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マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

11 ショウロ皇国とカイナ村篇

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11-10 5極の動向

 セルロア王国側では厳しかったが、ショウロ皇国側でのチェックはあっけないほど簡単だった。
 それはそうだろう、自国の近衛部隊第3中隊隊長が一緒なのだから。
 無事、ショウロ皇国側の関所も通過した一行は、5分ほどそのまま進む。
 目の前には一風変わった街があった。ショウロ皇国側の国境の街、バンムである。
 その手前でラインハルトは馬車を降りた。仁も同じように降りてみる。
 そんな仁にラインハルトは手を差し出し、
「ようこそ、ショウロ皇国へ」
 と言った。いつだか、仁が『ようこそ、崑崙島へ』と言ったことを憶えていたらしい。
「よろしく、ラインハルト」
 仁もその手を握りかえし、どちらからともなく笑い出した。
 ショウロ皇国の空は青く澄んでいた。

*   *   *

「……崖崩れですって?」
 場所はドッパ村。20戸ほどの集落であるが、シャルル町とトカ村の間にあって、もう一つの村、ラクノーと共に、街道上の休憩・補給基地として役立っている。
 行商人の馬車が立ち往生していた。
 そこから5キロ程先で崖が崩れ、隘路を塞ぐように岩が積み重なってしまい、通行できなくなったというのである。
 その地点はこの街道において、多少の隘路になってはいたものの、ここ数年、いや、十数年、崖崩れなど起きたことがなかったのだ。
 とはいえ、現に起きてしまったのは仕方がない。
「開通はいつになるんでしょう?」
 二次災害が起きないようにと、一般人の立ち入りを監視するために派遣された兵士に聞いてみると、
「わからん。あれだけの岩をどかすには人手も足りないし、まだ崩れてくる可能性もある。今のところはいつまで、と確約はできん」
 との答えが返ってくる。
「そんな……」
 ラクノー村、トカ村、イナド鉱山、そしてカイナ村。時期的に塩などの生活必需品をはじめとして、香辛料、布、服等も必要になる時期である。
「ここにこうしていても仕方ない、一旦シャルル町まで引き返すとしよう」
「……そうですね、専務」
 ラグラン商会の外回り担当、ローランドともう1人、新人の商人は、来た道をまた戻っていくのであった。

*   *   *

 シャルル町を担当する第5列(クインタ)はデネブ2である。そしてカペラ2がラクハム、スピカ1がプレソスにいる。そして臨時ではあるが、ワルター伯爵専任として、デネブ29がいた。
 これらの街はカイナ村とクライン王国首都アルバンを結ぶ街道上の街であるから、仁も、もちろん老君も重要視していたのだ。
 ワルター伯爵は言わずもがな、要注意人物として蓬莱島ブラックリストに載っている。

『……大雨が降ったわけでもないのにおかしいですね』
 報告を受けた老君はその崖崩れに人為の臭いを嗅ぎつけた。
『デネブ29からの報告にあった、『次の策』というわけですか』
 狡賢なワルター伯爵は、打ち合わせにすら明確な固有名詞をあまり使わず、『例の』とか『あそこ』などと代名詞を使ったりするので、老君といえど、全貌の把握はできなかったのである。
『間違いないでしょうね』
 仁にすぐ報告しようかとも考えたが、緊急性は低いので、報告は夕方の定時連絡時でいいだろうと判断した。
 それまでの間老君が対処し、その結果も交えて報告することに決める。
『当該人物はいまどこにいるのでしょうか。調査して報告するように』
 そう指示しておく。
『まあ、対策は至極簡単なのですが』
 そして、もし顔があったらにやりと笑いながら考える。
『叩き潰すなら一度で、しかも完膚無きまでに、ですよね。クライン王国から更なる譲歩を引き出せればなお良し』
 老君は順調に(黒く)成長しているようである。

*   *   *

「ただ今帰りました」
 リシア・ファールハイトはようやく自宅へ帰ってきた。
 テトラダの城壁修理のために父ニクラス率いる近衛第3騎士団が居残ったため、その作業中に起きた事故による怪我人の治療という名目で彼女も残っていたのである。
 半分は義務感から、そしてもう半分は、リシアの所属する救護騎士隊隊長のはからいによるものでもあった。 
「お帰りなさい、リシア。元気そうで何より」
 赤みがかった茶色の髪、茶色の瞳。リシアの母、ミリアである。
「日に焼けたわね」
 色白だった娘が、真っ黒になって帰ってきたことに少々驚いているようだ。
「まあね、毎日毎日、日に当たっていたんだもん」
「……お嫁の貰い手が無くなっちゃうわね……」
「お、お母さん!?」
 リシアは今年で16歳、そろそろ適齢期である。
 だが、リシアはまだまだそれどころではなかった。新貴族として、今回の紛争を経てようやく少し自信らしきものが芽生えてきたばかりである。
「私は、今のお役目が性に合ってるみたい。だからまだお嫁になんて行かないわよ。それに後継ぎはどうするの」
 リシアは一人娘である。お嫁に行ったら家を継ぐ者がいなくなってしまうではないか。
「ああ、それは大丈夫。リシアが2人以上子供を産んでくれれば、その1人を養子に貰うから」
「お母さん!」
 天然なのか本気の発言なのか分からない母の言葉を遮り、着替えるために部屋へと逃げ込むリシアであった。

「……何これ」
 自室で着替え終え、一息ついたリシアは、サイドテーブルの上に一振の剣が置かれているのに気が付いた。
「……私の剣? テトラダで無くした剣が、どうしてここに?」
 考えても分かるものではないから、リシアは部屋を出た、母親に尋ねるためである。
「ちょうど良かった。お茶を淹れたから呼びにいこうと思ったのよ」
 のほほんとした母に、リシアは手にした剣を見せて、
「それより、この剣! どうしてこれがうちにあるの?」
「え? ああ、それね。なんでも、知らない女の人が『マキナという人から預かった』とか言って置いていったそうよ?」
「女の人から? 受け取ったのはアール?」
 アールというのはファールハイト家で働く通いの女中である。
「ええ。それを置いて、名前も告げずに行っちゃったそうなのよ」
「そう……」
 大事にしていた剣が無くなった時はがっかりした。でも、テトラダでは、他の騎士や兵士たちも、剣や防具を奪われていたから、泣き言は言えなかった。
 諦めていた剣が戻ってきたことは素直に嬉しいが、どうして自分だけ? と思わずにはいられないリシアである。
「マキナ、って、確かエゲレア王国に現れた謎の人物よね」
 その人物がなぜ、リシアの剣をそれと知ったのだろうか。その可能性として、考えられるのは……
「ジン、さん?」
 仁が、マキナと何らかの繋がりがあるということである。
(行き違いにならなければお話できたかもしれなかったのに)
 報告のため、リシアは戻って真っ先に王城に行ったわけだが、そこで『ジン』と名乗るエゲレア王国の名誉魔法工作士オノラリ・マギクラフトマンが、剣とゴーレムを作ってくれたことを聞かされたのである。
 聞かせてくれたのは近衛女性騎士隊副隊長のグロリア。教官でもあった彼女は、その彼に作ってもらったという剣を、実に嬉しそうな顔で見せてくれたものだ。
(でも、良かった。ジンさん、お元気そうで)
 カイナ村を飛び出した後の仁のことがずっと気に掛かっていたリシアは、心に刺さっていた小さな棘が取れたような気がした。

 仁がカイナ村を向こう50年間租借地として借り受けたことを正式に聞かされるのはもう少し後である。

*   *   *

「おおー、なんだ、こりゃ?」
 カイナ村、エルメ川のほとり。
 そこには謎の石組みがあった。仁が見たら、日本のお城の石垣だとすぐに分かっただろう。
 老君が、統治者としての仁の館として選んだのはずばり、城であった。
 それも、松本城とか大阪城のようなもの、すなわち天守閣を建てようとしていたのだ。
「すげえでかい石だな。どうやって運んだんだろう?」
 夜中のうちに『ダイダラ』を用いて積み重ねてしまった石垣は、8メートル程の高さで聳え立っていた。
 それを、川へコンロ用の魔石(マギストーン)を取りに来た女の子が見つけ、村に知らせたものだから、手の空いた者達がこぞって見物に来ていたのである。
 今は、職人(スミス)ゴーレム達が木を削って柱を作っているところ。さすがに一夜城とはいかなかったようだ(老君なりに自重したので)。
「これは皆様、ここは仁様の公的なお館となる『お城』でございます」
 仁不在の時に代理を務めるバトラーAが説明した。
 もう人間と同じように喋り、動くゴーレムは見なれてしまっている住民たちはそれで納得する。
「そうか、ジンだしなあ」
 その一言が、仁と住民たちの確かな絆を示していると言っても過言ではない。但し、常識を超えていることには変わらないが。
「い、い、い、いったい、ジン様って何者なんですかあああ!」
 まだ慣れないバロウだけが晴れた空の下、悲鳴に近い声を上げていたが。
 いよいよあちこちで動きが……

 お読みいただきありがとうございます。

 20151013 修正
(誤)名誉魔法工作士オーナリー・マギクラフトマン
(正)名誉魔法工作士オノラリ・マギクラフトマン
+注意+
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