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マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

01 カイナ村篇

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01-02 ポンプ

「おにいちゃん、おはよう」
「ハンナちゃん、おはよう」
 仁がマーサの家に世話になる事に決めた翌日。朝、起きた仁は顔を洗いに外へ出た。ちょうどハンナも起きたところ。
「ハンナちゃん、顔を洗いたいんだけど」
 そう言うと、
「うん、井戸はこっち」
 そう言うと、手桶と手拭いを持って歩き出す。仁はそんなハンナに付いていく。手桶は仁が当然持って。
「ここだよー」
 マーサの家から20メートルくらいの場所に井戸があった。丸く石で縁取りがされ、ゴミが入らないよう屋根が付いている。そして水を汲むのは滑車に吊した釣瓶つるべである。
「ちょっとまってね……よいしょ、よいしょ」
 ハンナはそう言うと、小さい体で釣瓶を懸命に引っ張り始めた。仁は慌てて、
「ちょ、ちょっと、ハンナちゃん。もしかして毎日、こんなことやってんのかい?」
 仁がそう聞くと、ハンナは当然といった顔で、
「うん、そうだよ」
 と答えた。それを聞いた仁は考え込む。その間にハンナは水を汲み終え、手桶に注いで、
「おにいちゃん、さきに顔あらっていいよ」
 仁は再び慌てて、とりあえず顔を洗わせてもらう。そして、
「ありがとな。じゃあ今度は俺が、ハンナちゃんの顔を洗う水を汲んであげよう」
 そう言うとハンナはにっこり笑って、
「うん!」
 家へ戻る道すがら。
「ハンナちゃん、水汲み、大変だろう?」
「うん、でも、みんなやっていることだから」
 そう聞いた仁は考えを巡らす。ロクに材料もない今、魔導具を作るのは無理でも、普通の道具なら作れるだろうと。
 それで朝食の後、マーサに聞いてみる。
「マーサさん、この村に鍛冶屋さんっているんですか?」
 するとマーサはちょっと寂しそうな顔をして、
「あたしの亭主がそうだったんだけどね、とっくに死んじまったさ。だから今は鍛冶屋なんていないよ。何でだい?」
「いえ、鉄とか銅とか、少し欲しかったもので」
 すると、
「ああ、それなら、亭主の仕事場にけっこう残ってると思うよ。埃だらけだろうけどね。使いたいなら好きに使いな」
「ありがとうございます」
 仁は礼を言い、その仕事場へ案内してもらった。そこはマーサの家の裏手にあり、6畳ほどの広さ。壊れかけた炉や、埃を被った鉄床かなとこ、ハンマーなどが置いてあり、隅の方に鉄や銅の塊もかなりの量が転がっていた。
「これだけあれば幾つも作れるな」
 銅の塊を見て仁はほっとする。そして早速作業に取りかかった。
「さてと、分析(アナライズ)。……銅、それに錫。青銅か。ちょうどいいな。こいつを加工して、と」
 憶えたての魔法を使って、青銅の塊を変形させていく仁。パイプを造り、レバー、ピン、シリンダー、ピストン。つまり仁は井戸のポンプを作っているのである。
「しっかし魔法って便利だよな−。元の世界じゃこれだけの加工、旋盤やらフライス盤やら、鋳造もしなくちゃ無理だよな」
 部品を作り終えた頃、朝食の後片付けを終えてハンナがやってきた。
「おにいちゃん、なにしてるの?」
「ああ、ハンナちゃんか。あのね、これはポンプっていって、水汲みを楽にする道具なんだよ」
「みずくみ、らくになるの?」
「そうさ、見ておいで」
 仁はポンプ本体を組み上げると、本体、パイプなどの部品を持って井戸へと向かった。ちょうどそこにはマーサと、近所の奥さん達が集まり、文字通りの井戸端会議を開いているところであった。食器を洗ったりするのは井戸端で行うので、自然、同じような時刻に顔を合わせることになるからだ。
「おや、ジン、どうしたんだい? その手に持ってるものは?」
「この子がマーサが拾ってきたジン君かい。ハンナちゃんも一緒かね」
「ハンナちゃんがずいぶん懐いてるね。あんた、幾つだい?」
 物珍しさにいろいろ聞いてくる奥さん連中、仁は自分の事はとりあえず適当に答えておき、
「これ、ポンプって言う道具なんですよ」
 そう説明する。
「ふうん、で、何する物なのさ」
「ここに据え付けて、水を汲むのに使うんです。釣瓶よりずっと楽になりますよ」
 仁がそう言うと、奥さんの1人が、
「まさか、魔導具なのかい? あんた、魔法使いだったの?」
 と聞いてきた。仁は笑って、
「魔導具なんかじゃありませんよ。俺のいた所ではありふれた道具です。まあ、俺は簡単な魔法なら使えますけど」
 そう言いながら、驚くマーサ達を尻目に、仁はパイプとポンプ本体を繋ぎ、穴を開けた板にポンプを固定し、その板を井戸の上に置く。あらかじめ汲んで置いた呼び水と呼ばれる水をポンプの上から注ぎ、パイプ内に水が満ちれば、とりあえず準備は整った。
「それじゃあ試してみますよ」
 ゆっくりとポンプのレバーを漕ぎ出す仁。今回作ったのは汲み上げ式ポンプ、一般的な井戸に使われているポンプだ。
 がちゃがちゃと動かすと、ポンプから水が出てきた。
「おおー! すごいじゃないかい!」
「ちょっとちょっと、あたしにもやらせておくれよ!」
 だが仁は、
「ちょっと待って下さい。ハンナちゃんに一番最初にやってもらいたいんです……さあハンナちゃん、やってごらん」
 そう言ってハンナに場所を譲った。
「うん。えーと、この棒をうごかせばいいのね?」
 そう確認した後、レバーを上下させるハンナ。そうすればやはり水が出てくる。慌てて下に桶を置く仁。すぐに桶は一杯になった。
「どうだい? ハンナちゃん」
「うん、すっごいらく! おにいちゃん、ありがとー!」
 満面の笑みで微笑むハンナに、ほっこりとなる仁。それを見、待ちかねた奥さん連中が我先にとポンプに取り付いた。
「うわあ、これは楽だよー!」
「うん、これから助かるわあ」
「ジンくんってすごい魔法使いだったのねえ」
 奥さん達は代わる代わるポンプを使い、持ってきていた桶に水を汲んでいった。釣瓶とは段違いの手軽さに皆驚いている。
「ジン、銅が欲しいってこういうことだったのかい。ありがとうよ、助かるよ」
 マーサも嬉しそうだ。ずっと埃を被っていた材料が役に立つ道具に生まれ変わったのだから。
 この後仁は、ポンプの様子を見て異常がないことを確認。マーサ、ハンナと連れ立って家へ帰ったのだった。

 この後、噂を聞いてポンプを見に来た村人達にせがまれ、村中の井戸にポンプを据え付ける羽目になったのはちょっと後の話。
 そのため、仁は村中から感謝され、顔を覚えられたのである。
 昭和にはけっこうあちこちにあったらしい汲み上げ井戸。仁のいた孤児院にはあったようです。
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