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マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

39 拾遺篇

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39-45 草餅

「なるほど、これはいいな」
 地面を調べながら仁が呟いた。

 3月4日、仁はエルザ、リシアらと共に魔族領……いや、『北方民族領』へ来ていた。
 前日の雛祭りに招いたシオンとマリッカを送るついでである。
 いや、正確には、『北方民族式』の舗装方法を見学する目的もあった。
「ね、いいでしょ」
「シオン、あなたが考えた訳じゃないのですからそんなにいばらなくても」
 今、仁はシオンとシオンの母、『森羅』のロロナと共に、集落内の広場に来ていた。
「でも驚きました。ジン様は何でもご存知なのかと思っておりましたから」
「そんなことはないよ。この世の中のこと、知らないことの方が多いくらいだ」
「ふふ、謙虚なのですね」
「それよりも、ここの舗装方法だ……」

 たまたま、シオンとマリッカの前で、リシアの村まで街道が通ることになったことを話し、舗装するといいのだが、というようなことをぼそっと呟いたところ、
「え? 砂利を敷き詰めて突き固めるんじゃ駄目なの?」
 というシオンの発言と、
「ええと、砕いた砂利を敷き詰めて突き固めていくと、固くなっていくんです。どうしてかは……わかりません」
 というマリッカの発言を耳にしたからだ。

「俺はモノ作りは詳しくても、土木関係は素人だから」
 そう言いながら、ロロナの説明を聞く。彼女は農業だけでなく土木にもある程度の素養があった。
「この舗装はね、岩を砕いて、その砕石をばらまいて、突き固めるんですよ」
 ロロナは考え考え説明していく。
「ええと、先輩から聞いた話だと、砕いた石だと、突き固めると互いの摩擦だかなんだかでがっちり噛み合ってしっかりするんですって」
 水を撒いて行うこともあるらしい。

 これは現代日本では『マカダム舗装』といわれる工法に相当する。戦前・戦中までよく用いられていたという。
 重いトレーラーやトラック、ダンプカーなどが走るわけではないから、この工法は有効なのだ。

「なるほど、わかった」
 仁は、この工法を『北方舗装』とでも名付け、北方民族から教わったことを広めれば、彼等を受け入れる好材料になるのではないか、と考えた。
「リシア、役に立ちそうだよな?」
「え、ええ、そうですね!」
 本当ならリースヒェン王女を連れて来ることができたらよかったのだろうが、そうもいかない。
 礼子も一緒なので、情報は老君に送られている。
 さっそく蓬莱島か崑崙島で試してみることになるだろう。

「もう帰るの?」
 シオンが不満そうに言う。
「ああ、悪い。また改めてゆっくり来るから」
 リシアを連れ回すのも限界であった。
「済みません」
 と恐縮するリシアを、仁は『コンロン3』でトカ村まで送っていったのである。

*   *   *

「……もう春も近いな」
「ん」
 仁とエルザはカイナ村の中を散歩していた。
 日陰にはまだ、凍った雪がそこかしこに残っているが、道や畑はもう土が出ている。
 青々とした麦の芽も伸び始めており、確実に春が近付いていることを感じられた。
「雪室にも雪がいっぱい入っていた」
 エルザは雪室を覗いてきたらしい。
「なんだか、久しぶりに、のんびり」
「そうだな……」
 畑仕事の手を止めて挨拶してくる村人に手を振り返しながら、2人はゆっくりと村の中を巡り歩いた。

 空は青く、風はまだ冷たいものの、日射しは暖かい。
「本当に、今日はのんびりするな」
 ここ半月ほど、こまごました用事を片端から片付けていたため、何となく気忙しかったのである。

「あ、おにーちゃん、エルザおねーちゃん!」
 エルメ川の土手へ芽吹いたばかりの『よもぎ』を摘みに行っていたハンナが籠を抱えて戻って来た。
「ほら、こんなに出ていたよ!」
「おお、すごいな」
 昨年、ハンナを連れて異民族を訪問した際、イスマルの町で仁はヨモギを見つけ、草餅を作ったものだ。
 それを覚えていたハンナが、カイナ村にもヨモギがあることを知り、こうして摘んできたというわけである。
 もちろん、毒性がないことは確認済みだ。
「よーし、これだけあれば草餅を作れるな」
 マーサ宅で台所を借り、草餅を作っていく。
 イスマルの町で仁が作った草餅のレシピをもう一度述べると、

1.洗ったヨモギを茹でる。その際、塩少々と重曹ひとつまみを入れる。
2.茹でたヨモギを冷水にさらし、すり鉢ですり潰す。
3.上新粉(うるち米の粉)を練りあげ、お湯で茹でる。
4.すり潰したヨモギと一緒にして、すり鉢で混ぜ合わせる。
5.食べ頃の大きさに丸め、黄粉きなこやあんこを付けて食べる。

 となる。
 お昼ご飯には間に合わないが、3時のおやつには十分だ。
 エルザは横であんこを煮てくれているし、礼子は黄粉きなこを作ってくれている。
 あんこを冷ます時間を利用してお昼を食べた仁たちは、そのあとも続けて草餅の準備を進めた。

 そして。
「ああ、これ、すごく香りがいいねえ、ジン!」
 初めて草餅を食べたマーサも気に入ってくれた。
「ジン様、美味しいですわね」
 エルザの実母、ミーネも同様。
「あたし、蜜をかけて黄粉をまぶしたのも好き!」
 ハンナも喜んで食べている。
 美味しそうに食べてくれるのを見るのは、作った者にとって無上の喜びだ。
「二堂城でも作ってみんなに配ろうか」
 そして草餅をカイナ村に普及させようと考えたりする仁。
「ジン兄、早く食べないと、なくなる」
「おっと」
 思ったより評判がよく、山盛りにあった草餅も残り僅か。
 仁は慌ててあんこ入りを口に運んだ。
 口の中に広がるヨモギの香り。
「今の俺って、幸せだな……」
 草餅を頬張るハンナを眺めながら、仁は感慨に浸っていた。
 隣に座るエルザが、そんな仁に肩を寄せてくる。
(願わくばこの小さな幸せが、少しでも長く続きますように)
 カイナ村の空には、一筋の白い雲が流れていた。
 いつもお読みいただきありがとうございます。
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