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マギクラフト・マイスター 作者:秋ぎつね

39 拾遺篇

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39-42 船についての講義

 仁による船の講義は続いている。
「船に加わる水の抵抗は『造波抵抗』と『粘性摩擦抵抗』、それに『粘性圧力抵抗』がある。『造波抵抗』は船が波を作り出すために費やされる力で、『粘性摩擦抵抗』は水の粘りだと思ってくれ」
 仁とて、模型の船を作る際、模型雑誌で仕入れた知識なので浅いし、穴だらけであるが、この世界においてはここまで系統立った説明は他にできる者はいない。
「『粘性圧力抵抗』というのは、船の後ろにできる圧力の低い部分が船を引き戻そうとする抵抗だな」
「……?」
 仁もうろ覚えなので、それ以上詳しくは説明できない。とはいえ、幸いにして聞いている『生徒』は皆、実践派だった。
「水の中で手を動かす場合、掌を動かす方向に広げていると抵抗が大きく、それを90度捻ると抵抗が小さくなるだろう?」
 こうした説明で納得してくれるのだ。
「うん、わかった気がするよ」
 時間もないので、仁は説明を続けていく。

「船の安定性は……」
「船底の形状は……」
「船体の構造は……」
 全て模型雑誌からの受け売りではあるが、マルシアもアーネスト王子も真剣に聞いていた。そしてハンナとエルザ、リシア、そしてロドリゴも。

「いやあ、ジン殿の話はなかなかためになります」
「おにーちゃんの説明、わかりやすい」
「ジン兄の解説、久しぶりに聞いたけど、船について、よくわかった」
「それならいいんだが……」
 仁が肝心のアーネスト王子の方を見ると、聞いた内容を皮紙にメモしているところであった。

「ジン、そうすると、大型船を作る時って、かなり気をつけないといけないね」
「そういうことになるな」
 この点では、仁やエルザ、ロドリゴは、ショウロ皇国で『ベルンシュタイン』を建造した時の経験がある。
「大きくなればなるほど、船体の各所に掛かる力の大きさが変わってくる。これはいいよな?」
「うん。波の影響だね」
「船底の形状も重要だ」
 このようにして、仁は思いつく限りの船についての基本を説明していったのである。

 1時間半ほど掛けて一通り説明したあとはマルシアの工房内で現物を見せての説明だ。
「ほら、表面がツルツルだろう?」
「あ、本当だ。『粘性摩擦抵抗』を減らすためだね」
 一般の木造船は、水に強い、腐りにくい木を使うのみで、表面処理や防腐処理はしていないが、ここでは違う。
「木というものは、濡れて空気に触れているとカビが生えて腐ってくるんだ」
「え、そうなの?」
「そうなのさ。ずっと水中に沈んでいれば腐らないんだけどな」
 沈んだ難破船が形を留めていることでもそれはわかる。
「だから水を吸い込まないように処理し、さらには水を弾くように塗装するんだ」
「大型船なら尚更必要だね」
 おいそれと新造できないような大型船が腐ってしまっては困るのだ。
「そのやり方は……さすがにマルシアの工夫だから、そこまでは説明しない」
 が、アーネストは笑って頷いた。
「うん! もちろんだよ。それはみんな、それぞれで工夫するべきだものね」

「小型船だから双胴船カタマラン三胴船トリマランは有効だけど、大型船になると、結合部分の強度が問題になるんだ」
「ああ、波の影響で船体各所に掛かる力が違うからだね」
「そのとおり」
 先程の講義の内容は、ちゃんとアーネスト王子に伝わっていたようだ。

 さすがにこのあたりになると、リースヒェン王女は付いていけなくなったようで、リシアを相手に雑談をしている。
 が、ハンナは仁の説明を聞き漏らすまいと真剣な顔。ちょっぴり寂しそうな王女様であった。

*   *   *

 締めは船に乗せてもらうこと。
 まずはかつて優勝した『白鳥(シグナス)』。
 詰めればギリギリ3人乗れる。

「うわあ、気持ちいい!」
 潮風を顔に受けながら、湾内を走り回る白鳥(シグナス)
「殿下、この揺れ方、運動性、加速などを覚えていてくださいね」
 マルシアは8割ほどの速度で白鳥(シグナス)を走らせながらアーネスト王子に言った。

 続いて今回の優勝艇、ゼッケン6がそのままだ。名前は付けていないらしい。
「ううん、なんとなく違うのはわかる!」
 双胴から三胴になった分、1つ1つの艇体が少し短くなり、その分小回りが利くようになっている。
 また、それぞれの『浮力中心』からの距離が長くなった分、揺れの周期が長くなっているのだ。
「それに、加速もいいみたい」
「はい、それがこの『横置き水車』……『スクリュー』の効果です」
「なるほどね。でも、藻や海藻が絡んだらまずいよね」
 短時間でスクリューの弱点を指摘するアーネスト王子に、マルシアは少しびっくりする。
「……はい。ですので、走る場所には気をつけないとなりません」
「小型船なら、絡んでも手作業で外せるけど、大型船はどうかな……」
 そんなことまで考えているアーネスト王子であった。

*   *   *

「ジン、マルシア、エルザ、ハンナ、リシア、ありがとう。レーコちゃん、エドガー、アロー、世話になったね」
 そして時刻は午前11時、2人の殿下は仁たちに別れを告げる。
「帰りはエリアス王国に送ってもらうので大丈夫じゃ」
 笑って告げるリースヒェン王女。彼女はさらにハンナに言葉を掛ける。
「ハンナ、達者でな。また会おうぞ」
「リースお姉ちゃんも元気でね!」

 マルシアの工房前には、フィレンツィアーノ侯爵が手配した馬車と護衛兵が勢揃いしていた。
「『崑崙君』、私はこれよりお二方を首都ボルジアまでお送り致します」
 それなら『コンロン3』で、と仁は思ったが、よくよく聞くと飛行船が迎賓館まで迎えに来るという。
「それでは、これで失礼します」
「ジン、またね!」
「ジン、世話になった!」
 侯爵と両殿下は馬車の窓から手を振り、仁もそれに応える。
 そして馬車はゆっくりと動き出し、見送る者たちの前から去っていったのであった。

「行っちゃったねえ」
「ん」
「なんか寂しいな」
「うん……」
「そうですね……」
 友人と賑やかに過ごす時間もいつかは終わりを告げる。
 マルシア、エルザ、仁、ハンナ、リシアは、それぞれの言葉で別れの寂しさを表現したのであった。
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