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マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

10 クライン王国訪問篇

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10-21 仁、始動

 鋼の剣100振りと、戦闘にも耐える汎用型のゴーレム20体。
「剣はロングソードですか? ゴーレムの仕様は?」
 当然の疑問である。何を作るのか、具体的に知らなければ返答出来ない。
 その質問に答えたのはパウエル宰相。
「うむ、剣はロングソードで頼む。見本もあるので後で参考にしてくれ」
 問題はゴーレムであった。
「ゴーレムの主な用途と大きさについてはどうですか?」
「警護が主となる。今日、ジン殿が撃退してくれたが、ああいった襲撃に対して、兵が少なすぎるのだ。そもそも、我が国は……」
 と、簡単な説明が続く。
 クライン王国は騎士隊と近衛軍だけが職業軍人であり、その総数はおよそ700。軍は全部で4000足らず。クライン王国の人口がおよそ10万だからこれが限界だとのこと。
 仁が聞かされた情報の数字に嘘はないと思われる。ただ、秘密工作員の存在が伏せられているだけで。
 老君は、50人の秘密工作員の存在まで把握しているのだ。第5列(クインタ)の手柄である。
「国力から言って、他国に攻め込む余裕は無いのだよ、我が国は」
 宰相はそう締めくくった。
 守りのためであれば、仁もあまり抵抗はない。
「大きさは少し大きめ、そうだな、2メートルといったところか。警護の他にも、工兵として使えると助かる」
 テトラダの城壁がまだかなり崩れたままなのは仁も知っている。そういった場所に投入したいのだろう。
 剣が欲しいのも理解出来る。あの場にあった武器防具は、仁がみんな巻き上げてしまったのだから。
「最後に報酬だが、剣100振り、ゴーレム20体合わせて4000万トール。出来が良ければ1000万トールを上乗せする。これが我が国の出せる限界だ」
 材料費は全てクライン王国持ちとなるから、純粋に手間賃となる。そう考えると、ほぼ相場通りと言っていいだろう。
 最も、仁の知っている相場は、エゲレア王国でクズマ伯爵に依頼されたロッテくらいなのだが。
「つけくわえておくと、エゲレア王国の名誉魔法工作士オノラリ・マギクラフトマンにこのような依頼をするからには、事後にはなるが、筋は通すつもりだ」
 エゲレア王国にきちんとした説明と詫び、そして礼物を贈る予定だと宰相は説明した。

「承りました」
 思うところもあり、仁はその条件で引き受けることにした。
「おお、それは嬉しい」
 国王は破顔した。
 リースヒェン王女、近衛女性騎士隊長ジェシカも、交渉が上手くまとまったことに喜びを隠せない。近衛騎士団長グレンも、顔には出さないが内心ほっとしていた。
 依頼内容は文書にして2枚の羊皮紙に書かれ、それぞれ宰相と仁が署名する。仁は自分の分を礼子に預けた。その方がより安心である。
 ところで、仁は敢えて納期について口に出さなかった。向こうの考える納期より短く済ませる自信があったし、何よりカイナ村をそんなに長い時間留守にしておきたくないからだ。
 一方で、宰相も納期を言わなかったが、その背景は仁とは正反対。
 彼はこの依頼に1ヵ月は掛かると踏んでいた。
 宰相の腹の内では、その1ヵ月のうちに、エゲレア王国との友好を深め、あわよくば仁をこちらに引き込む、という事まで考えているのは彼だけの秘密である。
 ましてや、リースヒェン王女をその使者に仕立て、同時にエゲレア王国第3王子アーネストに娶せる、ということまで織り込み済みというところは黒いと言われても仕方がないだろう。
 だが、それもこれも、全て国のため、というところが宰相を宰相たらしめている所以ではある。
 しかし、そんな企みごとを無意識のうちに簡単に打ち砕くのが仁という魔法工作士(マギクラフトマン)。いや、魔法工学師マギクラフト・マイスターなのを知らない。

「えーと、素材は揃っているのですか?」
 あとの詳細は宰相と詰めてくれ、と言われた仁は、城1階にある工房へ来ていた。依頼終了まで仁専用としてくれて、鍵まで預けてくれる。
 ここは普段、兵士・騎士達の武器・防具を作るところだそうである。尤も、全員分の武装をここだけで賄う事は出来ないので、基本は各自調達ということになっており、場所だけあって担当がいないと言う状態。
 こんなところにも人材不足が表れている。
「うむ、先に述べただけの資材が届くことはわかっているのでな、在庫を使って貰う事に問題は無い。倉庫は地下だ。係官にこの許可証を見せればよい」
 どうせ作り終わるまでの時間が1ヵ月はかかるだろうと見ている宰相は、気前の良さを見せつけるように、仁に許可証を渡した。
 それを受け取った仁は、制限はあるかと問う。宰相は無いと答えた。依頼内容を満たすなら、何を使って貰ってもいいとまで言った。
 そして完成までの宿舎だが、リースヒェン王女殿下のご厚意で、離宮を使って貰ってよいと宰相が言った。
「聞けば妹御たちもそちらにおられるそうだな。王女殿下も無聊を慰められてお喜びだ。行き来の許可証はこれになる」
 離宮に出入りするための許可証も受け取る仁。宰相はこれで用は済んだとばかりに、
「では、よろしく頼む」
 と言って立ち去りかけた。その背に仁は声を掛ける。
「あ、完成したらどうすればいいでしょうか?」
 その言葉の意味を、宰相は完成品の置き場を聞かれたと思ったらしい。
「隣接して武器庫があるので、剣はそこの管理者に引き渡して貰いたい。ゴーレムは、そうだな、廊下の突き当たりに普段使っていない兵士詰め所があるので、そこに運んでおいて貰えれば助かる」
 仁も、その事は聞きそびれていたので素直に頷いておく。だが、本当に聞きたかった事は、
「で、全部終わったら?」
 である。
 宰相は、気の早い話だ、とは思ったものの、今でなければ仁が自分と話す機会はそうそうはないからな、と思い直して、
「リースヒェン王女殿下は普段、特になすべきこともなく、お暇を持て余してらっしゃる筈だから、王女殿下に言って貰うのが手っ取り早いだろう」
 と答えたのである。
 仁は、その物言いに、王女が少し軽く見られているのを感じとった。が、この場では何も言わない。
「わかりました」
 ただ返事をしただけである。そして今度こそ、宰相は立ち去った。

「さーて、まず材料の調達だな」
 礼子を伴い、地下の資材倉庫へと向かう仁。許可証を見せると、宰相からも話が行っていたとみえ、係官は何でも使って下さい、と快く仁を通した。
「よし、まずは金属材料だ。鋼鉄4トン。アダマンタイト1キロ。ミスリル5キロ、ってとこかな。お、隅っこに紅砒ニッケル鉱があるじゃないか。不純物が多いが、使えるな」
 紅砒ニッケル鉱は、いかにも銅が採れそうな色あいをしているにもかかわらず銅が分離出来なかった。代わりに砒素と正体不明な金属が残るだけ。
 蓬莱島でも採掘され、長い間正体不明だった鉱石である。クライン王国が持て余しているのも無理はない。
「捨てなかっただけでも褒められていいな」
 そう呟いて、仁はこれも素材に加える。
「次は魔結晶(マギクリスタル)か」
 別の棚を物色し、乳白色の全属性のものを60個、緑色の風属性のものを20個、無色の光属性のものを40個確保。
「あとは筋肉、だな」
 また別の棚を物色すると、変わった素材が目に付いた。見ただけで見当は付いていたが、念のため分析(アナライズ)して見ると、竜頭ウナギ(ドラゴニックイール)の革である。
 竜頭ウナギ(ドラゴニックイール)は頭がドラゴンに似ている巨大ウナギで、草食。大きなものは3メートルにも達する。クライン王国では首都アルバン東のマヌーゼ湖や南のセドロリア湖で獲れる。
 肉は油が多いが、食用で調理次第では美味。それよりもその革は弱いながらも魔力を帯び、魔力に反応するため、防具や魔導具に使われている。
 蓬莱島にも少しは在庫があったので仁も見知っていた。
 魔法筋肉(マジカルマッスル)の素材としての特性は砂虫(サンドワーム)の革よりはいくらか上、地底蜘蛛(グランドスパイダー)の糸よりはずっと下といったところか。
 最後に、剣の鞘、鍔、柄にする素材を用意する。鞘は硬く鞣した皮、鍔は真鍮、柄は硬木。
「よし、これで揃ったな」
 嵩張るため一度に持ち出すことは無理だが、礼子にかかれば数回で全ての資材を運び終えることができた。係官は目を開けたまま固まっている。
 時刻はおおよそ午後4時。
「さて、始めるか」
 礼子を助手にした仁は、まずは紅砒ニッケル鉱からニッケルを分離するところから始めた。因みに紅砒ニッケル鉱は嵩張りすぎるので、工房でなく倉庫内での作業である。係官には許可を取ってある。
「『精錬(スメルティング)』」
 倉庫内にあった約20トンの紅砒ニッケル鉱からは約350キロのニッケルが分離出来た。砒素は危険なのでそのまま鉱石に残しておく。
 鋼に5.5パーセントのニッケルを混ぜた物は5半ニッケル鋼と呼ばれ、低温特性をはじめ、耐摩耗性や耐腐食性が向上する。
 仁は233キロのニッケルを運び出した(もちろん礼子に持たせて)。
「『合金化(アロイング)』」
 鋼のインゴットとニッケルとが見る見る一体化し、均質になった。これで4.233トンの5半ニッケル鋼が用意出来たことになる。
 これを用いて仁はまずゴーレムの骨格を形作るのである。
 基本となる設計基(テンプレート)は、蓬莱島隠密機動部隊(SP)の成人男性型。最近ではバトラータイプにも使用しているから、すぐに1体完成する。
「うーんと、使用したのが122キロ、と。十分だな」
 使用量を確認した仁は、その勢いで残り19体分を作り上げた。工房は一応立ち入り禁止と指示が出されていたので、見るものがいなかったのは幸いだったろう。いや、反応が見られないのは残念というべきか。
 もし見ていた者がいたら、己の正気を疑ったかもしれない。それほどまでに仁の製作速度は異常だから。もちろん関節部へのアダマンタイトコーティングを含めての作業。
 通常であれば見る事の出来ないアダマンタイトの変形、という現象、これも見る者がいなかったのは残念であった。

 それでも、材料の準備に時間がかかったので、20体分の骨格を完成させたところで午後5時。
「あとは明日にしようか」
 仁はそう言って、工房に鍵を掛け、離宮に戻った。入り口にいた自動人形(オートマタ)が案内してくれた。仁が直した自動人形(オートマタ)である。

*   *   *

 離宮ではハンナとエルザ、そしてリースヒェン王女が3人で遊んでいた。いや、もう1人、グロリアも。
「あ、おかえりなさーい!」
「おかえりなさい、ジン兄。お疲れ様」
「おお、ジン、戻ってきたか。この『双六』というのは面白いな!」
「ジン殿、お帰りか」
 それは正に双六。エゲレア王国で暇つぶしに遊んだので、エルザが憶えていたらしい。
 駒とサイコロはエルザが憶えたての工学魔法で作ったようだ。王女は赤、ハンナは黄、エルザは緑。そしてグロリアは青い駒。
「何人でも出来るし、1回ごとにコースやマスを変えられるというのもいい。何よりルールが簡単だ」
 王女も双六で熱くなったようだ。
「さて、ジンが戻ってきたということは……おお、もう5時過ぎか」
 じきに夕食じゃな、と言って王女は立ち上がった。

 夕食は麦粥に香草を浮かべたもの、野菜と肉を炒めたもの、魚をパイ皮に似たもので包んで焼いたもの、豆と野菜と骨髄のスープ、鹿肉のステーキ、そして色とりどりの野菜をあしらったサラダ。
「私もお相伴してよろしかったのですか?」
 グロリアも恐縮しながら一緒に食べている。
「何、大した献立ではない、気にするな」
 王女はそう言って笑う。確かに、王族の食べるものとして見たら質素な部類に入るのかも知れないが、庶民から見たら大変なご馳走である。
 食後の飲み物はあたたかいラモネード、つまりラモンの絞り汁と甘味料を混ぜた物である。
「わっ、おいしい!」
 ハンナは初めて飲む味に大喜び。エルザは飲んだことがあったらしく驚いてはいないが、好きな味だったのか、目が笑っている。
「んー、これって蜂蜜の甘さかな?」
 一口飲んだ仁はそんな感想を漏らす。王女はそうじゃ、と言って、ティアを見た。その視線の意味を悟り、ティアが説明をする。
「はい、このお飲み物は、ラモンの果汁を搾って、蜂蜜で割ったものです。良くおわかりですね」
 はちみつレモンそっくりの味だったから、とは言えない仁。
「蜂蜜は東のレナード王国特産でして、ほとんど市場には出回っていないのですが、飲んだことがおありなのですね」
「エゲレアの名誉魔法工作士オノラリ・マギクラフトマンじゃからな、そう言うこともあるじゃろう」
 そう言って王女はラモネードを一口飲み、グロリアに向かって、賊のその後を説明してやれ、と促した。
 クライン王国の状況がわかりました。

 お読みいただきありがとうございます。

 20131125 13時38分 誤記修正
(誤)納期より短く住ませる
(正)納期より短く済ませる

(誤)リースヒェン王女その使者に仕立て
(正)リースヒェン王女をその使者に仕立て
「を」が抜けていました。

(誤)「リースヒェン王女殿下は・・・手っ取り早いだろう、と答えたのである。
(正)「リースヒェン王女殿下は・・・手っ取り早いだろう」
 と答えたのである。
「」が閉じてませんでした。

 20131125 21時23分 誤記、表記修正
(誤)乳白色の無属性のもの
(正)乳白色の全属性のもの

(旧)庶民から見たら大ご馳走
(新)庶民から見たら大変なご馳走

 20131128 19時37分 表記修正
(旧)仁は230キロのニッケルを運び出した・・・これで4.23トンの5半ニッケル鋼が用意出来た
(新)仁は233キロのニッケルを運び出した・・・これで4.233トンの5半ニッケル鋼が用意出来た

 より正確な数値にしました。

 20151013 修正
(誤)名誉魔法工作士オーナリー・マギクラフトマン
(正)名誉魔法工作士オノラリ・マギクラフトマン
 2箇所修正
+注意+
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