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マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

11 ショウロ皇国とカイナ村篇

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11-30 リシア・もう少しでカイナ村

 5月13日、仁がショウロ皇国の首都ロイザートに到着した日、リシアとパスコーはシャルル町に着いていた。
「あと僅かでカイナ村です。まずトカ村に泊まり、夜明け前に発って馬を急がせれば夜になる前にカイナ村に着けますよ」
「リシアさんは一度行ってるんですよね、カイナ村」
「ええ、昨年秋、徴税官として」

 クライン王国の税制はやや特殊である。
 基本的に国民は、国に対して税を納める。それは麦であったり、鉱石であったり、お金であったりするが。
 そして国はその税の中から貴族に俸給を払うのである。
 これは、新貴族や騎士、それに領地を持たない貴族がいるためである。
 そして領地を持つ貴族は、領地の広さに応じた俸給をもらっている。だからカイナ村を召し上げられたワルター伯爵はその分俸給が減っているわけだ。
 が、裏を返せば国が定めた税以外は領地からは出ていかないと言うことになる。
 つまり、新たに開墾した土地から得られる収穫や鉱山からの収入の大部分は領主のものということだ。
 その鉱石は国が買い上げてくれる。ゆえにワルター伯爵の懐具合はかなり温かかった。塩の一件までは。
 先のイナド鉱山はまさにこれにあたり、強制労働犯罪者の一件が中央に知られずに済んだのはこのためである。

「あの時は統一党(ユニファイラー)のゴーレムに襲われて大変でした」
 リシアは腰の剣を撫でながらそう言った。
「そうですってね。でもリシアさんが撃退したんでしょう?」
 存在を隠すため、仁に乞われてそう言うことにしていたため、パスコー・ラッシュはそう言う認識でいた。
「いえ、本当は、ジンさんが撃退してくれたんです」
 が、もう隠す必要もない。首脳陣はとっくに知っていることでもある。
「ほ、本当ですか!? 魔法工作士(マギクラフトマン)が? どうやって?」
 パスコーとしては信じがたい内容であった。
「あの時は水魔法でゴーレムを斬り裂いていましたね」
「それこそどうやって……」
 ますます訳がわからない。パスコーも魔法は使える。彼は風系統で、中でも『風の刃(ウインドカッター)』が得意であった。
 その風魔法ですら、金属製のゴーレムを斬り裂いたなどという話は聞いたことがない。
「『水流の刃(ウォータージェット)』とジンさんはよんでましたっけね」
水流の刃(ウォータージェット)ですか? ……聞いた事無いですね……」
 どうやら仁が普通の魔法工作士(マギクラフトマン)ではないことを薄々感じ始めたパスコーであった。

 暗くなるにはまだ少し時間があったので、リシアは1人、町を見物しに行く。と、ある店の前に人だかりが。
 何事かと聞き耳を立ててみれば、塩の値段が高すぎる、という揉め事であった。
「……おかしいですね、塩の備蓄は十分だと聞いていたのですが」
 救護騎士隊としては、兵士たちの健康管理もすることがある。その際、やはり塩分不足は由々しき問題であるため、在庫管理、確認などもしていたのである。
 今年、クライン王国の塩は十分な在庫があり、必要量を放出している筈であった。
「誰かが不当な買い占めをしているんでしょうか」
 が、幾ら考えても、このあたりで塩を買い占める理由がない。普通に塩は流通していたし、それを買い占めたところで、大きな利益が見込めるわけでもない。
 むしろ住民を苦しめるだけである。そして領主や国に対しての不満が高まるだけだ。
「まさか、それが目的?」
 等と思うリシアであったが、それこそ意味がわからないと、その考えを頭から追いやり、宿へと帰るのであった。

 翌14日、早立ちをした2人は、馬を急がせ、夕方、日没前になんとかトカ村に到着できた。
 ここには兵の宿舎がある。リシアとパスコーはそこへ泊まった。
 暗くなる前に、リシアは連れている伝書鳩に餌と水をやる。
「あら、可愛い」
 リシアの声。その日、2羽の鳩は丸々と膨らんだ姿をしていたからだ。
「寒いのかしら」
 寒い時、鳥は羽毛を膨らませて羽根の間に空気を蓄え、断熱して寒さから身を守る。ちょうどそんな感じに2羽の鳩は羽根を膨らませていたのである。
「少しご飯たくさん上げようかしらね」
 そう呟いて、リシアは少し多めに餌を与えるのであった。
 そして手を洗い、今度は自分たちの食事である。兵隊用の簡素な食事。はっきり言って美味いものではないが、戦場を経験しているリシアとパスコーは何も気にならなかった。
 その時、駐在する兵士たちから気になる情報を聞いた。
 この村でも塩が不足しているというのである。謎の男や兵士たちが買い占めているらしい。
「そういえば、ドッパやラクノーでもそんな声を聞きましたよ」
 パスコーが言う。リシアは聞かなかったが、パスコーが嘘を言っていないという事は直観的にわかった。
「おかしいですね。……カイナ村に着き次第、鳩を飛ばしましょう」
 リシアは兵に、そう請け合ったのである。王国首脳に連絡すれば、何らかの対策はしてもらえるだろう。
「しかし、途中、ドッパとラクノーの間にある細い岩場、凄かったですね」
 雰囲気が暗くなったので、パスコーが違う話題を振った。
 細い岩場とは蓬莱島のゴーレム達が崖崩れを直した箇所のことである。
「ええ。私が以前通った時はもっと荒れっぽい岩場でしたけど、今日通ったらきれいになってましたからね。懐古党(ノスタルギア)、でしたっけ、本当にいい仕事してますね」
 崩れそうな岩を全て片付け、石を組み魔法で硬化(ハードニング)まで掛けてあったからだ。
懐古党(ノスタルギア)、か。デウス・エクス・マキナとかいう謎の人物と繋がりがあるのかな」
 そんな、半ば独り言のようなパスコーの言葉を聞きながら、リシアは、仁との繋がりはあるのだろうか、とぼんやり考えていた。

 そして15日未明。リシアとパスコーはトカ村を出発した。その日のうちにカイナ村に着くためである。
 2人が乗る馬はかなり良い馬だったし、荷物運搬用のもう1頭もまだまだ元気だった。
 空にはまだ星が見えていた。
 道を進んでいくうちにその星も見えなくなる。そして東の空が明るくなり、日が昇ってきた。
「今日もお天気は良さそうですね」
 夜が明けきった頃、2人は岩場を抜けていた。以前ゴーレムに襲われたあの岩場である。
「あの橋を渡ると山道です」
 リシアがパスコーに説明。
「なら、そこの川で馬に水を飲ませてやりましょう」
「そうですね」
 トカ村を出てかれこれ2時間あまり。休憩にはちょうど良い。2人は水辺へ馬を導き、飲みたいだけ飲ませてやった。
 自分たちも携帯食料を食べる。内容は乾パンと干し肉。水がないとなかなか喉を通らないものだが、水はたっぷり持ってきているので問題無い。
 15分くらいで再度出発となる。
 もう日が昇り、気温も上がって温かくなる。ふとリシアが思い出して、鞍の後ろに着けている鳥かごを見ると、2羽の鳩はまだ少し羽根を膨らませていた。
「もうじき暖かくなるからね」
 そう声を掛けたリシアは馬を急がせる。
 登りにさしかかればおのずとペースは落ちるから、その前に距離を稼いでおくつもりだ。
 パスコーもその辺は分かっているようで、荷運びの馬を引き連れて後を追った。
「リシアさん、慣れてるな……」
 パスコーとしては、馬を並ばせて進みたかったのだが、道幅の関係でやめておいた。
 途中、行商人が下ってきた。向こうは荷馬車のため、すれ違いもギリギリ。やはり並走は止めておいて良かった、とパスコーは心の中で思った。
 行商人はリシアを見て何か言いかけたようだったが、その時リシアは俯いていたので、結局何も言葉を交わすことなく2者はすれ違っていったのである。
 そして山道は九十九折りになり、馬が大汗をかき始めた頃、ようやく傾斜は緩み、休憩舎に付いた。ちょうど時刻も昼。
「何とか予定どおり着きましたね。ではここで休みましょう」
 そう言ったリシアの顔は少し赤く火照り、息も荒かった。
「リシアさん? 調子悪いのではないですか?」
 それを心配してパスコーが尋ねると、リシアは首を振った。
「いえ、大丈夫です。ちょっと疲れただけです」
 そう言って、水場へ行き、顔と手を洗った。パスコーも続き、最後に馬たちにも水を飲ませる。
 それから2人は昼食。朝と同じく、乾パンと干し肉である。
 空腹だったパスコーはあっと言う間に平らげたが、リシアは食欲がないようで、いつまでももそもそ噛んでいる。
「リシアさん、大丈夫ですか?」
 パスコーがそう言うと、リシアははっとして顔を上げる。
「だ、大丈夫です。ただちょっと食欲が無くて」
「そういう時は無理に食べない方がいいんじゃないですか?」
 とパスコーが言えば、そうですね、と頷いたリシアは、口の中の肉を無理矢理水で飲み込むと、残りは袋に戻したのである。
「さあ、あと少し頑張ればカイナ村です。そこでゆっくり休ませてもらいます」
「そうしましょう」
 パスコーはリシアが無理をしているようで心配だったが、いずれにせよカイナ村に着かねば何もできない、と思い、今は何も言わないでおくのだった。

 馬は周辺の草を食べ、汗も引いていたようなので、もう少しペースを上げる事にした。
 道はもう急な坂はなく、トーゴ峠まで行けば後は下りである。
 今のペースでなら、カイナ村には4時半頃には着けそうであった。
 後ろからついていくパスコー。その目から見たリシアはかなり辛そうである。
 いつもはぴんと伸びている背筋も丸まっており、いかにも具合が悪そうだ。
 治癒魔法の使い手であるリシアなのに、と思わないでもないが、怪我を治すのと病気を治すのではかなり違いがあるのだ。
 言わば怪我を治すのは外科で、病気を治すのは内科である。
 リシアは外科、つまり怪我を治すことには精通していたが、病気を治すことは不得手であった。
「リシアさん、もうすこしですから頑張って下さい」
 ますます調子が悪くなったように見えるリシアを気遣うことしかできないパスコー。
 だが何とかトーゴ峠まで登り着く事ができた。予定より30分遅れであるが、まだ十分時間はある。
 あとは下るだけだ。
 2人の目の前にはエルメ川が見えていた。
 リシア、大丈夫でしょうか。そして病名は?

 お読みいただきありがとうございます。

 20151130 修正
(誤)リシアは少し大目に餌を与えるのであった
(正)リシアは少し多めに餌を与えるのであった
+注意+
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