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マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

08 統一党暗躍篇

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08-07 思わぬ再会

 今回ちょっとだけショッキングな描写があります。
 地方都市テルルスはある意味、王都エサイアに入るための関門と言ってもいい。
 何故王都エサイアがそんなに国境に近い場所にあるのか。

 元々セルロア王国はごく小さな国であった。魔導大戦後、ディナール王国が小群国に分裂して後、ディナール王国の首都跡に国を創ったセルロア王国は、8代目の王であるローラン1世に率いられて周辺国に戦いを挑んだ。
 足かけ10年にわたるその戦争で、セルロア王国は周囲の国を併呑、領土を増やした。この侵略行為は何代かにわたり繰り返された。
 その併呑した国は北方と東方、西方、そして南西であったのである。そのため首都の位置が偏っているというわけだ。
 もしエゲレア王国も併呑されていれば、さほどおかしな位置ではないのである。
 因みに南方のエゲレア王国はその時最後まで頑強に抵抗し、戦争が長引くことによる国力低下を避けたローラン1世はエゲレア王国と和睦。
 以後、小競り合いはあるものの、おおむね外見上は良好な国交を続けてきていた。そう、エルザの父が活躍した18年前までは。

「今の王様は少し好戦的なようだとラインハルトは言ってたな……」
 テルルスの街を歩きながら仁は独り言を呟いた。
 渡し船に乗れるまであと2日。ラインハルトは知り合いを訪ねてみると言い、仁と別行動している。
 仁はエルザが見つからないいらだたしさを紛らわすため、なんとはなしに街中をぶらついているだけだ。春の日射しが暖かく、散歩にはちょうどいい。
 1時間以上ぶらついて少し疲れた仁は、大通りに面した広場に備え付けられたベンチに座った。
「ふう」
 行き来する人も多く、活気がある。親子連れ、家族、恋人同士。商人、貴族、老人、子供。いろいろな人たちが行き来していた。
「あれ、お兄さんです」
「ん?」
 どこかで聞いたような声。そちらを向けば、絹糸のような金髪をふわりと垂らした青い眼の女の子。
「えーと、君は」
「シーデです、お兄さん」
 鉱山の村、ヤダ村で出会った女の子。セカット子爵家の令嬢である。
「ああ、そうそう、シーデちゃんだったね。今日はどうしたの?」
 思い出した仁は笑って話しかける。
「はい、一昨日からこの街で観光してるです。今日はトーレス川の遊覧船に乗ってきたです」
「へえ、遊覧船か。楽しかった?」
「はいです。川はとっても広くて、青くて、お魚さんが跳ねていましたです」
 にこにこしながら身振り手振りを交えて仁に説明するシーデ。仕草が微笑ましく、聞いていて仁も楽しくなる。
「それで、なんでここにいるの? 1人?」
 そう聞くとシーデはちょっと困った顔をした。
「あう、その、……母さまたちとはぐれちゃったです」
「ええ?」
 要するに迷子である。仁は慌てて立ち上がり、辺りを見回した。だが、それらしい人は見えない。
「お母さんたちもきっと探してるよ? そうだな、泊まっているホテルはわかるかい?」
「はいです。『緑の木陰ホテル』っていうです」
「緑の木陰ホテルか……どこかにあったな」
 その名前には聞き覚えがあった。仁が考えていると、耳元で声がした。
(お父さま、ここの通りから2本東に寄った通りにあるホテルです)
 姿を消したままの礼子がそう耳打ちしたのである。
「えーっと、確かそのホテルは向こうにあったよ」
 仁は礼子に感謝しつつ、シーデの手を引いて歩き出した。
「ありがとうです、お兄さん。今日はあのお姉さんいっしょじゃないんです?」
 あのお姉さん、というのはエルザの事だろう。確か転んだシーデの怪我を治癒魔法で治してあげたんだった、と仁は思い出す。
「うん、今は別行動してるんだ」
「そうなんです? また会いたいのです」
 怪我を治して貰ったことでエルザに懐いたようである。
「うーん、難しいかもな」
「やっぱりお姉さんも貴族だからなかなか外出できないのです?」
「まあ、そうだね」
 まさか本当のことを話すわけにも行かないので仁が誤魔化すように言うと、シーデは真剣な顔で言った。
「さびしいのです。それならシーデは貴族なんてやめてもいいのです」
 その言葉に仁は考えさせられるものがあったが、
「駄目だよ、シーデちゃん。お母さんが悲しむよ」
 そう言って諭しておく。シーデは素直に肯いた。
「はい、わかりましたです。母さまを悲しませたくないのです」
「うん、シーデちゃんはいい子だね」
 仁はそう言って隣を歩くシーデの頭を撫でた。
「えへへ、気持ちいいのです」
 シーデは頭を撫でて貰ってご満悦だ。
 そうこうするうちにホテルの前に到着する。
「シーデ!」
 慌てたような女の人の声。シーデの母親、セカット子爵夫人マリリアであった。
「母さま!」
 マリリアは駆け寄ってきてシーデをかき抱く。
「どこに行っていたの! 今、エデムやハウロが捜しに行っているのよ!」
 ハウロというのはあの執事だろうか、と仁は親子の対面を眺めながらぼんやりと思っていた。
「ごめんなさいです。大通りで面白い見せ物見ていたら母さまたちがいなくなって、お兄さんにここまで連れてきてもらったのです」
 するとマリリアは抱いていたシーデを放して仁の方を見た。
「シーデを連れてきて下さってありがとうございました。……あら、あなたは確か?」
 仁の顔を覚えていたらしい。
「はい、ヤダ村の坑道見物でご一緒しましたジン・ニドーと申します」
「まあまあ、あなたでしたの。今日はお一人?」
「はい、ラインハルトは知り合いを訪ねに行ってます」
「そうですか。何かお礼をしたいのですが旅先で手元不如意なので……」
 などと言い出したものだからかえってジンは恐縮し、
「いいえ、大した事したわけではありません、それではこれで失礼します」
 そう言って一礼し、まだ何か引き止める声を背に、足早にその場を離れた仁である。

「親子、か。いいな、ああいうの」
 そんなことを仁が頭の片隅で考えつつ適当に足を進めると、川縁に出た。
 トーレス川沿いには5メートルほどの堤防が築かれており、上に登ることも出来る。歩いて少し汗ばんだ仁は、川風に吹かれようかと堤防に登ってみた。
「ん? 何か騒いでるな」
 堤防に登ると、川原が見えるのだが、そこに人が集まっている。
「お父さま、水死体か何かのようです」
 姿を隠したまま礼子がそう告げた。礼子の視力は鷹よりも鋭い。と仁は思ったようだが、姿を消している時は赤外線で見ていて、遠くの細かい判別は難しいので一瞬で近くまで行って戻ってきたのだ。
「あれは……見覚えがあります。ミーネですね」
「何だって!? エルザといっしょに逃げているはずのミーネが水死体となって上がった!?」
 嫌な予感がした仁は堤防を駆け下りる。何度か滑りそうになったがその都度礼子が支えてくれて転ばずに済んだ。
 川原へと降り立った仁は大急ぎでそこへ駆けつける。
 大勢の野次馬の間から見た仁は、呻くように言った。
「やっぱり……ミーネか」
 それはやはりミーネに間違いはなかった。違っていたのは水死体ではなかったこと。まだ息があったのである。
「ちょっとどいてくれ! 知り合いなんだ!」
 そう言ってミーネの傍に行った仁は、
「うっ……」
 その惨状に顔を顰めたのである。
 右手は折れているらしくおかしな方向に曲がり、頭部は殴られたらしく赤黒く腫れ、腹部にはナイフが突き立っていた。
 ミーネとエルザに何があったのでしょう?

 お読みいただきありがとうございます。

 20130816 20時08分 表現修正
(旧)緑の木陰ホテルか……どこかで見たな
(新)緑の木陰ホテルか……どこかにあったな
 シーデから聞いたので『聞き覚えが』とした関係で、『見たな』は噛み合わないので。

*水死体(?)をミーネだと礼子が判別しましたが、ステルス中は赤外領域で見ていることになっており、その状態では遠方の解像度はあまり良くないのでミーネであると識別するのは難しいだろうと、『と仁は思ったようだが、姿を消している時は赤外線で見ていて、遠くの細かい判別は難しいので一瞬で近くまで行って戻ってきたのだ。』を追加。


 20130817 13時05分  修正
(旧)そんならシーデは貴族なんてやめてもいいのです
(新)それならシーデは貴族なんてやめてもいいのです
 シーデの言葉づかいなら「そんなら」でなく「それなら」の方ですね。

 20140601 08時57分 表記修正
(旧)魔導大戦後、ディナール王国が小群国に分裂して120年後、ディナール王国の首都跡に国を創ったセルロア王国は、8代目の王であるローラン1世に率いられて周辺国に戦いを挑んだ。
 足かけ10年にわたるその戦争で、セルロア王国は周囲の国を併呑、領土を増やした。
(新)魔導大戦後、ディナール王国が小群国に分裂して後、ディナール王国の首都跡に国を創ったセルロア王国は、8代目の王であるローラン1世に率いられて周辺国に戦いを挑んだ。
 足かけ10年にわたるその戦争で、セルロア王国は周囲の国を併呑、領土を増やした。この侵略行為は何代かにわたり繰り返された。

 その後の設定と矛盾しないようにしました。

 20150227 表記修正
(旧)今の王様は好戦的でもなければ領土拡張の野心があるわけでもないとラインハルトは言ってたが
(新)今の王様は少し好戦的なようだとラインハルトは言ってたな……

 ずっと後になってのセルロア王国国王の性格と矛盾するので直しました。
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