挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

08 統一党暗躍篇

180/1503

08-01 兄妹

 春たけなわの4月2日、ヤダ村を発った仁・ラインハルト一行は、コオルズ町に一泊。
 翌日は本街道へ戻らずにそのまま西へ進み、セルロア王国との国境の地方都市、イカサナートにやってきた。
 ここではエゲレア王国を出てセルロア王国へ行く者、またその逆も、ということで出入国管理がうるさい。
 それはセルロア王国が相手だからで、エリアス王国との国境線はこんなに管理は厳重ではない。

「3日くらい留め置かれるかもな」
「まあ、身体を休めるにはいいかもしれない」
 馬車での移動というのは疲れるものだ。何日か挟んで休養日を取らないと、身体に堪える。
 ということで、仁はこの機会に、ケウワン遺跡で見つけた自動人形(オートマタ)のアンを修理することに。
 イカサナートに着いた日の夜、仁はアンの動作を一旦停止させ、礼子に運ばせて蓬莱島へ転移した。
 ラインハルトにどこで修理したのか聞かれたらもう本当のことを言ってしまおうか、とか考えながら。

「お帰りなさいませ、御主人様(マイロード)。おや、そのお嬢さんは?」
 研究所では老子が出迎える。そして、礼子が運んできた自動人形(オートマタ)を見て、不思議そうな声を上げた。
「ああ、これは、ケウワン遺跡という所で見つけた自動人形(オートマタ)で、名前はアン。大分傷んでいるから修理しようと思ってな。準備を頼む」
「承知致しました」
 そうして仁によるアンの修理が開始された。
 まず最初に行ったのは、制御核(コントロールコア)の修理。用意した全属性の魔結晶(マギクリスタル)に、アンの持つ全情報を移し替える事だ。
「『知識転写(トランスインフォ)』」
 知識転写により、完全コピーを行った。危なかったことに、コピー後、元々の制御核(コントロールコア)は4つに割れてしまったのである。
「うあー、ギリギリセーフか。これじゃあいくらかの情報はバグっている可能性もあるだろうな」
 仁はそう分析する。
「余裕のある分は、老子、蓬莱島の情報を最低限、転写してくれ。同時に、アンの知っている情報もコピーしておけ」
「わかりました」
 こうして老子は、魔導大戦中の情報を得ることとなった。同時にアンにはこれから仁の下で働いてもらうための最低限の知識を与えることにする。
御主人様(マイロード)、20パーセントほどの情報が不完全です」
 アンの情報をコピーした老子がそう報告した。仁には予想されたことである。
「そうか、やはりな。可能な限り修復してみてくれ。時間が掛かってもいいから」
「了解しました」
 情報の方は老子に任せ、仁はアンの修理を進めていく。
「あとは複製工程で、材質をグレードアップするとしよう」
 鋼鉄性の骨格は軽銀に、ぼろぼろの筋肉組織は礼子と同じ魔法繊維(マジカルファイバー)に。皮膚は疑似竜(シャムドラゴン)の羽膜を準備する。
 と、ここまでやってきて、仁は見なれない素材が棚にあるのを見つけた。
「老子、これは?」
「はい、海竜(シードラゴン)から採れた素材です」
「ああ、前に言っていたな。なるほど……使えるな」
 とりあえずアンの修理を終わらせるべく、仁は作業を再開する。
 目はサファイアと水晶。魔素変換器(エーテルコンバーター)魔力炉(マナドライバー)、そしてシールド。魔素通信機(マナカム)も取り付け、髪は地底蜘蛛(グランドスパイダー)の糸を青く染めた物。
 筋肉組織の取り付けも終わり、後は被覆、なのだが。
「完全に元通りにするってのもなあ……」
 仁は悩んでいた。実はアンには、礼子には付いていないものが付いていたのである。
「『そういうこと』にも使われていたのかなあ」
 戦争中、女っ気のない軍にあって、女性形をした自動人形(オートマタ)である。用途は推して知るべし。
「やっぱりやめておこう」
 仁は、自動人形(オートマタ)たちをそういう目で見る事が出来なかった。あくまでも娘であり、愛でるものではあっても、性の対象にするものではないと考えていたのである。
 最後に服装だ。これは5色ゴーレムメイドと同じ服を着せておく。色は黒でホワイトブリムは無し。
「よし、完成だ。『起動』」
「はい、ごしゅじんさま」
 アンが起き上がった。
「どうだ、身体の具合は?」
 立ち上がったアンは足踏みしたり、手を上げ下げしたりして動作を確認する。
「とてもいいです。ありがとうございました」
「よし、そこで待機。次だ、礼子、おいで」
「はい、お父さま」
 仁は礼子を呼ぶ。
「よし、礼子、この前のギガースに苦戦したな? 全身チェックをしてその後、あんな事がないよう強化したいんだが、どうだ?」
「はい、願ってもない事です。是非お願いします」
 即返答が返ってきた。仁は肯き、
「よし、わかった」
 まず仁は礼子を停止させ、各部チェックを行った。すると。
「これは……」
 仁は眉をひそめた。かなりの箇所が傷んでいたのである。
 右脚の骨格にはわずかながら歪みが見られたし、両腕の魔法筋肉マジカルマッスルも、少し断裂が見られた。
 胸腔には異常は無かったが、魔素変換器(エーテルコンバーター)魔力炉(マナドライバー)が少し劣化していた。
 やはり200パーセントの稼働により無理が掛かったらしい。
「これは、全面的な強化が必要になるな。それと礼子に釘を刺しておかないとな」
 そう呟いた仁は礼子の改良に着手する。
 まずは全体の見直し。アンの構造を見てから気が付いた事を盛り込む。
 骨格はアダマンタイト。中空で、芯は海綿状構造。これにより軽量化と強度の両立が出来る。
 筋肉には海竜(シードラゴン)の革を繊維状にした物と従来の魔法繊維(マジカルファイバー)の複合繊維を使う。
 海竜(シードラゴン)の革は魔力さえ循環させていればほとんど劣化しない上、瞬発力が魔法繊維(マジカルファイバー)の3倍もあった。だが制御が若干難しいので、複合材としたのである。
 皮膚は海竜(シードラゴン)の翼膜。疑似竜(シャムドラゴン)の皮膜の倍は丈夫そうである。
 これらの素材を使った結果、礼子の総重量がなんと15パーセントも軽くなったのである。竜種素材畏るべし。
「うん、期待通りだな。これで出力を増やす事が出来る」
 そう言って仁は、礼子に備えてある魔素変換器(エーテルコンバーター)魔力炉(マナドライバー)をもう一組増やしたのである。つまり礼子の出力が倍になったわけだ。
「これでもギガースには心許ないんだよな」
 そして仁はあの戦闘以来考えていた最後の改良点に着手する。
 それは出力のブースト。
 エルラドライトがあればまた違うのだろうが、それ無しで行うために仁が考えたのはいわゆる『コンデンサ』。
 仁はあまり電子回路には詳しくないが、コンデンサが一時的に電力を蓄えられる物という認識はある。
 つまり、普段使わない出力を一時的に蓄えておき、必要に応じて解放する、と言う考え方である。
 そのために、『魔力貯蔵庫(マナタンク)』の超高性能版を礼子に搭載するつもりなのだ。これは、自由魔力素(エーテル)が少ないらしい南方へ行った時にも役に立つはずである。
 理論上、瞬間的になら1000パーセントの出力を出せるはずである。使いどころが思いつかないが。
「軽量化した分を全部これらに置き換える、と」
 ちょうど礼子の重さが30キロになるように仕上げた。以前の改造で重くなった分を取り戻す改良である。
「よし、礼子、『起動』」
 起き上がった礼子に、改良の内容を伝える仁。
「わかりました。これからは、普段3パーセントに抑えるようにします」
「うん。そしてどうだ、調子は?」
「はい、ものすごく軽いです。ありがとうございました」
「よし、それならお前に言う事がある。そこに座りなさい」
「はい?」
 仁は礼子に正座させる。そして考えていたお小言を。
「礼子、俺のために戦ってくれるのは嬉しい。だが、力押しだけでなんとかするのはいい加減やめるんだ。いいな?」
「え? お父さまが度々私を強化して下さるのはその力を振るえ、という理由だったのではなかったのですか?」
「なんだと……」
 仁は頭を抱え込んだ。礼子に良かれと思って施した強化が、更に礼子を力の信者にしてしまっていた事に。
「それは違う。俺はお前が万が一にも壊れて欲しくないから強化しただけだ。これからはもっと考えて戦いなさい」
「はい、わかりました」
 素直に礼子が肯いたので仁も一安心である。
 そして仁と礼子、アンが戻ろうとすると、老子が声を発した。
御主人様(マイロード)、一つ提案があるのですが」
「ん? 珍しいな。何だい?」
「はい。御主人様(マイロード)の配下が増えてきた今、何らかの偶然などで、彼等が他の者の手に落ちる可能性があります」
 老子が言うのはもっともである。仁もそれを聞いて頭に浮かんだことがあるのだが、先を促した。
「それで、万一のために、情報の消去機能を追加することを提案致します」
「なるほどな」
 仁が咄嗟に思いついたのは自爆装置だったのだが、それよりずっと穏やかな案だった。そもそも仁は思いついたとは言え、自分の子供たちとも言えるゴーレムに自爆装置の搭載などする気はない。
 老子に付けた安全措置さえ、仁だけが起動できる破壊装置であって、自爆装置ではないのだ。
 レア素材を使わなくては仁のゴーレム達と同等の性能を出す事は出来ない。ロッテの模倣すら難しいのが現状である。
 一方、蓬莱島の情報は出来るだけ秘匿する必要がある。
「よし、老子主導でそのプランを実行しろ」
「わかりました」
 そういうわけで、この後老子は、配下のゴーレム全てに保安措置を施していくのである。

 今度こそ仁はイカサナートへ戻った。かなりの時間蓬莱島にいたので、少しうとうとしたと思ったら朝であった。

「おはよう」
 眠い目を擦りながら仁は朝食のため食堂へ。
「おはよう、ジン」
 ラインハルトが朝の挨拶をし、仁の顔を見ると、
「よく眠れなかったのかい? 眼が赤いぞ」
 と言った。仁は肯き、いろいろ考えていたら寝そびれた、と答えておく。
「おはよう、ジン君」
「おはよう」
 エルザにも挨拶。
 3人は食事をする。
「今日の予定は?」
 それにはラインハルトが答える。
「手続きをしてくる。それは僕一人でいいから、ジンとエルザは好きにしていてくれていいよ」
 その時、食堂のドアが開き、軍人らしい男が1人入って来た。
 その男はきょろきょろと見回していたが、やがて仁たちの方へと歩いてくる。そして、
「エルザ、久しぶりだなあ!」
 と言うや否や、ちょうど食事を終えたエルザを抱きしめるのであった。
「兄さま!?」
 驚くエルザ。
「ああ、そうさ。2年ぶりかな? 綺麗になったなあ、エルザ。元気そうで何よりだ」
 またしても礼子がトンデモ仕様に……『10倍界○拳』 そしてやったね! また水に浮くよ!
 礼子が力押しするのは勘違いからでした。正にインフレスパイラル。
 そしてエルザの兄登場です。


 20130810 誤字修正
(誤)鋼鉄性の骨格
(正)鋼鉄製の骨格

 20130811 表現修正
(旧)壊れて
(新)傷付いて
 仁が礼子に説教するシーン、「故障」「損傷」でなく「怪我」と言ったならこうですよね。

 お読みいただきありがとうございます。


 20131011 表記修正
(旧)前にも書いたが、馬車での移動というのは疲れるものだ
(新)馬車での移動というのは疲れるものだ
 作者の主観が前に出すぎているので修正。

 20141006 20時11分 誤記修正
 セルロア王国との国境の地方都市、「イカサナート」が「イサカナート」になっていましたので修正(3箇所)。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ