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マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

01 カイナ村篇

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01-08 天然ゴム

「やっぱり冷蔵庫は無理か……」
 仁はあきらめた。食料保存のため冷蔵庫を作ろうといろいろ考えたのだが、資材が圧倒的に足りない。せめて水系の魔石(マギストーン)があればいいのだが。
「火山があるから火系統の魔石(マギストーン)が見つかったんだろうな。とすれば逆に水系の魔石(マギストーン)は無理か」
 元々、自然界には水系の魔石(マギストーン)は少ないらしい。
「王都へ行けば作れるかもな……」

 ということで、今のところは冷蔵庫作りをあきらめ、他の物、ということで仁が手がけたのは『輸送』に関する物だった。
 仁の考えでは、コンロの製法をまたローランドに売るつもりである。その際、エルメ川で採れる火系統の魔石(マギストーン)をこの村特産とし、村の収入源にしたいと思っている。
 そうすると、ローランドが馬車で運ぶ際に問題になるのが運搬の手間。これが高く付くようだと、他から火系統の魔石(マギストーン)を購入されることになりかねない。結論として、輸送に関する改善は必須であった。
(王都とここは標高差があるんだよなあ)
 聞いた話から推測すると、カイナ村の標高は約1000メートル。南にあるらしいこの村が夏でも割合過ごしやすいのはそのためである。
(帰りはいいけど来るのが大変だろうなあ)
 荷を積んでの帰路は下りだからいいとして、往路が大変なので、2箇月に1回という来訪頻度になってしまうのだろう。
「あー、モーターかエンジンを開発したいな」
 研究所なら可能だろうが、ここではそれも無理。とすれば、
「馬車の改良、ということになるか……」
 という結論に達した仁は、改良点を洗い出すことにした。
「馬が楽に引けるように、ベアリング装備は必須だろ」
 今できる範囲で考えていく。
「タイヤをゴムにしたいよなあ。とすると、天然ゴムの採れる木を探すということだな」
 カメラ屋でアルバイトをした時、ガタパーチャという樹脂の話を聞いたのである。それはゴムの木から採れるゴムではなく、なんとかいう木から採れる樹脂で、ドイツの有名なカメラがこれをカメラに貼っている。
 その木は中国などにあって樹皮が健康茶になるというのである。
「この村で飲んでるお茶、あの木って白い樹液が出たっけな」
 ということで調べてみることにする。となると詳しいのはハンナ。
「ハンナ、お茶の葉を採りに行こう」
 と仁が声をかければ、
「うん!」
 とすぐに答えが返ってくる。
 それで、小さな籠を持って森へ。
「あったー、この木だよ」
 村人が『お茶の木』と呼んでいる木。
「よし、若葉を選んで摘んでいこう」
「うん」
 森の一角にたくさん生えている木。その葉をちぎると粘った糸を引く。これがゴムの原料になるというわけだ。
 木の特徴を憶えた仁は、お茶にする葉を採って帰った後、もう一度森へ、今度は1人でやって来た。
「採りすぎて枯らしたりはしたくないよな」
 環境破壊をしないよう、あちこちの木に傷を付け、浸み出す樹液を受ける皿を縛り付けていく。
「よし、明日まで待てばけっこうたまりそうだ」
 TVか何かで見たゴムの木の樹液採集を真似てみる。
 樹液が溜まる間に、ベアリングの開発をしに帰った。
「おにーちゃん、こんどはなにするの?」
 最近、仁が魔法でいろいろな物を作っているのを眺めておもしろがっているハンナである。
「まあ見ていてごらん。……変形(フォーミング)
「わ、おもしろーい」
 鉄の塊が見る間に球に変形。それもミクロン単位で同じ大きさの物が数10個だ。魔法工学師マギクラフト・マイスターだけが出来る精密加工である。
浸炭(カービュライジング)
 鉄に炭素を含ませる魔法、仁のオリジナルだ。これにより、ただの鉄は強靱な鋼に変わる。
 同様に外輪、内輪、ボール保持器を作り、組み立てればボールベアリングが完成した。硬化(ハードニング)までかけてあるから、耐久性は折り紙付きである。
「なーに、これ?」
 出来上がったのはハンナにはよくわからない物だったので、つまらなそうな顔をして夕食の仕度を手伝いに出て行ってしまった。
 仁は苦笑いをして、ベアリングに合う太さの軸、車輪を用意。その後、ハンナが使う水運び用のリヤカーを、ベアリング付きに改造してその日は終わった。
 翌朝、ハンナが水汲みから帰ってきて、
「おにーちゃん、あたしのリヤカーになにかした?」
「昨日作っていた物があるだろう。あれを取り付けたんだよ」
 と仁が言うと、
「すっごくかるくうごくようになったから、ちからがつよくなったのかとおもったらおにーちゃんだったのかー」
 と、残念なような嬉しいような顔を仁に向けていた。

「さて、天然ゴムは、っと」
 朝食後、樹液の溜まり具合を見に森へ行く仁。
「お、すごく溜まってるな」
 仁が付けた皿はほとんど一杯になっていたので、用意してきた桶に移し、引き続き樹液を集めることとする。
「さーて、次は加硫、か」
 天然ゴムはそのままでは軟らかく、熱を加えると溶けたりして扱いづらいので、硫黄を何パーセントか混ぜることで使いやすい硬度にする。これを加硫と言うが、
「話に聞いただけでやったことないんだよなあ」
 硫黄は『死の山』付近でたくさん採れるので、なにかに使えるだろうと暇な時に集めていたのを使う。
「試行錯誤、か」
 それで、まず硫黄を5パーセントくらいでやってみる。結果。軟らかすぎる。次は10パーセント。まだ軟らかい。15パーセント。いい感じ。20パーセント。硬い。30パーセント。最早ゴムじゃない。確か、エボナイトとかいうものがこんなだった、と仁は思った。
「さて、この試作ゴムをどうするか」
 通常、加硫したゴムは、溶かして型にはめる様な加工はもう出来ない。加硫する前に形にするのがセオリーだが、仁には関係ない。
「よし、変形(フォーミング)
 試作品のゴムでボールを作る。もちろん中空だ。大きいものはドッジボールくらい、中くらいのは手まりくらい、小さいのは野球のボールくらい。同時に浮き輪も幾つか作った。
「子供たちにあげれば喜ぶだろうな」
 それで、ハンナを探しに行く。最近は人見知りも完全になくなり、村の子供たち同士で遊ぶことも多くなった。仁は広場へと行ってみるが、暑いので誰もいない。
「やっぱり川か」
 エルメ川へ行くと、やはり子供たちは川で泳いでいた。ハンナもいる。そのハンナは目ざとく仁を見つけると川から上がってきて、
「おにーちゃん、それなに?」
 と、浮き輪やボールを見てそう聞いた。
「これはボール。こっちは浮き輪」
「なにするもの?」
「なんだ? これ」
「ジンにー、また何作ったの?」
「ジンさん、何ですか、これ?」
 子供たちだけでなく、川で火の魔石(マギストーン)を採取していたのだろう、バーバラもやってきた。
「このボールはな、こうやって投げたり受け取ったりして遊ぶんだ」
 まずドッジボールをクルトに投げてみる。やんちゃなクルトはあわてたものの上手く受け取った。
「うまいうまい。それを他の誰かに投げてみな」
「よーし、マリオ、うけとれよ?」
「え、ちょっと。……なんだ、軽いんだ」
 中空なので見かけより軽い。すぐに男の子たちはボールの投げっこをして遊び始めた。残った女の子達には手まりを渡す。
「これは手まり。投げてもいいけど、こうやって突いて遊んだりするんだ」
 平らな地面を見つけ、まり突きをしてみせる仁。
「あー、やらせてやらせてー」
 おてんばなジェシーがすぐに飛び付き、何度か力加減を間違って明後日の方向に飛ばしたりしたが、すぐに上達する。
 最後は野球のボール……は、持てなかったので置いてきた。それで両腕に通して運んできた2個の浮き輪の出番。
「これは浮き輪っていってな、この輪の中に入って腕で抱えるんだ。そうして水に入ってみな」
 まだ泳げないので浅いところで遊んでいた子、ジムとパティに渡し、水へ入らせると、
「わー、ういた−!」
 大はしゃぎであった。
 それを見たバーバラが羨ましそうにしていたので、そういえばこの前も浅瀬にしかいなかったことを思い出し、
「バーバラさん、もしかして泳げない?」
 そう聞くと真っ赤になったので、あとでもう一つ作ってあげようと思う仁であった。
20130411誤字修正
(誤)手まりを付く (正)手まりを突く

 現実世界にも、温帯で唯一? 天然ゴムの取れる木、杜仲があります。
 加硫することでゴムの分子が架橋され、動かなくなるので塑性変形しなくなるのです。架橋を多くすると硬くなり、エボナイトとなります。ただし、加硫は個人ではけっこう大変です。それこそ魔法でも使わないと。
 お読みいただきありがとうございます。

 20151115 修正
(旧)「あー、モーターかエンジンを開発したいぜ」
(新)「あー、モーターかエンジンを開発したいな」
 仁の口調としてよりらしく。
+注意+
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