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マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

11 ショウロ皇国とカイナ村篇

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11-22 大使リシア

 あけましておめでとうございます。2014年初投稿です。
 5月12日。
 まだ塩があちらこちらで買い占められている頃である。
 リシア・ファールハイトとパスコー・ラッシュの2人はラクハムの町に到着していた。
 期日が決められているわけではないので若干スローペースである。
 よい馬なら、プレソスからならシャルル町まで行くこともできるのだから。
「リシアさん、今日はここで泊まりますか?」
 パスコー・ラッシュがリシアにそう尋ねた。彼はラッシュ男爵家3男で20歳。体格は普通だ。金髪で青い瞳だから美男といえそうなのだが、下がった目尻が全てをぶち壊していた。
 が、逆に言えば親しみやすいとも言えるその顔は、意外と女性騎士や女性兵士、侍女たちに受け入れられ、人気があったのである。
 しかし彼がより親しくしたいと思う女性は1人だけ。何を隠そう、目の前のリシア・ファールハイトだけなのである。
「そうですね。聞いたところによりますと、ワルター伯爵が今現在こちらに滞在中らしいです。御挨拶していきましょう」
「え……」
 パスコー・ラッシュは出立前に、ワルター伯爵が何かをやらかして、領地の一部を租借地とされたと聞いていた。
 だから、そこへ大使として向かうリシアが、伯爵にどんな感情を持って迎えられるか、心配になったのである。
 守ってやりたくても、自分は男爵家、しかも3男。伯爵に太刀打ちできるわけもない。
「あまり、僕としてはお薦めできませんが」
 パスコーの方が年上であるが、役目上はリシアの方が上。ましてや想いを寄せる女性であるから、パスコーはどこまでも低姿勢であった。
 だが当のリシアはそんな事には頓着していないようで、ラクハムにある伯爵の別荘に馬を向けていた。
「大丈夫ですよ、同じクライン王国に仕える貴族じゃないですか」
「……」
 心配性なパスコーに対し、リシアはそう言い切るのであった。

「よく来られた、ファールハイト殿、ラッシュ殿」
 が、パスコーの予想に反して、ワルター伯爵は上機嫌で2人を迎えたのである。少なくとも表面上は。
「お久しぶりでございます、伯爵。この度、ジン殿の租借地カイナ村へ、クライン王国大使として向かう事になりました」
 カイナ村の名前が出た時に、伯爵の口の端がわずかに歪んだが、リシアもパスコーもそれには気づかなかった。
「それは大役を仰せつかったもの。別荘故大したもてなしはできぬが、本日はここに泊まっていかれよ」
 笑顔でそう言うワルター伯爵。リシアは素直にその好意を受け入れることにしたのである。
「馬は厩に、荷物は執事に預けるがよい」
 そう言われたので、手荷物を除いて、公用の荷物は全て預かってもらう。公文書などは封がされているから、弄られればすぐに分かるし、まさか伯爵が、という思いもあった。
 馬は3頭、リシア、パスコーの騎乗用と、荷物運搬用である。これは厩へ預け、まぐさと水をたっぷり与えて貰う事になった。
「あ、この子にはこの餌とお水をお願いします」
 最後に、連絡用の伝書鳩2羽を頼んだ。2羽のうち1羽は、到着してカイナ村が平穏無事かどうかの調査結果を報告するためのもの。そして、もう1羽は緊急連絡用であった。
 軍用の伝書鳩2羽を持たされていると言うことは、この役目が重要という事である。
「はい、お任せください」
 執事は自分も鳩の世話はしたことがある、と言って快く引き受けてくれた。リシアもそれで安心したのである。

 部屋はリシアとパスコーそれぞれ別々の個室。
 自分の部屋に入ったリシアは、この役目をもう一度思い返してみた。

『クライン王国としては、優秀どころではない、超優秀な魔法工作士(マギクラフトマン)、ジンを繋ぎ止めておきたい。
 そして、時々でよいから、国の利益になるような道具・魔導具を供給してもらいたい。
 そのためには、機嫌を損ねないようにしなければならない。
 故にカイナ村における大使としてのリシアの役割は、ジンの機嫌を取ること、これに尽きる』

 外務次官から懇々と諭された内容である。
『場合によってはその身を以てジンを繋ぎ止めよ』
 とまでは言われなかったが、それを示唆するような指示は受けた。
「ジン、さん……」
 自分が仁に対して持つ印象では、仁はそういうことを嫌うと思う。というか、小賢しい策略を嫌うと思っている。
 かつての教官、グロリア・オールスタットと話をして、更に確信を深めた。
 彼と付き合うには、純粋な友情、それが一番良い絆だと思える。
 だがそれは自分の直感・推測に過ぎず、確実ではない。
 故にリシアは、クライン王国のためには、自分の直感と上司からの指示、どちらを優先するのが良いのか、決めかねていた。

*   *   *

「ファールハイトの小娘が大使だそうだ」
「ほう、それはそれは」
「癪に障るが、それだけで邪魔をする訳にはいかん」
「まあそうですな。ところで、鳩を2羽連れているとか」
「ん? 耳が早いな。その通りだが」
「……面白い実験があるのですが、やってもよろしいか?」
「内容は?」
「……教えられません。上手くいけば、貴殿の溜飲も少しは下がるかと思いますよ」
「ふん、まあいい。別に貴様が勝手にやるのを止めはしない」
「はは、賢明ですな」

 その会話を第5列(クインタ)、デネブ29は聞いていたが、謎の男が何をやるつもりなのかは分からなかった。
 なので会話の内容をそのまま老君に伝えた。
『確かに、その会話だけでは見当が付きませんね。鳩に関する何かであるというくらいで』
「はい」
『彼女が連れている鳩をすり替えられたり傷付けられたりしないように気を配っていてください』
「わかりました」
『そして、その謎の男は何者でしょう?』
「分かりかねます。フード付きのローブを纏っていて、顔が見えません。声と体格から、辛うじて壮年の男であることが分かるのみです」
『引き続きその男の正体究明も行いなさい』
「はい、わかりました」
『手が足りないようならもう1体第5列(クインタ)を送ります』
「はい、そうしていただければ助かります」
『では……デネブ30の手が空いています、彼女を送りましょう』

*   *   *

 翌朝、リシアとパスコーは豪華な朝食を食べ、ラクハムをゆっくりと出発した。
 伯爵も見送りに出、上辺はにこやかに2人を見送ったのである。
 リシアは鞍の後ろに付けた伝書鳩の籠を見やる。
 2羽の鳩は籠の中でおとなしくしていた。特に変わった様子は見られない。
 荷物も、封印が解かれたような形跡もなく、無事である。
「あまり人を疑うのも良くないですね」
「はい……」
「伯爵も、ジンさんを疑って王国から追い出す結果になったことを後悔してらっしゃるようですよ。昨日そう仰ってました」
「伯爵が、ですか?」
 パスコーとしてはその言葉をそのまま信じることはできなかった。生まれた時からの貴族である彼は、良くも悪くも、貴族という人種の闇を理解していたのである。
 そしてその懸念は思わぬ形で的中することになる。
「塩の買い占め、ですか?」
 訪れたシャルル町では、謎の男達に塩が買い占められ、値段が跳ね上がっているということだった。
 料理にはほぼ例外なく塩を使う。よって、食堂などは仕方なく値段を上げるところが多かった。
「伯爵は何もしないのですか?」
 このあたりはワルター伯爵の領地である。その領民が困っているなら何とかするのが領主の役割であろう。まして今は隣のラクハムに滞在しているというのに。
 まさかリシアは、そしてパスコーも、この塩の買い占めをワルター伯爵が主導しているとまでは考えなかったのである。
「はい、何も」
「……ひどいですね。何かして差し上げられればいいのですが」
「リシアさん、我々にはお役目があります。優先順位を間違えてはいけません」
 あくまでも貴族的な考え方でリシアに忠告するパスコー。が、貴族としては正論である。
「そう、ですね……」
 何もできないことを悔しがるリシア。
「こんなとき、もし、ジンさんだったら……」
 ついつい、仁なら何とかしてくれるのではないか、と根拠もないのにそんな思いも浮かんできてしまう。
 カイナ村で仁に会ったら相談してみよう、そう密かに心に決めるリシアであった。
 まだ老君は塩を放出していません。あと1日2日してからです。

 お読みいただきありがとうございます。
 本年もよろしくお願いいたします。

 20140105 14時52分 誤記修正
(誤)ワルター伯爵が何をやらかして
(正)ワルター伯爵が何かをやらかして

 同 16時56分 誤記修正
(誤)懸命
(正)賢明
+注意+
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