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マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

09 統一党決着篇

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09-49 IF その1 もしもエレナを見つけたのが仁だったら

 今回の話はパラレルワールドのようなものとお考え下さい。
 ある日、各地に派遣した第5列(クインタ)の1体から耳寄りな情報がもたらされたと老君から報告があった。
御主人様(マイロード)、アスール湖西岸に観光地化した古代遺跡があるのですが、その地下に大きな空洞がある模様です』
「うん、そこはまだ発見されていないんだな?」
『はい。御主人様(マイロード)
「うーん、面白そうだな。たまには行ってみるか」
 仁がそう呟くと、礼子がそれに異を唱える。
「お父さま、何があるかわからないそんな場所に自ら行かれるなんて危険です」
「んー、礼子もいるし、遺跡だから今回はアンも一緒に行って貰おう。で、強化服と『正宗』『村正』も持っていくから」
 礼子はまだ少し渋い顔をしていたが、
「仕方ないですね。私も桃花と魔力砲(マギカノン)を持っていきますから。それと隠密機動部隊(SP)には麻痺銃(パラライザー)超高速振動剣バイブレーションソード電磁誘導放射器インダクションラジエータをそれぞれに持たせましょう」
 と言った。それを聞いた仁は、いったい何と戦うつもりだ、とは思ったが、それを言うとやっぱり危険なので行かないで下さい、と礼子が言いそうなので口を噤んでおいた。
「アスール湖の浮沈基地を経由すれば時間はかからない。向こうの夜中に着くよう時間調整しよう」

*   *   *

 仁専用垂直離着陸機(VTOL)、ペガサス1でアスール湖の浮沈基地から飛び立った仁は、3分ほどで目的の遺跡上空に達した。
第5列(クインタ)が出迎えています。地上に人影は見あたりません」
 遺跡を発見した第5列(クインタ)がいる上、赤外線及び目視で探知した結果、人影は皆無。
 目撃される危険は僅少と判断し、ペガサス1は遺跡前広場に着陸した。おあつらえ向きに石畳なので砂埃も立たず、着陸は楽であった。
 まず隠密機動部隊(SP)が出、あたりを警戒。1分後、礼子が、続いてアンが。最後に仁が降り立った。
「遠路お疲れ様です、チーフ」
 アスール湖西岸担当の第5列(クインタ)が頭を下げた。
「出迎えご苦労さん。で、問題の遺跡だが、どこなんだ?」
「はい、こちらです」
 光の玉(ライトボール)であたりを照らしてみる。そこには魔法で強化された石材で組まれた柱、建物が点在している。ただ、強化の魔法も切れかかっており、建造物は風化が始まっていたが。

 第5列(クインタ)に案内され、遺跡の端へ向かう仁。大きな柱と柱の間で立ち止まった第5列(クインタ)は、
「この地下に大きな空洞があります」
 と地面を指差して言った。
 音響探査(ソナー)魔法で地面を調べた仁は、間違いなく地下に大きな空間があることを知る。そこで礼子に指示を出す仁。
「礼子、ここを30パーセントの力で殴ってみろ」
「はい、お父さま」
 仁達が少し離れたのを確認した礼子はその可愛らしい拳を振るい、地面に叩き付けた。
 同時に轟音が響き、地面がひび割れ、陥没する。礼子は身軽に飛び退き、落下を回避した。
 土埃が収まると、そこには大きな穴が開いていたのである。
「暗いな。『明かり(ライト)』」
 明かり魔法で照らしても、底は見えない。そこで第5列(クインタ)が、
「チーフ、私がまず降りてみます」
 と言って穴に飛び込んだ。
 しばらくして、魔素通信機(マナカム)で報告が入る。
『大丈夫です、異常有りません。どうぞ下りてきて下さい』
 そこで仁達一行は穴の中へと向かった。仁は礼子に抱えられて、アンや隠密機動部隊(SP)は自力で。
 下り立った遺跡の穴は小広く、通路が左右に伸びていた。どちらでも良かったが、仁は小さい方の通路へ向かう。
 少し行くと通路は下りになる。通路の壁には薄暗いながらも自由魔力素(エーテル)による永久発光素子が埋め込まれていた。
「研究所のものより低級ですね」
 薄暗い光を見て礼子がそう評した。
 やがて扉が現れる。鉄製で、赤く錆び付いていたそれを前に、アンがぽつりと言った。
「ごしゅじんさま、ここは昔の砦、その非常用避難部屋のようですね」
「ふうん、それじゃあこの奥には何かありそうかな?」
 仁がアンに尋ねる。
「はい、非常用の魔導具とか、武器とかがある可能性が高いと思います」
「よし、開けてみよう」
 仁が押してみたが重くてほとんど動かない。代わって礼子が押す。蝶番が軋んでいたが、途中で壊れ、扉は大きな音と共に室内へ倒れこんだ。埃が舞い上がる。
「ぷぷっ、こりゃひどい。『強風(ウインド)』」
 風魔法で埃を室外に追い出す仁。これでようやく室内を見渡す余裕ができた。
 室内には、アンが言っていたとおり、かなりの数の魔導具があった。年月を経て壊れているものもあったが、3分の1はまだ使えそうに見える。
 隠密機動部隊(SP)達に回収を命じる仁。そして一番奥に見つけたもの。
「あれは……」
 それは1体の人形であった。仁にはすぐ、それが自動人形(オートマタ)であるとわかる。姿形は少女。だが生気はなく、床に座り壁にもたれかかっている。左腕は壊れ、肘から先が無い。
「これは、まさか……『黄金の破壊姫』?」
 そう言ったのはアン。
「アン?」
「おそらくですが、この自動人形(オートマタ)は『黄金の破壊姫』です。魔導大戦初期、私の兄弟姉妹を破壊して回った、謎の自動人形(オートマタ)
「ふうん、なるほど……」
 それを聞いた仁は触れないようにして自動人形(オートマタ)を調べていく。
「まあまあの出来だな」
 それを聞いた礼子が頬を膨らませたのを横目で見た仁は慌てて言い添える。
「……とはいえ、礼子の足元にも及ばないが」
 礼子の顔が元に戻る。
「うーん、古い魔導具は回収するとして、この自動人形(オートマタ)も惜しいと言えば惜しいな。よし、礼子、お前が持ち帰ってくれ」
「はい、わかりました」
 背中に魔力砲(マギカノン)を背負い、腰に桃花を提げた礼子がその自動人形(オートマタ)を担ぎ上げた。
 礼子が発するわずかな魔力を感じ取り、自動人形(オートマタ)の目が開く。
「あなたが……私を起こしたの? ……ちょ、ちょっと、なにやってるのですか!?」
「あ、起きたな。やっぱり魔力を検知して目を覚ますよう自己設定してあったか」
「ちょ、ちょっと、放しなさい! 私は自動人形(オートマタ)の女王! 女王の命令が聞けないの!」
 じたばた暴れてはいるが、がっちりと抱えた礼子の腕は万力のようで、いくら自動人形(オートマタ)が振り解こうとしてもまるで意味をなさない。
「あ、あなたは、もしかして、アドリアナの……!!」
「うるさいですね。確かに私のお母さまはアドリアナ・バルボラ・ツェツィと申します」
「や、やっぱり! は、放しなさいいいいい!」
「うるさいですってば」
 礼子は自動人形(オートマタ)を抱える手の力を強めた。
 バキバキと音がして、自動人形(オートマタ)の骨格が歪んでいく。
「ぎゃあああああ!」
 ある程度の感覚を持っているのだろう、自動人形(オートマタ)の悲鳴が響いた。
「うるさすぎます。お父さま、黙らせて下さい」
 礼子に頼まれた仁は自動人形(オートマタ)に近づき、その首筋に手を当てた。そして、
「『停止(スタンドスティル)』」
 半ば強引に自動人形(オートマタ)を停止させた。
「あ、静かになりました」
「やっぱり、この自動人形(オートマタ)は黄金の破壊姫らしいですね」
 アンが、礼子に抱えられている自動人形(オートマタ)を見下ろしながら言った。
「うーん、なんでこんな性格になっているんだろう。ちょっと興味あるな」
 仁はそう言いながらぐったりしている自動人形(オートマタ)を見下ろした。

*   *   *

 帰り道は何事も無く、遺跡を出ることが出来た。穴から出るときは、隠密機動部隊(SP)が先に上へ登り、綱を垂らして仁を引っ張り上げたのである。
 そしてペガサス1に乗り込み、浮沈基地経由で蓬莱島に帰った。

 今、蓬莱島の研究所にある工房では、持ち帰った自動人形(オートマタ)の解析が行われていた。
「うーん、骨格は軽銀、筋肉は魔法繊維(マジカルファイバー)魔力炉(マナドライバー)はあるけど、魔素変換器(エーテルコンバーター)は無いんだな」
「お父さま、ということは?」
 危険防止のため、礼子が自動人形(オートマタ)を押さえつけながら聞いた。
「うん、礼子達は魔素変換器(エーテルコンバーター)で空気中の自由魔力素(エーテル)魔力素(マナ)に変換して、その魔力素(マナ)魔力炉(マナドライバー)でエネルギーに変えているだろう?」
「はい」
「この自動人形(オートマタ)は、魔素変換器(エーテルコンバーター)が無い代わりに魔素貯蔵庫(エーテルタンク)を持っていて、それを自由魔力炉(エーテルドライバー)でエネルギーに変えているようだな」
「そうするとどうなるのですか?」
 礼子は構造の違いを理解できるだけの知識を持っているが、効率などの事まではわからない。
「普通は魔力貯蔵庫(マナタンク)魔力炉(マナドライバー)の組み合わせにするんだが、こっちの自動人形(オートマタ)の組み合わせだと効率を犠牲にして代わりに出力を稼げるようだ」
「なるほど、自由魔力炉(エーテルドライバー)というのは初めて聞きました。自由魔力素(エーテル)を直接エネルギーに変えるため効率が悪いということですね?」
「そうだ。考えてみれば、魔素暴走エーテル・スタンピードが起きる前は空気中の自由魔力素(エーテル)が今より濃かったのだろうから、これでも良かったんだろうな」
 仁が推測を述べる。
「でも、お母さまは私を今のような方式で作って下さいましたけど?」
 それに対して礼子の疑問が。
「ああ、それは当然、先代の方が技術的にも設計思想的にも上だと言うことだよ」
 力技で出力を稼ぐ構造と、繊細な制御で効率良く出力を得る構造。どちらが上かは言うまでもない。

「あとは、この制御核(コントロールコア)なんだが、どうもおかしい」
「どういうことでしょう?」
「うん、中古品に上書きしたみたいなんだ。うっすらと、所々に古い魔導式(マギフォーミュラ)が消え残っている」
 仁は比較的大きめの制御核(コントロールコア)を眺めながら言った。
「これがこの自動人形(オートマタ)が狂った原因の1つなんじゃないかなあ」
 そう言いながら仁はその古い魔導式(マギフォーミュラ)を完全消去した。
「あとは、やっぱり製作者の遺言が何かやらかしている可能性だ」
 そう言いながら、仁は読み出し(リード)読み取り(デコンパイル)の工学魔法を駆使して、その部分を探していった。そして探すこと30分、それは見つかった。
「ここだな。『あなたが一番』、か」
「『あなたが一番』、ですか、それは確かに、1つ間違えたらおかしくなってしまいますね」
 同じく1度は製作者を亡くした自動人形(オートマタ)である礼子にはその危うさを理解することができた。
「うーん、『あなたが一番』、か」
 仁は首をかしげる。
「どうとでも取れる言葉だな。あなたが一番『になりなさい』とか、あなたが一番『素晴らしい』とか」
 いろいろ考える仁。そして、
「私でしたら、あなたが一番『好きだった』と言って貰いたいです」
 と礼子。
「まあ、普通ならそう言うかもなあ」
 仁も礼子に同意した。
「まあ、一応ガタが来たところや劣化した部品を修理してやるか」
 仁は自動人形(オートマタ)の不具合箇所を修理した。そして再起動してみる。もちろん礼子の監視付き。というより礼子が拘束した状態で、だ。
「……ここは、どこですか」
 目を開けた自動人形(オートマタ)
「あなたが私の腕を直して下さったのですか?」
 その口調に狂気はない。
「ああ、そうだよ。まだおかしなところはあるかな?」
 そう言って仁は礼子の拘束をゆっくりと解かせた。すると自動人形(オートマタ)は身体を動かしてみて、
「いえ、どこも。とてもいい調子です。ありがとうございました」
 そう言ってお辞儀をした。
「直していただいたお礼に、あなたにお仕えしたく思います。どうか私に名前を付けて下さいませんでしょうか」
 そう言ってもう一度お辞儀をする。
 仁は少し考える。と、不意に名前が頭に浮かんだ。仁にしては珍しいことである。
「うーん、そうだなあ、それじゃあ、『エレナ』というのはどうだろう?」
 と言った。
「はい、私はエレナです。これからもよろしくお願いしますね、ごしゅじんさま」
 そう言ってエレナは深くお辞儀をし、礼子とアンに向き直って、
「お姉さま方もどうぞよろしく」
 と頭を下げた。

 これは、「もし」が許された世界。仁がエレナを見つけていたら、の世界。エレナにとって、幸せなその後を送れたであろう「もし」の世界の物語である。
第5列(クインタ)の名前は敢えて書きません。下手に書くと本作との整合が取れなくなりそうなので。
 まああくまでも「IF」なのですが。

 当然、統一党(ユニファイラー)もおとなしくしています。

 お読みいただきありがとうございます。

 次回は本編に戻ります。


 20131031 15時34分  誤記修正
(誤)年月を経て壊れているもののあったが
(正)年月を経て壊れているものもあったが

 20131031 16時03分  表記の統一
 ラスト、『もし』が2回出て来ますが、1回目に「」が無く、2回目に「」が付いているので統一して両方に「」を付けました。

              表記修正
(旧)これが1つにはこの自動人形(オートマタ)が狂った原因なんじゃないかなあ
(新)これがこの自動人形(オートマタ)が狂った原因の1つなんじゃないかなあ
 「1つには」の掛かる部分が曖昧なので表現を変えてみました。

 20131031 19時51分  表記修正
(旧)そこはまだ発見されていないんだな?
(新)その空洞はまだ発見されていないんだな?
「そこ」とすると、古代遺跡を指すのか空洞をさすのかわかりづらいので代名詞を止めて空洞と明記しました。

(旧)仁は少し考え、
(新)仁は少し考える。と、不意に名前が頭に浮かんだ。仁にしては珍しいことである。
 パラレルワールドIFですのでこういう展開にしてみました。
 尚、『エレナ』『悪女』で検索していただくと本来の由来(作者がどうしてこの名前にしたか)がわかるかも。
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