挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

06 旅路その2 エゲレア王国篇

150/1532

06-37 アフター、それぞれ 2

11日夜まで不在のため感想などの返信が出来ません、ご了承下さい。
 一夜明けて。
 ビーナはまだ悩んでいた。というか一晩中眠れず、気が付いたら朝になっていたのである。
 ビーナ付きの王宮隠密侍女隊ロイヤルシークレットメイド、リーザは椅子にもたれかかるようにして眠っていた。
「……朝か」
 ぼそりと呟くと顔を洗いに部屋を出る。
 廊下の端にある洗面所。そこには掘り抜き井戸があって、常に水が流れ出していた。
 春3月、冷たくもぬるくもない、適温の水で口をゆすぎ、顔を洗う。そして、タオルを持ってくることを忘れた事に気がついた。
 が、そんな時、横から新しいタオルが差し出された。
「……ありがと」
 侍女の誰かだろうと、確認もせずにそれを受け取り、顔の水を拭う。そして目を開けて初めて、それが仁であることに気が付いた。
「……ジン」
「お早う、ビーナ」
「お、おはよう」
 なぜかぎくしゃくしてしまう。ビーナはそのまま、仁が口をゆすいで顔を洗うまで待っていた。
「ジン」
「どうした、赤い目して。よく眠れなかったのか?」
 そう聞かれたビーナは一瞬躊躇った後、
「……あたし、クズマ伯爵にプロポーズされたの」
 と告白した。仁はそれに対し、
「ああ、そうだってな」
 と返す。その返答にビーナは、
「ジン、知ってたの?」
「うん、昨夜エルザに聞いた」
「そう、エルザ様に」
 俯いたビーナは何度も言葉を出そうとしては止める、を繰り返した後ついに、
「ねえ、ジンは……どう思う?」
 と、やっとの思いでその問いを口にした。
「伯爵からのプロポーズ、か。……俺は……祝福するよ」
「え……」
「クズマ伯爵はいい人だ。不当な差別はしないし、領民を思う気持ちもある。使用人達も見たところおかしな者はいない。仮にビーナが嫁いでも侮られたりしないと思うぜ」
「…………」
「王子相手にああいった台詞を言える情熱もある。きっとビーナを幸せにしてくれると思う」
「ジン……」
 その台詞の端々に、仁がビーナを思う気持ちが込められているのを感じはした。だがそれは恋愛感情ではない。家族、それも妹に向けるような愛情。
 それに気付いてしまった。気付かされてしまった。
「お、おい、ビーナ?」
 ビーナはしばらく俯いていたが、顔を上げた時には笑みを浮かべていた。そして、
「ありがと、ジン。あたし、決心が付いたわ。伯爵のプロポーズ、受ける」
 と言った。そうして、いきなり仁に抱きつくと、
「ジン、好きよ」
 一言そう言ってすぐに離れ、
「今までいろいろとありがとね。これからもいいお友だちでいて欲しいな」
 そう言うと駆けだして行ってしまった。
 残された仁は今のビーナの行動が何だったのかよくわからず、呆気にとられていたのである。

*   *   *

 ミーネは考え込んでいた。
 子供だ子供だと思っていたエルザが、いつの間にか大人になりかかっていたのを知り、これからどうすればいいのかと。
 エルザにはぼかして『男女の関係になった』などと言ったが、実際はもっと強引な、一方的な展開だった。嫌がる自分を、無理矢理に。何度も何度も。
 それを思い出すと、また貴族不信、男性不信が頭をもたげてくる。
 そしてエルザのこれからの事。
 貴族の娘として生まれ、そして家は兄2人がいる以上、いつかは嫁がなくてはならない運命。
 その相手がいい人なら、エルザを愛してくれる人ならいいが。
「あの人は……」
 つい言葉が口をついて零れる。
「……エルザを道具としてしか見ていない」

*   *   *

「さて、それではラインハルト殿、ジン殿、頼む」
 仁とラインハルトは、魔法相ケリヒドーレを初めとする魔法機関の関係者達に『隷属書き換え魔法』への対策を説明する。
 まずラインハルトからは、魔力を通しにくい素材を使っての魔導装置(マギデバイス)保護方法を。
 装甲亀(アーマータートル)の甲羅が今のところ有効だと説明。
「ほう、なるほど、素材のことを考えなければ手軽に出来るな」
 それなりに魔力を減衰させる素材を使うのだが、改造の手間は少ない。まして量産型の魔導装置(マギデバイス)、囲むべき筐体(ケース)の大きさは決まっているから、こちらも量産が可能だ。
 続いて仁が説明。
「魔力を内部まで通さない、という考えで開発したのが封鎖筐体(シールドケース)です」
 そう言って仁は用意しておいたサンプルを取り出し、テーブルの上に置いた。
「周りは魔力を通しやすいミスリル銀です。通しやすいと言うことは、逆に取り込んだ魔力を放出しにくいということでもあります」
「なるほど、理屈だな」
「そのままですと飽和して何が起こるかわからないので、魔法を魔力に変換すると共に、空気中へ還元するための魔導式(マギフォーミュラ)を刻んであります」
「ううむ」
 魔法相ケリヒドーレが感心して声を上げた。
「更に保険として、放たれた魔法を吸収する性質の魔導具を持たせれば大丈夫でしょう」
 魔法記録石(マギレコーダー)を見せてそう締めくくった仁に対し、ケリヒドーレは拍手を送った。
「いや、お見事だ、ジン殿。ジン殿の手法は確実だが手間と費用が掛かる。ラインハルト殿の手法は手軽に出来て効果も高い。重要なゴーレムや戦闘力の高いゴーレムはジン殿の、それ以外のゴーレムはラインハルト殿の手法で行こうと思うがどうかな?」
 ケリヒドーレの提案に異議を唱える者はいなかった。

*   *   *

 夕方近くまで、ゴーレムの改造の指導をやっていた仁とラインハルト、ようやく解放されてほっとしていた。
「ジン、一汗流しに行こうか」
 ラインハルトがそう言って仁を風呂に誘った。風呂好きの仁は一も二もなく賛成。その足で浴室へ向かう。
 脱衣所にはタオルが常備されているし、脱いだ服は頼めばすぐに侍女が洗濯し、魔法で乾燥までやってくれる。

「あー、疲れが取れるな」
 ほぼ1日、指導を続けていればそれなりに疲れる。
「まったくだ。でも、僕はコンロントーのオンセンの方がいいなあ」
 沸かしているお湯よりも地面から出てくる温泉の方が気持ちがいい、とラインハルト。仁も同感だ。お湯の肌触りが違う。

「ビーナ、幸せになれるといいな」
 湯に浸かりながらラインハルトがぽつりと言った。
「聞いたのか?」
「ああ、昼、ルイスにね」
 ルイスはクズマ伯爵の名前である。
「クズマ伯爵ならきっとビーナを幸せにしてくれるだろう。そう願うよ」
「同感だ」
 仁とラインハルトはそう言って笑いあった。
「ところで」
 そしてラインハルトが続ける。
「明日はエルザの誕生日なんだが」
「え? えらく急だな」
 いきなりラインハルトがそう言いだしたので仁は驚く。確かに以前、エリアス王国の首都ボルジアだったかで、誕生日が近いと言っていた気がする。
「すまん。ゴーレム園遊会(パーティー)とかのごたごたに紛れて伝えるのが遅れた」
「ラインハルトはあの時買った石があるからいいだろうけどな……」
 仁は考える。そして、そういえばエルザが綺麗な短剣のようなものに興味を持っていたことを思い出した。
 朴念仁、ここに極まれり。
 前回のエルザと比べてみると、ビーナの方が大人ですね。ビーナ、幸せになっておくれ。
 そしてミーネの過去。わかる人はわかってらっしゃるかも。

 お読みいただきありがとうございます。


 20130805 21時43分 誤字修正
(誤)湧かしているお湯
(正)沸かしているお湯
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ