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マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

11 ショウロ皇国とカイナ村篇

309/1509

11-11 夜中の作業

 ショウロ皇国に入ってからというもの、仁たちの旅は平穏無事に過ぎていった。
 バンムを過ぎ、ボルトロの町で1泊。
 ダンガの町を通り、デンザナで1泊。
 ディバイド川を渡し船で渡って、今日7日はバニュウの町に泊まっていた。
「いやあ、何事も無いというのはいいものだなあ」
 ラインハルトがしみじみとそう言った。
 今は仁、ラインハルト、マテウスの3人で、宿のベランダにあるベンチに座って寛いでいるところだ。ディバイド川の川面も見える。
 春の日は暮れるのが遅く、夕方と言うのにまだまだ明るい。
 そしてそれぞれの前には、ショウロ皇国特産、エアベールのジュースが。
 ジュースになっているので仁にも元の果物は分からなかったが、味は完全にイチゴである。
「あー、懐かしい味だ。……ジン、このエアベールというやつは、国内のあちこちに生えていてね。子供は良く摘んできて生で食べたりジュースにしたりするんだよ。もちろん栽培もされていて、これは栽培されたものの味だな」
 ラインハルトは故郷の味にご満悦だ。仁は、エルザやハンナへのお土産にいいな、等と考えていた。
「そうだな。ラインハルト。お前と俺が裏山にエアベールを採りに行こうとすると、エルザ嬢も良く付いてきたっけな」
 マテウスの懐かしそうな声音。ラインハルトも頷いた。
「ああ。3人で良く採りに行ったな。エルザの奴、自分だけ採れたエアベールが少ないと言って泣きべそかいたこともあったっけ」
 エルザが聞いたら赤面しそうな内容の話である。
 気怠いような春の夕暮れであった。

*   *   *

「おかしいな、予定日を過ぎているのに」
 カイナ村では、前回つまり4月中頃に来たローランドが、次は5月上旬に来ます、と言っていたはずなのにまだ来ないことに村長ギーベックが疑念を抱いていた。その隣ではバーバラがやきもきしている。
「ロック、ジェフ、デイブ、ハワード、リックも戻らないというのもおかしい。何かあったんじゃないだろうか?」
 そこへ、仁が代理として置いていったゴーレム、バトラーAがやってきた。
「村長様、おじゃまいたします」
 もうその外見にも慣れ、ギーベックは普通にやり取りしている。
「Aか、なにかあったのかね?」
 バトラーAと呼ぶのが面倒なため、村人たちには親しみを込めて単にエーと呼ばれていた。
「はい、なんでも、街道の途中で崖崩れがあったようです。それで徴兵された方々が帰れなかったようです」
「何と! どこからの情報か、は聞かんが、確かなんだろうね?」
「それはもちろん」
 困り顔で考え込むギーベック。一方バーバラはというと、
「叔父様、考える事なんてないじゃないの! その崖崩れを片付けちゃえばいいのよ!」
 と威勢のいい声を出した。
「おいおい、場所も規模もわからないのに人が出せるか」
「あら、Aなら知ってるわよね?」
「はい」
 バーバラの冷静な判断に、ギーベックはちょっと照れて頭を掻いた。
「うーむ、気が動転して聞くのを忘れていた。で、どこなんだ?」
「はい、ドッパとラクノーの間だそうです」
「よし、ゴンとゲン、それにゴーレム馬のアインとツバイを出そう。参加するのは……」
「お待ち下さい」
 バトラーAがそれを止めた。
「なぜ止める?」
 あくまでもバトラーAは冷静な声で、
「『帰れなかったようです』、と私は過去形で申し上げました。今はもう開通しています」
「何だ、早くそう言ってよ!」
「はい、順を追って話そうと思いましたが、途中でいろいろと仰ったので……」
 これはバトラーAの話し方にも問題がある。結論を先に言った方が良かったのだ。
 また、常に冷静で、淡々と述べているため、途中で口を挟みやすいということもある。
「じゃあ、あと数日もしないうちにみんな戻ってくるな」
 とギーベック。そしてバーバラはといえば当然のセリフ。
「エリック……とローランドさんも来るわね」

*   *   *

 前日6日、蓬莱島。
(デネブ29からの追加報告によれば、崖崩れはやはりワルター伯爵の指示によるものらしい、ですか)
 老君は沈思黙考していた。
(但し物的証拠は無し……まだ行動を起こすには早いですね)
 老君としては仁に敵対する者は、完膚無きまでに叩き潰すつもりであった。それは物理的に限らず、社会的に、そして経済的に、という方法も含む。
(まずは、この意味のない嫌がらせを排除してしまいますか……これも懐古党(ノスタルギア)の名前で片付けてしまいましょう)
 数秒でそこまでの結論を出した老君は、急ぎエレナに連絡を付けた。
 折良く、エレナは手が空いていたので、1回の連絡で必要事項を全て伝えることができたのである。
『わかりました、何か聞かれましたら懐古党(ノスタルギア)がやったということにしておきますわ』

 これで根回しは終わり。人目の無くなった深夜に作業を行うことに決定する。
 そして深夜。月が中天に懸かり、その光は地上を薄ぼんやりと照らしている。人間には暗すぎるが、蓬莱島のゴーレム達には関係ない。
 場所は崖崩れの現場である。
 人知れず飛んできたコンドル1とペリカン3、それにラプター2。コンドル1にはダイダラが1体積んであった。
 ダイダラは、身長15メートル、体重8トンの巨大ゴーレムである。戦闘用のタイタンに比べ、重量は重く、動作も鈍いが、精密動作性は上。
 その最大出力は、なんと礼子の瞬間最大出力に匹敵する。まあ大きさで11.5倍、体重で267倍もあるのだから当然の値である。
 というか、瞬間にせよ、同じパワーが出せる礼子がとんでもないのか。

 閑話休題。
 まずは、コンドル1搭載の隠身(ハイド)機能を最大出力で起動する。
 隠身(ハイド)消身(ステルス)の下位魔法で、気配を消す効果しかない。が、周囲に誰もいない今、それで十分である。
 周囲に近づく者がいないかどうかは、ラプターでやって来た陸軍(アーミー)ゴーレムのランド21から24が警戒に当たる。
 このように下準備をした後、作業が始まった。
 ダイダラはその途轍もないパワーと精密動作で、岩を崩すことなく次々と片付けていく。置き場所に困ることはない。
 なぜならば、ペリカン3に搭載された『受け入れ側のいらない転移門(ワープゲート)』の試作機を使い、計算上は遙か南の海中に廃棄していく。
 そしてその廃棄される筈の海上付近には空軍(エアフォース)ゴーレムが多数展開しており、誤差を計測する手筈になっていた。
 つまり、実験を兼ねた運用なのである。そちらの結果はまずまず。最大誤差30メートルとの報告であった。
 このようにして、ダイダラと『受け入れ側のいらない転移門(ワープゲート)』の組み合わせは、わずか15分で街道を塞いだ岩を排除し終えたのである。
『ダイダラとコンドル1は帰還。スミス101から110は街道の整備に取りかかりなさい』
 老君は次の指令を出した。ラプター2に搭載された通常の転移門(ワープゲート)から10体の職人(スミス)ゴーレムが飛び出す。
『街道の整備、そして崩落箇所の土止めを』
 指示に従い、街道に散らばる細かい岩屑を片付け、崩落箇所には『融合(フュージョン)』を掛け、それ以上の崩壊を事実上止めた。
 岩により抉られた箇所には、散らばった岩屑を利用して埋め、全体に『硬化(ハードニング)』を掛け、丈夫にした。
『最後に、懐古党(ノスタルギア)の仕事である証を残していきましょう』
 老君はあらかじめ用意した金属のプレートを修復した岩壁に嵌め込んだ。それには、
「3457年5月7日 懐古党(ノスタルギア) 修復」
 と刻んである。
 懐古党(ノスタルギア)が蓬莱島の下部組織になりつつある今、全くのデタラメとも言えないだろう。
 それが済むと、全ゴーレム・全航空機は引き上げる。
 あとに残ったのは、きれいに修復された街道であった。

*   *   *

「お、お、お!? いったい何があった?」
 翌早朝、危険防止のため街道を封鎖している兵士が、見回りに来て驚きの声を上げた。
「夜中に一体何があったんだ!?」
懐古党(ノスタルギア)だって!?」
 ひとしきり混乱はあったが、その日の朝には通行が許可され、ロックたち5名は無事に通過。同日夕方にはトカ村、そしてその翌日には休憩舎に辿り着けたのである。
 そして、その様子は秘密裏に偵察に出ていたランドRとSが発見。
『ランドR報告。ロックさんら、徴兵された村人5名発見。無事です』
『老君受領。そのまま隠密裏に村まで警護せよ』
 というわけで彼等の帰村まで姿を見せずに警護していったため、9日午後には、全員無事カイナ村に帰り着いたのだった。
 ロックたちも無事戻りました。

 お読みいただきありがとうございます。

 20131217 13時51分 誤記修正
(誤)夜中に一帯何が
(正)夜中に一体何が

 20131218 11時40分 表記修正
(旧)カイナ村では、村長ギーベックが首をかしげていた。
(新)カイナ村では、前回つまり4月中頃に来たローランドが、次は5月上旬に来ます、と言っていたはずなのにまだ来ないことに村長ギーベックが疑念を抱いていた。
 ローランドのタイムスケジュールのメモが間違ってましたので修正します。

(旧)月が中天に懸かり、その光は地上を薄明るく照らしている。
(新)月が中天に懸かり、その光は地上を薄ぼんやりと照らしている。人間には暗すぎるが、蓬莱島のゴーレム達には関係ない。
 この世界の月は小さく、余程夜目の利く人でないと暗すぎるので、それに応じた描写にしました。

(旧)ロックたち5名は無事その日の夕方には休憩舎に辿り着けたのである。
(新)ロックたち5名は無事に通過。同日夕方にはトカ村、そしてその翌日には休憩舎に辿り着けたのである。
 ロック達がカイナ村へ帰る日程が1日おかしいので修正しました。
 同じ理由で、カイナ村に帰った日付を8日から9日に修正。

 20140105 14時50分 誤記修正
(誤)スピカ29
(正)デネブ29
+注意+
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