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マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

01 カイナ村篇

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01-07 コンロ

 このところ仁がずっと考えているものがある。それはコンロ。カイナ村、いやこの世界では、煮炊きには薪を使うのが一般的である。
 しかし薪は、木の切り倒し、枝払い、玉切り(短く切ること)、乾燥、そして薪割りを経て使われる。切り倒して運んでくるのは力仕事だし、乾燥には半年近く掛かる。乾燥していない生木は燃えにくく、煙も多い。炭を作るという発想がないこの世界、一般庶民は薪が熱源であった。
「やっぱり魔結晶(マギクリスタル)……いや、魔石(マギストーン)でいいから欲しいな」
 研究所の地下なら、山のようにあったのに、と残念な仁。まあ、研究所に蓄えられた資財は流通を混乱させてしまうほどの量があるのだが。
(無い物ねだりをしてもしょうがない。んーー、俺の仮説だと、魔力子という素粒子があって、中性子みたいに陽子にくっついて原子核を作る。放射性同位元素(ラジオアイソトープ)と似たような位置付けだと思うんだよなあ)
 同じ元素でも、原子核に魔力子がくっついているものが魔力を帯びる、というのが仁の立てた仮説である。魔法工学師マギクラフト・マイスターとしての魔法の知識と、現代日本高校卒業レベルの知識が出会って導かれたもの。この世界の誰もそんなことは考えようとしたことさえ無い。
(つまり、ウランと同じに濃縮できる筈なんだけど、資材も設備もないんだよなあ)
 研究所だったら1日あれば魔力元素濃縮装置を作ってしまいそうな仁であるが、ここカイナ村ではどうしようもなかった。

「おにーちゃん、あそびにいこ?」
 そんな仁をさそったのはハンナ。
「あ、ああ、そうだな。どこへ行く?」
「あついから泳ぎにいこー」
 村の南にはエルメ川という大きな川が流れており、王都まで続いているらしい。だが、途中に何段も滝があるため、水運に使われることがない、とはローランドから聞いた話。
「よし、行くか」
 それで2人は水着に着替えて川へと向かった。水着と言っても下着とあまり変わりはない。因みに下だけしか着ていないがハンナは全く問題ないし、仁も気にすることはない。
 川にはもう子供たちが泳ぎに大勢来ており、中には村長の姪であるバーバラも混じっていた。さすがにバーバラは胸にも布を巻いている。
「あっ、ジンにーちゃんだ! ハンナも!」
 2人を見つけたクルトが声をあげる。マリオ、ジェシーも2人に手を振った。
「いきなり川に入ると体によくないからな。体に水をかけて、ゆっくり入るんだよ」
「うん」
 ハンナに注意し、ゆっくりと川に入る仁。泳ぐ場所は流れの緩やかな淵だ。淵とは言っても幅20メートルはあり、深いところは3メートルくらいの深さがある。
「きゃはっ、きもちいい」
「あー、ほんとだな」
 ゆったりと水に浮かび、しばし頭を休める仁、その顔に水が浴びせられた。
「ぷあっ!」
「へへー、ジンにーちゃん、なにぼーっとしてんだよ? あそぼうぜー」
 水を掛けてきたのはやんちゃなクルトだった。
「やったな、こいつ!」
「つかまんないよーだ」
「あ、鬼ごっこだね? おれもやる!」
「あたしもあたしも!」
 いつの間にか子供たちが集まってきて、水中鬼ごっこと化してしまった。バーバラは浅いところで微笑ましそうに眺めている。
「ハンナちゃん、つーかまえたー!」
「ジェシー、つかまえた!」
「あとはクルトか?」
「あっ、あそこにいる! もぐった!」
「よーし」
 淵の深いところへ潜って逃げるクルト、それを追う仁とマリオ。
 淵の底近くでクルトを捕まえたのは泳ぎの上手いマリオだった。その際、クルトが暴れ、淵の底に溜まった砂が巻き上がる。それを見た仁の頭にあるアイデアがひらめいた。
「あー、おもしろかったねー」
 遊び終えて水から上がる子供たち。そろそろお昼なので、みんな家へ帰るようだ。
「おまえら、温泉でお湯をさっと浴びてから帰れよ−」
「ほーい」
 冷えた体のままだと体調を崩したりする心配があるので、仁はそんな声を掛けた。まあ、この村の子供たちはそんなヤワではないのだが。
「ふー」
 自分もお湯を浴びつつ、さっきのアイデアを検証する仁。
(中性子が多い原子が重いように、魔力子が余計にくっついた原子も重いはずだ。だったら砂金みたいに水中で篩い分けが出来るはず)
「おにーちゃーん、まだ出ないの−?」
 ハンナの呼ぶ声に我に返る仁。考え込みすぎて長くお湯に浸かり過ぎたため、汗をかきながらマーサ宅へ戻った。ハンナは涼しげな顔だ。
「どうしたんだい、泳いできた割には暑そうな顔をして?」
 マーサにも言われてしまった。
「ええ、ちょっと考え事をしていて」
 そう言ったらあいかわらずだね、と苦笑いされた仁であった。

 午後、仁は1人、あらためてエルメ川に来ていた。ハンナはといえばお昼寝中だ。
「さて、実際にやってみるか」
 そう呟いて水に入る。手には大きな皿を持って。
 まずは浅いところで川底の砂を皿にすくい、水中で揺らす。そうすると軽い砂は水に流されるが、重い砂は流されずに残るというわけである。
 これは『わんがけ』という砂金採りの技法だ。もちろん仁に経験があるわけではないが、テレビでやっていたのを見たことがあったのだ。
 何回か繰り返すと、皿の底に赤い色の砂が少し残った。水から出て、確認してみる。もちろん魔法で。
分析(アナライズ)。……うん、火属性の魔石(マギストーン)だ。思ったより程度がいいな」
 何度か繰り返したが、見つかるのは皆赤い魔石(マギストーン)だった。
「ふーん、温泉が出ることと何か関係があるのかもな。でもまあ、思わぬ幸運だ」
 コンロを作るためには火属性の魔石(マギストーン)は好都合である。
 その日は、夕方になってハンナが探しに来るまで魔石(マギストーン)の採取をしていた仁であった。

 翌日、作業場に籠もる仁。今回使うのは鉄系の材料である。火を扱うので危ないと、ハンナには悪いが1人で遊びに行ってもらった。
「さて、基本形はあれ(・・)だよな」
 一般的なカセットコンロの形を思い浮かべ、鉄を鉄板に変形させていく仁。あらためて魔法は便利だと思いながら。だが魔法工学師マギクラフト・マイスターだからこそここまで精密に出来るのだという事は認識していない。
 出来上がった鉄板を今度は曲げ、コンロの形を作っていく。バーナー部分には魔石(マギストーン)を加工したヒーターを配置、カセットボンベの代わりが魔石(マギストーン)入れである。
 試作なのでカセットコンロ型にしたが、最終的にはガステーブルのような形にしたいと思っている。
「よし、出来た」
 作り始めて気が付いたのは、火力の調整だった。これは魔石(マギストーン)からヒーターへ供給される魔力を、つまみで調整できるようにして実現。
「さっそく試してみないとな」
 仁は完成したコンロを持って、マーサの所へ行った。ちょうどマーサは、昼食の仕度を始めるところで、鍋にお湯を沸かそうと薪を取り出したところだった。
「あ、マーサさん、ちょっと待って」
 そう言うとマーサは薪を持った手を止めて、
「そりゃ何だい? また何か面白そうな物を持ってきたね」
「ええ、これは『コンロ』って言って、薪を使わずに煮物が出来るんですよ」
「へえ、やっぱり『魔導具』なのかい?」
「そうですよ。使ってみて貰えますか?」
「ありがたく使わせて貰うよ。どうすりゃいいんだい?」
 調理台の上にコンロを乗せ、その五徳の上に水を入れた鍋を乗せる。
「使い方は簡単です。まずこのレバーを上げます。そしたらこのつまみをひねれば、ヒーターが熱くなってお湯が沸かせます。つまみのひねり具合で火力調整が出来ますよ」
 するとマーサは目を見開き、
「なんて魔導具だい! 『コンロ』って言ったね?……こんな簡単に火加減ができるなんて! ジン! これはすごいよ!」
 と大喜びしたので仁も嬉しくなった。
 薪での火加減は非常に難しい。薪の量や種類で変わる。にもかかわらず美味しい料理を作れるマーサはすごいのだが、料理スキルが初心者レベルの仁にはそこまではわかっていない。
 だがそんなマーサでも、この『コンロ』なる魔導具は画期的であったのだ。

 何日かかけた試作テストも終わり、問題がなかったので、村中に行き渡るだけのコンロを作り、補充用の魔石の採集方法も指導する仁に、村中の家は多大な感謝をするのであった。
 カイナ村での話は基本ほのぼのになります
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