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マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

01 カイナ村篇

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01-04 行商人

 季節は春から初夏になった。
「もうすぐ2ヵ月か……」
 仁がカイナ村に来て、もうすぐ2ヵ月。その間に仁がしたことと言えば、ポンプの設置に始まり、温泉掘り、そして下水の整備。作った物はリヤカーと一輪車ねこぐるま
 リヤカーは、ハンナが水を運ぶのに大変そうだという理由から制作した。そしたら一輪車ねこぐるまもあったら便利だろうと作ってみたら意外と評判がよく、一輪車ねこぐるまの方は一家に一台配備する運びとなったりしたのである。

 今、仁は子供たちと一緒に鬼ごっこをやっていた。この世界、少なくともこの村では今まで無かった遊びであり、男女の区別無く遊べるため、今や一番流行っている遊びである。
「こんどはジンにーちゃんが鬼だよー」
「よしきた。それじゃあ10数えるぞ。1、2、3、4、5、6、7、8……」
 一斉に逃げ出す子供たち。
「9、10!」
「よーし、いっくぞー」
「わー!」
 そんな様子をマーサは微笑ましく眺めていた。
「両親を亡くしてふさぎ込んでいたけどジンが来てくれてあの子(ハンナ)もすっかり元気になってくれたよ。まったく、最初に見つけた時は何者かと思ったけどねえ」
「よーし、まず一人捕まえたぞ」
 増え鬼と呼ばれるルールでやっているので鬼は段々と増えていく。全員が鬼となったらひとまず終了、だ。
「ハンナちゃん、つーかまえたー」
「クルト、つかまえた!」
「マリオ、まてー!」
「ジェシー、つかまえたぞー」
 それは暗くなるまで続けられた。そして汗をかいた後は温泉で身体を洗い、みんなさっぱりした顔で家路についた。
 最近、ハンナの髪の艶がよくなってきたような気がする。くすんだ金色から艶のある金色へと。温泉の効果であろうか。小走りに家へと急ぐハンナの後を追いつつそんな事を思う仁であった。
「ただいまー」
「ただいま」
「おかえりハンナ、ジン」
 夕食の仕度をしていたマーサが出迎える。
「お腹すいたろう、もうじき出来るからね」
「俺の分まで、いつもすみません」
「なーに、ジンのおかげで生活に余裕が出来たからね、今までより楽なくらいさ」
 実際、水汲みや水運びの労力が大幅に軽減され、温泉から湧き出すお湯を洗い物などに利用できるようになってから、かなり便利になっていたのだ。
「はい、出来たよ」
「わー、おいしそう」
 今夜の献立は目玉焼きと野菜炒めである。
「ちょっと塩が足りなくなっちゃってね、味が薄いかも知れないけど我慢しておくれ」
 済まなそうにマーサが言う。それを聞いた仁が、
「あ、そうなんですか。でも、塩が無いと困りますね」
「なに、多分明日か明後日にはローランドが来るはずだから買えばいいさね」
「ローランド?」
 聞き慣れない名前に仁が問い返すと、
「ローランドというのは行商人さ。2ヵ月に1回くらい、塩とか砂糖、魚の干物なんかの食べ物や、生地とか服とか売りにくるのさ」
「なるほど」
 流石に自給自足するというのは無理なようだ。
「じゃあお金が要りますね」
 生活費として自分の持っているルビーを、と仁が言う前にマーサに遮られた。
「お金じゃなくて、物々交換しているんだよ。こんな僻地の村だからね、お金なんて稼ぐすべはないからねえ」
 ローランドもそれは承知の上さ、と言ってマーサは笑った。

*   *   *

 翌日の昼、マーサが言ったとおり、一台の荷馬車がやって来た。大きい馬車で、2頭の馬が牽いている。乗っているのは2人。
 村長のギーベックが出迎えた。
「おお、ローランドさん、ようこそ。エリックさんもお変わりなく」
 ローランドは40前くらいのがっちりした男、エリックは二十歳前の優男である。髪の色や顔立ちに似たところがあるので親子だろうとわかる。2人とも腰に短めの剣を提げている。護身用だろう。
「こんにちは。村長さんもお元気そうですね」
「おかげさまで。姪のやつもエリックさんが来るのを心待ちにしてましたよ」
 そう言われたエリックは照れた顔をした。村長の姪に気があるらしい。ローランドはそんなエリックを尻目に、
「予定より1日2日早く着けましたよ。今回は塩を多めに持ってきました」
「ほほう? それは助かります」
 夏を前にして、塩の需要が高まっていたのである。
 早速ローランド達は村の中央広場に馬車を停め、簡単なテーブルを出し、その上に商品を並べた。
「まずは食料品からです。塩、砂糖、オギの干物。それからこれは黒目豆。暑さに強いのでこれからでも播けますよ」
「塩おくれ」
「はい、小麦一袋ですと200グラムですね」
「砂糖ちょうだい」
「はい、毛皮20枚だと2キロということで」
「黒目豆というの少し分けてもらおうか」
「おっ、これは良さそうな原石ですね、すこしおまけしましょう」
 皆、小麦や毛皮、たまに宝石の原石などと交換していく。エリックは懸命にそれを見つめていた。
 一通り食品の購入が終わると、ローランドはエリックにも手伝わせ、商品を入れ替える。今度は生地、服、道具類だ。
 仁は少し離れた所から、どんな道具を売るのか眺めていた。
「ふむ、生地や服はともかくとして、あれはランタンか? それにペンとインク、か」
 ちなみにペンとインクを買ったのは村長である。
「あとで話を聞けるといいんだけどな」
 村の外の話、できればこの世界の話を是非聞きたい、と仁は思った。それは翌日、向こうからもたらされるのであるが。

*   *   *

 一通り、商売が終わると、ローランドは商品やテーブルを片付け、馬車に仕舞った。
「さて、それではいいところへご案内しましょう」
 村長が2人に言った。
「いいところ、ですか?」
「はい、こちらへどうぞ」
 村長が案内したのは温泉。
「なんですか、ここは? この前来た時には無かったですよね?」
「ええ、先日出来上がったばかりです。『温泉』って言うんですよ」
「温泉、ですか」
「まあどうぞ、お入り下さい」
 ただのお湯ではない温泉の入り心地に、ローランドとエリックが驚いたのは言うまでもない。
 血行がよくなり、頭皮の汚れや皮脂を適当に落としたりしていると髪質も良くなるようです。
 カイナ村には外貨獲得(大げさですが)の手段が無いんですね。なので物々交換になってしまいます。結果、かさばる物や重い物は本来の価値よりも価値が下がります。

 20151210 修正
『2「箇」月』表記を書籍に合わせ、『2「ヵ」月』に。(3箇所)
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