挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

11 ショウロ皇国とカイナ村篇

335/1503

11-37 望郷

 参考資料3(図面)に、二堂城の設定図面を載せてみました。
 宴会は、深夜になる前に和やかに終了した。
 歩けない程に酔っぱらう者は村にはいない。みんな、歩いて家へと帰っていった。
 もちろん、村の要所には灯りを持ったゴーレム達が配置され、足元を照らしていたのは言うまでもない。

 リシアとパスコーは仁自ら2階の客間に案内した。
「うわあ、これがジンさんのお国式なんですね!」
 と、畳に感激するリシア。
「んー! なんだかいい香りです!」
 リシアもイグサもどきの香りが気に入ったようである。
 一方、パスコーは板張りにベッドの部屋に案内したので、特に感じることはなかったようだが、魔絹(マギシルク)の布団には驚いていたようだ。

*   *   *

「みんな、ごくろうさま」
 ようやく落ちついた仁は、いろいろと手伝ってくれたエルザ、ミーネに声をかけた。
「ううん、私はたいして手伝ってない」
「ジン様、私は雇われている身ですから」
 エルザとミーネはかぶりを振る。
 一方、ハンナはすやすやと眠ってしまっていた。
「ジン、起こすのも可哀想だからハンナはこっちに泊めてやっとくれ」
 マーサがそう言って帰って行ったので、仁は近くにいたルビー101に言って、5階にある自分の寝室に2人分布団を敷かせることにした。
「わかりました」
 そう答えて布団を敷きに行くルビー101。
「ああ、そうだ、ベーレ」
 仁は後片付けを終えて戻ってきたベーレを呼び止める。
「君たちも今夜からこの城で寝泊まりしてくれ」
 今までは仁の家に間借りしているような形だったのである。
「部屋は2階だ。ちゃんと一部屋ずつあるから」
「……ええ? お部屋いただけるんですか?」
 眠っているハンナを気遣って、ベーレは小声で驚いていた。
「ああ。バトラーBに聞いてくれ。バトラーB、頼んだ」
「承りました」
「ああ、ちょうどバロウも戻ってきたな」
 こうしてベーレとバロウは、バトラーBに先導されて2階へと上っていった。
「……」
 そんな中、エルザが何か言いたげに見つめているのに気が付く仁。
「うん? エルザ、どうした?」
 するとエルザはおずおずと口を開いた。
「……ジン兄、私も泊まってみたい」
 エルザは畳に布団という組み合わせが大好きなのだ。それを知っている仁は少し苦笑いしながらも頷く。
「ああ、いいよ。それじゃあ和室の一つに泊まってもらおうか」
「ううん、ハンナちゃんと一緒がいい」
「一緒って……俺の部屋だぞ」
「あ」
 その意味に気が付いて、さすがのエルザも少し頬を赤らめた。
「うーん、でもわかったよ。ハンナとエルザは5階の居間に寝てもらおう」
「ありがとう」
 希望が入れられたエルザは顔を綻ばせた。
「母さま、私は今夜、こっちに泊めてもらうから」
「はいはい、わかりましたよ。……ジン様、それじゃあエルザをお願いしますね」
 簡単なやり取りでミーネもOKを出した。それだけ仁は信頼されているのだろう。
「じゃあもう行こうか」
「ん」
 仁は礼子にハンナを抱き上げてもらい、エルザを引き連れて階段を登った。
 5階まではかなりあるが、エルザはあまり息を切らしていない。一方仁は少し息が切れてしまっていた。
(隠しエレベーターを付けてもらって正解だったな……)
 おおっぴらには使えないが、老君が急遽エレベーターを心柱の中に設置してくれたことを内心感謝する仁であった。
「ジン様。エルザ様もいらっしゃったのですか」
 ルビー101もちょうど布団を敷き終えた所だった。
「悪いな、エルザも泊まる事になったから、居間に2組、俺の寝室は1組でいいや」
「はい、わかりました」
 既に敷いてあった布団は、両端を持って移動。
 そっとハンナを寝かせる。そしてエルザ用に新たに1組敷けば終了だ。
「ごくろうさん。今日はもう待機してくれていいぞ」
「はい、お休みなさいませ」
 ルビー101はそう挨拶して階下へ下りていった。
「バトラーC、お前も今夜は下で待機していいぞ。こっちには礼子がいるから」
「はい」
「それじゃあエルザ、ハンナをよろしくな。トイレと洗面所は北側にあるから」
「ん。任せて」
「礼子も気にしておいてくれ」
「はい、お父さま」
 もうハンナもおねしょとかはしないと思うが、夜中にトイレの場所がわからないとか、寝ぼけて階段から落ちたりしては大変だ。
 まして今夜はジュースをかなり飲んでいることだし、と仁が心配したのも無理は無い。
 エルザとハンナが寝る居間と、仁の寝室は襖で隔てられている完全和風だ。
「……そうだエルザ、寝る前にちょっと来てみるか?」
「?」
 仁はエルザを手招きし、6階へと誘った。
 狭く急な階段を登れば6階、つまり二堂城の最上階だ。10メートル四方くらいの正方形の部屋で、中心に太い丸柱が通っている。
 いや、それよりも重要なのは、四方に大きく窓が開けられ、テラスが設けられていることだ。
「わあ」
 外は真っ暗、一面の星空である。見下ろせば点々と家々の灯り。
「明るかったらきっといい眺め」
「ああ。明日の朝も来てみるといい」
 そこで言葉を切った仁。静寂の時が流れる。
「……」
 そして仁は再び口を開いた。
「……皇帝陛下にお会いしたよ」
「!」
 エルザの肩がぴくんと震えた。更に仁は続ける。
「親しげに言葉を掛けてくれた。資料室にも自ら案内してくれた」
「……そう」
 エルザは星空を眺めたまま短く答えた。
「……帰りたいか?」
 そして、仁は一番聞いてみなければならないと思った事を口にした。
「……え?」
 その言葉に、エルザは仁の方を見た。その仁は笑っているようでもあり、辛そうでもある、そんな表情を浮かべていた。
「……ベルチェさんとも会ったよ。ラインハルトと仲が良さそうだった」
「…………」
 エルザは無言のまま何かを考えているかのように俯いていた。
「ここはすごくいい所。……みんな優しい。母さまとも一緒」
 少しの沈黙の後、ぽつりぽつりとエルザは言葉を紡ぎ始めた。
「……でもショウロ皇国は私が育った国。……実家もある」
 再び星空を見つめながら一言一言自分に言い聞かせるように、エルザは言葉を口にしていく。
「自分の家。自分の部屋。懐かしくないとは言わない」
 そしてエルザは再び仁を見つめた。その目には零れそうなほどに涙が湛えられていた。
「父さまは苦手だけど……。少しだけど友達もいた。……帰ってみたくないと言ったら嘘に……なる」
 そう言って言葉を詰まらせたエルザの頭を、仁は優しく撫でた。
「……ジン、兄?」
 頭を撫でられたエルザは少し頬を染め、きょとんとした顔で仁を見つめる。
「あ、ごめん、つい」
 仁はそう詫びると頭を撫でていた手を放す。そして一言。
「きっといつか、エルザが大手を振って故郷に行けるようにしてやるから」
「……うん」
 エルザは一言そう呟いて、仁の肩に頭を乗せた。
 ああ、泣かせてしまった……

 お読みいただきありがとうございます。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ