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マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

11 ショウロ皇国とカイナ村篇

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11-39 幕切れと対決

 仁がカイナ村でパスコーと気まずい思いをしていた頃のラクハム。
 ここには今現在、ワルター伯爵が駐在していた。本来の拠点はプレソスなのであるが、若干カイナ村に近いラクハムがここのところは伯爵の活動拠点となっていたのである。

「旦那様、朝でございます。そろそろ起きて下さいませ」
 今朝の担当侍女が伯爵を起こすためドアをノックした。が、返事が無い。
 ワルター伯爵は寝起きだけは良く、起こしに来た侍女に時々悪戯をするので悪名が高いのである。
 それが、しばらく経ってもその伯爵が起きてこないので、侍女は訝しんだ。
 そういえば、一昨日から少し身体が怠いといっていたのを思いだし、何かあったのではと、急いで執事長を呼びにいく。
 執事長はすぐにやってきた。そして合い鍵を使ってドアを開けると、そこには……

*   *   *

「(……どこまで行く気でしょう)」
 デネブ30は内心でそう思った。今彼女は、『謎の男』の後を付けているところである。
 ワルター伯爵にいろいろと入れ知恵をしていた謎の男は、今朝早くラクハムにある伯爵の別邸を出て、東へ向かって歩いていた。
 このまま行くと、ワルター伯爵領を出てしまうだろう。
 これまでの調査でも、まるで正体が掴めなかった謎の男。第5列(クインタ)の能力を考えればこれは驚くべき事だった。
 いや、それ以上に驚異的なのは男の移動速度かもしれない。普通の人間に出せる速度ではないのだ。
 2時間で60キロ以上を踏破している。つまり時速30キロ以上。マラソンの1.5倍以上という速さである。
 しかも向かっているのは都市部ではない。ワルター伯爵領ラクハムと隣接する街、ノワサ、リーインとのちょうど中間あたり、最も人のいない地域を進んでいた。
 当然、道らしい道はなく、岩場あり、森あり、荒れ地ありという悪条件での時速30キロ。これは人間業ではなかった。
 謎の男は、デネブ29と30の調査によってもその正体がわからなかった事からすると人間ではないのかもしれない、とデネブ30は追跡前に老君へ報告していたが、それが真実になりそうだった。

*   *   *

「旦那様!」
 ベッドの上で苦しげにあえぐ主人を見つけて執事長は狼狽気味に叫んだ。そしてそばにいた侍女に急いで指示を出す。
「ものすごい熱! 治癒師を! 治癒師を呼びなさい!」
「は、はいっ!」
 侍女は大急ぎで部屋を飛び出していった。

*   *   *

 謎の男と、それを尾行するデネブ30はシャマ大湿原のほとりまで来てしまっていた。
 ここまでの所用時間は約3時間、とんでもない速さだ。
 足元がぬかるみ始めた、その場所で、謎の男は初めて立ち止まった。そしてゆっくりと振り返る。
 初めて男の顔がはっきりと見えた。20代中頃と思われる整った顔。だがどこか人間離れしたところも感じられる。冷血動物といった雰囲気と言えば近いだろうか。
 身長は190センチくらいの長身、やや細めだが引き締まっている。武道家的な体形だ。
 そういった細部の特徴がようやくはっきりわかるようになったということは、今まで謎の男は第5列(クインタ)にも気取られないような擬装をしていたということになる。
「こんな所までご苦労なことだな」
 そしてその視線は、消身(ステルス)を発動させているデネブ30をはっきりと捉えていた。

*   *   *

「…………」
 呼ばれてきた治癒師は難しい顔をしてワルター伯爵を一通り診察し、それが終わると執事長に一言。
「手遅れです」
「えっ!?」
「もう息が止まっています。どんなに強力な魔法や薬でも生き返らせることはできません」
「そんな!」
「……旦那様……」
 ワルター伯爵、享年41歳。あっけない幕切れであった。

*   *   *

「何者ですか、あなた?」
 消身(ステルス)を解き、姿を現したデネブ30が謎の男に向かってそう尋ねた。
「貴様こそ何だ? その身体能力、人間では無かろう?」
「同じ事をそっくりあなたに言わせてもらいます」
「ふん、話す気はないか」
 睨み合う1人と1体。
 そのまま膠着状態が続くかと思われたが、じれたのか先に動いたのは謎の男の方であった。今までよりも更に速度が上がっている。
 しかもどこに隠していたのか、短剣がその手に光っていた。
「!」
 それを回避しようとしたデネブ30であるが、地面が軟らかかったためか、足を取られて僅かに初動が遅れる。そして男にとってはそれで十分だった。
 キイン、という甲高い金属音がし、デネブ30の右腕に短剣が食い込んでいた。
 第5列(クインタ)の骨格は軽銀。その軽銀で作られた腕の中程まで、短剣が食い込んだのである。
「貴様、ゴーレム……いや、自動人形(オートマタ)だったのか!」
 軽銀は粘りがあり、デネブ30が瞬時に腕を引き戻したので、短剣はそのままデネブ30の腕に食い込んだまま男の手から奪い取られる形になった。
「貴様のような自動人形(オートマタ)を作れる者がこの時代にもいるとはな。……貴様を作った者の名前は何と言う?」
「私がそれを教えると?」
 右腕から短剣を引き抜いたデネブ30は、それを左手で構えながら男を睨み付けた。右腕は魔法筋肉(マジカルマッスル)を半分以上断ち切られて使い物にならない。
「ふん、貴様等はいつもそうだ。製作者に無限の忠誠を誓いやがる。……だが!」
 男は懐から、太陽の光を受けて水色に輝く宝石を取りだした。そして。
「『Divieniunschiavo』」
 聞いた事のない魔法を行使。その波動はデネブ30を貫いたように見えた。
「……ふん、手間をかけさせおって。自動人形(オートマタ)、貴様の名前と貴様を作った者を教えろ」
 勝ち誇ったようにデネブ30に命令する謎の男。だが、次の瞬間、その目は驚愕に見開かれることになる。
「お断りします」
 デネブ30が何も変わらない態度で男に対したからだ。
「き、貴様は……いったい何なのだ? 俺の奴隷化に従わないとは!」
「答える義務はありません」
「……そうか。ならば貴様をばらばらに解体し、その制御核(コントロールコア)を引きずり出して直接聞いてやろう!」
 男は再び手にした宝石を突き出し、
「『Distruzione』!」
 破壊魔法を放つ。その波動を受けた泥が爆散した。まともに受けたらデネブ30といえどもただでは済まなかっただろうが、今度は足元を十分把握していたデネブ30、間一髪で避けた。
「エルラドライトですか、厄介ですね」
「貴様! そんな事まで知っているのか!」
 再び動きを止め、対峙する1人と1体。再び静寂が支配し……。
「……貴様の主人は相当な者らしいな、それは認めよう」
 悔しげに男が呟いた。
「どうだ、取引をしよう。貴様はこれ以上俺を付け回さない。代わりに俺は一つだけ、貴様の質問に答える。……どうだ?」
 デネブ30は無言。だが、その実は内蔵された魔素通信機(マナカム)で老君と情報をやり取りしていたのである。
(『その短剣に男の魔力が残留していますか?』)
(「はい」)
(『ならば結構。魔力探知機(マギレーダー)で位置を特定できます。その条件を呑みなさい』)
 そんなやり取りのあと、デネブ30は男に返答した。
「わかりました。その条件を呑みましょう。ただし、私の腕を傷付けたのですから、この短剣はいただいておきます」
 デネブ30がそう告げると、男は悔しそうに顔を顰めた。
「く……仕方ない。なんでも1つ、質問するがいい」
 質問の内容は老君からの指示で既に決まっている。
「それでは。……ワルター伯爵の所でのあなたの目的は何だったのですか?」
 その質問をきいた男はまたしても目を丸くする。
「……ほう。そう尋ねてくるか。てっきり、何者か、と質問されると思っていたのだがな」
「余計な事は言わなくてもいいので質問に答えて下さい」
「……わかった。俺が奴の所にいたのはだな、単なる道楽だ。嘘ではないぞ」
「……道楽で伝染病をまき散らしたというのですか!」
 今度もまた男は驚いた。
「……本当に、貴様と貴様の主人は何者なのだ? ……質問は一つだけと言ったはずだが、その慧眼に敬意を表して答えてやろう。『そのとおりだ』とな」
 男はエルラドライトを懐にしまうと、大きく跳躍した。一跳びで湿原の中に飛び込む。
「ははは、なかなか楽しかった。しかし、相変わらず人間は弱いものだな。だが、貴様に免じて、俺の名前を教えてやろう。俺の名は『ラルドゥス』。『諧謔(かいぎゃく)のラルドゥス』だ」
 ラルドゥスと名乗った男は、軟らかい泥炭層に足を取られることなく再度大きく跳躍。そうしてシャマ大湿原の彼方へと消えていったのである。
 ついに**が登場。
 そしてあっさり伯爵退場……ネチネチじゃなくこういうあっさり系の因果応報も。
 本音は仁たちに手を汚させたくなかったという。

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