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マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

07 遺跡篇

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07-20 安全率

「礼子!」
 仁の叫びが響き渡った。
 礼子が落ちた側は切れ落ちた断崖。100メートル以上の落差があった。
 ギガースはゆっくりと仁たちに近づいてくる。
「まさか、レーコちゃんが勝てないとはね」
 青い顔のラインハルト。
「この野郎、俺の礼子を」
 仁が最大出力の光束(レーザー)を放とうとした時。
「申し訳ありません、お父さま。油断しました」
 断崖を跳び越えて礼子が戻ってきた。
 仁は魔法を放つのを止め、
「礼子! 何ともないのか?」
 と心配そうに尋ねる。礼子は両手を振って、
「はい、どこも壊れてはいません」
 と言って仁を安心させた。
「お父さま、あれは私に任せていただけませんか?」
 そう言って仁の前に立つ礼子は、怒っているようだった。
「一瞬でもお父さまにご心配をおかけしてしまいました。その責任は自分で取ります」
 そう言って、仁の返事も待たずに駆け出していく。仁はその背中に向かって、
「礼子! やりたいようにやれ! だけど今度こそ負けるんじゃないぞ!」
 そう声を掛けたのである。

 仁のエールを受けた礼子は、魔素変換器(エーテルコンバーター)の出力を40パーセントまで上げた。
 小さな弾丸のようになってギガースの胴体に体当たり。さしものギガースもその衝撃に転倒した。
「おっ、やったか?」
 ラインハルトが小さく歓声を上げる、が、ギガースはその両腕で礼子を握りしめていた。
 体格に比べ、ギガースの腕は太く大きい。その手も比例して大きく、礼子の小さな身体は楽に収まってしまう。
 そしてギガースは礼子から吸い取った魔力で自身を強化しつつ、礼子を締め付け、破壊しようとしていた。
 ミシミシと軋む音がするのは礼子からか、それともギガースからか。
「礼子!」
 仁の叫びに一度だけ礼子は振り向き、にこりと笑ってみせる。何も心配はいらない、というように。
 そして礼子は魔素変換器(エーテルコンバーター)の出力を80パーセントまで引き上げた。
「な、何だ?」
 戸惑ったようなラインハルトの声が上がった。
 それもその筈、ギガースの周りがうっすらと発光している様に見える。それはとてつもない量の自由魔力素(エーテル)魔力素(マナ)に変換される時の副次現象である。

 ギガースが持つ特性は、外部の魔力素(マナ)を取り込み、魔力炉(マナドライバー)で魔力へと変換し、己のエネルギーとするものである。
 当然上限は存在する。それは魔力炉(マナドライバー)の容量で決まる。
 今、礼子の持つ魔素変換器(エーテルコンバーター)は、礼子とギガース双方への魔力素(マナ)を供給すべく、フル稼働に入った。
「まだ余裕がありますか。……これでどうです!」
 礼子はついに魔素変換器(エーテルコンバーター)の出力を100パーセントまで上げた。
 ギガースは更に礼子を締め付けてきた。
「これでも耐えますか。ならば!」
 礼子は魔素変換器(エーテルコンバーター)の出力を110パーセント、そして120パーセントと上げていく。
 仁のことを、仁の技術を、完全に信頼しているが故の荒技だ。
 130パーセント、140パーセント。

 機械類、構造物などには安全率、安全係数というものがある。
 積載量10トンのトラックに12トン積んでも壊れないのは安全率が1以上取られているからだ。
 そして余裕のない設計では安全率は小さく、余裕のある設計では安全率は大きく取れる。コストとの兼ね合いもある。
 では、礼子はどうだったのか。
 仁が心血注いで造った愛娘である礼子は、素材、加工法共に世界最高の物を使用され、その設計基盤は先代魔法工学師マギクラフト・マイスター、アドリアナ・バルボラ・ツェツィ。
 対するギガースは魔族との戦争のために大急ぎで作られた量産試作品。
その完成度、堅牢度、信頼性、どれをとっても礼子が劣るはずもない。魔法工学師マギクラフト・マイスターの愛娘が、欠陥量産品に負けるはずはないのだ。
 少なくとも礼子はそう信じていた。

 150パーセント、160パーセント。
 ギガースの岩の身体が熱を帯びてきた。魔力炉(マナドライバー)が許容限界を超えたのである。
 170パーセント、180パーセント。
 ギガースと礼子の周囲は眩しいほどに発光している。自由魔力素(エーテル)魔力素(マナ)に変換される時の余剰エネルギーだけで、である。
「お、おい、ジン、礼子ちゃんは大丈夫なんだろうか?」
 見ているラインハルトも心配そうだ。仁自身、心配で堪らない。だが、さっき礼子が見せた笑みを信じ、ただ見守っていた。
 190パーセント。
 ぴしり、という音が響いた。
 200パーセント。
 ギガースの内部で何かが砕け散った。と同時にその身体がただの岩屑と化し崩れ落ちる。もう発光現象はない。
 礼子は出力を普段通りである5パーセントまで落とすと、身体に付いた埃を払った。
 そして仁に向け、ぺこりと頭を下げ、
「ご心配おかけしました」
 と一言言った。仁はそんな礼子に駆け寄り、
「礼子! 大丈夫か! どこも怪我していないか?」
 と息せき切って尋ねる。
「はい。大丈夫です。……お父さま、私は自動人形(オートマタ)ですから怪我ではなく、故障とか損傷とお言い下さい」
 と礼子は答える。そんな礼子に仁は、
「馬鹿、前にも言っただろう、お前は俺の娘だ、って。だから怪我でいいんだ」
「はい、ありがとうございます」
 そんなやり取りをラインハルトは黙って見ていたが、
「ジン、レーコちゃん、そろそろ帰ろう。エルザも心配しているだろうし」
 と声を掛けた。仁はそれに賛成する。
「わかった。礼子、ギガースの核とか、何か残っているかな?」
「調べてみます」
 礼子はすぐさまギガースだった岩屑に歩み寄り、掘り返していたが、やがて何かを見つけたようだった。
「お父さま、これしか見つかりませんでした」
 そう言って差し出したのは魔結晶(マギクリスタル)の破片。
「だろうなあ、あれだけの魔力素(マナ)が流れ込んだらそうなるよなあ」
 3つほどの小さな破片を掌に乗せ、仁はそう呟いた。

*   *   *

 心配で見つめていた山頂付近から岩の破片が落ちてきた。
「もしかして……戦ってるの?」
 エルザは胸の前で組んだ手を強く握りしめた。
 そして見つめる山頂付近が異様な発光現象に包まれる。
「あれは……魔力?」
 あれだけの明るさで発光するとはどれほどの魔力なのか。不安と心配でエルザの顔色は紙のように白くなった。
 だがそれきり、異常な現象はもう起きず、何があったか知る術のないエルザは胃が痛くなるような時を過ごすこととなる。
 しかし、太陽が中天近くに掛かる頃、待ちに待った足音が聞こえてきた。
「かえってきた」
 馬車から飛び出すエルザ。外で待っていた執事のクロードも、主人であるラインハルトを出迎えている。
「ジン君、ライ兄」
 2人、そして礼子の姿を目にしたエルザはその形のいい眉をしかめた。仁とラインハルト、2人とも怪我をしていたのである。
 仁は両掌が血塗れ、ラインハルトは両膝から血が出ていた。
「やっぱり強敵だった、の?」
 心配そうに尋ねるエルザにラインハルトは笑って答える。
「ああ、強敵だった。だがもう心配は無い。レーコちゃんが倒してくれた」
 その礼子は姿を消さずに仁の傍に付いていた。
「でもそんな怪我までして」
 エルザがそう指摘すると仁が苦笑して言った。
「ああ、これは山から下りる時、2人して転んだんだ。杖とか水とかどっかへ転がって行っちまった」
 その説明にエルザの顔が歪む。
「ばか。しんぱいさせて。2人とも、無事でよかった」
 そして大粒の涙を流し始める。掌が血塗れな仁はエルザに触れるのを遠慮したので、ラインハルトがエルザを抱き締め、慰めることとなった。
「悪かったな、心配掛けて。もうこうして戻ってきたんだから、泣くな」
 そう言ってしばらくエルザを宥めるラインハルトであった。

 傷口を水で洗った後、エルザの治癒魔法で怪我を治してもらったのは言うまでもない。
 決着尽きました。かなりの強敵でしたね。
 模型作る時の作者、安全率、多分3くらい取ってますね。多分仁もそのくらい。
 怪我をそのままにして帰ってきたのは、急いで帰りたかったことと、傷口に入った砂とかを水で洗ってから治癒させたかったからです。
 そしてエルザに気を使って、怪我はエルザに治してもらいました。
 山は登るより下る方が難しく、転倒・滑落などが多いので気をつけましょう。登った後で気が緩んでいる事や疲れが溜まってきているからです。

 お読みいただきありがとうございます。


 20130808 20時50分 表記修正
 礼子がギガースを「あいつ」と言いましたが「あれ」にします。
 礼子は自分の怪我を「故障」「損傷」といいますので、ギガースを人間風に「あいつ」呼ばず、「あれ」と呼んだ方が相応しいと思いますので。

 20130808 21時00分
 安全率の説明の下り、「筆者の……」とした箇所、他の部分と違和感がありまくりでしたので差し替えました。

(旧) 筆者の個人的見解では、アマチュアで作品に愛着のある者は安全率を大きく、プロで設計に自信のある者は小さく取る傾向にあるようだ。
 そして仁は礼子をこの上なく大事にしていた。

(新) その完成度、堅牢度、信頼性、どれをとっても礼子が劣るはずもない。魔法工学師マギクラフト・マイスターの愛娘が、欠陥量産品に負けるはずはないのだ。
 少なくとも礼子はそう信じていた。

 20140530 08時12分
 ライト(レーザー)光束(レーザー)に変更。
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