挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

09 統一党決着篇

238/1473

09-23 ラインハルトとドナルド、そして

 4月19日。ラインハルトは地方都市アスタンに泊まっていた。
 その前日に泊まったタンステンからだとかなりの強行軍であったが、その分、ここアスタンには3泊するというのが彼を護衛している幼馴染みで近衛部隊第3中隊隊長のマテウスが立てた予定である。
 と言うのも、ここアスタンには彼等の母国ショウロ皇国の補給基地があったのである。
「兵達も休ませたいから、ここで3泊だ。あとは強行軍になるから十分休んでおいてくれ」
 マテウスはそう言ってラインハルトに予定を伝えた。
 アスタンに3泊した後は、22日早朝にアスタンを発つ。そして終日急いで、22日夜は地方都市ポロロン泊。23日はガニーズの街、24日は国境の街トスコシア。そして通過許可がすぐに出れば25日にはショウロ皇国に入れる。
「遅くとも、27日には母国の土を踏めるさ」
 マテウスは笑ってそう言った。そして、
「言っておくが、絶対に1人で出歩くなよ? 娼館に行くのも駄目だ。あと10日もすればベルチェに会えるんだからな?」
 と釘を刺すのも忘れない。執事のクロードに、ラインハルトが一人歩きをする悪癖があるという事を聞いているからだ。
「……わかったよ」
 不満そうなラインハルト。しかしマテウスの言うことはいちいちもっともなので反論できない。
「ジンとの旅は楽しかったな」
 ベッドに横たわり、そんなことを思い出すラインハルトであった。

 明けて20日。
 翌日も禁足は変わらない。晴天だというのに部屋に籠もらなければならないラインハルト。
 窓からぼんやり外を見たり、ソファにごろりと身を横たえたり、と所在なさそうなラインハルトを見た侍女の1人が、
「あの、御主人様、先ほど耳にしたんですが」
 と、ロビーで聞き及んだことをラインハルトに告げる。
「なんでも今、この街にセルロア王国の王国魔法工作士ロイヤルマギクラフトマンで、ドナルド・カロー・アルファという方が滞在されているそうです」
「何!」
 それを聞いたラインハルトは寝転んでいたソファから飛び起きる。
『アルファ』。それはセルロア王国の製造職のトップであることを表す。ラインハルトもまだ面識は無かったが、当然その名は聞き及んでいた。
「うーん、何とか会えないかな?」
 こちらに来てもらえるなら、問題無いだろう。そう思ったラインハルトは執事のクロードを呼び、相談した。
「承知致しました。とりあえず先方のご都合などを伺ってまいります」
「うん、たのむ」
 セルロア王国が自国の王国魔法工作士ロイヤルマギクラフトマンにどのくらいの権限を認めているかにもよるが、ラインハルトは外交官であるから、彼等と少なくとも同等と見て良い。
 内心わくわくしながら、ラインハルトはクロードの帰りを待った。
 そして小一時間ほどで帰ってきたクロードは吉報を持ってきた。
「ただ今戻りましてございます。先方では、今日の午後伺います、と仰っていただけました」
「おお! そうか! それは楽しみだ! クロード、ベス、ドリー、おもてなしの準備を頼む」
「はい」
 執事と侍女達に指示を出すラインハルト。出先で大したことは出来ないが、呼び付けた側として、精一杯のことはしたい。
 更にわくわくする気持ちを抑えてラインハルトは午前を過ごした。

*   *   *

 その人物はゴーレムを伴ってやって来た。
 中肉中背で、髪は真っ白。だが夢見るような青い眼には知性と、そして僅かばかりの狂気がうかがえた。
「初めまして、私がドナルド・カロー・アルファです。お招きいただき光栄です、ラインハルト殿」
「こちらこそお会いできて光栄です」
 2人は握手し、簡単に挨拶を交わすと、まずはラインハルトが勧めてテーブルに付いた。
「そちらがドナルド殿のお作りになったゴーレムですね?」
 話をするのが待ちきれなくなったラインハルト、侍女がお茶を出す前に口を開いた。
「さようです。私の身の周りの世話をしてくれている457号です」
 457号と呼ばれたそのゴーレムは身長2m。人間そっくりの体形をしていた。
 それを見たラインハルトの口から思わず漏れる呟き。
「内骨格型……」
 それを耳にしたドナルドは少し驚いた顔をした。
「なぜそれが? もしや、ラインハルト殿も内骨格型のゴーレムをお作りになられるか?」
 そのドナルドの言葉から、ラインハルトは推測が当たったことを知った。
「ええ、まあ。内骨格にすることでより人間に近い動作をさせられますからね」
 そう言うとドナルドは大きく肯き、
「さようさよう。その若さでそれを理解されているとはラインハルト殿は大した御仁だ」
 と感心した様に言う。ラインハルトは少し照れる。が、ここで仁の名を出すほど愚かではない。
「僕も最近、ゴーレムの構造に目覚めましてね」
 と答えるに留めたのは外交官としての経験であったろう。
「ふむ、ラインハルト殿のゴーレムは黒騎士(シュバルツリッター)でしたな。確かベータの金剛戦士(アダマスウォーリア)を破られたとか」
 ベータというのは要するにアルファであるドナルドに次ぐ魔法工作士(マギクラフトマン)の事である。
「もう1年も前の話ですよ。今は貴公の国でももっともっと強いゴーレムを開発しておられるのでは?」
 これはエゲレア王国と戦争をしているセルロア王国への皮肉も含んだ発言だったが、ドナルドは全く意に介さなかった。
「ははは、その通りですな。あのベータも金剛戦士(アダマスウォーリア)に更なる改良を加えたようですし、技術というのは競い合うことでより向上するものですからな」
「その点は同感です」
 ただし、戦争は認めません、と続けたくなるのを堪えるラインハルト。

 それからも話は弾み、あっという間に夕方である。
 ドナルドは明日も来たいと言った。願ってもない事なのでラインハルトはそれを快諾。
 そしてドナルドは夕闇の中を帰って行ったのである。
「ああ、楽しいひとときだった」
 他国の魔法工作士(マギクラフトマン)との談話というものは実り多いものである。たとえ、お互いに機密を漏らさない前提で話をしているにしても。
「ようございましたね、ラインハルト様」
「ああ。ベスのおかげだ。ありがとうな」
 ドナルドのことを教えてくれた侍女、ベスに礼を言うラインハルト。礼を言われたベスは慌てた。
「そんな、もったいのうございます」
「いや、本心だ。ドリーもだが、お前達は良くやってくれている。2年近く本国を離れて僕に付いてきてくれた。それももうすぐ終わりだ。家族の元に帰れるぞ」
「いいえ、ラインハルト様。家族ぐるみでお世話になっておりますこの身、お世話致しますのは当然のことです」
 今度はドリーが答えた。
「それでも、夫と離れ離れというのは辛いだろう。済まないと思ってるよ。だが既婚のお前達を僕に付けたのは父上だからなあ」
 婚約者がいるラインハルトが、旅の間に侍女に手を付けないようにと、一応既婚の侍女を付けたのは父親の判断であった。因みに2人とも胸が控えめなのは偶然ではない。そのあたりも考慮した父親の判断である。
「大旦那様には深いお考えあってのことでしょうからな」
 横からそう言ったのは執事のクロード。ラインハルトが巨乳好きなのを知っているからこその発言である。侍女2人はそこまでは勘付いていない。
「まあとにかく、あと10日もすれば我が家へ帰れるんだからな」
「はい、楽しみです」

*   *   *

 翌21日の午後、約束通りドナルドがやってきた。
 今日はゴーレム457号の他に自動人形(オートマタ)を伴っている。
 その自動人形(オートマタ)は絹糸のような金髪を長く伸ばし、肌は白磁の如く白く、その瞳は燃えるような深紅であった。人間であると言われても信じそうな出来である。
「エレナと申します」
 自動人形(オートマタ)は自ら名乗った。声も美しい。澄んだソプラノは小鳥の声のようである。
 ラインハルトは返事も出来ずに見とれていた。我に返ったのはドナルドの声で、である。
「ラインハルト殿、いかがですかな? エレナは素晴らしいでしょう」
 はっと気が付いたラインハルトは、若干顔を赤らめた。
 外交官という立場上、美しい女性を見る機会は多い。王族、貴族令嬢、夫人、その使用人、そして娼婦達。
 だが目の前のエレナという自動人形(オートマタ)はその全てを凌駕する美しさを持っていたのである。
「エレナ殿、よろしく。ショウロ皇国の魔法技術者(マギエンジニア)、ラインハルトと申します」
 ラインハルトがショウロ皇国式の呼称、魔法技術者(マギエンジニア)を名乗ったのはささやかな矜恃だったのかもしれない。
 ベスとドリーは侍女さんの名前です(名前初出)。
 そして謎の自動人形(オートマタ)、登場です。

 お読みいただきありがとうございます。

 20140520 07時51分 誤記修正
(誤)済んだソプラノは
(正)澄んだソプラノは

 20151115 修正
(旧)ラインハルトは外交官であるから、セルロア王国が王国魔法工作士ロイヤルマギクラフトマンにどのくらいの権限を認めているかにもよるが、立場的には王国魔法工作士ロイヤルマギクラフトマンと少なくとも同等と見て良い。
(新)セルロア王国が自国の王国魔法工作士ロイヤルマギクラフトマンにどのくらいの権限を認めているかにもよるが、ラインハルトは外交官であるから、彼等と少なくとも同等と見て良い。
 語句がダブるなど、言い回しが少しおかしいので修正しました。

 20160510 修正
(誤)「仁との旅は楽しかったな」
(正)「ジンとの旅は楽しかったな」
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ