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マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

39 拾遺篇

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39-44 閑話72 雛祭り

「3日には大々的に雛祭りをするか……」
 仁は、二堂城で雛祭りを開催することにし、準備に取りかかった。
 大広間にひな壇を設置し、緋毛氈を敷き、男雛女雛に扮した自動人形(オートマタ)を座らせる……。
 というものだ。
「男雛には『蓬莱島隠密機動部隊(SP)』の『ポトス』がいいかな」
「ん。女雛は『ダリア』?」
「あとは確か、三人官女とか右大臣左大臣に五人囃子とかいったな……」
 それらにも『蓬莱島隠密機動部隊(SP)』を割り当てていく。
 並び順や正式名称までは仁も知らないので、見た目重視だ。
 その日1日を掛けて準備完了。

 3月2日には、カイナ村全戸に雛祭りの通知を行う。
『3日午前10時から二堂城大広間で『雛祭り』を行います。女の子のお祭りですが、男の子もご両親も、どなたでも参加できます』
 白酒は用意できなかったので各種ジュースだ。昼間のお祭りなのでアルコールはなし。
「あ、そうだ、『桃の節句』ともいうくらいだから、ペルシカの花も飾らないと」
 蓬莱島で栽培しているペルシカの果樹園。
 そこから、剪定を兼ねてペルシカの花枝を取り寄せて飾り付ける。

「うーん、『ぼんぼり』の形を忘れた」
 苦笑する仁であるが、宴は昼間なのでなくても問題ないだろうと妥協する。
「あとは床に赤い絨毯でも敷いておくか?」 だがこれにはエルザから待ったが掛かる。

「ジン兄、それはきっと目に痛い、と思う」
「確かにな……ならやっぱり素直に畳敷きか」
「ん」
 大広間は用途に応じて板の間と畳敷きとに切り替えて使っている。
 今回は畳敷きに座布団とすることにした。

「あとは食べ物か。菱餅に雛あられ……?」
 さすがに作り方がわからない。
「あられは作れるけど甘くするだけじゃ駄目だよな……」
 少し考えたが、この点もアルス世界と言うことで妥協することにした仁である。
「じゃあ、何に……」
 と考え始めてすぐ、思い当たった食べ物。
「サンドイッチにしよう」
 つまり、これを長方形でなく菱形に切ったパンで作って菱餅代わりにしようというわけだ。
 具材は野菜、ハム、サラダなどできるだけいろいろ用意する。
 準備についてはペリドに一任だ。

「そうしたら、雛あられの代わりにポップコーンを作るか」
 カイナ村ではトウモロコシがあまり穫れないのでポップコーンは普及していない。
 だが、エリックの店もあることだし、稼いだお金の使い途の一つとして、ポップコーン用のトウモロコシを買い付けてもいいかもしれない、と仁は考えた。
「味もいつもの塩味だけでなく、キャラメル味にできたらいいな」
 キャラメルの作り方を仁は知らないが、『カラメル』なら知っている。
「そういえば、キャラメルとカラメルの違いってなんだろう」
 二堂城の厨房で仁は、礼子を助手にしてカラメルを作りながら呟いた。
 カラメルの作り方は簡単。砂糖を水に溶かし、茶色くなるまで煮詰めるだけだ。
 因みに、煮詰めすぎると苦味が増し、水分が完全に飛んでもさらに熱すると炭になって苦いだけ。
「昔悪戯して院長先生に叱られたっけ」
 その時は鍋を一つ駄目にしてしまったのだから叱られても仕方がない。

「よし、こんなものか」
 プリンに掛けるカラメルソースを作った仁は、礼子に用意してもらったポップコーンに掛けてみるが……。
「うーん、固まらないよな」
 いつまでも粘っこいままだ。
「これ以上煮詰めたら苦くなるし……水飴とかを混ぜたり、水を控えめにしてみたりしてみるか」
 試行錯誤する仁。
 そこへエルザとリシアがやって来た。
「あ、いい匂いですね」
「やあ、2人とも、そっちの仕度は終わりかい?」
 2人には雛壇を含む、会場の飾り付けを任せていたのである。
「ん、終わった」
「それで、何を作ってるんですか?」
 仁は2人に説明した。
「美味しそうですね。でも難しそうです……」
「……難しそうなら、今回は工学魔法で水分を飛ばせば?」
 エルザが妥協案を提示してくれた。
「そうだな……」
 粘っこいままなのは水分が多いせいであるから、それをなくせばいい、というエルザの提案は正しい。
「やってみるか。『乾燥(ドライ)』」
 粘りがなくなったものを食べてみる。
「うん、まあまあかな」
 サクッとした口当たりとほんのりした甘さ、僅かな苦味がアクセントになっている。
 昔食べたものと微妙に違う気もするが、これはこれで美味しい、と仁は思った。
「あ、美味しいですね」
「ん」
 リシアとエルザも気に入ったようなので、明日はこれでいこう、と仁は決めた。

 余談だが、この後ペリドたちは、砂糖に黒砂糖を使ったり、水飴を混ぜたりという工夫をし、完成させるのであるが、それはもう少し先のこと。

 その他、から揚げやフライドトポポなども用意することに決めた仁であった。

*   *   *

「せっかくだからトカ村の子供たちも呼ぼうか」
「いいんですか?」
 夕方、仁はリシアに提案。
「もちろん、急な話だから、全員は無理かもしれないが、明日の朝、『コンロン3』で連れて来ていいよ」
「ありがとうございます!」

「と、なると、サキ姉やマルシアさん、それに何よりユリちゃんも呼びたい」
「そうだな。シオンやマリッカも呼んでやろう」
 結局、ルイス・ビーナ夫妻をはじめ、ステアリーナ、ヴィヴィアン、ミロウィーナも含め、『仁ファミリー』全員を呼ぶことにした。

*   *   *

 雛祭り当日。
「うわー、きれい!」
「素敵!」
 カイナ村の住民、そのほとんどと、仁ファミリー全員、それにトカ村の子供たち15名が二堂城大広間に集まった。

「えー、今日は『雛祭り』です。女の子のお祭りです。ちなみに、男の子のお祭りは5月5日にする予定です」
 お祭りの趣旨を説明する仁。
「健やかに育ってもらいたいという願いを込めて。また、まもなく春が来る、それを祝うお祭りでもあります」
 皆、黙って聞いている。
「それでは、お客様達と共に、今日は楽しんでください!」
 短くまとめる仁。こういう時の挨拶が長くなると嫌われるのを知っているのだ。
「おおー!」
「うわーい!」
 仁の挨拶が終わると、皆一斉に歓声を上げた。

「いい雰囲気ですね。うちの村でも来年からやりたいです」
 リシアはちょっと羨ましそうだ。
「うんうん、さすがジンだね。挨拶は短い方がいいよ」
「『賢者(マグス)』もこういう話はしていたという記録があった気がする」
「面白い衣装ね」
 サキとグース、それにヴィヴィアンはお雛様に見入っている。

「ユリアーナ、いい子に育てよ!」
「ユリちゃん、よく笑うようになりましたね」
「ええ、夜泣きも酷くなくて、助かりましたの」
 ラインハルト、ミーネ、ベルチェはユリアーナを構っている。

「おいしいね!」
「こっちも食べてごらんよ」
「うん、ありがとう!」
 ハンナは村の子供たちと一緒に、トカ村からの子供たちを誘い、楽しんでいるようだ。

「とても平和で幸せな光景ね。ありがとう、ジン君」
「いえ。ゆっくりしていってくださいね」
 ミロウィーナは少し離れたところで仁からの挨拶を受けていた。

「こういう集まりっていいなあ」
「うちのほうでもやりたいですね!」
「その時は声を掛けて。手伝うから」
 シオンとマリッカはエルザと話をしていた。

「うーん、あの人形の話を聞いていた時はこんなお祭りになるとは思わなかったよ」
「でも皆、楽しそうじゃないか」
「そうだけどね」
 マルシアとロドリゴはサンドイッチを頬張りながら楽しそうな子供たちを見て目を細めていた。

「こういう雰囲気もいいもんだ」
「本当にね」
 トアとステアリーナも雰囲気を楽しんでいるようだった。

「このポップコーン、美味しい! あとでジンに作り方聞いてみようかしら」
「それはいいな。名物にバリエーションが増えるよ」
 ポップコーンを頬張りながら話をしているのはビーナとルイス。

「ああ、楽しいねえ。本当に、ジンが来るまでは、村がこんなに活気づくなんて思わなかったよ」
「本当にな。マーサとハンナがジンを見つけてきてくれたからこそ今の村があるとも言えるな」
「うん、まったく、ジン君は不思議な男だねえ」
 マーサは村長ギーベックとサリィらと一緒に雛祭りを楽しんでいた。

「うーん、こんなお祭り、王都にもないよ」
「ふふっ、この村はいい所よね」
「まったくだ。話を聞かせたら父さんやお祖父ちゃんは羨ましがるぞ」
 エリックとバーバラも楽しんでいるようだった。

「ねえねえ、これ食べてごらん? 美味しいよ」
「わあ、ありがとう!」
「ほら、あっちの窓からの眺めがいいのよ。行ってみよう?」
「うん!」
 リタ、ソニア、ルウ、カナ、セーマ、ベルタ、クーネ、ルルナといった面々も、すっかり村に馴染み、楽しそうにおしゃべりをし、御馳走を食べていた。

 北国カイナ村も、そろそろ春を迎えようとしていた。
 いつもお読みいただきありがとうございます。
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