラインハルトのテンションは更に上がる。
「ようし! こうなったら世界第2の自動人形(オートマタ)を作ってやろう!」
 ハイテンションなラインハルトを見て、サキが一つの疑問をぶつけた。
「……どうでもいいけど、『世界第2』ってのはなんだい?」
「ん? それは簡単だ。世界一の自動人形(オートマタ)は、そこにいるレーコちゃんだからさ」
 その言葉に、礼子の事を思い出したサキは、眼鏡をかけた目でしげしげと礼子を眺めた。
「見れば見るほど素晴らしい出来だ。……それで思い出したんだが、ラインハルト、そしてジン。ここに世界でも一流の魔法技術者(マギエンジニア)が2人も揃っているというのは幸運だったよ」
 そう言ってサキはテーブルに身を乗り出す。
「ん? 何か聞きたい事とかあるのか?」
 錬金術と魔法技術(マギエンジニアリング)には共通点もあるし、お互いに影響し合って発展した面もある。
 おそらく何か疑問があるんだろう、と軽い気持ちでいたラインハルトは、サキの口から出た次の言葉に返答することが出来ないとは思いもしなかったのである。
「では聞くが、ゴーレムや自動人形(オートマタ)などの魔導人形は、壊れやすいコップなどをどうして壊さずに持つことができるんだい?」
「……うっ」
 ラインハルトは固まった。

 ゴーレム、自動人形(オートマタ)などの基本動作制御は、通常の場合、師匠から伝授される。その師匠はそのまた師匠から伝授されている。
 この制御方式はOSに例えることが出来よう。つまり通常の魔法技術者(マギエンジニア)は師匠からブラックボックス的に受け継ぎ、使っているのである。そこに進歩はない。
 起源を辿れば、現行の制御方式の多くはおそらくアドリアナ・バルボラ・ツェツィに行き着くことだろう。
 そして、制御方式の詳細は、魔法と同じく、『魔法のある世界』の『ライブラリ』に記録されている。そこにアクセスし、コピーして使っている魔法技術者(マギエンジニア)がほとんどなのが現状だ。

 では、仁はと言うと。
「……うーんと、複雑すぎるからある程度簡略した説明をするぞ。まず、対象物を認識する。それを自分の知識と照らし合わせ、該当するものがあれば、その強度に見合った力で掴む」
 と、その流れを簡略化して説明していた。これにはサキだけでなくラインハルトも感心した。
 そして感心し、その内容を反芻しているラインハルトを尻目に、サキは更なる質問を発した。
「ふうむ、興味深い。……なら、それが知識にないものだったら? 初めて見た物なら、強度は分からないはずだろう?」
「また面倒なことを聞いてきたな。……対象物の認識、そこまでは同じだ。それが知識にないものの場合、『類推』という行為を行う。似たものがないか、もしくは似た材質がないか、だな」
「なるほど、よくわかる」
 頷くサキに仁は、にやりと笑いかけた。
「似たものがあればいい。だが、無い場合を知りたいのだろう?」
「くふふ、そのとおりさ」
「だろうと思った。……握るという動作を開始する。指が対象物に触れる。力を込める。……ここまではいいな?」
「ああ、もちろん。問題はその先だ。力を込めすぎれば壊す。力が足りなければ持てない。どうする?」
「対象と自分の指先の歪みを検知しているんだ」
「えっ? ……そうなのかい、ジン?」
 そう言ったのはラインハルトだ。彼も初めて聞く、といった顔で聞き返してきた。
制御核(コントロールコア)はこうあるべきという身体の形状を予測しながら命令を出している。それよりほんの僅か、コンマ00何秒遅れて、身体は動いている」
「………………」
 仁の説明をサキもラインハルトも黙って聞いていた。
「物体に指が触れれば、物体の硬さに応じて、指の動きは遅くなる。軟らかければ遅くなりにくいし、硬ければすぐに遅くなるよな。これをすばやく検知して、必要な力を決定しているわけだ」
 更に仁は補足を入れる。
「ちなみに、間違うことだってあるさ。……人間だって、見た目より重くて取り落としたりということがあるくらいだからな。だが、反応速度が人間の数十倍あるから何とかなる場合が多いのさ」
 そこまで説明すると、仁は2人の顔を交互に見比べた。
 ラインハルトは魔法技術者(マギエンジニア)らしく、聞いた情報を知識として消化しようとしていたが、サキは概念を知ることが出来ればそれで良かったようで、
「いやあ、ジン、ありがとう! 長年の疑問が一つ、解決したよ!」
 そう言って大喜びした。
「それが出来るのも、制御核(コントロールコア)が人間より数十倍速くものを考えられるからということで間違ってないよね?」
「ああ、そうだな」
 確かめるように発せられたサキからの質問に仁は頷いた。
「そうすると、制御核(コントロールコア)は、こうあるべきという身体の形状を予測するという、困難な処理をしているわけだ」
「そうそう……ん?」
 サキからの質問を仁はもう一度考えてみた。
 基本的に物事は、シンプル・イズ・ベストの原則が通用する。システムなどは特にそうだ。
「ジン? どうかしたかい?」
 突然黙り込んだ仁を怪訝に思ったサキが声をかけるが、仁の耳には届いていない。
(力加減という行為に、制御核(コントロールコア)は処理能力の多くを裂いている。つまりはソフトウェアに任せられているわけだ……)
 仁は電子工学やITに詳しいわけではないが、現代地球に生きた技術者の端くれとして、概念くらいは耳にしていた。
(ソフトウェアは確かに応用が利く。だが、ハードウェアで肩代わりできれば、それだけ制御核(コントロールコア)の負担が減って、もっと別の処理をすることが出来る……)
「もしもし? ジン? おーい」
 最近になく、仁は思考に集中していた。
(なら、代わりになる物とは? ……自動人形(オートマタ)やゴーレムは、人間の身体を模倣して作られた。人間にあって自動人形(オートマタ)に無いもの。……触覚、か!)
 視覚は目。聴覚は耳。嗅覚は鼻。味覚は口。いずれも、専用の魔導装置(マギデバイス)があって、疑似感覚器官を成していた。
 だが、触覚はといえば、酷くお粗末なものしかない。
 暑さ寒さは温度センサー的な魔導装置(マギデバイス)が胸部にあって、金属製の骨格の温度をモニタリングしている。体温を作る魔導装置(マギデバイス)の副次装置である。
 うまく使えば、指先で触れた物の温度も検知することが出来る。
 痛覚はそもそも最初から考慮されてはいない。
(ちょっと前、礼子が剣技とか憶えても使わないのって力加減が難しいからと推測したよな)
 複雑な動作には微妙な力加減が必要である。いくら人間の数十倍の処理能力があっても、数十倍数百倍の速度で動きながら力加減をするというのは困難を極めるのではないか。
 ましてや、礼子のパワーは凄まじい。10を加減して1にするのと、10000を加減して1にするのとでは、文字通り桁違いに困難であろう。
 殴る蹴るなどの単純動作と、関節技などの複雑な動作、力加減が難しいのはどちらか、少し考えればわかるというもの。
 老君との相談で、そのような結論が出ていた。
(あー……そういうことか……)
 礼子に、どうすれば力加減をより正確に認識させることが出来るか。その目処が立った。
(俺の考察不足だったな……)
 礼子の力加減は、魔素変換器(エーテルコンバーター)魔力炉(マナドライバー)の出力を微細に制御し、さらに魔法筋肉(マジカルマッスル)をそれこそミリ、いやミクロン単位でコントロールする必要があったのだ。それも人間の数十倍以上の速度で動きながら。
 礼子自身、どうしてそうせざるを得ないのか、仁に説明することは出来なかったのだろう。

「……ジンはどうしたんだ?」
「何か、重要な事に気がついたんだろう」
 仁が考えに耽り始めて数分。サキとラインハルトはひそひそ話をしていた。
「くふふ、ラインハルトもたまにああなることがあったしね。専門馬鹿という奴かな」
「サキにだけは言われたくないな」

 そして仁は現実に戻ってきた。
「サキ、ありがとう! 君の言葉で、大きく前進することが出来そうだよ!」
 大声で礼を言う仁に、サキも戸惑いながら言葉を返した。
「くふふ、なんだか分からないが、お役に立てたなら光栄だ。もし良かったら我々にも分かるように教えてもらえないだろうか」
「ああ、もちろんだ! ラインハルト、君の意見も聞きたい」
 そう言って、仁は今考えついたばかりの制御理論を説明し始めたのである。
 説明ばかりで分かりづらくて済みません。いろいろ推敲してこれでもわかりやすくなった方なんです。
 フィードバック制御についてお詳しい方だったら一蹴されそうな理論かもしれませんが……。
 これからの礼子を語る上で避けて通れない理論でした。

 お読みいただきありがとうございます。

 20150706 修正
(旧)起源を辿れば、多くの制御方式はおそらくアドリアナ・バルボラ・ツェツィに行き着くことだろう
(新)起源を辿れば、現行の制御方式の多くはおそらくアドリアナ・バルボラ・ツェツィに行き着くことだろう
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ