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マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

11 ショウロ皇国とカイナ村篇

301/1538

11-03 夜明け前

御主人様(マイロード)、ラインハルト様から通信です』
 蓬莱島にいた仁の元にラインハルトから魔素通信機(マナカム)による連絡が入った。
「仁だけど、どうした?」
『おお、ジンか! 今日は済まなかったな!』
「何かと思ったらそんなことか。気にしちゃいないよ」
 事件かと思ったら、単なるお詫びだったのでほっとする仁。
『マテウスも悪気はなかったんだ。単にちょっと勘違いしただけで』
「勘違い?」
 何か勘違いする要素があっただろうか、と仁は考えるが、思い当たる節はない。
「何を勘違いされたんだろう?」
 と問えば、ラインハルトは笑いながら、
『僕とジンが恋仲だと……』
 と言いにくいことをずばり口にした。
「えええええ!?」
『な、笑えるだろう?』
 仁は笑えない。まさかそんな誤解をされているとは思わなかった。
「も、もう誤解は解けたんだろう?」
『あたりまえさ』
「……ならいいや」
『まあ、明日以降はこんな事がないようにするから』
 そうラインハルトは言い、少し世間話をして通信は切られた。
「……疲れた」
 精神的に疲れた仁は、もう一度温泉に浸かって寛ぐことにした。
「……ふう」
 お湯の中で手足を伸ばしながら、誰にともなく呟く。
「もうすぐショウロ皇国か、楽しみだな」

*   *   *

「ぎゃあーっ!」
「は、反乱だ!」
「犯罪者が逃げたぞ!」
 同じ日の昼、イナド鉱山の管理棟は阿鼻叫喚の地と化していた。
 犯罪者を支配しているのは『犯罪者識別の首輪』。これは、特定の魔力を流すことで、装着者に苦痛を与えるものである。
 そして、特定の魔力を流すには、『特定の魔導具』が必要となる。
 不慮の事態を考慮して2基設置されていた『特定の魔導具』つまり『首輪の主人(ドミネイター)』がいつのまにか使い物にならなくなっていたのである。
「ひゃははは! 自由だ! 俺たちは自由だぜ!」
「行け行け! 目指すは北だ!」
「間違っても南には行くなよ! そっちには兵がいるって話だからな!」
 52名の犯罪者が、ツルハシ、ハンマー、棍棒などを手に山を下る。20キロ程下れば街道に出、南はトカ村、そして北へ向かえばカイナ村だった。
 街道にある休憩舎には食料が置いてあった。犯罪者たちはそれを口にしたが、追っ手を警戒し、休息もそこそこに北を目指した。
 気力、というより欲望に目を血走らせながら峠へと登っていく52人。登り着いたトーゴ峠からは眼下に川が見えた。月光にエルメ川が光って見える。
 その向こうには素朴な村があった。
「見えたぞ! 村だ!」
「ひゃっほう! 食いもんだ! 女だ! 暖かい寝床だ!」
「いっけえ!」
「あってめえ、俺が一番乗りだ!」
 勢い込んで峠を下り出す犯罪者たち。
 カイナ村の人々はまだ気が付いていない。

*   *   *

 蓬莱島では、カイナ村専用の警備・監視用魔導頭脳、『庚申こうしん』からの報告を15分前に受け取っていた。
 時刻は、カイナ村では真夜中を過ぎ、夜明けにはまだ間のある頃。
 蓬莱島では夜明け前。
 老君は仁に知らせるかどうか少し悩んだが、昨夜早めに床に就いた仁であるし、他ならぬカイナ村防衛なので起こすことにした。
『襲撃者を発見』
『トーゴ峠目指して侵攻中』
『会話を再構成。襲撃者は労働刑中の犯罪者と判明。その目的は、カイナ村の襲撃』
『あと1分ほどで防衛圏に侵入』
『結界作動準備完了』
「さすがだな、老君」
『おそれいります。今回、防衛機構の確認も兼ねたいと思いますので、侵入者を一度に無力化はしません。どうか御承認願います』
「うん、かまわない。カイナ村に被害が出ないならな」
『ありがとうございます。御主人様(マイロード)はここからゆっくりと御覧になっていて下さい』
 仁は何もする必要がなかった。ただ、庚申こうしんからの画像を見、報告を聞き、老君が次々に打っていく手を眺めていれば良かったのである。
『襲撃者52人、トーゴ峠に到達。防衛圏に抵触』
 犯罪者の大半が下り始めた時。
『テスト1。麻痺結界作動』
 トーゴ峠のカイナ村側に備え付けられた麻痺(パラライズ)の効果を持つ結界が張られた。

*   *   *

 犯罪者たちは先を争って峠を下り出した。
 疲労のため、座り込んでいた者達は遅れて峠を下りはじめ……。
「ぎゃっ!」
「がっ!」
 麻痺結界に触れ、気絶したのである。その数8名。
 だが、我先にと駆け下りる犯罪者たちは、後方で起きた悲鳴にはまったく頓着しない。
 血走った目をぎらつかせ、ひたすら山道を駆け下りていった。

『テスト2。レーザー砲点射』

「えっ!?」
「な、何だ?」
 駆け下りる男達から驚いたような声が上がる。それもその筈、手にしたツルハシやハンマーが一瞬で蒸発してしまったのである。
 戸惑ったものの、欲望を剥き出しにした連中の脚はそれくらいでは止まらなかった。

『テスト3。電磁誘導放射器インダクションラジエータ、短時間放射』

「ぎゃあっ!」
「あ、あちいいい!」
 彼等の首に嵌められた犯罪者識別の首輪は金属製だ。それが突然熱を持ったのだから、慌てて当然。
 だが、その現象は、首に軽い火傷を負わせただけで収まった。
「い、いったい、なんだったんだ?」
 さすがに連中も少し薄気味悪くなったらしく、駆け下りる速度が遅くなった。
 それでも、もう手の届く所に、欲望を吐き出せる無力な(・・・)村があるかと思えば、連中の足は止まらなかった。

『テスト4。ランドWからZによるステルス状態からの攻撃』

「ぎっ!」
「げっ!」
「ぐっ!」
 犯罪者たちの後方から短い悲鳴が上がり、そいつらがばたばたと倒れていく。
「な、何だ、何がいるんだ?」
 夜明け前の闇の中、ステルス結界を張ったランドたちは目に見えない。
 そして、暗闇の中、見えない敵の恐怖というものは想像以上に大きい。
「う、うわああああ!」
 まだ無事だった男達は、エルメ川にかかる橋目指して全速力で走っていった。
 川に橋が架かっていれば、そこを通ろうと思うのはあたりまえの発想である。
 ましてやパニックに襲われ、正常な判断ができなければ尚のこと。
 幸運にも(?)気絶しなかった5名が橋を渡りかけた、その瞬間。

『テスト5。ブリッジ・トラップ』

 橋の両端が切り離された。
 つまり、橋が橋でなくなり、5名は橋の上に取り残された状態である。
 行くも戻るも、足の下は水。エルメ川である。そのあたりは川幅が狭い代わりに流れが速く、深い。
「え、ええい、くそおっ!」
 だが、男達のうち、度胸のあった1名が水に飛び込んだ。続いてもう1名。
 残った3名は、飛び込む勇気もなく、橋の上で途方に暮れていたが、
「ぎいっ!」
 短い悲鳴を残し、くずおれたのである。橋に備えられた衝撃(ショック)の結界による効果である。

『テスト6。対人直接戦闘』

「ぷふぁー、何とか泳ぎ切ったぜ」
「辿り着いたのは俺たちだけみたいだな」
「女も食い物も俺たちだけのものだぜ!」
 もはや正常な判断力もないらしい。いくら男達が強くても、2人で村を占拠する事は無理だと言うことに思い至れないのだから。
 水を滴らせながら川原に立った2人の前に、異形の影が2体、立ち塞がった。
「『侵入者に告ぐ。おとなしく投降すれば危害は加えません』」
 だが、正常な判断のできなくなった2人にその勧告は無意味だった。
「うるせえ!」
 一言おめくと、影に跳びかかった。
「『排除します』」
 影すなわちランドAとランドBは、柔道で言う腰投げに近い技で2人をそれぞれ投げ飛ばした。
「ぎぇ」
「ぐぇ」
 陳腐な表現ではあるが、まさにカエルの潰れたような声を上げて2人とも気絶した。一応背中から落としたので、受け身を取っていなくても死ぬことはないだろう。

『侵入者完全沈黙によりテスト終了。テスト7、8、9、10、Xはまたの機会とします』
 こうして、夜明け前、村人の誰一人として気が付かないうちに、襲撃者たちは全員無力化されたのであった。
 非有機的な言葉を表現するため、「『******』」のように、カッコとカギカッコを重ねてみました。

 お読みいただきありがとうございます。
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