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マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

06 旅路その2 エゲレア王国篇

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06-38 仁、ビーナ、伯爵

「は、伯爵、不束者ですが、よろしくお願い致します」
 ビーナはクズマ伯爵の求婚を受けることをはっきりと告げていた。
 朝、仁と話をした後、なかなか伯爵の部屋へ足が向かなくて、昼になってしまったのだが。
「そ、そうか、ありがとう。これからよろしく頼む」
 そう返答した伯爵の顔色は良くない。それを見たビーナは、心配そうに尋ねた。
「あの、伯爵? どこか具合悪いのですか?」
「いや、ちょっと二日酔いでな」
 と苦笑して答える伯爵。さすがにビーナの返事があやふやだから酒呑んで紛らわせていたとは言えなかった。
「伯爵もそんな所あるんですね。堅いばかりの方かと思ってました」
 とビーナが言えば伯爵も、
「早くに両親を亡くして家を継いでからは仕事仕事の毎日だったからな、特に女性関係については不器用なのだ」
 それを聞いたビーナはくすりと笑って、
「あまり器用でも困ります。伯爵、どうか末永くよろしくお願いします」
 ともう一度頭を下げた。
「なあビーナ、正式な婚約の発表などはブルーランドに帰ってからとしても、その、なんだ……『伯爵』ではなく『ルイス』と呼んで貰えないだろうか?」
 と顔を赤くしながらクズマ伯爵は言った。そう言われたビーナも顔を赤らめ、
「は、はい。る、ルイス、様」
 言った方も言われた方も真っ赤になっていた。

*   *   *

 風呂から上がったあとの仁。
 ビーナのこと、エルザへのプレゼントのこと、統一党(ユニファイラー)のこと等をとりとめもなく考えていると、ドアがノックされた。
「はい」
 仁付きの王宮隠密侍女隊ロイヤルシークレットメイドのライラよりも早く礼子が反応し、ドアを開けた。立っていたのはラインハルト。
「ラインハルトさんがお見えです」
 との礼子の言葉に仁は椅子から立ち上がり、ドアまで出迎える。
「ラインハルト、どうしたんだい。とにかく中へ」
 そう言って中へと招き入れた。
 ラインハルトは今までクズマ伯爵と話をしていた、と前置きをし、
「ルイスとビーナの婚約が成立したのでな、ジンにもその報告、というかな」
 とラインハルトは言った。
 仁はとにかくラインハルトに椅子を勧め、王宮隠密侍女隊ロイヤルシークレットメイドのライラはお茶の準備を始めた。危なっかしいので礼子が見張っている。
「2人はこの後、ブルーランドへ帰ってから正式に婚約を発表する事になるだろう。その、まあ、なんだ、言い方は悪いが、平民を正妻に迎えるというのはこれでなかなか難しいので、貴族の友人に頼んで養女扱いとしてもらって、となるがな」
 そう付け加える。それを聞いた仁は、時代劇で昔見たような、町人が武家に嫁入りする時みたいだ、と思った。
 ラインハルトは居住まいをあらため、
「なあ、ジン。一度聞いてみようと思っていたんだが」
「ん? 何だい?」
「君は、恋愛というものをどう考えているんだい?」
 そう言われた仁はさっき考えていた事に思いを馳せる。

 仁とて木石ではないし、人並みに女性に興味はあるつもりだ。過去、いいな、と思った子だっている。
 それは定時制高校の頃。やはり同じ定時制高校に通う子で、仁より2つ上だった。
 昼間はアルバイトをしているところは仁と良く似ていた。母子家庭らしく、しかも弟が3人いて、なかなか大変だったようだ。
 2年生の時に仁からそれとなく告白し、その子もいいよと言ってくれたので付き合いだした。
 しかし2人とも定時制に通う身、デートらしいデートも出来ず、せいぜい少し早く教室へ来て話をしたり、帰り道駅まで一緒に歩いたりがやっと。
 休日はお互いに孤児院での世話や弟の世話があってデートすらしたことがない。そんな1年が過ぎた。
 そして卒業の日。
 彼女はアルバイト先である会社の専務にプロポーズされたと仁に打ち明ける。そしていい話だから受けようと思っている、とも。
 更に、仁との1年間、楽しかった、とも言った。
 それを聞いた仁には何も言えなかった。まだ学生の自分が経済的に太刀打ちできる相手ではない。そして彼女には生活がある。好きと言うだけで縛ることは出来ない。
 行くな、と言う言葉も口から出ることはなく、代わって出たのは、
「おめでとう」
 と言う言葉。それを聞いた彼女は泣きそうな笑顔で一言、
「ありがとう」
 と言った。彼女とはそれきりである。
 それからの仁は卒業後、少々評判は悪いが給料の良さそうな会社に入社し、恋愛のれの字もないような毎日を過ごし……電気炉に落下して今に至る。

「生活、かな」
 仁は一言そう答えた。
「なるほど、恋愛は生活、か。君らしいとも言えば言えるし、また随分と老けた考えだなとも言えるな」
 とラインハルト。
「どうせ」
 とこれも一言答える仁。
「まあ確かに今の君は生活基盤が無いからな。コンロントーはなんというか、その、異界だし」
「だよな」
「そう言う意味でも君が各国を回っているというのは意味があることだ。気に入った国があったらそこに定住すればいい。それが我がショウロ皇国であれば一番いいがね」
 ラインハルトはそう言って笑うが、仁は笑う気になれない。
「何だ? 何か気に障ったかい?」
「別に」
 やはり一言で答える仁。
「まあ、人と人との関わりは一筋縄ではいかないよな。まして男女の仲は」
 ラインハルトはそう言って、考え込み始めた仁をそのままにし、部屋を出ていったのである。
 ライラのお茶は結局間に合わなかった。

*   *   *

「はく……ルイス様、もう頭痛はよろしいんですの?」
 ビーナはクズマ伯爵の部屋にいた。
「ああ、ビーナのおかげで大分良くなった」
「そ、それはようございました」
 そしてクズマ伯爵は今のうちにはっきりさせておこう、と口を開く。
「なあビーナ、君はジンの事をどう思っていたんだい?」
「え……」
「君がジンのことを好きだったとしても咎めるつもりもない。ただ、知りたいだけだ」
 真っ直ぐビーナを見つめて問いかける伯爵に、ビーナも正直に答える。
「好きでした」
「やはりな」
 だが間髪を入れずビーナは、
「でも、今にして思えば、ただ一方的にあたしが頼っていただけ、という気もするんです」
 ビーナはそう言って溜め息を1つ吐き、
「子供っぽい感情だったかもしれません」
 そして伯爵を見上げ、
「はく……ルイス様の事も、初めて、そう、ガラナ伯爵から救っていただいた時から、好きになっていました。でも身分が違うと諦めていたんです」
 また俯く。
「卑怯ですよね、ずるいですよね。でも、今回のルイス様への返事はちゃんと考えた末です。本当です。これでルイス様がこんなあたしでは嫌だとおっしゃるならそれでも仕方ないと……」
 その時クズマ伯爵はビーナを抱きしめ、
「もういい。君……お前の気持ちはわかった」
「ルイス、様……」
 クズマ伯爵はそのまましばらくビーナを抱きしめていたが、やがて腕を放し、
「今夜はもう部屋へお帰り」
 と優しく言ったのだった。
「その夜、ビーナは自分の部屋へ戻ることはなかった」とは書けませんでした。さすがクズマ伯爵、紳士の鑑です。

 お読みいただきありがとうございます。


 20130712 13時16分 誤字修正
(誤)友人の頼んで
(正)友人に頼んで

また、「間、髪を入れず」の「、」を慣用に倣い取りました。
+注意+
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