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マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

09 統一党決着篇

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09-14 ただいま

 ギーベック宅ではエルザ、バーバラ、ハンナが顔を寄せ合って話をしていた。
「それで、……どこまで話したかしら?」
 とバーバラが首をかしげれば、
「……村から出て行った人のこと」
 とエルザが答えた。それを聞いたハンナは、
「それって、おにーちゃんのこと?」
 と言った。
 今度はエルザが首をかしげ、
「お兄ちゃん?」
 と、わかっていない顔。それを察したバーバラが補足する。
「ハンナちゃんが言ってるのは、ジンさんって言って、ニホン? だったかな? から来たって言う男の人。魔法工作士(マギクラフトマン)なのよ?」
「え? まさか、ジン兄が!?」
 エルザもそれを聞いて椅子から立ち上がって驚く。
 ハンナもそれを聞いて驚く。
「ジン兄? おねーちゃん、ジン兄って言った? おねーちゃん、おにーちゃんの妹なの?」
「うん、私は、ジン兄の妹」
 そう聞いたハンナは顔を輝かせた。
「ジンおにーちゃん! ちゃんとおうちにかえれたんだ! ねえねえ、おにーちゃんげんき? いまどこにいるの? いまなにしてるの? レーコおねーちゃんは?」
 矢継ぎ早に質問を投げかけるハンナにエルザもたじたじ。
「ジ、ジン兄は家にいる。元気。いろいろな物作ってる……みたい。レーコちゃんもいっしょ」
 と、やっとそれだけを答える。
「そうなんだあ、よかった……! ずっとしんぱいしてたんだよ! あたしだけじゃなくて、みんな!」
「ええ、そうなんですよ、エルザさん。あなたのお兄さんはこの村の恩人ですし、村の一員でしたから」
「興味深い。ジン兄は話してくれなかった」
 そうエルザが言ったものだから、バーバラとハンナは少し驚いた。
「そうなんですか? あのですね、……」
「あのねあのね、おにーちゃんはね……」
「ジンさんは温泉とか作って下さって」
「おにーちゃんはね、みんと作ってくれたの!」
 2人ともエルザに仁の話を聞かせようとするものだからエルザは混乱してしまう。
「ちょ、ちょっと待って。お願いだから1人ずつ話して」
 苦笑しながらそう言うとバーバラとハンナは顔を見合わせて笑った。

「ハンナちゃん、お夕食は?」
 少し落ちついたバーバラがハンナに尋ねた。
「うん、食べてきた。おばあちゃんにもそんちょうさんの家へ行く、って言ってきた」
「そう。それじゃあ、うちにお泊まりする? そうすればエルザさんとゆっくりお話しできるから」
 バーバラはハンナにそう言った。ハンナは喜んでそれを受ける。
「うん! お泊まりする!」
 それでバーバラがハンナの祖母マーサに、ハンナが今夜泊まる旨を伝えに出た。
 その間はハンナがいろいろと仁のことを語る。そしてバーバラが帰ってきてからはまた3人で語り合った。
 それは夜が更けるまで続き、まずハンナの目蓋がくっつきそうになったので寝室へと移動。
 ハンナはエルザと一緒のベッドに寝ることにした。ハンナが是非にと望んだのだ。
「うふ。おねーちゃんといっしょ。おやすみなさい」
「ん、おやすみなさい、ハンナちゃん」
 すぐにハンナは寝息を立て始めた。
 バーバラとエルザはハンナを起こさないよう、小声で話を続ける。
「ハンナちゃんはね、ご両親いないので寂しいんですよ。それで去年、ジンさんがやって来て、一緒に暮らして、懐いて。で、またいなくなっちゃって」
「……そう、そんなことがあったの」
「ええ。だから、ジンさんの妹さんのエルザさんにそうやって……」
 ハンナはその小さな手でエルザの右腕にしがみついていた。
「ハンナ、ちゃん」
 エルザはハンナの頭を優しく撫でた。ハンナの髪はお日様の匂いがした。

*   *   *

 翌日の太陽が昇った。
「8時半、か。カイナ村だと6時半。もうみんな起きたかな?」
 仁はじっとしていられず、そわそわしていた。
「お父さま、カイナ村での8時に迎えに行く、って仰っていたではないですか」
 礼子がそう窘める。
「そう言うがな、落ち着かないんだよ」
 そんな仁を見たアンが質問する。
「ごしゅじんさま、それほど行きたい場所なのにどうして今まで一度もいらっしゃらなかったのですか?」
 問われた仁はうーん、と唸り、答える。
「迷惑かけたくなかったから、かな」
「どういう事ですか?」
「ああ、カイナ村にいたとき、あちらこちらを襲っていたゴーレムを作ったんじゃないかとか疑い掛けられたんだよ」
「でもそれって冤罪ですよね?」
「ああ、もちろんだ」
「なら気にする必要無いじゃないですか。きっと皆さん心配してらっしゃいますよ?」
「だったら嬉しいんだがな、厄介払いできた、とか思われていたら、と思うと二の足踏むんだよな」
「なんですか、それは。ときどきごしゅじんさまはどうしようもなく後ろ向きな事をお考えになりますね」
 はっきりと言うアンに仁も苦笑を禁じ得ない。それは仁の過去の出来事に起因するトラウマと言っていい。

 会社員時代のこと。とある子会社、いや仁がいる会社が子会社だから孫会社。その工場へ2週間ほど派遣された時。
 そこは社員にやる気がなかったのか、それとも別の理由があったのかまではわからないが、とにかくひどいものだった。
 何がひどいって、工場内は散らかり、資材の整理もされておらず、工作機械も油が切れて異音がしていたりと整備不良。
 仁はそれを一々チェックし、整理整頓を指示し、機械の整備方法のマニュアルを作ったりと奮闘した。特にマニュアルは勤務時間外に作っていたのだ。
 その甲斐あって2週間後には工場内は見違えるようにすっきりと綺麗になり、機械音も静かになった。
 工員達は仁が出向を終えて帰る時に『お世話になりました』と言ってくれた。だが、である。
 その工場を出てから書類を忘れた事に気がついた仁は当然取りに戻る。その時。
(まったくチェックシートなんてめんどくさいものやってられっかっつうの)
(資材だってこっちはどれがどこにあるかちゃんと把握しているんだよなあ。それを片付けちまったものだからわかんなくなっちまったぜ)
(本社から来たからって偉そうにしやがってよ)
(まあ、あいつももういないからな、また今まで通りにやろうぜ)
 そんな声がドアの向こうから聞こえてきたのである。仁は2週間の苦労は何だったのか、と全身の力が抜ける思いがした。

 そんな経験があったので、仁は臆病になっていたのである。
「あとはなあ、ほら、カイナ村が統一党(ユニファイラー)に目を付けられたら嫌だしな」
 だがアンはそんな仁の考えを否定する。
「いいえ、ごしゅじんさま。そんな消極的なことでは統一党(ユニファイラー)の魔の手は防げません。積極的に潰さなくては」
「積極的に、ってもなあ」
「とにかく今はそのカイナ村へエルザさんを迎えに行くことです。そして皆さんに御挨拶なさることです。それできっと全てが良くなりますよ」
「そうかなあ」
 アンに諭された仁は僅かに残っていた躊躇いを捨てる。こっそり行って、こっそりとエルザを連れ帰ってくるつもりも少しはあったのだ。
「お父さま、少し早いですが行きましょう」
 時刻は9時。カイナ村なら7時だ。
「マーサさんやハンナちゃんならもう起きて朝ご飯を食べ終わっている時間ですよ。ロックさんたちならもう野良仕事に出ているはずです」
「そう、か。そうだよな」
 礼子にそう言われた仁は、複雑な心境のまま、カイナ村への転移門(ワープゲート)に足を踏み入れた。
 そして出たのはシェルターの中。簡単にチェックしてみる。劣化は見られない。
「お父さま、行きましょう」
 礼子にせかされた仁は、行きたいのか行きたくないのか良くわからない自分の気持ちを見つめながら階段を登り、扉を開けて外に出た。
 外は快晴。春の日射しが降り注ぎ、仁は目を細めた。
 元が岩場だった周囲には草が生え、いかにも春である。擬装としてもいい出来だ。
「俺が初めてここに来てからからほぼ1年か」
 村へ向かってゆっくり歩きながら仁は去年のことを思い出していた。
 そんな思いを破ったのは村人の声。
「ジン!」
「あれ、ジンじゃないか?」
「ジンだよ! ジンが帰って来たよ!」
「何だって? 本当だ、あれはジンだよ!」
 その声に、家から、畑から、人々が集まってきた。
「おーい、来てみな、ジンが帰って来たぞ!」
「本当だ、レーコちゃんも一緒だ!」
 そして皆、仁に向かって駆け寄ってくる。中には農作業をほっぽり出して来る者も。
「ジン! 元気そうだなあ!」
 そう言ったのはロック。
「ジンにーちゃん、どこいってたんだよー。みんな心配してたんだぞー!」
 そう言ったのはクルト。
 更に人々が集まってきた。
「ジン! 今まで何やってたんだい! 連絡1つ寄越さないでさ!」
 と言ったのはマーサ。
 そして村長の家の前にいたハンナは。
「おかえりなさい、おにーちゃん」
 そんな仁が口に出来る言葉はたった1つ。
「……ただいま」
 ついに仁、カイナ村に帰ってきました。積もる話は次回で。

 お読みいただきありがとうございます。

 20130927 16時31分  誤字修正
(誤)機会の整備方法のマニュアル
(正)機械の整備方法のマニュアル

 20130927 20時18分  誤記修正
(誤)どれがどこになるか
(正)どれがどこにあるか

 20131215 12時12分 誤記修正
(誤)後ろ向きな事お考えになりますね
(正)後ろ向きな事をお考えになりますね
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