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マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

10 クライン王国訪問篇

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10-19 残党

 今回、ちょっと痛そうな描写があります。
「お、おにーちゃん……」
「ハンナ!」
 完全に仁たちの油断だった。また、タイミングも最悪。
 馬車で移動していたがゆえに、ハンナ専任の隠密機動部隊(SP)が、若干距離を空けていたのである。
 最初に降りたのが礼子だったら、何の問題もなかっただろう。だが、今更言っても仕方ない。
 更にジェシカたちも森を警戒して確認に行ってしまっていた。
 しかも男は隠身(ハイド)の効果のある魔導具でも使っていたのだろう。隠密機動部隊(SP)は男がいる事を事前に察知していたかもしれないが、男の意図が不明だったということもあり、対処が遅れた。
 仁たちにとっては不幸が重なり、それはすなわち男にとっては幸運だったのだ(いや、この後に起きる結果からすると不幸と言ったほうがいいのか)。
「う、動くな! お前ら、全員馬車から降りろ!」
「……今は言うとおりにしよう」
 リースヒェン王女がそう言って、踏み台のない馬車から飛び降りた。続いて仁、エルザ、礼子。
「姫様!」
 ジェシカとグロリアも駆け戻ってきた。
「貴様! 何をする! その子を放せ!」
 だが、ハンナを捕まえている男は不敵に笑う。
「ふん、王女の命が惜しかったらお前たちは10メートル以上離れろ」
「ん? 王女?」
 そのセリフを聞いて、一同は気が付いた。男は、王女から貰ったドレスを着ていたハンナを王女と間違えたのだ。
 だが、それは何の慰めにもならない。
 ゆっくりと馬車から離れながら、仁は礼子にそっと囁く。
「礼子、イリスとアザレアはどうしている?」
 礼子は視覚を赤外線に切り替え、ハンナの周囲を見つめて答える。
「はい、あと1歩で……」
「ぎゃあああああ!」
 礼子がそう言いかけた時、男の悲鳴が響き渡った。
 仁と礼子以外のそこに居合わせた者達は目を見張った。
 いつの間に現れたのか、真っ黒いゴーレムが2体。1体はハンナを保護し、もう1体は男を組み伏せていたからだ。
 そして組み伏せられている男の右腕、つまり短剣を持っていた腕は有り得ない方向に曲がっていた。3箇所ほど。
「おにーちゃん!」
 涙目で仁に駆け寄るハンナ。仁もハンナに駆け寄り、小さな身体を抱きしめ、背中をさすってやった。
「もう大丈夫だ、御免な、怖い思いをさせたな」
「ううん、おにーちゃんがたすけてくれるってしんじてた」
 仁はイリスとアザレアを眺めやり、よくやった、と声を掛けた。
「な、何ものなのじゃ? この真っ黒いゴーレムは?」
 ようやく、王女はそれだけを口にした。
 仁はそれは後で説明します、と王女に言い、男に向き直る。
「おい、何が目的でこんなことをした?」
 だが男は痛みに脂汗を流しながらも、ふん、と鼻を鳴らす。
「さてね」
 だが、それは悪手だった。
「イリス。もう片方の腕も」
 仁がそう言うと、イリスは押さえつけている男の左腕を捻りあげた。一方仁は、折る光景を見せないようにハンナを抱きしめている。
 ごきっと音がしたと思うと、再び男の悲鳴が響く。肩と肘が砕けた。
「ぎぃやぁあああああ!」
 仁は聖人君子ではない。身内には大甘だが、その分、敵には容赦しない一面もある。今回、男はハンナを泣かせた。それが仁の逆鱗に触れたのである。
「今度は股関節を壊す。……これが最後だ。理由は?」
 ひいひいと涙を流し、鼻水を垂らしながら、男は口を開いた。
「……にげ……ようと……思った。……馬車が……ほし……かった」
 仁は、男が話しやすいようにと、エルザに痛み止めを施すよう頼む。エルザは頷き、
「『痛み止め(シュメルツミッテル)』」
 痛みを止めてやる。だが両肩は壊れたままだ。
「何故逃げようと思った?」
 仁は男を睨み付ける。観念した男は白状した。
「もう……すぐ、ここを50人ほどの集団が襲うことになっている。どいつもこいつもならず者ばかりだ。俺はそいつらの仲間だったんだが、気が変わって抜けることにした。それには一刻も早くここをおさらばしなくちゃなんねえ。だから馬か馬車が欲しかった」
 その時、森の向こうから、大勢の足音が聞こえてきた。
「ぬ!? 今の話は本当だったようだな」
 王女は青ざめた。城門を閉めるにも時間がかかる。間に合わない公算が大だ。
「このままでは無防備なまま、アルバンが襲われる! ジェシカ、グロリア! 防ぎ止めるぞ!」
「はっ、姫様」
「御意」
 そして王女は青ざめた顔を仁に向けた。
「ジン、お主たちは(わらわ)の馬車でもう一度城内へ戻るがいい。王宮内ならそう易々と攻め込まれんじゃろう」
「リース様は?」
「ここで出来る限り食い止める。なに、(わらわ)水弾(ウォーターボール)、それに水の弾丸(ウォーターバレット)なら使えるからな」
 そう言って王女は水たまりの水を見つめた。
 この王女は自ら盾になるつもりなのか、と仁は感心した。
「ティア、そなたは急いで王城へ走り、このことを伝えてくれ。城に残った軍が動けば、50くらいの人数、何ほどのこともない」
「でも、姫様が……」
 ティアはそう言って逡巡する。さすが魔導大戦時代の作品、このあたりは良く出来ている。
「……」
 仁は目を閉じ、僅かに考えていたが、目を開けるときっぱりとした言葉を告げる。
「いや、ティアはリース王女を守れ。ジェシカさんとグロリアさんは賊の捕縛だけしてくれればいい」
 それを聞いたエルザが小声で囁くように、
「ジン兄らしい」
 と呟いた。
「お、お主、何を言って……」
 その時、賊の先頭が森から姿を現した。ゴーレムを1体引き連れている。
「なっ! ゴーレムまでいるのか!」
「これでは、半数も抑えられるか……」
 驚く王女。緊張するジェシカ。
「ジン殿、貴殿は……」
 そしてグロリアが何か言いかけたが、仁はそれにかまわず、礼子に指示を出す。
「礼子! 奴等を止めろ! 但し、極力殺すな」
「はい、お父さま」
 礼子は地を蹴った。と思った次の瞬間、数人の賊が宙を舞い、地に叩き付けられている。
「お、お主たち……」
「あ、あの子はいったい……」
「……人が宙を舞うのを初めて見た」
 王女、ジェシカ、グロリアの3人は己の目を疑った。
 50人はいた賊があっという間に地に伏している。
 そしてゴーレムはと言えば、礼子の一蹴りで20メートルほど吹き飛んで立木に激突し、おかしな形にひん曲がって動かなくなっていた。
「終わりました」
 1分かからず、50人の賊を無力化した礼子。常識では考えられないだろう。
 何も言わなくても、王女たちの目は雄弁に物語っている。お前達は何ものだ? と。
「済みませんが、そのまえに奴等を縛り上げてしまいましょう」
 仁はそう言って、気絶した賊のベルトや腰帯を使って、動けないよう縛り始めた。
 礼子、エルザもそれを手伝う。少し遅れてジェシカ、グロリアも参加。数分で全員を拘束し終わった。

「さて、あらためて問う。お主は何ものじゃ?」
 リースヒェン王女が仁に問いかける。覚悟を決めていた仁は、一部の真実を話すことに決めていた。
「あー……リース様に昨日、エゲレア王国で起きたゴーレム騒ぎをお話ししましたよね?」
「う、うむ」
「その時に、暴走ゴーレム鎮圧に一番功績のあったのがこの礼子です。古代遺物(アーティファクト)でもあり、俺の大事な娘でもあります」
 隣に来た礼子の肩に手を置きながら仁がそう説明した。
「その功績でエゲレア王国名誉魔法工作士オノラリ・マギクラフトマンの称号を貰いました」
 大分はしょっているが真実である。
「そうじゃったのか……」
 仁の魔法工作士(マギクラフトマン)としての能力、そして礼子の実力を目にした今、それが真実であると素直に実感できた。
「それにしてもレーコは凄まじいな。ゴーレムよりも強いとは」
 ジェシカも感心したようにそう言った。
「そういえば、先ほどハンナを救った黒いゴーレムはどうしたのだ?」
 グロリアが辺りを見回しながらそう尋ねる。仁はそれに答えて、
「陰ながら周辺を警護するゴーレムですよ。今回は後手に回ってしまいましたが……」
 と説明。それを聞いた王女は目を輝かせる。
「やはり(わらわ)の目に狂いはなかったな! ジン、我が国にもゴーレムを作ってもらえぬか?」
 やはりそういう流れになったか、と仁は内心で溜め息を1つ吐き、返答する。
「まあ、条件によります」
 お読みいただきありがとうございます。

 20131123 14時16分 表記修正
(旧)1隊
(新)集団
 軍隊や傭兵ではないので集団にしました。

 20131123 22時15分 表記修正
「イリスは押さえつけている男の左腕を捻りあげた。」の後に、
『一方仁は、折る光景を見せないようにハンナを抱きしめている。』
 を追加。教育上、あまり残酷なシーンは見せない方がいいですからね。

 20151013 修正
(誤)名誉魔法工作士オーナリー・マギクラフトマン
(正)名誉魔法工作士オノラリ・マギクラフトマン
+注意+
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