挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

07 遺跡篇

166/1476

07-08 鉱山

 坑道は狭い所もあるものの、総じて歩きやすい広さであった。このあたりは観光用ということで再整備されているのかもしれない。
 最初は水平だったが、次第に下りとなっていく。所々に設置されている明かりがありがたい。
「母上、寒くありませんか?」
 男の子の方が母親に尋ねた。坑道内は摂氏15度くらいか、長袖を着ていれば寒いことはない。が、夫人は半袖の春物しか着ていなかった。
「ええ、ちょっと寒いわね」
 当然そう答えることになる。
「でしたらこれを」
 執事が、大男に持たせた荷物の中からハーフコートを取り出し、夫人に差し出した。
「あら、ありがとう」
 夫人はそう言ってハーフコートを羽織った。

 そんな一連のやり取りを見ていたエルザは、自分が長袖の上着を着ている事をなんとなく恨めしく思う。
 そして前を歩いている仁の背中を見つめた。その仁が着ているのは何度かエルザも着せてもらった上着である。

 短いハシゴを下り、また爪先下がりの坑道を歩くと、少し広くなった所に出た。
「着きました、ここが終点でさあ」
 意外とあっけなく坑道の終点であった。まあ一般人を危険のある地底深部まで連れ出すわけにはいかないだろうし、観光用であるからこんなものなのだろう。
「いくつか枝道がありましてね、運がよければ宝石の原石が採れますぜ」
 案内の男がそう言った。道具は(たがね)に良く似た魔導具。
「こいつの先を岩に押し当てて魔力を流すと、あてがった岩が掘れるんでさあ」
 魔力によるミニ削岩機、と言えばいいだろうか。
「お母さま、少しやってみたいです」
 妹の方がそんな事を言い出した。宝石と聞いて欲しくなったのかもしれない。
「そう? じゃあちょっとだけよ?」
 夫人がそう言うと案内人は大男の荷物から魔導具を一つ取り出した。
「あ、なら僕も」
 と男の子も言い、もう一つ追加である。特に別料金にはならないようなので、仁達3人つまり仁、ラインハルト、エルザもやってみることにした。
 それぞれ別々の枝道に入る。
 どれも浅く、しかも前の観光客がいろいろ掘ったあとが残っていた。

「これで本当に宝石見つかるのかね? 『地下探索(グランドサーチ)』」
 久しぶりに使う地下探索(グランドサーチ)である。
「……ん? え? なんだ、これ?」
 そこの壁や地面には所々に宝石の原石が『埋め込まれて』いた。
 察するに、観光客を喜ばせるためのインチキ、というかサービスというか。仁も、有料の松茸山で似たようなことをやっていると聞いたことがあった。
「この付近にはもう鉱脈無いしなあ」
地下探索(グランドサーチ)』が使える魔導士がいればすぐわかることである。まあ、ずっと深い所に大きな鉱脈があることから、ここの鉱山が偽物ではないことがわかる。
「まあ、観光地ということで、楽しみましょうかね」
 そう独り言を言って、仁は掘削の魔導具を埋め込まれた原石付近に当てた。

*   *   *

 仁がいくつかの原石を掘り出した時。
「うー、見つからないです」
 そんな声がした。振り向くと、さっきの子爵一家の女の子である。
 その子は仁に気が付いて、
「あ、ここ、もう人がいたんですね。ごめんなさいです」
 そう言って戻っていこうとした。仁はその子を呼び止める。
「お嬢ちゃん、ここはわりと宝石が見つかるみたいだよ。よかったらどうぞ」
 するとその子は立ち止まり、おずおずと振り向いた。暗い魔導ランプの明かりで見ると、8、9才くらいだろうか、金髪碧眼、母親の夫人に良く似た可愛い子である。
「あの、いいんです?」
 そう聞かれた仁は笑って肯き、掘り出した原石を見せた。
「わあ、たくさんあるです。私もここ掘っていいんですか?」
「はい、どうぞ。この辺が良さそうだよ」
 地下探索(グランドサーチ)で見つけた原石の近くを指差す仁。
「はい、やってみるです」
 そう言って女の子は手にした掘削の魔導具を坑道の壁に当てた。そして魔力を流す。
 魔導具は細かく振動し、切っ先にコーティングされたアダマンタイト部分が岩を砕いていく。そして、原石がこぼれ落ちた。
「あ、何か出て来たです。お兄さん、これ、何です?」
 その子は今掘り出した原石を拾って仁の目の前に差し出す。仁はそれをちょっと見て、
「これは紫水晶(アメジスト)だね」
 と教えてやったのである。するとその子はうれしさ半分、失望半分というような顔をし、
「もっと探すです」
 そう言ってまた壁に魔導具を当てようとする。それで仁は、
「そっちばかりじゃなくてこっちもやってみたら?」
 と、別の原石が埋もれているあたりの壁を指差した。
「そうですね、そうするです」
 その子は素直に仁の指差した壁を掘っていく。するとまた原石が転がり出た。
「あ、またあったです。お兄さん、すごいです!」
 今度出て来たのは黄水晶(シトリン)だった。
「うー、これも欲しいのとちがうのです」
 そんなことを言う女の子。それで仁は、
「えーと、どんな原石が欲しいの?」
 と聞いてみた。するとその子は、
「ピンク色の石なのです」
 と答える。ピンクに発色する宝石は少ない。ピンクサファイア、トルマリン、それにクンツァイトなど。トパーズにも見つかるが非常に稀少価値が高く、こんな観光客用のやらせ鉱山で見つかるはずがない。
「うーん、あるといいね」
 そう言いながら仁は考える。
 ピンクサファイアなら何とかなるかもしれない。
 そもそもサファイアは酸化アルミニウムで、鉱物名はコランダム。ある所にはたくさんある鉱物である。ただ、宝石になるほど純度の高いものが少ないだけで。
 という事で仁は、こっそりと『地下探索(グランドサーチ)』でコランダムの塊を探す。幸い、浅い場所に見つかった。
 ちょっと距離があるので難しいが、なんとか『抽出(エクストラクション)』の魔法で不純物を少しずつ抜いていく。主成分の酸化アルミニウムはもちろん残す。そしてクロムも。
 元々クロムは僅かしか含んでいなかったようで、どうにか処理を終えることが出来た。
「うー、見つからないですー」
 ぼやく女の子。仁はもう一度その子を呼び、
「ここに何かありそうだ」
 そう教えてやった。
「お兄さんの予想は良く当たるのです。やってみるです」
 そう言ってそこに魔導具を当てる。若干深い所なので時間がかかる。
「なかなか出て来ないのです」
「もう少し深い所みたいだね」
 思ったより深くにあったようだ。今までの3倍くらいの時間を掛け、ついにその石が転がり出た。
「やったのです! ピンクの石なのですよ!」
 女の子は喜んでそれを拾い上げると胸に抱き、ぴょこんとお辞儀をする。
「お兄さん、ありがとうです。他の石はお礼にあげるです」
 そう言って、見つけ出したピンクサファイアだけを持って坑道を引き返していったのである。
 仁ももういいや、と思い、女の子が置いていった石も拾い上げ、ゆっくりと坑道を引き返していったのである。
 地下探索(グランドサーチ)は誰でも使えるという魔法ではありません。また使えても、探すものがどんなものか、その知識がないと見つけられません。
 純度の低いコランダム(他の鉱物も混じる)は「エメリー粉」と呼んで、研磨剤などに使われていました(今は人造が主です)

 お読みいただきありがとうございます。

 20130922 20時34分  不要な「|」があったので消しました。
 場所は
 そこの壁や地面には所々に宝石の原石が『|埋め込まれて』いた。
 の『|埋め込まれて』でした。

 20140508 表記修正
(旧)15度C
(新)摂氏15度

 20141022 20時31分
 シーデの年齢を12、3才から8、9歳に変更しました。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ